西川善司の3Dゲームファンのためのグラフィックス講座・E3特別編その5

もう「アンチャーテッド」には負けられない! リッチな破壊と厚みのあるビジュアルを獲得した新生「TOMB RAIDER」


6月5日~7日開催(現地時間)

会場:Los Angeles Convention Center


 今作の新生「TOMB RAIDER」は、ナンバリングがなされずシンプルに「TOMB RAIDER」となったわけだが、その実、開発バックグラウンドも歴代のROMBRAIDERシリーズとは大きく異なっている。


 もともと「TOMB RAIDER」の版権を持っていた英Eidosは、2009年にスクウェア・エニックスに経営統合されており、いまや「TOMB RAIDER」シリーズはスクウェア・エニックスのブランドになった。こうした組織背景の変更に伴って開発体制も大きく変わっており、開発担当スタジオはここ最近の「TOMB RAIDER」の開発を担当してきたCrystal Dynamicsとなり、一定のプロデュースをスクウェア・エニックスが執り行っている。丁度、同じような開発背景にあった「Deus EX:Human Revolution」とよく似た開発体制だ。

 新生「TOMB RAIDER」シリーズでは、主人公ララ・クロフトがピチピチの小娘だった頃が描かれることとなり、無表情で動物や人殺しを行なうEidos時代の彼女とはだいぶ違う表情を見せてくれる。クラシックシリーズの「TOMB RAIDER」の“1”~“3”などでは、二丁拳銃スタイルのデザートイーグルで狼やら猿などをバシバシ撃ち殺していたものだが、今作のララは鹿1匹を殺すのにも「ごめんなさい」と一言いったりするほど初々しい。また、予告映像では「TOMB(お墓)は嫌い」といった衝撃発言までも飛び出したりもしている。


新生「TOMB RAIDER」は2013年3月発売予定

 そんな新生「TOMB RAIDER」は、Crystal Dynamicsの自社製Crystal Engine(CDC)で開発が進められており、そのグラフィックスは一気に近代化している。

 昨年は、本連載で、そのライティングシステムの先進性について触れたが、今年は、ポストエフェクトが非常に贅沢になっていることに気づかされる。

 光筋表現やレンズフレアなどはもちろん、とても印象的なのはシーンを捉えているカメラのレンズ面に水滴や埃が付着したと想定して挿入される巨大な絞り形状のボケだ。背景の奥がボケているのではなく、レンズ面でボケているというイメージで、しばらくはカメラを動かしても、画面上におけるボケの位置はそのままになる。ただし、ちゃんとカメラが捉えているシーンの色味を反映する形で、各ボケの色味は変化する。あたかも、ララの後ろを常にカメラマンが追いかけ張り付いて撮影しているような臨場感だ。


今作のキービジュアルの1つ、ボケエフェクトボリュメトリックな光筋表現印象的なレンズフレア




■ 進化した破壊表現は「アンチャーテッド」シリーズを意識したか?

 こちらの映像を見て頂こう。

 1つは、オフィシャル予告編。もう1つは、実際のプレス向けイベントで公開されたリアルタイムプレイ映像を会場でキャプチャさせて頂いたものだ(直撮りではない)。


【オフィシャル予告編】
【リアルタイムプレイ映像】

 これまでの「TOMB RAIDER」シリーズはあらかじめ作り込まれた迷路状のステージを行ったり来たりするのがメインで、ゲームステージがインタラクティブに破壊することは希だった。

 ところが、今作では、障害物やゲームフィールドが、こちらから、あるいは相手側からの攻撃によってダイナミックに壊れていくシステムが導入されたのだ。

 今作では、「Gears of War」的な、障害物に身を隠しながらのカバー攻撃などが行なえるようになったが、その障害物もその材質によっては敵からの銃撃等で壊されてしまう。

 一定条件を満たしたことで破壊するいわゆるイベント駆動型の破壊も多いがその場合でも、大量のデブリはリアルタイムの物理シミュレーションが適用され、シーンに正確にインタラクトしながら飛散する。

 また、映像中では、無数の樽を斜面に放ち、それで敵を翻弄させている間に敵を撃破するといったゲームプレイも見て取れる。

 このように、新生「TOMB RAIDER」では、物理シミュレーションはかなりディープにゲームシステムに組み入れられており、これまでの「TOMB RAIDER」よりもだいぶ激しくもダイナミックなアドベンチャーが実現できている。

 こうしたテイストから、ゲームファンによっては「まるで『アンチャーデッド』みたい」と思った人も多いかも知れない。かくいう筆者も、プレイ映像の後半、スクラップ飛行機のコクピットに落ち込んだララがパラシュートを掴むやいなや落下してしまうような演出は「どこかでみたことがある」と思ってしまったが、しかし、もともと考古学アクションアドベンチャーは「TOMB RAIDER」の方が元祖だった。

 「TOMB RAIDER」が“6”以降、長きにわたる低迷を続けている間に、いつのまにか「アンチャーテッド」シリーズにこの分野のお株奪われてしまったのだ。今回の新生「TOMB RAIDER」から感じられる「元祖の力を見せてやる」とわんばかりの気迫は、そうした積年の鬱憤からきているのかもしれない。

TOMB RAIDER (C) 2012 SQUARE ENIX LTD. Published by Square Enix Co., Ltd. CRYSTAL DYNAMICS, the CRYSTAL DYNAMICS logo, EIDOS, the EIDOS logo, LARA CROFT and TOMB RAIDER are registered trademarks or trademarks of Square Enix Ltd. SQUARE ENIX and the SQUARE ENIX logo are registered trademarks or trademarks of Square Enix Holdings Co, Ltd.

(2012年 6月 9日)

[Reported by トライゼット西川善司]