佐藤カフジのVR GAMING TODAY!

VRでハマるレーシングゲームのススメ

PS VR&PCで楽しめる傑作VRレーシングシムをチェック!

VR+レースシムは最高の組み合わせ

 多くのVRコンテンツがユーザーの負担を懸案して短めのプレイに特化して作られている中、何時間でもガッツリ遊べるジャンルが存在する。レーシングシミュレーターだ。

 ドライビングゲームとVRデバイスの相性の良さは昔から繰り返し言われてきていたところだが、特に車両の挙動がリアルに作り込まれているレーシングシムは挙動が現実的なおかげでVR酔いが少なく、緻密に作り込まれた車内と外の風景が作り出す遠近のコントラストがレーサー気分を盛り上げてくれ、まさに相性抜群。もはやVR以外でプレイすることが考えられないくらいだ。

 PlayStation VR(PS VR)にて国内でも「DriveClub VR」がローンチした現在では、PS VR、Oculus Rift、HTC Viveといった主要ハイエンドVRシステムのすべてでレーシングシムを楽しむことができるようになった。今回はPS4やPCで楽しめる主要レーシングシムをピックアップし、その抜群のエクスペリエンスをご紹介したい。

レーシングシム+VRにはメリットしかない

 既存のゲームジャンルにVRシステムを持ち込むと、たいていの場合はメリットとデメリットの両面が発生する。例えばFPS系ゲームを単純にVR化すると迫力は増すが、酔いまくってとても遊べたものではないとか、3人称のアクションゲームをVR化すると箱庭感がぐっと高まる一方で画面のスクロールやUIの構成に大きな制約がかかる、などなどだ。そこで業界では様々なジャンルにまたがってVR向けにゲームデザインを再定義する試みが行なわれているわけだが、レーシングシムというジャンルだけは違う。VR化することにほぼメリットしかない。

車内視点の迫力、臨場感が圧倒的にアップ

 レーシングシムでは、実車に基づいて各車の車内構造をリアルに作り込んでいる。目の前にはハンドルとダッシュボードがあり、横を見れば助手席、反対側にはドアと窓……クルマの構造はそれぞれだが、その車内風景と機能を緻密に再現するのがレーシングシムの本懐。VRシステムを利用すれば、そのすべてがまさにリアルスケールで目の前に現われるのである。平らなディスプレイに表示された画面とは全く別次元の臨場感で、いままさに操縦席に座っている!という感覚がユーザーを襲う。車内装備をじっくり観察しているだけでも時間を忘れて感動してしまうほどだ。

緻密に作り込まれた車内の様子を実寸で楽しめる

コースレイアウトをより把握しやすくなる

 頭を振って進行方向を確認できるほか、車内の風景がリアルスケールの立体感を伴って見えるので、窓を通して見える外の風景もまた立体的に見え、コースレイアウトや車体の位置関係を把握しやすくなる。特に車高が極端に低いレースカーの場合、通常の画面では道路がダッシュボードやピラーに隠れて見えにくく、ついつい上空視点を使いたくなってしまうこともあるが、VRでプレイする場合は両眼視差から得られる立体感のおかげで車体ー路面の距離感が直感的に掴めるし、ちょいと頭を動かせば太いピラーの向こう側も視認できるなど、視界から得られる情報量がぐっと増える。このおかげでF1マシンのような低車高のクルマでも主観視点で快適なプレイが可能になる上、“縁石にタイヤ半分載せる”といった微妙な調整もしやすくなる。

頭を振ってコースの先を確認しながら走る
立体感のおかげで他者との距離も掴みやすい

ロードインフォメーションもより緻密に

 最近のレーシングシムではレーザー測定による正確な路面再現が主流になってきており、コース上に存在する僅かな凹凸までリアルに再現している。また、シミュレーションのリアル化にともなってわずかな荷重やトラクションの変化が車両挙動に変化を与えるようになっているが、VRなら車内状況を立体的に把握できるため、通常のスクリーンでは見落としがちな上下左右前後のわずかな動きの変化も直感的に嗅ぎ取ることができる。これにより、路面から伝わる情報=ロードインフォメーションをつぶさに感じ取りながらプレイすることが可能だ。これは走りの質を高めるし、もちろんレーシングシムとしての臨場感も増す。

