★ PCゲームレビュー★
往年の傑作ストラテジーが時を超え再誕!
戦術・戦略を駆使し宇宙人を撃退しよう
「XCOM: Enemy Unknown」
ジャンル:
  • ストラテジー
発売元:
  • Firaxis Games
開発元:
  • 2K Games
プラットフォーム:
  • WIN
価格:
59.99ドル
発売日:
2012年10月11日
プレイ人数:
1~2人
レーティング:
ESRB:MATURE 17+(17歳以上対象)

これが新しい「XCOM」だ

 知る人ぞ知る傑作ストラテジーゲームが、装い新たにゲームファンのもとへ届けられる。本作「XCOM: Enemy Unknown(XCOM)」は、1994年にリリースされたターンベースストラテジーゲーム「X-COM: UFO Defence(X-COM)」のリバイバル作だ。しかも、欧米から遅れることわずか2日で日本語版での登場となる。パッケージ版の店頭販売は行なわず、Steam、Amazonでのダウンロード版の購入のみとなっている。

 「Civilization」を筆頭に多くの傑作ストラテジーゲームを世に送り出した旧Microproseの作品群の中でも、特に「X-COM」は異色の作品だ。UFO撃退を主題とする全地球的な世界観、2つの全く異なるプレイモードを1つのゲームに融合したゲームシステムなど、現在でも色褪せない魅力を発している。その独自性と、何度でもプレイできる面白さがじわじわと人気を集め、2001年に旧シリーズ最後の作品が出るまで多くのゲーマーを虜にした。

 本作「XCOM」はそのリバイバル作品として、2Kグループのうちシド・マイヤー氏が率いるFiraxis Gamesがその開発を担当している。つまり、オリジナル版を手がけた者たちによる正統な後継作といえるだろう。一方、2011年のE3でお披露目された“FPS版XCOM”は、「Bioshock2」などの作品で知られる2K Marinが開発する全く別の作品だ(こちらは延期され2013年リリース予定とされている)。


■ こわい宇宙人が攻めてきた!どうする人類!

 可能性は2つ。
 この宇宙の中で我々だけが孤独でいるか、
 それとも、そうでないかだ。
 どちらも同等にぞっとする。
    ──アーサー・C・クラーク
 (ゲーム内のオープニングより)

エイリアンの侵略に対し、“XCOM”プロジェクト発動!人類の反撃が始まる
基地パートでは部隊を強化するための様々なマネジメントが行なえる
戦術パートでは兵士を動かしてエイリアンを掃討

 時は20xx年。突如襲来した未知の知的生命体により全地球が危機に晒される。続発するUFOの目撃情報、宇宙人による拉致事件やテロ……。混迷を深める情勢のなか、全世界の国々が共同で“Extraterrestrial Combat Unit”構想、通称“XCOM”プロジェクトを結成。宇宙からの侵略者の撃退を目指し、人類の叡智を結集した作戦が始まろうとしていた……。

 という風のプロットで始まる「XCOM」の世界観は至極単純、“エイリアンをぶっ殺せ!”だ。プレーヤーは“XCOM”プロジェクトの指揮者となり、世界各地で発生するエイリアン騒動に対処。やがてはエイリアンテクノロジーを応用し、根本的な打開策を練りあげていくことになる。

 ゲームは大別して2つのパートに分かれている。ひとつは、“XCOM”プロジェクトの基地を運営・拡張していく基地パート。もうひとつは、エイリアンとの戦闘を現場で指揮する戦術パートだ。

 基地パートでは研究開発や装備の製造、兵士の雇用や編成を通じて、より強力な戦闘部隊を作り上げていくことができる。これを受けて始まる戦術パートではエイリアンとの戦闘を通じて兵士が昇進したり、エイリアンテクノロジーを鹵獲することができる。これらがお互いにフィードバックし合って、プレーヤー毎に異なる大きな流れが生まれていく仕組みだ。

