素晴らしきかな魂アイテム
【魂インタビュー】シャア・アズナブルに捧げるために作った「ROBOT魂 <SIDE MS>ナイチンゲール(重塗装仕様)」
2018年9月10日 12:00
全高約20cm、全幅約40cm、奥行き約31cm……この圧倒的サイズで巨体を表現する「ROBOT魂 <SIDE MS>ナイチンゲール(重塗装仕様)」は、今回話を聞いた企画開発担当小西諒氏を含め、「究極のナイチンゲール」を作りたい、という開発スタッフの思いが結晶化したようなアイテムである。
ナイチンゲールは劇場アニメ「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」の初期プロットをもとにした小説「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン」に登場するMSで、小説ではサザビーは存在せず、サザビーの代わりの機体として活躍する。ゲームではサザビーの発展型のMSとして設定され、ファンを多く獲得している機体となっている。しかし、これまで立体物は多く出ていなかった。だからこそ「ROBOT魂 <SIDE MS>ナイチンゲール(重塗装仕様)(以下、「ROBOT魂 ナイチンゲール」)」は、強い思い入れを持って開発が進められたという。
「シャア・アズナブルにこの商品を見せる気合いで作った」という、「ROBOT魂 ナイチンゲール」はデザイン、塗装、ギミック、全てがこだわりに満ちている。今回は彩色見本を前に、小西氏からその思い入れの強さを聞いていこう。
究極のナイチンゲールを生み出すため、ドリームチームが集結
最初に、モチーフとなったナイチンゲールを紹介したい。このMSは富野由悠季氏の小説「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン」に登場する、シャアの搭乗機である。「ベルトーチカ・チルドレン」はその名の通り、ベルトーチカがアムロの子供を身ごもるというファクトが重要なキーとなっている。劇場アニメ「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」の初期プロットをもとにした小説であり、劇場版と異なる展開を見せるため、独自のファンを獲得している。
「ベルトーチカ・チルドレン」では、シャア・アズナブルはサザビーでなくナイチンゲールに搭乗する。ナイチンゲールはサザビーに似ているところがありながらも、より巨大で威圧的なフォルムとなっている。デザインの初出は出渕裕氏による小説のイラストだが、その後ガレージキットとなったり、ゲームに登場するなどでデザインがより細かく描かれ、コミック「ベルトーチカ・チルドレン」では柳瀬敬之により、作画用にディテールが加えられたデザインが描かれた。
ナイチンゲールはHi-νガンダムと戦いを繰り広げる。ゲームなどでは「サザビーより強い機体」と設定されることも多く、シャアのファンには思い入れの強い機体であるが、プラモデルも含め、あまり立体化は多くされていない機体である。特に1/144スケールでは、マスプロダクトが存在していない。その巨大なフォルムと、ファンネルコンテナを含め大きなパーツが多く、立体化にあたってはパーツを支える関節構造も課題となる。こういった課題も多く、人気の割に商品の少ない機体だと小西氏は指摘した。
今回は彩色見本を前に話を聞いたのだが、やはりまず圧倒されるのはそのサイズ感だ。サイズは1/144相当となっている。まるで戦艦模型のような巨大感、威圧感がある。そして全身に施された赤のカラーリング。暗く落ち着いた赤の印象が際立つそのカラーは、成型色ではなく塗装によって表現されるとのことだ。まず小西氏と一緒の写真を撮ったのだが、その巨大感はやはりとてもインパクトがある。見ていてしみじみと「すごい」という言葉が出てしまう。
「ROBOT魂 ナイチンゲール」は、企画を出したときには、社内でも応援してくれる人が多かったと小西氏は語った。ナイチンゲールは、言ってみればシャア・アズナブルが乗る“最後の機体”である。シャアは「機動戦士ガンダム」シリーズを象徴するキャラクターと言っても過言ではない。そのシャア・アズナブルの搭乗する機体の立体物が少ない、という現状は、小西氏を始めやや物寂しさを感じている人が多かったようだ。「ROBOT魂でナイチンゲールを!」という小西氏の想いは、コレクターズ事業部内でも共感を集めたという。
νガンダム、Hi-νガンダム、サザビーは様々な商品、立体物が出ている。それなのにナイチンゲールの商品は少ない。ファンの間でも「1/144スケールで決定版のナイチンゲールの立体物を」という声は大きかった。そして、小西氏にとっては「出渕裕氏がデザインしたナイチンゲール」というのは、やはり特別な思い入れがあった。Hi-νガンダムに並び立つナイチンゲールを商品化したい、小西氏は強い意気込みで企画を立ち上げた。
企画としてはかなりスムーズにスタートしたといえる「ROBOT魂 ナイチンゲール」だが、その設計は大きな壁となった。「正直、非常に難航しました」と小西氏は語る。ナイチンゲールはそのパーツ1つ1つがとても大きく、手足、ファンネルコンテナ、バックパック……それらを支える関節構造、関節強度を実現するのは、非常に難易度の高いものとなった。
