「電遊道」~Way of the Gamer~ ジョン・カミナリの楽しいゲームライフ
ジョン・カミナリの楽しいゲームライフ【第31幕】
BORN TO BE GAMER~日本のゲームをこよなく愛するイタリア人ゲーマーを紹介!~
東京から10,000キロ離れたイタリアには、思ってもみなかった和ゲー好きなイタリア人が存在していた!毎回、彼らの自宅に訪問し、宝物を見せてもらいます!そして、インタビューでゲーマーとしての人物像を掘り下げます。ゲームの持つ本来の魅力を再発見しましょう!
今回紹介するゲーマーは、とても多才で個性的なグァルティエーロ・カンナルシさんだ。“Shito”(使徒)というニックネームとしても知られているグァルティエーロさんは、日本のゲームを熟知しているだけでなく、イタリアでは日本のアニメの有名なローカライザーとしても名高い。
彼は21歳のとき、欧米でも大ブームを巻き起こしたアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」をローカライズするという重要な役割を果たした。彼のローカライズの正確さや日本語台詞への忠実さが高く評価され、2005年以降、スタジオジブリのアニメーション映画のイタリア語ローカライズ・アフレコ音響監督として活躍している。
グァルティエーロさんは日本のテレビゲームにも精通している。特にネオジオに注ぐ愛情は無限大! 昔、大阪にあるSNKの本社を訪ねたときスタッフが驚いたほど、ネオジオのことを熟知している。僕も彼のとてつもない魅力に引かれ、コレクションを見せてもらうことにした。そして、ゲーム愛に満ち溢れたインタビューをさせて頂いた。このページを通じて、グァルティエーロさんの興味深い“ゲーマー物語”を堪能して欲しい!
ゲーム愛を計るためのインタビュー開始!
Shitoよ(笑)、テレビゲームとの“ファーストインパクト”を教えて下さい。
1980年、テレビゲーム産業の発祥の時代にゲーセン族の一員としてテレビゲームに興味を抱き始めました。まだ学校に行っていなかった頃でした。遊んでいて、すぐ、ほかのゲームよりずっと魅力的に思えたゲームがあることに気が付きました。そのゲームはみんな日本のゲームでした。あの頃から僕の印象はずっと変わらず、今でもそう強く思っています。
あなたのゲーマー人生の中で最も独特なエピソードを語ってください。
紛れもなく、江坂にあるSNKプレイモアの本社にファンとして迎えられた日のことです。僕と話しているうちにSNKのスタッフは、想像を遥かに絶するほど僕が、SNKのゲームの制作、歴史、あらゆるディテールに至るまですべて知り尽くしていたことに驚いていました。僕のことをSNKの最高のファンとして見て下さったのかもしれません……(笑)。
あなたにとって最も大切なゲームはどれですか?
具体的なタイトルを挙げるのは難しいかもしれません。でも、確実に言えるのは1つの言葉です。それは「ネオジオ」です。そのゲーム機は僕というゲーマーの経験や物語を最も代表すると感じています。
日本のゲームは欧米のゲームに対して、どういう付加価値を持っていると思いますか?
まず、スタイル的に大きく違うと思います。日本のグラフィックススタイルはリアリズムよりも、様式化、図案化、象徴性というものに重点を置いています。従って、テレビゲームの発祥時代、ハードの制限が多かった頃、とても魅力的なスプライトが作られていました。日本の創造スタイルは西洋人には立ち入ることができないような領域に達し、独特な描写力を生み出してきたと信じています。
日本のメーカーに、どのゲームの続編、リメイク作を作って欲しいですか?
僕の最愛のネオジオは、当時完了した経験として考えています。これからまた、そのハードのために新作を求め続けることには意味がないのでしょう。強いて言うならば、「ザ・キング・オブ・ファイターズ XIII」の続編が見たいです。そのゲームで、SNKプレイモアが新たな傑作を生み出したし、卓越した芸術性に到達し、シリーズだけでなく、格闘ジャンルの再建に成功したと思っています。
まったく別のゲームですが、ずっと以前からセガの「バーニングレンジャー」の続編の到来を願っています。例えば2つの画面、そして、タッチ操作を活用する3DSが、このゲームにとても合っていると思います。
現在のゲームは過去のゲームに比べて何を失ったと思いますか?