コーナリング時の荷重移動も、VRならより細かく把握することができる

それでいてVR酔いは少ない

 レーシングシムでは、実車の挙動をできるだけリアルに再現するべく作られている。このため無茶な画面の動きをすることはほぼないし、どんなに激しい運転をしても、加速度や旋回スピードは想定の範囲内に収まる。プレイを繰り返しているうちに細かい部分まで挙動が予測可能になっていくという特性もある。このためVRでプレイするレーシングシムではほとんど酔うことがない。特に筆者の場合は、VRで長くレーシングシムをプレイしているせいもあって、いまでは数時間続けてプレイしてもいっさいVR酔いを感じない。

多少の上下動を含む場合でも、視点が車中に固定されていることと、車両の挙動が予測可能かつ急激な変化が少ないため、VR酔いが少ない

VRで遊べる主要レーシングシム

「DriveClub VR」

臨場感たっぷりの車中視点
ギャラリーモードでは好きなクルマをじっくり観察することもできる

 現時点でPS VRで遊べる唯一のレーシングシム。挙動としては“Simcade”(アーケードゲーム的な挙動を含むシム)と呼ばれるジャンルに属する本作だが、数多く収録されている低パワーの一般車両の挙動はかなりリアリティがあっていい。すべてのアシスト機能をオフにすると実車さながらの運転感が味わえる。

 収録各車の車内構造はとても緻密に作られていて、ダッシュボードのすべての計器がきちんと動作しているのも重要ポイント。特に車中視点でのVRプレイではスピードメーターなどのUI要素がバッサリ削られるので、実車と同様にダッシュボード状の計器類から状況を読み取りながらプレイすることになる。すばらしい臨場感だが、車種によってはHMDの解像度不足で計器類をきちんと読むことができなかったりするので、そんなときは頭を近づけてみよう。

 グラフィックスは通常(ノンVR)版に比べるとやや質感が乏しいものになっているほか、通常版での白眉であった雨天の再現がVR版ではカットされてしまっている。これはPS4という固定ハードウェアで充分なフレームレートを優先するためだろう。ダッシュボードの針や数字などについても、もう少し解像度が高ければ……という気持ちが沸かないでもないが、システムトータルで10万円に収まるVRシステムで得られるエクスペリエンスとしては破格である。VRレーシング入門用として最適だ。

 PS4をお持ちの皆さんはとしてぜひ本作を試してみて欲しい。その際、車両挙動がリアル寄りなほうがVR的な快適性も高まるので、各種のアシスト機能はオフにして挑戦してみよう。

オープンカーは凄い迫力だ
リプレイモードでは助手席視点で楽しめる

「Project Cars」

車内モデルも非常にハイスペック
迫力ある挙動でレースが楽しい

 コンソール版も展開しているレーシングシム「Project Cars」は、PC(Steam)版でOculus Rift、HTC Vive、OSVRという3種のVRシステムをサポートしている(Oculus Store版はRiftのみ)。「Need for Speed: SHIFT」シリーズなどの開発に携わってきた開発チームによる本作は、極上のグラフィックスと迫力ある車両挙動が魅力のレーシングシムだ。

 VRでプレイする際にはOculus Riftをおすすめしたい。HTC Viveの場合、現時点のバージョンでは最適化がうまくいっていないのか、マシンパワーが充分にある場合でもフレームレートが半減してしまう症状が出ているためだ。Oculus Riftでプレイする場合は、VR ReadyスペックのPCでスムーズに90fpsのドライビングを楽しむことができる。

 本作は収録車種にフェラーリが含まれないという弱点はあるが、他のメーカーは幅広くロードカーからGTカー、オープンホイールまで幅広い車種を収録しているうえ、実在のサーキットも多数収録(残念ながら鈴鹿サーキットは実名収録していないが、コースレイアウトは再現してある)。レーシングシムとして非常にレベルの高い1本だ。

 PC用VRレースシムとしては珍しく、VRサポートはUIも含み、ゲーム内の全要素をHMDをかぶったままでアクセスすることができる。インゲームUIはスッキリとまとめられており、スピードメーターやコースレイアウト、バックミラー等の要素が視界の邪魔にならない場所に配置されている。

 VR的にポイントが高いのは、ハンドルコントローラーのキャリブレーション機能により、物理的なホイールの回転とゲーム内のホイール回転を完全に一致させることができることだ。自分の手の動きと画面内の手の動きが一致するため、いやがおうにも臨場感が増す。「NFS: SHIFT」ゆずりの雰囲気で車両挙動がちょっと大げさなきらいがあるのが筆者的には難点だと思うが、レースゲームファンならぜひともVRでプレイすべき1本であることは間違いない。