 ユニークなシステムに戸惑いそうだが、親切なチュートリアルが用意されており、言われるがままに操作すればスムーズにゲームの流れを掴むことができる。2回目以降のプレイでは、チュートリアルを飛ばしていきなり本編から開始することも可能だ。

 いずれにしても、まずはじめにプレーヤーが出会うことになるのは“セクトイド”と呼ばれるエイリアン。見るからにエイリアンとしか言いようのない、典型的なグレイ型異星人だ。頭がでかく低身長、歩く姿は猫背気味、何やらテレパシー的な能力も使う。いかにも悪いことしかしそうにないヤツらである。

 序盤はこいつらが地球人を拉致したり、UFOで空を飛び回ったりと、とても素朴な宇宙人観を見せられて何かホッとする。さすがはミステリー・サークル全盛の時代に生まれたゲームだ。ちなみに“XCOM”の基地も、エイリアン映画によく登場する秘密基地エリア51のイメージそのまんまである。さらにプレーヤーが操る隊員たちはサンダーバードか特攻野郎Aチームか、モロに戦隊モノのノリでジャジャーンと登場する様にほっこり。


基地パートではエイリアンテクノロジーの研究、装備の生産、兵士のカスタマイズが重要要素となる
戦術パートはトップビューのターンベースストラテジー。戦闘の演出がかっこいい
輸送機“スカイレンジャー”からジャジャーン!と登場する戦闘部隊の勇姿。4つの装備ポイントがあり、開発した新装備を授けてパワーアップ


■ 2つのゲームパートが織りなすユニークなゲーム体験

 本作はゲームを構成する2つのパート、戦術パートと基地パートを代わる代わるプレイしながら、互いのプレイ結果がフィードバックし合って新たな展開を生み出すようにデザインされている。この仕組みにより他にないプレイ感覚を楽しめる作品となっているので、ここでそれぞれのパートのポイントをご紹介していこう。

・戦術パート

事件発生、部隊を編成して出撃!
1ターンづつ、遮蔽物を利用しながら前進
敵のカバーが薄いところを狙えば高い命中率が得られる
射撃を加え、敵を排除していこう

 さて、本作の一翼を担う戦術パートは典型的なターンベースストラテジーだ。プレーヤーが指揮する各兵士は各ターンで2ポイントのアクションポイントを持っていて、1ポイントを消費して移動、残る1ポイントを消費して高速移動、あるいは残ポイントを全消費して攻撃またはアイテム・スキルの発動といったアクションができる。これは敵も同じシステムだ。

 ここで重要になるのは、近年のTPSでお馴染みのカバーリングの概念が存在すること。なんでも良いので遮蔽物を挟んで敵と相対する位置でターンを終了すれば、敵のターンで攻撃を受ける際に被弾率減衰のボーナスを得ることができる。無防備に立っていればガンガン被弾するが、よく遮蔽された場所ならば敵の攻撃がほとんど当たらない、というわけだ。

 事情は敵も同じで、常に遮蔽物に隠れて移動しながらこちらを攻撃しようとしてくる。そこで、複数の兵士をうまく使って敵の側面・後背に回りこみ、精度の高い一撃を加えることが戦術パートを有利に進めるテクニックとなっている。

 これはタクティカルTPS・FPSに近い感覚があり、キャラクターの移動能力、敵への射線を考慮しながら地形をうまく使うことが大切だ。これ自体にゲーム的な深みがあって面白い。“監視”コマンドを使えば、敵の移動を捉えて反撃可能と、必要に応じて受け身の戦法もできる。

 その戦略性をさらに際立たせているのは、各兵士が成長とともに獲得していくユニークなスキルの数々だ。本作に登場する兵士には4つの基本クラスがある。移動射撃に優れた“アサルト”、重火器を扱える“ヘビー”、援護に特化した“サポート”、狙撃屋の“スナイパー”。それぞれ戦闘経験を詰んで昇進していくごとに、新たなスキルをひとつ選んでキャラクタービルドをしていくことができる。

