【連載第4回】開発者が語るiPhoneゲームの最先端

iPhone Spotlight Report

なぜ「つみネコ」はずっとランクインしている!?
ビースリー・ユナイテッド鈴木氏が語るヒットの秘密

 世界中でブームを起こし、携帯電話市場を一変させたiPhoneは、新たなゲームプラットフォームとしても注目を集めている。本連載では、iPhoneゲーム開発者へのインタビューから、最新のトレンドや魅力を探っていく。



8月6日 収録


 ネコを積み重ねていくだけというシンプルなゲーム「つみネコ」は、昨年の12月に登場して半年以上が経過しているにも関わらず、現在もApp Storeのランキングで上位にランクインし続けている。ランクインしても1カ月と経たず消えていくアプリが多い中で、なぜそんな長く売れ続けているのか。その秘密を暴くため、本作を開発したビースリー・ユナイテッド代表取締役社長の鈴木宏幸氏にインタビューを行なった。そのほか、先日配信されたばかりの新作「つみネコ2」など、今後のラインナップについても伺っている。




■ iPhoneのゲームを作ることになったきっかけ

B3 United代表取締役社長の鈴木宏幸氏。新しいことにチャレンジし続けてきたパワフルな人物で、話し好きなのがインタビューでも伝わってきた

――まず、御社の成り立ちについて教えてください。

鈴木宏幸氏: 私は18年間で8回転職していまして、そのうち半分は音楽業界、半分はモバイルを中心としたマーケティング業界にいます。最後の会社がモバイルの動画変換や配信システムの開発などをやっていたのですが、その会社で一緒に働いていた事業開発部の取締役部長とシステムのアーキテクトと私の3人で、自分たちにしかできない何か新しい事をやろうということで会社を立ち上げました。立ち上げ当初はモバイルサイトやキャンペーンサイトの企画開発、着うたやデコメなどのコンテンツ制作を受託で請けるところから始めました。

――iPhoneアプリ開発に参入するきっかけは何だったのですか?

鈴木氏: 2008年の4月頃、ある大手飲料メーカーさんと、携帯電話で加速度センサーを使ったコンテンツとして、シェイカーを振ってカクテルを作れるゲームを企画しました。しかし実際に作ろうとしたところ、実は加速度センサーが搭載されている端末はごく僅かで、その他はカメラの映像で動きを認識していることを知りました。シェイカーを振る動作をどこまでリアリティのある形で再現できるかやってみよう、ということで開発を進めていきましたが、どうもシェイカーを振る感覚を再現できないことがわかってきました。

 ちょうどその頃、iPhone 3Gが発売されました。初めは興味がなかったのですが、iPhoneに加速度センサーがあって、結構使えそうだと認識しました。シェイカーのアプリはメーカーさんの販促に使おうとしていたので、対応端末の普及台数が重要視され、発売したばかりのiPhoneには出せませんでした。そこで改めて、弊社の独自アプリとして開発することにしました。

――御社の第1弾アプリがシェイカーを振って得点を競う「Shake Shake!(シェイクシェイク)」なのは、iPhoneに加速度センサーがあったからなんですね。こちらの開発はどんな様子でしたか?

鈴木氏: Appleへの手続きとか、加速度センサーがどれくらい機能するとか、知らないことばかりだったので、新鮮な驚きで進めていった感じです。

――「Shake Shake!」は当初からシェイカーを振って得点を競うものだったのですか?

鈴木氏:実は当初は、高得点を出すと露出の高いお姉ちゃんが出るようになっていて、そのお姉ちゃん画像をコレクションしていくという形になっていました。iPhone 3Gの発売当初は、特に30代男性ユーザーが多いと見えていましたから。でも、Appleの審査でその絵がダメといわれリジェクト(発売拒否)されてしまいました。その後、お姉ちゃんにちょっと服を着せたりしながら修正していったのですが、何度もリジェクトされしまい、最終的に何がOKなのかわからなくなってしまいました。それならということで、画像特典をなしにして出すことにしたのです。それが今の「Shake Shake!」です。

――反響はどうでしたか?

鈴木氏: 全然なかったですね。初めは115円で出していたのですが、「いったい何人に対して売っているんだ」と思うくらい少なかったです。

――現在は無料になっていますが。

鈴木氏:無料にしたら結構ダウンロードしてもらえるようになりました。元々がメーカーさんへの販促提案で、振る動作の実現から企画が始まっているので、iPhoneという市場を見ずに走るとこうなるという悪い見本となりました。今後展開する弊社のブランドにも合わないので、いくつかアプリが揃ってきたら下ろすと思います。




■ 色々な偶然から生まれた「つみネコ」のロングセラーの秘密とは?

