佐藤カフジのVR GAMING TODAY!

3Dキャラを鮮明・魅力的に描くハイエンドVR「Oculus Rift」

王道のゲームジャンルに新たな可能性を開くか!?

Oculus Storeで存在感を発揮する三人称視点ゲームの数々
ようやく筆者の元に届いたOculus Rift。現在Anime Expo参加のため米国に来ているが、出先でも使い倒している

 HTC ViveやPlayStation VRのタイトルラインナップに一人称視点(ファーストパーソン、自分視点)のVRゲームがズラリと並ぶ一方、Oculus Riftの公式ストアであるOculus Storeで目立つ存在になっているのは、三人称視点(サードバーソン、客観視点)のVRゲームだ。

 この連載の愛読者には言うまでもないことだが、VRを端的に説明すると、ユーザーの主観をジャックして、“自分自身が別世界に実際に居るかのような感覚”を与えるテクノロジーだ。この特性上、VRゲームも主観視点で展開するものが多い。実際、ハンドモーションデバイスを標準装備したHTC Viveはその傾向が顕著で、専用ゲームの中で主観視点を採用していないタイトルはほぼない(6月21日に『さよなら 海腹川背』がHTC Viveに対応したことで例外が生まれたが)。

 これに対してOculus Storeでは3月末のローンチ時点からプラットフォームアクション「Lucky's Tale」、アクションRPG「Chronos」、「Smashing the Battle」、「VR Tennis Online」など、多彩な三人称視点のゲームが数多く用意され、タイトルラインナップの主要な一角を占めている。

 6月に入って本格的な三人称視点のVRアクションアドベンチャーゲーム「Edge of Nowhere」がリリースされ、さらにその傾向を強くした感じがある。Riftオーナーならこれらのどれか、または複数をプレイしたことがあるだろう。今回はこのあたりにフォーカスしてOculus Riftを紹介したい。

「Lucky's Tale」
「Chronos」
「Smashing the Battle」
「Edge of Nowhere」

Oculus Riftで三人称視点ゲームが主力を張っている理由とは?

 三人称視点のゲームは、ファミコン時代からゲームの王道中の王道だ。画面内に表示される魅力的なキャラクターを操作し、感情移入してアクションや物語を楽しむ。プレーヤー自身が主人公となる一人称視点のゲームとは対極に位置する。でもどうして、Oculus Storeでは三人称視点のゲームが多いのだろうか?

Xbox Oneコントローラーでの操作に適している

Riftに標準で付いてくるXbox Oneコントローラー

 Oculus Storeで三人称視点のゲームが幅を利かせている理由のひとつは、Oculus Riftの製品版がXbox Oneコントローラーを同梱し、ハンドモーションデバイスのOculus Touch(未発売)を非標準としている点だ。OculusとしてはRiftのローンチに合わせてXbox Oneコントローラーでスムーズに楽しめるVRゲームを用意する必要があっただろうし、各ソフトメーカーも、Rift向けにはXbox Oneコントローラーを前提としたゲームデザインを第一に考える必要があっただろう。

 Xbox OneコントローラーはノンVRゲームのためにデザインされたゲームコントローラーで、プレイステーション 4のDUALSHOCK 4コントローラーとは違ってポジショナルトラッキング機能を搭載していない。このためゲームの基本操作は左右2つのスティックに頼ったものになる。そして一人称視点のVRゲームでスティック操作による移動を行なうと、往々にしてVR酔いの問題に悩まされることになることが知られている。いきおい、万人が快適に遊べるゲームデザインとして、オーソドックスな三人称視点アクションゲームに白羽の矢が立つのはよく理解できるところだ。

「Lucky's Tale」は、いわばRift界の「マリオ」的存在。王道のプラットフォームアクションだ

 実際、Riftのローンチタイトルとなった「Lucky's Tale」や「Chronos」、その他の三人称視点タイトルは、HMDによるカメラ制御以外の点では操作方法がほぼ完全に従来の三人称アクションのものを踏襲していて、従来からのゲームユーザーであれば、VRゲームが初体験という人でも全く迷わずに操作できる。いわば、表示装置がVRHMDに変わっただけ、という感じだ。

 もちろんそれぞれにVRならではの面白さもしっかりフィーチャーされているのだが、ViveのゲームがVR世代に両足とも突っ込んだ形であるとすれば、これらのRift用ゲームは片足だけVR世代に踏み込んだ形、といえる。VRで全く新しいゲームジャンルを構築するというよりは、実績ある従来のジャンルをVRで拡張するというアプローチだ。