 例えば遮蔽物から敵を追い出す特殊ショットを使えば他の兵士からの攻撃が容易になる。はたまた、敵をその場に釘付けにする制圧射撃スキルを使えば、回りこんでの撃破が狙える。グレネードなどのアイテムを利用して壁越しに一掃したり、遮蔽物そのものをふっ飛ばすのもアリ。各スキル・アイテムは工夫次第で局面に様々な解法をもたらすようデザインされており、各兵士の関係をうまく補完させあえばその効果は何倍にもなる。

 もちろん、ゲームが進むと兵士の能力・装備がより強力になり、また違った戦法が見えてくる。敵も様々なタイプが登場し、新たな対応策の発見に迫られる。遮蔽物を無視して移動してくる飛行型のエイリアン、あるいは超絶なタフさで突進してくる白兵戦タイプ、遠距離から強力なビーム砲を浴びせてくるヤツなどなど……。与えられた選択肢の中で、最善の対応作を見出して敵を撃破すること、そのものが本作の面白さのひとつだ。


クラス毎の特徴や地形を把握すれば、工夫ひとつで有利な状況を作り出せる
次第にエイリアン側も強力に。単体では大した脅威にならなくとも、組み合わせで厄介になることも

・基地パート

戦闘パートで獲得した鹵獲品は、基地モードでの重要な資源となる
基地の施設は拡張可能だ。同種施設は隣接ボーナスがあるので配置の工夫も必要
エイリアン活動のスキャンとともに日数が進んでいく。事件は突然に起こるので準備が大事だ
衛星の配備やエイリアン事件への対処が後手に回れば、参加国の脱退を招くことも

 戦術パートをうまくプレイすれば、その収穫を基地パートに生かすことができる。基地パートでは、エイリアンの解剖やエイリアンテクノロジーの研究を通じ新たな装備を開発し、兵士たちの装備を強化していくとができるが、それは戦術パートで得たものが手がかりとなるためだ。

 中には各エイリアンを生きたまま捕獲することが条件となるテクノロジーもあり、これが戦術パートのプレイ内容に一定のスパイスを加えている。また、戦闘で兵士が死亡すると新兵の雇用が必要になるほか、重症を負った兵士は復帰に一定の期間が必要だ。これら基地パートにフィードバックされる要素の数々が、戦術パートをより上手くプレイしようという強い動機づけになっている。

 ときには基地機能の強化も必要だ。地下に広がる“XCOM”基地は蜂の巣状の構造をしており、各マス目に各種施設を増設していくことが可能。新施設の建設により新たなアクションが可能になれば、既存施設の増設で効率を高めることもできる。共有資源である“電力”を供給する“発電所”の数にも留意が必要だ。その感覚はちょっとした箱庭シミュレーションである。

 基地運営をスムーズに進めるためには、何をするにも必要となるお金、“クレジット”を多く獲得することがカギだ。“XCOM”プロジェクトは各国の支援が重要なマネーソース。各地に監視衛星を送り込み、防衛網に組み込むことで資金提供を受けることができる。もちろん、衛星の配備にもお金が必要なので、これは計画的に行なう必要があるが、しかし優先的に行なうべきアクションのひとつだ。

 こうして必要な準備を整えつつ、“ミッションコントロール”でエイリアン活動のスキャンを開始すれば時間が日単位で進んでいく。研究や建設には一定の日数が必要なので、新たなエイリアン騒動に直面する前に理想的な準備が整わないこともあるが、それで出動を取りやめたり、戦闘に敗北すると各国の“パニックレベル”が急上昇し、ひいては参加国の脱退を引き起こしてしまう。それが本作の流れに一定の緊張感をもたらし、プレイ内容を引き締めてくれている。

 パニックレベルを制御できなくなり、“XCOM”プロジェクト参加全16カ国のうち8カ国が脱退してしまうとその場でゲームオーバーとなる。そうならぬように資金繰りを工夫し、時には厳しい戦闘を巧みな戦術でかいくぐりながら、エイリアンとの最終決戦に向けた部隊を創りあげていこう。