それは図案化の必要性だと思います。人間の芸術は、技術的な制限を回避することの必要性から生まれるものだと信じています。技術的な制限をすべて無くせば、当然、平凡なリアリズムに到達します。しかし、リアリズム自体には芸術などないと思います。
芸術は、筆を通じて現実を象徴的に描写するアーティストの手首によって生まれるものです。それは絵画だったり、漫画だったり、アニメだったり、テレビゲームだったりします。2Dのステージは、元々3Dである現実の明らかな図案化です。その図案化こそが、テレビゲームのユニーク性や描写力に繋がると思いますね。
本格的にネオジオという話題に入りましょう。初めて触れたきっかけというのは?
世界のほかのゲーマーと同じように、僕がネオジオのことを初めて知ったのは、ゲームセンター用のMVSに出会った時でした。正確に言うと、1991年で、MVSがデビューした翌年でした。僕は高校に通い始めたばかりでした。昨日のことのようにそのすべてをまだ鮮明に覚えています。
ある日、僕が住んでいた小さな町に唯一あった小さなゲームセンターで、「マジシャンロード」、「サイバーリップ」、「戦国伝承」、「キング・オブ・ザ・モンスターズ」を発見しました。あのゲーム達のスタイルは僕の関心を瞬間的にキャッチしました。そして、格闘ゲームのブームが始まった時、「餓狼伝説」、「龍虎の拳」、「SAMURAI SPIRITS」など、SNKの有名なシリーズの“始祖”が到来しました。あの時から僕は、熱烈なファンになりました!
ネオジオゲームのどんな特徴を最も愛したのですか?
最初の瞬間からSNKゲームのユニークなスタイルが僕を引き付けました。小さい頃からゲームが好きだったけど、ネオジオのゲームにはいつも“プラスα”的な価値を見つけていました。ポップなデザインと濃いストリートカルチャー的な痕跡がありました。
当時、大阪のアメリカ村のことを何も知らなかったし、「バーニングファイト」にあった“引用”を把握することもできませんでした。それでも、SNK作品の濃さが伝わっていました。自分のお金で到底買えなかったけど、ネオジオが家庭用システムとして使われていたことも知っていました。
あの頃、自分の家でゲームセンターと同じゲーム(移植版ではない)を持っているということは、あらゆるゲーセン族の禁じられた夢だったと思います。つまり、ネオジオはその夢を具体化させるために生まれたシステムで、僕のようなゲーセン族にとって伝説になりました。“凄いゲームを、連れて帰ろう。”
ネオジオのラインナップの中で、お気に入りのゲームやシリーズはありますか?
1番感情的な繋がりを感じる作品は、「ザ・キング・オブ・ファイターズ」です。僕は草薙京の絶対的なファンです。「八岐大蛇」神話の解釈として考えられる、トーナメントという口実の背景にあった叙事詩的な要素が特に好きでした。当時も日本の歴史、文化に強く興味を持って、叙事詩的なバックグラウンドが僕をより一層引き付けました。
さらに「KOF」は、美観的に1980年代の映画やヤンキーファッションにまだ強い繋がりを見せていた「餓狼伝説」や「竜虎の拳」と違い、ずっとモダンだったと思います。「KOF」は本当に1990年代の商品でした! それと同じく、とても愛したシリーズは「SAMURAI SPIRITS」でした。理由は同じです。日本の文化や歴史への愛情が理由ですね。
SNKとほかのメーカーの格闘ゲームの違いは何だと思いますか?
SNKは、いつもデザインやユーザーに対しての“商品の魅力”に敏感なメーカーだと思います。つまりゲーム性を洗練するよりも、SNKは限界に至るまで美的な要素を重んじてきたと思います。例を挙げると、「アテナ」(ATHENA)では、キャラクターのデザインが明らかに示すように、「幻夢戦記レダ」のブームで始まった“ビキニアーマー”というファッションを取り入れました。さらに「アテナ」の続編である「サイコソルジャー」では、SNKはアーケードゲームの歴史で初の歌声付きの曲を披露しました。
テリー・ボガードのヤンキーファッション、1990年代を連想させる制服や学ランで戦うキャラクター、「KOF'99」と「KOF2000」が掲げるテクノとゴシックファッションなど、SNKはいつも熱烈なオタクだけでなく、カジュアルゲーマーの好意も得るようなキャラクターばかり作ってきました。ネオジオゲームの、美学上の進化を通じて、年々、若者が集う大阪のストリートで交替してきたファッションやスタイルが推定できるでしょう。
ネオジオコレクターという趣味はいつ始まったのですか?