「つみネコ」

――その次に発売された「つみネコ」は、いつから開発を始めたのですか?

鈴木氏: 発売されたのが12月末だから、10月くらいからですね。開発のきっかけは、本当に偶然なのですが、うちのデザイナーが描いた落書きのネコからなんです。ネコが縦に2匹並んだ絵を描いていて、それを僕がたまたま横で見ていて、その瞬間に「ネコをそのまま積んでいくのは面白い」と思ったのです。その瞬間に名前も「つみネコ」と決まりました。構想もその場で決まり、基本仕様ができあがるまで実質3分くらいでしたね。

――いろいろな偶然とひらめきが重なって「つみネコ」が誕生したわけですね。

鈴木氏: 大筋は閃きで決まりましたが、実際に内容を詰めていく作業は慎重にやりました。とはいえ、落書きされたネコの絵を見たら複雑なゲームにはなり得ない雰囲気でしたので、ほぼ始めにイメージしたとおりになりました。

――「つみネコ」を出した当初は、こんなにロングセラーになると思っていましたか?

鈴木氏: 予想していませんでした。初期のiPhoneのユーザーは、新製品に対して感度の高い、いわゆる「早い人」という感じの人が多く、熱心なゲームユーザーの率も高いと勝手に予測していましたので、こんなかわいい感じでゆるいゲームがこんなに受け入れられるとは思っていませんでした。我々は面白いと思って作りましたが、こういうものが好きな人がいたら買ってくださいという感じでした。

――実際の売れ行きはどうだったのですか?

鈴木氏: 発売当初は、そこそこランキングに入るような状態ではありましたが、そのうち時代が追いついて来たのか、ランキングで上位に入るようになっていきました。

――時代が追いついてきた、と思われたのはなぜですか?

鈴木氏: 「つみネコ」のようなライトなアプリは、ライトユーザーにウケがいいものです。「早い人」から始まったユーザー層が、1年の間にごく一般的なユーザーにまで広がってきていると感じています。そういう意味で時代が追いついてきたという感覚はあります。私は「つみネコ」を発売してから今まで、毎日24時間以内に更新されたブログを「つみネコ」で検索してチェックしているのですが、そこからどういう人が買ったのかを見続けてきました。

――その分析によると、どういう人が多かったのですか?

鈴木氏:iPhoneを早い時期に買ったような人ではなく、ライトな初心者が多いです。客層その1は、子供です。子供はiPhoneを買えるわけがないので、iPhoneを持っている30代のお父さんが、子供に「つみネコ」をやらせるのが顕著な例ですね。客層その2は女性です。女性が直接遊んでくれている以外にも、男性が夜のお店に遊びに行った時に、会話のネタとしてデモしてくれていることも多いようです。銀座や西麻布界隈では「つみネコ」の認知率が高いかもしれません(笑)。客層その3は、人とは違う感性や生き方をしている方。わかりやすいところでは、Macユーザーに好評のようです。あとはネコ好きな人が遊んで楽しんでいるようです。癒されるとか、ネコの声がいいと褒めていただいています。

――当時出ていたアプリは硬派なものが多かったと思うのですが、その中で逆行した、ゆるいゲームだったこともよかったのではないですか?

鈴木氏: そうですね。プロダクトとしては、その当時のユーザーのニーズを後追いした物ではないので、「こんなのアリ?」という新鮮な驚きを持って受け入れていただいたようです。あと、ルールが単純で、短時間で気軽に遊べるのもよかったと思っています。誰かにiPhoneを見せる時にも、ちょうどいいデモサイズなのだと思います。


【つみネコ】
色々なネコを積んでいくだけというシンプルな内容。しかしうまく積み上げるにはスピードとバランス感覚が必要で、ネコの可愛らしさとあいまって、思わず夢中になって遊んでしまう魅力がある


――あと本作は異例のロングセラーになっていますが、何か特別なプロモーション活動をしたのですか?

鈴木氏: それについては皆さんによく聞かれるのですが、これをやったと胸を張れるものはありません。ただ、これがなければここまでメジャーになっていなかっただろうというきっかけはあります。1月にサンフランシスコで行なわれたMacWorld Expoの開催に合わせて、日本のiPhoneアプリ開発者が集まり、海外メディアに向けたプロモーションイベントが行なわれまして、そのイベントに参加させていただいたことです。これは世界中の媒体や記者さんに対して、「つみネコ」をプレゼンさせてもらう絶好の機会となりました。

――その効果はどうだったのですか?

