レビュー

「劇場版ブルーロック -EPISODE 凪-」レビュー

凪誠士郎と御影玲王の物語、原作マンガの"先"まで、2人を鮮烈に描く

【劇場版ブルーロック -EPISODE 凪-】

公開中

 4月19日、「劇場版ブルーロック -EPISODE 凪-」が公開された。「EPISODE凪」は、コミックス累計発行部数3,000万部を超え、第45回講談社漫画賞少年部門を受賞した週刊少年マガジン連載「ブルーロック」のスピンオフ作品である。

 「ブルーロック」とは、日本フットボール協会がW杯優勝を実現させる為の世界一のストライカーを生み出す為に、有望な高校生FWを1か所に300人集め、最後の1人になるまで競い合わせる青い監獄(ブルーロック)プロジェクトを立ち上げるという、デスゲームという要素を取り入れたサッカー漫画である。

 この設定により、本編「ブルーロック」はこれまでにないイカれたサッカーマンガとして話題となり大人気となった。映画の原作となるマンガ「ブルーロック -EPISODE 凪-(以下、EPISODE 凪)」はそんな作品のスピンオフ。しかも「ブルーロック」の主人公・潔世一の前に現れたライバルであり、作中屈指の人気キャラクター・凪誠士郎を主人公とした物語である。

 「劇場版ブルーロック -EPISODE 凪-(以下、劇場版 EPISODE 凪)」は、立ち位置としてかなり特殊な作品となっている。「劇場版 EPISODE 凪」は原作である「EPISODE 凪」より先のエピソードを描いているのだ。そのエピソードは本編である「ブルーロック」を追いかけるTVアニメ版すら越え、その先のエピソードを展開する。「劇場版 EPISODE 凪」は、本編とは異なる視点で描かれた「誰も見たことのないブルーロック」となっているのである。そしてそのテーマは「完璧な凪誠士郎と御影玲王の物語」だ。

 「劇場版 EPISODE 凪」は他のエピソードを大胆に省略し、その上で凪と玲王だけに集中した作品となっている。とにかく、凪の成長と自分の独占欲の狭間で苦しんでる玲王の姿が最高なのである。原作を知らない人も本作を見ればより彼等のことを知りたくなり、原作漫画はもちろん、本編である「ブルーロック」のアニメ、漫画も読みたくなるだろう。「劇場版 EPISODE 凪」の見どころを語っていきたいと思う。

【劇場版ブルーロック -EPISODE 凪- 予告編】

凪誠士郎と御影玲王に原作以上に踏み込んだ構成が魅力

 映画の紹介にあたり、まずはマンガ版の「EPISODE 凪」を紹介したい。本作は「ブルーロック」の登場人物から、「凪誠士郎」と「御影玲王」の2人にフォーカスを当てている。

 凪誠士郎は、高校2年で同じ白宝高校の御影玲王に見出されるまで本格的にサッカーをした事がなく、玲王に強く勧誘され根負けしてサッカー部に入った人物だ。サッカー部に入ったものの、元来のめんどくさがりという性格から練習も隙あらばサボろうとし、試合でも同じようになるべく動かずにすむように楽しようとする。

 そんな全てのことにやる気が出ない性格でありながらも、天性のトラップ能力とゴールの近くでパスを出されるとどんな体勢からでもシュート出来るたぐいまれな身体能力を持ち合わせており、サッカー歴半年でトップレベルのストライカーとなった。

 本作の準主人公といえる御影玲王は凪と同じ白宝高校に通う高校2年生で、総資産7058億円を誇る「御影コーポレーション」の御曹司。更に文武両道で望めば手に入らないものはないという退屈な人生を送っていたが、やがてW杯優勝に魅力を感じるようになり、更に凪という才能を見つけ共にW杯優勝を成し遂げることを目標とするようになり、凪と同じくサッカー歴半年で高校サッカー界のトップレベルの実力を身につけた。

凪誠士郎と御影玲王

 この「EPISODE 凪」は、そんな凪や玲王の視点によるストーリーとなっており、本編主人公・潔世一の視点では知りえなかったエピソードやキャラクターたちの心情が描かれている。何より人気キャラクターである凪と玲王との熱い友情が深堀りされ、本編に負けない人気作品となっている。その「EPISODE 凪」が、映画という大スクリーンで見られるとあって、公開を心待ちにしていたファンは多いだろう。

劇場版のメインビジュアル

「劇場版 EPISODE 凪」が上映されるにあたり、私の一番の関心はストーリーのどの場面まで映像化されるかであった。上映時間は2時間弱。「EPISODE 凪」をアニメ化するだけでもかなりのダイジェストになるはずだが、「劇場版 EPISODE 凪」はそれを越え、TVアニメ「ブルーロック」すら越えた、"アニメの先"を見せてくれるのである! この構成には驚かされたが、同時にこの映画が描きたかったものが何であるのかがわかった気がした。

 「劇場版 EPISODE 凪」は2時間弱という限られた時間の中で凪と玲王の2人にとって重要な場面を取り出し、2人の関係性の変化を丁寧に描いている。クライマックスのエピソード「U20戦」は、凪と玲王の関係がひとつの結末を迎えるところである。これ以前までしか描かれなかったら、2人の関係が中途半端な状態で終わってしまっていただろう。この映画は、凪と玲王が出会ってから様々な喜び・葛藤・変化・苦しみを経て、互いにひとつの結論を出すまでの完成された物語になっているのだ。

