佐藤カフジのVR GAMING TODAY!

NVIDIAがVR普及に本腰、VRゲーム「VR Funhouse」公開!

VRスクリーンショットが撮影できる「ANSEL」にも注目

HTC Vive対応ゲーム「VR Funhouse」
強化型スクリーンショット機能「Ansel」

 PC用GPUメーカーの最大手であるNVIDIAが、VRの普及に本気を見せている。同社は7月14日、GeForceのVR技術を駆使した2つのアプリケーションを無料公開した。ひとつは、同社初のVRゲーム「VR Funhouse」。GTX 1060/1070/1080が推奨環境となるハイエンドのHTC Vive専用アプリケーションで、Steam上で無料配信される。

 もうひとつは、対応ゲームでのスクリーンショット機能を大幅に拡張し、360度ステレオのVRスクリーンショットも撮影可能となる機能「Ansel」。こちらはGPUドライバと対応ゲームのアップデートによりKepler以降のアーキテクチャを持つGPU(GTX 600シリーズ以降)にて、GeForceの基本機能として利用可能となる。

 NVIDIAは前世代のMaxwellアーキテクチャ(Geforce GTX 900シリーズ)から積極的にVRへの対応および最適化を進てきており、Maxwell世代で描画性能を大幅に最適化するMulti-Res Shading(関連記事)や、Pascal世代でステレオ映像を1パスで描画するSingle Pass Stereo、超高視野角の映像を効率的に描画するLens Matched Shading(関連記事)など、VR専用の新技術の開発に余念がない。

 これらの技術は現在、UnityやUnreal Engineなどメジャーなゲームエンジンへの実装が進められているが、ユーザーにとっては実際のアプリケーションで使われなければ宝の持ち腐れだ。そこでNVIDIAでは、普及モデルながら充分以上のVR性能を持つGTX 1060の発売(7月19日)を前に、「VR Funhouse」、「Ansel」を広く公開し、同社が培ってきたVR技術の集大成をPCゲーマーにアピールする狙いだ。

【NVIDIA VR Funhouse Game Trailer】

NVIDIAのVR技術ショウケース「VR Funhouse」

「VR Funhouse」プレイ中の様子

 Steamで無料配信される「VR Funhouse」は、祭りの夜店的な7種の遊びを収録したVRミニゲーム集。対応VRシステムはHTC Viveのみで、最小ルームスケール(2×1.5m)からのプレイをサポートする。使用ゲームエンジンはUnreal Engineだ。

 本作は単なるゲームというよりは、NVIDIAのGPU技術をふんだんに活用した技術デモという位置づけがふさわしい。GeForce向けの物理エンジンであるPhysXをベースに、ノンリニア破壊シミュレーション技術の「Destruction」、流体シミュレーション技術の「Flex」、気体シミュレーション技術の「Flow」、ファー(毛束)シミュレーション技術の「HairWorks」。GPU物理シミュレーション技術による高度なグラフィックスエフェクトを、VR空間内で所狭しと活用している。

「VR Funhouse」で使われているNVIDIAのGPU技術
Low/Medium/Highが選べる品質設定メニュー
Low設定の炎。シミュレーション粒度が下がり、だいぶ寂しい感じになる
High設定の炎。めらめらと厚みを持った炎がリアルに再現される
液体のシミュレーション。ビチャビチャと広がっていく挙動がとてもリアル

 そのため本作は、数あるVRゲームの中でも突出して動作がヘビーだ。ゲーム中では3種類の品質設定を選べるが、エフェクトが最もシンプルになるLOW設定でも、最新世代のGTX 1060が推奨。MediumでGTX 1080が推奨となり、最高のHigh設定ではGTX 1080の2枚構成(1枚をPhysX専用に設定する)を要求する。

 使われている技術は前世代のMaxwellアーキテクチャでも動作するものなので、GTX 900シリーズでも動作はする。試しにGTX 980でプレイしてみたところ、Low設定でも90fpsは確保できず、常時45fps動作という始末だ。