鈴木氏:米国の人気情報サイトを始め、世界中のメディアが取り上げてくれました。米国サイトに載った瞬間に、販売数がドカーンと伸びましたね。あとは日本全国のアップルストア直営店での店頭デモアプリに選んでいただきました。それからソフトバンクの店頭デモアプリにも入っています。それから、家電量販店のiPhoneコーナーのデモにも入っています。実はこれ、全部ラインが違うので、それぞれに違ったものを選んでいるのですが、たまたまその全部に入れていただいています。

――何か働きかけはされたのですか?

鈴木氏: それはないですね。選考基準もわかりません。アップルのデモに入ればいいんだといって入るものではないですから。お声をかけていただけてラッキー、という感じです。

――ある種の偶然もあって選ばれたわけですね。

鈴木氏:そのおかげでユーザーが「つみネコ」を見かける機会が多くなり、販売にも繋がっているのだと思います。これからiPhoneを買う方は、iPhoneを持っている周囲の人からアプリを紹介されたり、店頭デモで触ったりして、欲しいという思いを募らせていくと思うんです。その時に「つみネコ」を見せられたり、店頭で試すケースがあるようで、「こんなかわいいゲームが楽しめるのか」と思うようです。

 その後iPhoneを買う頃には「つみネコ」のことは忘れているかも知れませんが、手続きして待っている間に店頭デモのiPhoneを触ると、そこにも「つみネコ」が入っているので、再び思い出してもらえます。そして家に帰ったら「つみネコ」を入れようと思うのですが、既にアプリの名前は忘れているかもしれません。そこで名前を思い出せなくても、App Storeに繋いでみるとランキングに入っていて、アイコンを見て思い出し、「これだ!」ということで購入に至るのではないでしょうか。

――なるほど。いろいろなところで「つみネコ」が選ばれたことが功を奏しているんですね。

鈴木氏:どんな商品でも言えることですが、普通、初めて見たものをその場で買うことはそうありません。CMや情報を何回か見て、最後に店頭のPOPを見て、思わず買うというような形です。「つみネコ」の場合、「人から紹介されました」、「店頭のデモで触りました」、「ランキングにも入っています」、という具合に3回くらい見る機会があるのです。接触回数が多かったから、売れているのだと思っています。マーケティングにおいては、接点を増やすというのは必ず考えることで、それがたまたまできたので、そういう点では恵まれているなと思っています。

――他にロングセラーになった要因はありますか?

鈴木氏: 12月末の頃には、ランキングで50位圏内に入るくらいだったのですが、4カ月ほど経って「iPhone for everybody」キャンペーンで新しい方々が入ってきた頃に、価格を230円から115円に落としたことも要因かと思っています。別にそのタイミングを狙い澄ました訳ではなく、その頃、ランキングが70位以下までドンドン落ちて来ていて、このままでは消えてしまうかもしれないと思ったからです。この時、「つみネコ2」の開発に入っていましたので、「1」を半額にしてでも「2」に繋いでもらえばいいと判断しました。それがどうも適正価格だったようで、一気に2位くらいまで上がりました。そこからしばらく10位圏内にいて、今日は18位になっています。あまり落ちることなく、定位置のような状態になりました。

――「つみネコ」も115円になりましたが、アプリは115円ではないと買わない、売れないという風潮も出てきています。それに関してはどう思いますか?

鈴木氏: 「つみネコ」は日本を中心に売れているのですが、そのような状況においては、115円では食えないですね。個人デベロッパーさんだったらいいですが、企業としては厳しいです。

――「つみネコ」はロングセラーとなっていますが、収支的にはどうなのですか?

鈴木氏: まあまあです。かけた労力を考えると、それほど大きく儲かっているわけではありません。ただ、「どうして受け入れられたのか?」ということをリアリティーを持って感じられたことと、「つみネコ」を通していろんな方と知り合いになれたことは、とてもうれしいことです。




■ 「つみネコ2」はランキング争いで白熱する!

「つみネコ2」

――「つみネコ2」はどんな内容になるのでしょうか?

鈴木氏: ゲームの基本的な部分は「つみネコ」のままですが、ユーザーから要望の高かったワールドランキングを目玉にしています。さらにユーザーごとに簡単なプロフィールや画像、コメントなども入れられるようになったり、友人など他のプレーヤーをフォロー(登録)して友人同士だけのランキングとして見られたり、フォローしている人が記録を更新したらアラートが届くようになります。

――バージョンアップではなく別アプリにしたのはなぜですか?