「Chronos」は非常に深みのあるアクションRPGだ。ゲームシステムのテイストは「ゼルダ」シリーズと「ダークソウル」シリーズに近い感じ
「Edge of Nowhere」は奥へ奥へ進んでいくレールカメラでVR酔いを回避しつつ、ミステリアスな南極探検模様を三人称視点で描く

Oculus Riftの表示性能に適している

 もうひとつ理由として挙げたいのは、Oculus RiftのHMDの表示性能が、三人称視点の表現に適していることだ。このことはRiftをHTC Viveと交互にかぶり比べると腑に落ちる。Oculus RiftはHTC Viveよりも画素密度が高く、出力される映像はより鮮明だ。これはかつて体験会などの機会でごく短い時間しか触れなかった頃にはなんとなくでしか感じられなかった部分だが、同環境で両方のHMDを交互に使用するとその差は明らか。比喩として平面ディスプレイを持ち出すとすれば、1080pと1440pくらいの差がある。

 その代わりRiftは視野角が狭い。HTC ViveとOculus Riftは、スペックシート上はどちらも視野角110度とされているが、これは対角での数字だ。水平・垂直の視野角はViveのほうが一回り上。具体的には、HTC Viveは真円のビューポートを持つため、水平・垂直も対角と変わらず110度に近いが、Oculus Riftは上下左右が潰れた樽型のビューポートを持つため、水平・垂直の視野角が狭くなっているのである。

 このあたりの実測については海外のVR開発者向けのブログDoc-Ok.orgの4月のエントリが詳しい。それによると、最も視野角が広がるレンズから10mmの距離にて、Viveは水平113度・垂直100度。Riftは水平84度・垂直93度とある。水平視野角は20度近い差だ。これは体感での印象とも一致する。

 20度も視野角が狭くなるとVR空間にずっぽりと入り込む感覚は薄れる。そのかわりに得られる映像の緻密さは、自キャラがカメラからある程度離れた位置で動きまわる三人称視点のゲームで効果が大きい。Viveではボンヤリとしてしまう距離でも、Riftならクッキリとその姿を捉えられるのだ。カメラ至近で大きく表示されるシチュエーションでも、Riftのほうが細かなディティールをはっきりと視認でき、キャラクターの魅力をより楽しめ、感情移入を促進してくれる。

 こういった点から、Oculus Riftはキャラクターをより魅力的に描き出せる、三人称視点のゲームに適したHMDだと言える。これに比べるとViveは、ユーザー自身が主人公となる一人称視点の没入体験に性能・機能を全振りしたHMDといえる。

 仮に、Rift専用ゲームをViveでプレイすると、映像の品質が落ちたようにみえるはずだ。逆に、Vive向けのゲームをRiftでプレイすると、自身を取り巻く環境の臨場感や、VR的な没入感が落ちるように感じられるかもしれない。同時期に発売された2つのVRシステムは、似て非なるものなのだ。

VR化で実現する、三人称視点ゲームの新たな魅力

「Lucky's Tale」は平らな画面でも問題なく遊べそうだが、Riftならではの立体感を活かすステージ構成が特徴的
「Chronos」は部屋毎に定点カメラが切り替わっていく構成でVR酔いを避けつつ、アクションは従来型ARPGを完全に踏襲する

 以上のように、Oculus Storeで存在感を発揮する三人称視点型のVRゲームの数々は、Oculus RiftというVRシステムの独特な性能を活かした存在だ。体験の質、内容としてHTC Viveとの明確な違いが見られる部分でもある。

 「Lucky's Tale」や「Chronos」といったこれらのタイトルは、一見して従来型ゲームの表示装置をVRHMDに取り替えただけ、というふうにも見える。まあ、実際そうだ。これらのゲームは従来のフラットスクリーン上でも不自由なく遊べるだろう。VRゲームとしては比較的ユーザーへの負担も少ないので、長時間気持ち悪くならずにぶっ続けで遊べるし、実際に長時間遊ぶことを前提とした内容を持っているので、ゲームとしてしっかりやり込むことができる。

 例えば「Chronos」は、ドッジやパリィを交えたテクニカルな戦闘と、ダンジョンの各所に散りばめられたアイテムやヒントを駆使して謎を解いていく、王道の風格あふれるアクションRPGだ。1日や2日ではとてもクリアできない、たっぷりの深みがある。仮にVRに対応してなくても3,000~5,000円は払ってプレイする価値がある。