 常時45fpsが出ていれば、非同期タイムワープと呼ばれるSteamVR標準のフレーム補完技術でヘッドトラッキングが滑らかに反映され、それほど不快感は生まれないし、プレイも普通にできる。しかし、GTX 980でMedium設定にすると45fpsすら確保できないシーンが出てきて、ヘッドトラッキングがガビガビになり始める。High設定ではもう常に視界がガクガクしているような感じで、不快感からすぐにHMDを外したくなるほどである。

 前世代のハイエンドGPUであるGTX 980ですらこのざまである。GTX 1080でプレイするとMedium設定ではほぼ90fpsの快適な動作が楽しめたが、High設定ではGTX 1080でも45fps動作に落ちる。「VR Funhouse」がいかにヘビーな処理を行なっているかわかるというものだ。

 弾が当たると粉々に砕け、無数の破片を飛び散らせる物理オブジェクト。水鉄砲から発射された水流がターゲットに当たって飛び散ると、滴り落ちた水滴が水たまりを作り、じわりと広がっていく。燃え上がる炎は見た目にリアルなだけでなく、きちんと厚みを持っていて、触るとじつに熱そうだ。

 こういった物理エフェクトがもたらしてくれる実在感は、現在配信されている他のVRゲームのはるか先を行く。各ミニゲームはパーティゲームとしても楽しい内容なので、ぜひ皆さんにもいちど試していただきたい。

「VR Funhouse」の推奨動作環境。最低でもGTX 1060が必要で、High設定ではGTX 1080が2枚!
Flowによる炎のシミュレーション。VRで見るときちんと厚みがあり、熱そうだ
Flexによる流体のシミュレーション。液体の粘性や厚みがきちんと感じられる
PhysX Destructionによる破壊シミュレーション。粉々に砕け散るのが気持ちいい
PhysXの物理処理で飛び散る大量のパーティクル。紙吹雪に包まれたような感覚
HairWorks技術で頭部がモフモフとしたターゲットたち。殴るとブリブリ揺れる

ユーザーに気取られずに描画解像度を下げるMulti-Res Shadingの効果

High設定でのスクリーンショット。全体的に高い解像感が確保されている
Low設定でのスクリーンショット。視野の端のほうが低解像度になっているが、HMDの視界では気づかない

 本作では物理処理にGPUパワーの大半を使うということもあり(なにしろHigh設定ではPhysX専用にGTX 1080を1枚要求する)、描画に使えるGPUパワーを節約するための技術が投入されている。動的な解像度調整機能(Supersampling Resolution)と、Maxwellアーキテクチャ以降で使えるMulti-Res Shading機能だ。

 具体的には、Low設定とHigh設定ではぱっと見の解像感がやや異なることがひとつ。全体の解像度調整により、Low設定では遠景のオブジェクトが少々ぼやけた印象となる。さらに視野の端に注目すると、Low設定では部分的に、あからさまに解像度の低いレンダリングが行なわれている。これがMulti-Res Shadingの効果だ。NVIDIAによればこれによってトータルの動作パフォーマンスを30%向上させているという。

 ちなみにMulti-Res Shadingによる視野端の解像感低下を確認できるのはディスプレイ上でスクリーンショットを確認したときだけで、HMDをかぶっていると全く気が付かない。これなら常時使用してもよさそうだ。Multi-Res Shading機能はUnity/Unreal Engineなどのメジャーなゲームエンジンへの適用が進んでいるので、今後、多くのVRアプリケーションでパフォーマンス向上に役立つことになりそうだ。

視野端で描画解像度が切り替えられている部分を拡大。右側が視野の外側で、ややぼやけた感じになっている

「Ansel」で360°ステレオのスクリーンショットが撮れる!