 その中で、一番の見どころはやはり映画の副題にもなっている「天才、覚醒」の様子が描かれる一次選考のチームZ戦である。冒頭からここまで、全ての場面で無気力で「めんどくさい」を連呼してきた凪の内部に生じたもやもや。体はチームZの面々を絶望させるほどのプレイをしながら、頭の中ではなんでだろう……とぼーっと考えているという凪独特の体と心の乖離した状態から、徐々にサッカーに対し意識が集中していく様子を、凪役の声優・島﨑信長氏が見事に演じている。あのめんどくさがりでやる気のなかった凪がどんどん変わっていく様子は、見ている側も高揚してくる。

【劇場版ブルーロック -EPISODE 凪- 凪”覚醒”PV】

 そして試合の最後、凪が見た光のインパクトはアニメならではであった。今後の凪の運命を変えた、凪の前で放たれた輝きは原作でも印象的なシーンであったが、アニメという色と音がついた状態で描かれるこの場面のは、凪だけでなく観客にも衝撃を与えることだろう。

 凪の見どころがチームZ戦であるなら、玲王の見どころは二次選考ライバルリーバトルに入る前であろう。ブルーロック本編では単に傷ついて闇落ちしたとしか見えなかった玲王の、心情の吐露の場面だ。凪という才能を見つけ、それを開花させ日本一にする為にずっと世話を焼き、見守り続けてきた玲王が、いざ凪の覚醒を目の当たりにして沸き起こった相反する2つの感情。これも玲王役の声優・内田雄馬氏が切なさたっぷりに語っていて、自身の感情に苦しむ玲王の辛さに共感せずにはいられない。

 そして、最後の凪と玲王の会話である。まだ「ブルーロック」本編でもアニメになっていない、「劇場版 EPISODE 凪」だけで見られる2人の場面だ。幾つもの葛藤を乗りこえた凪と玲王の姿は、まさにこの物語を締めくくるに相応しい素晴らしいシーンであった。

 一方で、「ブルーロック」ならではの特殊で過酷なルールでの緊迫した試合が、ルールの説明がされてないため伝わりにくいことや、一次選考での凪と玲王のチームメイト「斬鉄」との絆など原作での重要な要素の描写が物足りなかったところは残念に感じた。

 しかし、逆にだからこそ、凪と玲王の運命的な出会いから白宝高校時代サッカー部の頃、ブルーロックに入る時、そしてチームZ戦とライバルリーバトル、そしてU20戦と、2人の次第に変わっていく心と関係性がより鮮明に描かれており、まさに凪誠士郎と御影玲王の物語として仕上がっている。凪や玲王が好きな人は、絶対に見るべきであると断言出来る。

ティザービジュアル第2弾

 他にも注目すべき要素として、「あでぃしょなるたいむ」がある。アニメ「ブルーロック」でもエンディング後にあったおまけのショートアニメであるが、「劇場版 EPISODE 凪」でもこの「あでぃしょなるたいむ」があることが発表されている。しかも週替わりで、1週目は「凪のともだち」、2週目は「玲王の帝王学」、3週目は「斬鉄のメガネ」というタイトルが発表されているが、最後の4週目はシークレットとなっている。

あでぃしょなるたいむ

 試写会では全ての「あでぃしょなるたいむ」を見ることが出来たが、1週目から3週目は「ブルーロック -EPISODE 凪-」原作を読んだことがあれば内容の予想はつくものになっているが、このシークレットとなっている4週目は、「ブルーロック -EPISODE 凪-」原作にも本編「ブルーロック」にもないもので、多くのブルーロックファンが喜ぶこと間違いなしの内容になっている。一度見た人も、このシークレットの為に5月10日以降もう一度足を運んでもいいかもしれない。

 更に、劇場版を語るのに欠かせない主題歌であるが、こちらはNissy氏とSKY-HI氏によるデュオ曲「Stormy」となっている。

【Nissy × SKY-HI / 「Stormy」Music Video 「劇場版ブルーロック -EPISODE 凪-」主題歌】

 SKY-HI氏は元々ブルーロックファンとのことで、「エゴと利他、愛情と裏返しの憎しみ、キャラクターと自分、相反する二つの想いを一つにする事をとにかく心掛けました。」と語っており、Nissy氏も「「エゴ」が生まれたことで加速していく圧倒的なセンスと、あの気の抜けためんどくさがる雰囲気、そしてどこか冷めている。そんな凪の雰囲気にあわせて楽曲にも緩急をつけました。歌詞はやはり凪と玲王のやり取りが必要だと思い、『ブルーロック』ファンのSKY-HIと話し合いながら共作しました。」とのことで、「ブルーロック」、そして「EPISODE 凪」の世界観と凪と玲王の関係性をとても大切に作ったことがわかる。

 実際映画の最後に曲が流れた時、これまでの「ブルーロック」のオープニング曲のような激しさや剥き出しのエゴさはないが、歌詞が、特にサビの部分がとても凪と玲王らしい曲だと感じた。


 リードでも書いたが、「劇場版 EPISODE 凪」では凪がサッカーを好きになり、覚醒し成長したことに対する嬉しさと、「自分が見つけて自分が育ててきた凪」が、潔という「自分以外の存在によって」サッカーへの情熱を覚え、「自分以外の」存在を求めたという辛さという相反する感情に苦しむ玲王の姿が最高なのだ。2人のファンである筆者にとって大満足の映画であった。「凪と玲王が好きなら見ろ!この映画を見なくして、凪と玲王の事を理解はできないからな!」と、筆者は声を大にして言いたい。

 「劇場版ブルーロック -EPISODE 凪-」は現在公開中である。凪や玲王が好きな人は勿論のこと、「ブルーロック」の世界をより深く知りたい人もぜひ映画館に足を運んで欲しい。