鈴木氏: ゲームそのものは「つみネコ」そのままでいいと言ってくださる方も多いので、基本的にゲーム部分は触らずに、ニーズの高かったものを取り入れる方針で「つみネコ2」を開発しました。ただ積み方のロジックを少し調整したことと、ログイン方式やプロフ設定など、オリジナルバージョンにはなかった機能を入れたことで、遷移が少し面倒になってしまっているので、賛否両論になる事は覚悟の上で、バージョンアップは避けました。実際どうするかは大いに悩みました。

――若干でもプレイ感覚が変わると、既存ユーザーから「私の知っている『つみネコ』と違う!」という意見が出てきそうですからね。あとログイン制にしたのは、何か意味があるのですか?

鈴木氏: 「つみネコ」を家族で遊んでいるというブログがありまして、スコア画面が載せられていたのですが、スコア画面の画像に「これ私」、「これ子供」という感じで、点数を囲んで記録を見せている方がいたのです。それを見て、ワールドランキングをやるときには、1端末で1人のプレーヤーではダメだと考えました。「つみネコ2」では最大3人までユーザーを登録でき、それぞれにランキング登録もできます。

――「つみネコ2」のアップデートなどは企画されていますか?

鈴木氏:まずは第1弾をリリース優先で進めた後、マイナーバージョンアップで本来求めている姿へと機能やデザインを追加していきます。その後、コミュニケーション機能の強化やランキング機能の強化を経て、ゲーム内容の強化策として、iPhone OS 3.0機能を使った「つみネコ2 Ver3.0」考えています。ネコの仕草を追加したり、ネコの種類を増やせたり、背景をクリスマスバージョンにしたりと、「もっと楽しみたい!」というユーザーに、アイテム課金で欲しいものを個別に買ってもらえるような展開を考えています。こちらはまだ手をつけていないので、今のところはあくまで予定です。


【つみネコ2】
ネコを積み上げるという基本的なルールはそのまま。ランキングなどの機能が追加されている



■ 「つみネコマーチ」など、続々開発中の「つみネコ」シリーズ!

インタビューの際に、ホワイトボードに描かれていた絵。「つみネコマーチ」という新作の企画中なのだそうだ

――そのほかに、今後の発売予定はあるのでしょうか?

鈴木氏: そこに描かれている落書きがあるのですが、このままにしておくのはもったいないので、これをベースに「つみネコマーチ」というものも作ろうとしています。

――どんな内容になるのですか?

鈴木氏: 子供向けアプリになります。プレーヤーは音楽に合わせてネコの鼓笛隊が歩いていくのを見ながら、画面をタッチしてスネアやトライアングル、ネコの鳴き声などをタッチして鳴らせるというものです。流れている曲に合わせて画面をトンカン叩いて曲に参加するだけのものになると思うので、無料でやろうと思っています。

――とにかくガチャガチャ音が出ているだけという感じなんですね。ゲームにはなっていないのですか?

鈴木氏: ゲームではないですね。そもそもゲームを作ろうと思っていないので、得点を出すつもりもないです。

――これが正しい演奏ですよ、というガイドもないのですか?

鈴木氏: あってもいいですね。入れましょう(笑)。まだ曲を作っている段階なので、そこからどういう風にしようかなというのは、まだ決めていないんです。ちなみに曲は「アンパンマンのマーチ」みたいなマーチと、「つみネコ音頭」を同じアプリ内でやるつもりです。

――「つみネコ」シリーズ以外には何か展開はあるのですか?

鈴木氏: もちろんありますよ。年内に現在開発中のアプリをリリースする予定です。カテゴリ的にはエンターテイメントになるのですが、また微妙なアプリを一生懸命作っています。

――それは非常に楽しみですね。では最後に、読者に向けて一言お願いします。

鈴木氏: 「つみネコ」を愛していただけてありがとうございます。今後ももっと楽しんでもらえるように、iPhoneアプリの枠にとらわれることなく、いい意味で機体を裏切っていきたいと思いますので、楽しみにしていてください。それと、今後のビースリー・ユナイテッドでは、他にも変わったアプリをどんどん作っていきますので、ぜひご期待ください。

――ありがとうございました。




■ 「つみネコ」Tシャツを3名様にプレゼント!

 取材の際、鈴木氏より「つみネコ」のTシャツをいただきましたので、読者の皆様にプレゼントさせていただきます。黒地に「Mew Mew Tower(つみネコの海外名)」の文字と、積み上がったネコの絵柄が入ったもので、アプリと同様に「これは何だろう?」と目を引くデザインになっております。非売品となっており、「つみネコ」グッズとしても貴重な一品です。

 こちらを3名の方にプレゼントいたします。なお、サイズはMのみとなっておりますのでご了承ください。


背中にはiPhone上で摘まれたネコのワンポイント入り。これを着れば、周囲の人も巻き込んでネコたちの可愛らしさに癒されること間違いなし

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応募締切  :9月27日 23:00 まで
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(2009年 9月 11日)

[Reported by 川村和弘]