青年だった頃、ネオジオを買うことはとても無理でした。なぜなら、当時の相場で考えると、1つのカートリッジが6万円以上していたからです。単なる学生だった僕にとっては、とても叶えられない夢でした。高校と大学時代にはゲーセンでネオジオのゲームで遊んでいました。そして、大好きなゲーム機、セガサターンの移植版で我慢していました。
2000年になると、本格的に社会人になり仕事も始めて、収入もありました。ゲーセンにはもう通っていなかったので、昔のあの夢を実現させるために中古市場でネオジオのカートリッジを収集し始めました。ゲームソフトが集まれば集まるほど、全コンプリートという願望が強くなっていきました。
あなたのコレクションは日本版のゲームソフトや様々なアイテムで構成されているそうですが、例えば欧米版のゲームソフトも収集しようと思いませんでしたか?
ネオジオはSNKのゲーム機です。つまり、日本の会社ですし、開発者もみんな日本人です。正式な欧米版が存在していることは知っていますが、それはオリジナリティーや純粋さ、つまり、本来のエッセンスを持っていないと思いますね。僕が興味を持っているのは、愛している物の、最も“真実を語る”存在ですね。そのエッセンスを感じ取るために、どうしても起源に遡る必要がありました。起源、つまり、最も真実を象徴するもの。日本のテレビゲームでいえば、それは、日本版のゲームソフトでした。
イタリアでネオジオの日本版ゲームソフトなどを手に入れるのは難しかったですか?
先ほど言ったように、ネオジオのゲームを収集し始めたのは2000年に入ってからでした。その時、すでに、インターネットではゲームの中古市場はとても活発でした。年々築いてきた日本とのコンタクトも役立ってくれました。あの年、ゲーマーの世代交替に関係した理由で、日本のレトロゲームブームが始まろうとしていました。僕のような1980年代、1990年代のゲーマーは、立派な社会人になり、今、ネオジオのコレクションというホビーに明け暮れるための環境が整ったから、こういうブームがあったのではないかと思います。
コレクターとして最も入手が難しく、誇りに思うアイテムはどれですか?
今でも、ネオジオの特定のゲームソフトが高価であることは周知の事実です。そういったアイテムの入手は決して簡単ではありませんでした。同じく、とても古いゲームソフトを良い保存状態で見つけることも難しかったです。それでも、ゲームソフトやハードウェアコレクションの全コンプリートを果たしただけでなく、ネオジオにちなんだ、レアなアイテムも入手できました。
例えば、店舗用の「レンタルプレート」や「レンタルのぼり」などの「RENTAL OPTION TOOLS」を持っています。このアイテムは僕にとって、正真正銘の歴史的な価値を持っていると信じています。そのアイテムを所有することが、コレクションに博物館的な付加価値を与えていると感じます。本当に誇りに思っています。
「NEO GEO COLLECTOR'S BIBLE」という書籍を書いたと聞いたのですが、どういう内容か説明してくれますか?