Anselのインターフェイス
対応ゲームのひとつ「Mirror's Edge: Catalyst」で撮影してみた1枚
本来は主観視点で進行するインゲームカットシーンもこの通り、客観視点の撮影が可能

 「VR Funhouse」と時を同じくして公開された新機能「Ansel」は、ノンVR環境も含めて全てのGeForce GTXシリーズ(ただしKepler世代以降)で利用できる、超強力なスクリーンショット機能だ。

 Anselは、対応ゲームソフトの実行中にAlt-F2を押すことで起動できる。最大のポイントは、Anselが起動した瞬間にゲームの進行がポーズされ、時間の止まったゲーム空間内を自由自在に移動しながら最良のカメラポジションを決められること。通常のスクリーンショットユーティリティとは全く違った概念の機能なのだ。

 Anselを起動するとWSADとマウス操作で空間を自由に移動できるほか、撮影のためのインターフェイスが画面左端に表示され、映像に様々なポストエフェクトをかけて雰囲気を出したり、画角やロール角を調整して最適なアングルに調整することが可能となる。これらを駆使し、通常のゲーム内では決して撮影できない視点からのベストショットを決められるというわけだ。

 今回試した対応ゲームの「Mirror's Edge: Catalyst」は主観視点のゲームなので、普通にスクリーンショットを取るのでは、ヒロインであるFaithのアクロバティックなアクションを外から見ることができない。だが、Anselを使えばまるで映画の一コマを切り取ったかのような、躍動するFaithの姿をいつでも、どこでも撮影できる。インゲームカットシーンも違った視点で見れるのはすごく面白い。

静止したゲーム空間内を飛び回って、ベストショットを探れる
ポストエフェクトを駆使して幻想的な1枚を撮影
アクションに合わせてAlt-F2を押すのは大変だが、がんばればこういうのも撮れる
Anselで撮影した360°ステレオ画像
スマホならNVIDIA謹製のVRビューワーが利用できる

 そしてAnsel機能の極めつけは、360°ステレオのスクリーンショットも撮れるということだ。撮影するフォーマットはAnselのインターフェイス上で選べ、通常の2D、ステレオ3D、360°パノラマ、360°ステレオといったオプションが選べる。一番の臨場感が出るのは間違いなく360°ステレオ、全天球が立体で見えるVRスクリーンショットだ。

 360°ステレオ画像の解像度は4,096ドット×4,096ドット~8,192ドット×8,192ドットの間で選べる。HTC ViveやOculus RiftといったハイスペックのVRヘッドセットで見るなら最大解像度の8,192xで撮影したい(4,096ドットだとボヤけ感が出る)。8,192x解像度での出力には6GBあまりのメモリが必要で時間もかかるが、出力ファイルはjpg形式となり、だいたい1枚50MBくらいに収まる(それでもかなり大きいが)。

 こうして出力したVRスクリーンショットを、PC用ヘッドセットやスマートフォンのVRメディアビューワーで見ると、もうこれがかなり楽しい(PCならSteamで配信されている『Whirligig』というビューワーが筆者のオススメ)。平らな画面で展開していたゲームの世界が、自分の眼前に360°の立体で広がるのだ。

 ただでさえ美しい「Mirror's Edge: Catalyst」の世界が、圧倒的なスケール感で眼前に広がる感覚。主観視点のアクロバティックなフリーランニングをテーマとするこのゲームはVRでプレイできる気がしないし、VR版は決して出ないだろうが、その一瞬を切り取った360°ステレオ映像でVR的に楽しめるというのは非常に面白い。

 Ansel機能を使うためにはゲームソフトが対応している必要があるが、この「Mirror's Edge: Catalyst」のほか、「The Witcher 3: Wild Hunt」、「Tom Clancy's The Division」、「The Witness」、「Paragon」、「Unreal Tounarment」、「Law Breakers」、「No Man's Sky」などたくさんのゲームタイトルが対応していく予定だ。

Anselは上記で紹介した機能に加え、HDR撮影や超解像度撮影などの機能も搭載。利用できる機能は対応ゲームによって異なる
今後多数のゲームタイトルでAnselへの対応が行なわれる予定だ