 それと同時に、VRならではの面白さが各所に散りばめられているのがRift向けタイトルの所以だ。フラットスクリーン用のゲームであれば省略されるであろう部分まで作りこまれた風景。ふとキャラクターから目を離して顔をあげると、思わせぶりな文様が壁面に描かれていることに気がつく。VRならではの、プレーヤー自身の主観視点が活かされる瞬間だ。

 また、VRの立体感を活かした演出。ポータルを潜り、主人公がミニチュアのサイズとなるシーンでは、本当に指先サイズのアクションフィギュアを操作しているような感覚に陥る。また別のシーンでは、見上げるほどの巨躯を誇るガーディアンが自キャラに迫る。プレーヤーは頭を上げ、その姿を文字通り“見上げる”ことに。そのサイズ感ときたら、平らな画面では決して実感できまい。

巨人との戦い。自らも巨大化して戦う。HMDを通してみると、実際にその巨大さがわかる
全くスケール感の異なる敵との戦闘。こういったシーンの迫力はVRでなければ得られないものだ

「Edge of Nowhere」。足元の奈落に思わずヒヤリ。吸い込まれそうな高所恐怖を体感できる
南極にあり得べからざる不気味な洞窟。眼前一杯に広がる異世界風景に息を呑む

 別のタイトルも同様だ。クトゥルフ的ホラー要素を交えた南極探検劇「Edge of Nowhere」では、三人称視点でキャラクターを操作するシステムを基軸にしつつも、極めて主観視点的な印象をあたえる演出が各所に散りばめられている。

 ピッケルを使ったクライミング。深いクレバスを渡る不安定な足場。ふと下を見ると、ヒヤリとするような奈落がそこにある。暗い洞窟で背後から迫る足音。キャラクターの背後というよりは、プレーヤー自身の背後にゾクッとするものを感じながら、前進を焦る。あるいは周囲に複数の化物の存在を感じながらのステルス進行。薄暗い洞窟の中で状況を確認するためにキョロキョロと振り向くのは、キャラクターではなくプレーヤー自身のアクションだ。いやがおうにも緊張感が高まる。

 こういった一人称的な体験が無理なく融合してくるのが、VR世代の三人称視点ゲームの特色と言えそうだ。客観と主観がひっきりなしに交差し、フラットスクリーンでは得られないレベルの迫力、臨場感、没入感が生まれる。また、間近で見るキャラクターには立体的な厚みがあり、その迫力、魅力をより深いレベルで楽しめる。

 それをもってフラットスクリーンにはもう戻れない、とまでは言わないが、VRでのプレイに慣れると、フラットスクリーンに映し出される全てが薄っぺらに見えてしまうのも確かだ。今後出てくる三人称視点のゲームはできるだけVRでもプレイできるようになってほしいな、と思う。

「Edge of Nowhere」は客観と主観が交錯するような、環境全体を使った演出が意図的に散りばめられている。“VRならでは”の迫力と実在感のある体験はユーザーに負担をかけがちだが、それがアクセント的に使われているおかげで、長時間にわたってメリハリのあるプレイができる格好だ

「Smashing the Battle」のキャラ画面
VRならではのヘッドトラッキングを使った作法でじっくり見られる

 特に日本にはキャラクターの魅力を全面に押し出した三人称視点のゲームが多いので、その威力はOculus Riftの世界でも遺憾なく発揮されそうな予感がある。

 「Smashing the Battle」がいい例だ。ダイナマイトバディなお姉さん2人が縦横無尽に暴れるという無双系アクションの本作は、フラットスクリーンでも全く問題ないゲーム性を持つ。だが、VRという視点を得ることによって、キャラクターの魅力をより実在感のある形で楽しめるのだ。こういったVRの活かし方も全然アリだし、このような形のVR対応が一夜の内にできてしまう既存タイトルは大量にあるのではないだろうか。

 VRというとまだ見ぬ新ジャンルの遊びを開拓する方向に目が行きがちだが、Oculus Storeのタイトルラインナップは、既存ジャンルの面白さをゆるやかに、あるいは部分的にでも拡張していく方向にも豊かな可能性があるのだと気づかせてくれた。今後、VRそのものの物珍しさが薄れてくる頃、こういった方向性が意外とメインストリームになってくるのではないかとも思う。VRヘッドセットは従来のフラットスクリーンや3Dテレビの“上位互換”でもあるのだから。