このため、普段は「METAL BUILD」ブランドなどをメインに担当する社内設計チーム「スカルファイブ」が参加し、これまでの技術を結集、多様な素材を駆使して本商品ならではのボリュームのあるパーツをしっかりと支える関節設計を実現した。大型のファンネルコンテナは、形状だけでなく、表にはファンネルを、裏には多数のスラスターを備えかなり重量のあるパーツであるが、クリック関節も使用し、フレキシブルに動くだけでなく、様々な角度で止め、多彩な表情付けが可能だ。
股関節にも金属パーツを使い、太い足を支える。こういった強度は、設計技術はもちろん、組み立て済み完成品だからこそ素養できる様々な素材の存在も大きいと、小西氏は強調した。
設計も非常に難易度が高い。ナイチンゲールは元々は小説の挿絵で出渕裕氏が1点だけ、バストアップに近い構図のイラストとして描き下ろされたが、ここからガレージキット用に出渕氏が設定、その後はゲームでの画像や、そしてコミック用に改めて設定されたものがある。しかし、立体物そのものが少ないため、曲線が多く、ダイナミックなシルエットを持つナイチンゲールを商品化するのはかなり大変だ、というのは試作品を見ることで強く感じる。
今回の「ROBOT魂 ナイチンゲール」の原型師には、これまでガレージキットなどでナイチンゲールに挑戦したスタッフを起用しているという。ロボットからフィギュアまで幅広く手がける人物だが、中でもナイチンゲールに対しては強いこだわりを持っており、スタッフのこれまでの経験と、アプローチが「ROBOT魂 ナイチンゲール」には活かされているとのこと。スカルファイブによる関節設計や、原型師の起用など、「ROBOT魂 ナイチンゲール」では、従来の商品開発の枠に囚われない体勢での開発で行なわれたという。
「『ROBOT魂 ナイチンゲール』は、まさにドリームチームとも言えるスタッフが集結しています」と小西氏は語った。
シャアの赤、こだわりのディテールに、関節構造……ため息が出るクオリティ
より細かく試作品を見ていこう。まずはやはりデザインだ。シルエットは人間の姿を模したMSから大きく逸脱している。胸が前に突き出し、そこから放射線状に身体が広がるという特殊なデザインで、小西氏は“モンスター然とした姿”と評していたが、とても共感できる。
微妙な曲線が大きな特徴で、設計が大変そうな複雑なデザインで構成されている。頭部ユニットは非常に長大で、そこから後ろに羽根状のフィンが伸びているのが面白い。手足の関節は布状のパーツで覆われているのはパトレイバーを思わせる。盾や各所に開いている穴も相まって、「出渕氏のメカだな」と感じさせられる。この複雑な造形は同じく出渕氏デザインの「ROBOT魂 <SIDE AB> ズワウス」等の開発のフィードバックも活かされているという。
布に覆われた形状の関節というところで特に難しさを感じさせるのは膝の部分。布に覆われた雰囲気のまま膝が曲がるようにデザインされている。ここも原型師のテクニックが活かされている部分だ。足の可動は大きく、特に金属パーツを使っている股の付け根は保持力も強めで、末端になると大きくなるナイチンゲールの足をしっかりと支える。シャア専用ザクを思わせる蹴りのポーズすらとることができるという。
色の表現も見所だ。モノアイのエメラルドグリーン、胴体の後部に描かれたジオンの紋章や、腰のパイプの金色など、細かいところの彩色がハッと目を惹く。圧巻はスラスターの内部部分の赤銅色。ファンネルコンテナ内部のみっしり詰まったバーニアだけでなく、背中、足、後部スカートにもバーニアと赤銅色の塗装が活かされており、特に後ろから見ると凄まじい情報量だ。本体の赤がつや消しなだけに、バーニアのメタリックは一層印象的だ。
色と言えば、全身を覆う赤の塗装が「ROBOT魂 ナイチンゲール」の最大のこだわりポイントだと小西氏は語った。コストを抑えるためには全身は塗装をしない成型色が望ましいが、それでは「シャア・アズナブルの赤にならない」というところで、赤の部分の塗装を決断したという。この赤の色味は「シャア専用機にふさわしい赤を」ということで、吟味を重ねて設定されたものだ。成型色の赤に重ねて、「フェニックスレッド」で全身を塗装、部分的に「シグナルレッド」を使うことで、微妙に色合いを変え、深みのある“シャアの赤”を演出しているのだ。
ナイチンゲールは手足、コンテナ、後部のスカートなど、1つ1つのパーツそのものが大型のデザインになっている。このため、作り方、見せ方によっては大味な印象を与えかねない。どのように情報量を盛り込むかも考えている。全身に加えられたさりげないディテールと、差し色もその工夫の1つで、こちらも凝ったものになっている。
ギミックとしては、このサイズでありながら、幅広い可動を実現しているところは大きなセールスポイントだと小西氏は語った。特にファンネルコンテナの移動範囲は大きく、バーニアを前に向けて制動をかけているかのようにできたり、背中のプロペラントタンクを挟みこみ、ファンネルの方向を横方向に向けたりもできる。