「NEO GEO COLLECTOR'S BIBLE」はアマチュア的に僕が書いた書籍です。タイトルが示す通り、ネオジオコレクションにちなんだ多くのテーマを扱っています。年々ネオジオに関係するあらゆる素材、データ、情報を収集しているうちに、インターネット上でこのゲームシステムについての歴史に混乱を招くようなデータが沢山あることに気が付きました。
例えば、欧米では多くの人はMVSが家庭用のネオジオより先に発売されたと勘違いしているようですね。しかし、それは間違っています。2つのシステムは同時に発売されています。実は、日本でも不明確な情報があるようです。
だから、自分で正式な情報を集めて、1つの書籍にまとめることにしました。各データの確認を取るために、当時のゲーム雑誌、宣伝用のチラシ、書類なども収集しました。自分の出版業界での経験を生かしつつ、同じホビーを持つ友達と力を合わせて、グラフィック的にも魅力的な書籍を実現させることができました。
この書籍のレイアウトに関しては当時の日本のムック(ブックとマガジンの間の書籍)にインスピレーションを受けました。この書籍の目標はネオジオというカルチャーをイタリアで普及させることです。現段階では100ページ以上のVol.1を作ったのですが、作品を完成させるには、同じくボリュームのあるVol.2をこれから書こうと思っています。
ネオジオの世界について、誇りに思う知識などありますか?
ネオジオの熱烈なファンは何でも知り尽くしていて、多分驚かせることはほぼ不可能だと思います(笑)。これはどうでしょう。「メタルスラッグ」は、宮崎駿氏と高畑勲氏の作品から確実にインスピレーションを受けたでしょう。特に「母をたずねて三千里」というアニメの影響が大きかったと思いますね。
このアニメの主人公は、「メタルスラッグ」と同じく、マルコ=ロッシ(Marco Rossi)とフィオ=ジェルミ(Fiolina Germi)と言います。マルコの白い猿であるペッピーノ(Peppino)さえも、「メタルスラッグ」に登場します。また原作は、アンデスに辿り着くマルコのストーリーを語りますね。アンデスにはちょうど「ナスカ」という高原があります。それは、開発を手がけたメーカーの名前ですね。
他にもあります。おそらく「メタルスラッグ」で見られる第二次世界大戦の乗り物のデザインのスタイルは「Model Graphix」という雑誌に掲載された宮崎駿氏の漫画、「雑想ノート」から影響を受けたのではないかと思っています。
さらに、「メタルスラッグ」の開発者はその前に「KOF'94」を手がけていて、イタリアチームのステージの背景は「紅の豚」の最後のシーンを連想させると思います。ちなみにこのアニメでも主人公はマルコとフィオと言っていましたね。すごい偶然じゃないですか!(笑)。
ネオジオやSNKプレイモアの有名なゲームシリーズのこれからをどのように思い描いていますか?
ネオジオは、僕と同年代のゲーセン族の心の中、ゲーム歴史の中で、とても大切な位置を占めています。ネオジオの遺産は、SNKが創作してきた魅力的なキャラクターやゲームシリーズにあります。
しかし、その名作達はスタイル的な痕跡が非常に強く、当時の背景に深く根付いているので、古典性を引き剥がして、近代化させることはとても難しいと思っています。
そういった意味で、「KOFXIII」は、遊ぶごとに、感動させられる奇跡のようなゲームです。「KOFXIII」が、これからも2D対戦格闘ゲームという伝統を続行させるための礎であることを願っています。
最後に、あなたの最もリスペクトする日本のゲームクリエーターへのメッセージをお願いします!
これは日本のゲームデザイナーの皆さんにお送りしたいメッセージです。日本の作品が世界中で成功するための第1条件が、海外を視野に入れることであると思わないで欲しいです。僕はまったくその逆だと思います。日本人として考える、作る勇気をいつも持って下さい! 僕のような西洋人が、日本のアニメ、漫画、ゲームに熱中したのは、日本というマトリクスによる独自の“味”があったからです。
例えば、世界中で愛されている宮崎駿氏は、いつも日本人アーティストとして考えており、日本人観客に自分の創造力を提供してきました。だからこそ、彼の作品はユニークな味を保っているわけです。あらゆるレシピの純粋さは保存、保護するべきだと信じています。
料理でもそうでしょう。多くの材料や調味料を加えれば、味がわからない混合物しかできあがりません。絵画でも、色が多すぎると、同じ結果になるでしょう。日本のテレビゲームは、ずっと独自の“色”と“味”を持つ“日本のテレビゲーム”であり続けて欲しい! 日本のゲームを通じて、これからも西洋人が日本の文化を発見し、そして、人間として豊かになることを願っています。僕のようにね!(笑)。
グァルティエーロさん、今日は本当にありがとうございました!これからも大好きなネオジオで遊び続けてね!!