光の演出がとても印象的。逆光ではコースが見えづらい、というリアルな体験も

「Assetto Corsa」

派手でも地味でもなく、非常に写実性の高いグラフィック
様々なUI要素をON/OFFしたり、自由自在に配置できる

 本稿では最後に紹介することになる「Assetto Corsa」は、実は筆者としてPC用VR対応レースシムの中でいちばんおすすめしたい1本だ。本作のVRサポートは現状Oculus Riftのみで、それも開発者側がEaly Support(早期サポート)と呼ぶ限定的な状態だが、VRでのプレイ感覚はピカイチである。

 それにはいくつかの理由がある。まず本作のグラフィックスが極めて写実主義的であること。どちらかというと印象性を重視したような画作りの「Project Cars」に比べると、光と影のコントラストがごく自然で、VR的にも非常に現実感がある。また、車内構造も非常に高ポリゴンで緻密に作られており、細かな凹凸までばっちりだ。さらに、本作は車内に響くエンジン音やギアノイズなど、オーディオ効果が非常に優れている。Ferrari 458 GT2の野太いサウンドは病みつきになってしまうほどだ。

 それに加えて、本作は最も柔軟なUIシステムを備えている。MODを含む多数のUIオプションを、マウスを使って仮想スクリーン上に自由に配置することができるのだ。VRでのレース中は意外なほど視野が狭くなるため、それを見越してギア・スピード、コースレイアウト等の重要な情報をフロントガラスに重なるほど中央近くに配置すると、レース中に目を動かす量が顕著に減って便利である。適切なUIカスタマイズで快適性と走りの質、両方を高めることができる。

 さらに本作は、今回紹介したラインナップ中で最も本格的な車両挙動を楽しむことができる。PCでシミュレーションエンジンを高く評価されているレースシムはLive for Speed、rFactor 2などがあるが、本作はそれらに並び称される1本だ。路面状況が派手でもなく、地味でもなく、ただありのままに伝わってくる印象で、走り込むほどにささいな違いを感じ取ることができるようになり、ドライビングの手応えも増していく印象だ。

 早期サポートの現状でも、「Assetto Corsa」のVRドライビングは最上のレベルにある。唯一残念なのは、レース中しかVRをサポートしていない点。メインメニューに戻るたび通常スクリーン表示になるので、いちいちヘッドセットを付け外しすることになる。これは少々面倒なので、早いうちに完全VRサポートを実現してほしいところだ。

車両挙動に説得力があり、注文の多いシムレーサーも納得。音響も素晴らしく、VRでのプレイにピッタリだ

併せて使いたいレーシングガジェット

 VRでレーシングシムをプレイするなら、ぜひとも導入したいのがハンドルコントローラーだ。通常のゲームパッドでもVRのメリットは充分に享受することができるが、ハンドルコントローラーを使うことで大幅なプラスアルファが得られる。プレーヤーの肉体的感覚とゲーム内のドライバーのアクションが完全に一致することになるため、VR的なプレゼンスが圧倒的に高まるというわけだ。

 そこで現状、VRユーザー向けにおすすめしたいのはロジクールの「Driving Force G29」。PS3/4およびWindowsに対応しているので、今回紹介した各種VRタイトルをこれ1つでプレイすることが可能なうえ、入手性も高い。価格は53,000円と、ゲームコントローラーとしては高価に感じられるが、フォースフィードバックに対応した本格ハンドルコントローラーとしてはこれくらいが標準である。

「Driving Force G29」

 「Driving Force G29」のほか各種のハンドルコントローラーは机に備え付けて使うこともできるが、より本格的なVR環境を構築したい方にはドライビングシートの導入をおすすめしたい。椅子とハンコン用のマウンタが一体化したドライビングシートは、レースシムで求められる激しいアクセルワークやハンドル操作に耐えられる剛性を提供し、また、実車に近いポジションでVR的にもレベルの高い体験を実現してくれる。

 いくつか選択肢がある中で個人的なおすすめなのが、DXRACERの「ドライビングシミュレーターCOMBO300 DXRACER」。チェアの位置調整に柔軟性があるほか、ペダル周りがすっきりとした構造になっているおかげでヒールアンドトゥなどのややこしい動きもスムーズに行なえる。価格も、このクラスの製品としては安めだ(39,800円)。

 これより上の環境となると実売数十万円クラスの可動シートということになるが、そこまでいくともはや家庭で楽しめる範囲を逸脱していくので、今回はこのあたりにしておこう。それでは皆さん、楽しきVRレーシングシムライフを。

「ドライビングシミュレーターCOMBO300 DXRACER」