腕は大型のシールドや、武器となるビーム・ライフルなどをしっかりと支える。ビームトマホークは2パターン用意されている。また、巨大な腰アーマーにはジ・Oを思わせる“隠し腕”が収納されており、展開させビームサーベルを握らせることで、両手との“4刀流”が可能となっている。さらに腹部にも大型のメガ粒子砲があり、こちらも可動で砲口を露出させることができる。眺めて見るだけでなく、アクションさせても楽しいフィギュアなのだ。
背中のプロペラントタンクの他に、スカート部分の裏にもプロペラントタンクがある。圧倒されるのは、下から見上げるアングル。装甲に覆われた上面とは全く異なる、多数のバーニア、プロペラントタンクなど新たな発見がある。
「やはりBANDAI SPIRITSですから、社内でもシャア・アズナブルのファンは多いわけです。『やるのなら、完璧なものを作れ』と色々な人から言われました。正直に言うと、社内からのプレッシャーも強かった商品です」と小西氏は語った。その上で、“もしシャアにこの商品を見せるとしたら、プレゼンをするとしたら、どのようなものが望ましいか?”という所を着地点として、高いクオリティを目指した。ネオ・ジオンの総帥であり、伝説のMSパイロット“赤い彗星”である、シャア・アズナブルの前に出すつもりで、「ROBOT魂 ナイチンゲール」は生み出されたというのだ。
「良い赤をしているな」。シャア・アズナブルが語るこだわりのPV
「ROBOT魂 ナイチンゲール」は台座もまた凝ったものになっている。黒に金の縁取り、ネオ・ジオンのマークに機体名が描かれている。巨大なナイチンゲールをしっかりと支えている。この台座もまたコレクターズ事業部の商品“魂ネイションズ”の技術の蓄積が活かされているという。台座に支えられたナイチンゲールは迫力があり、様々な所をチェックするのが楽しい。
「ナイチンゲールの立体物として、ここまで決定版になるものはなかった、と思っています。だからこそ試作品、特に彩色の試作品を見たときは、ファンの1人としても満足いくものになったな、と思いました。ユーザーの皆さんにも、1/144 ナイチンゲールの決定版として自信を持って送り届けられると思っています」と小西氏は語った。
その「シャアに見せるために作った『ROBOT魂 ナイチンゲール』」のPVでナレーションを務めるのはシャアを演じた声優池田秀一氏だ。シャアへの想いを込めた商品で、池田さんに語ってもらう、それはファンの夢が実現した楽しさだ。小西氏は池田氏の収録に立ち会い、その感動を味わったという。
「PVはほとんど一発録りでした。やっぱり池田さんはすごいなと思いました。1年戦争のシャアではなくて、ネオ・ジオン総帥としてのシャアが、ナイチンゲールの魅力を紹介してくれるんです。収録に立ち会わせていただいた際は、本当に心からこみ上げるものがありました」と小西氏は語った。
ナイチンゲールが登場する「ベルトーチカ・チルドレン」は小説のため、映像作品でナイチンゲールに乗るシャアの声、というのはほとんど存在しない。ゲームで登場するくらいだ。このため、ナイチンゲールに搭乗するシャア、というのは実はかなりレアなシチュエーションである。そのシーンを、池田氏の声で収録できた、ということも小西氏は高揚した様子で話した。「池田さんに声を吹き込んでいただけたときに、我々の思いをシャア・アズナブルに認めてもらえたような気がして、恥ずかしながら少し目頭が熱くなりました」とのことだ。
小西氏はファンへのメッセージとして、「1/144 ナイチンゲールの決定版として、ROBOT魂のファンにはもちろん、シャア・アズナブルのファン、そして普段は完成品を買わないガンプラファンの方にも満足していただけるものを、という想いで作りました。究極の商品として、ぜひ手に取っていただきたいです。試行錯誤を繰り返し、試作を重ねた力の入った商品です。シャアへの想いの元、ドリームチームがこの商品を生み出しました。よろしくお願いします」と語りかけた。
「ROBOT魂 ナイチンゲール」は、本当に圧倒される商品である。ボリューム、シルエット、そして近づくほどに情報量に驚かされ、さらにこの巨大なアイテムがきちんと動くことに感心させられる。まさに、究極のナイチンゲールの立体物である。小西氏が語っているように、「シャア・アズナブルに捧げるつもりで作り上げた商品」という想いは、とても共感できる。作り手の思いがストレートに伝わる、とても楽しいエピソードだと思う。
やはりこの商品は実際に目にした人が感じるその圧倒的な存在感こそが最大の魅力だろう。記念碑的な商品といえる。「玩具との出会いは一期一会」というのは、趣味に思い入れを持つ人にこそ重い言葉である。「部屋のどこに置こう」、「この価格は……」というためらいが生まれてしまうかもしれないが、「究極のナイチンゲール」を前にもう1度自分の中で問いかけるべきだと思う。シャアへの思いを形として手に持てる、そのチャンスである。
(C)創通・サンライズ
※試作品の写真は至近距離でストロボを使っているため、実際の商品と色彩が異なります