 技術開発や施設建設の順番、兵士の育成方針、戦場での戦い方など、ゲームの大きな流れを変えていく要因の多くがプレーヤーに委ねられている。プレイする度に違った展開を楽しめ、何度でもチャレンジしたくなるゲームになっているのだ。


戦闘で得た鹵獲品を研究し、新装備を開発・生産、部隊に配備して次の事件現場へ臨む。これが本作のプレイサイクルだ。特に人的損失は取り返しがつきにくいので、なるべく死者を出さないようにプレイしたい

UFOとの遭遇など、事件は様々な形で発生する。万が一に備えて即応体制を整えておくことも重要だ


■ 旧シリーズから何が変わったのか?

マップが立体となり、三次元的な戦略性が生まれたことも改良点
マルチプレイモード用部隊の編成画面。設定内容が多くて少々面倒くさいが、やりがいはありそう

 本作「XCOM」をプレイすると、そのユニークなゲームシステムとバラエティーに富んだゲーム展開に魅せられ、夢中になって遊ぶことができる。これそのものが非常によくできたゲームだ。今現在、他に類例のないタイプの面白さだ。

 その一方で、本作で提供されるゲームの本質は、やはり旧「X-COM」シリーズそのものでもある。戦術パートと基地パートからなるゲームシステムの骨子はもちろん、戦術パートにおけるカバーリングの概念、各兵士の個性を組み合わせた戦略性、基地の拡張、研究開発、ときに重要となる迎撃機の配備とUFOとの対空戦闘……。入っているゲーム要素は鏡で写したかのように旧作と同じだ。

 では何が進化したのか?と考えると、遊びやすさは圧倒的に本作が勝る。何もかも手探りで進めるハメになる旧「X-COM」に比べれば、ゲーム要素がわかりやすく整理され、冗長な部分が大胆に省略された本作は、遊びの内容は同じながら、初回のプレイからでもそれなりにうまく遊べて、誰でも楽しめるものになっているのだ。

 これは、PC版「Civilization(Civ)」と、家庭用ゲーム機版「Civilization Revolution(CivRev)」の関係に近い。ただし、「Civ」のゲーム要素を10とすると、「CivRev」は3くらいしかなく物足りなかったことに対し、本作は8か9くらいはある。本作において「CivRev」での教訓が生かされているのは間違いないと思われる。

 本作で簡略化されたのは旧作で煩雑だった兵士の装備管理やUFOとの対空戦闘における手動操作などだ。一方で戦術パートの立体的表現、戦闘スキル等もさらに充実し、よく整理されたインターフェイスも手伝って、得られる楽しさはさらに増していると言える。

 ひとつ欲を言えば、戦闘中の移動や射撃にともなう演出を省略した“ハイスピードモード”みたいなものもあればなお良かった。何か行動するたびにきちんとアニメーションが再生されるのを見る必要があるため時間がかかり、慣れてくると戦術モードのテンポがややかったるい印象があるからだ。

 ちなみに本作にはマルチプレイモードもある。一定範囲のクレジットを使って人類兵士とエイリアンの組み合わせによるオリジナル部隊を編成し、他のプレーヤーと戦術モードで対決するという内容だ。発売前のためマルチプレイは体験できていないため細かい評価は避けたいが、部隊編成の項目ががかなり細かく、準備にかなり時間が掛かりそうな印象を受けた。まずはシングルプレイモードをやり尽くして、それでもまだやり足りないひと向けのお楽しみといった感じだろう。

 最後に総評を。本作はシングルプレイゲームとして非常によくできており、少なくとも50~100時間はのめりこめる作品だ。旧作のリバイバルとしても理想的な形にまとめられており、新規・既存の別を問わず多くのプレーヤーが大いに楽しめることだろう。特に、ユニークなゲームシステムはゲームファンなら一見の価値ありとしたい。

 なお、Steam・Amazonで配信されるPC版ではゲームパッド、マウス&キーボードどちらでも操作が可能である。筆者としてはゲームパッドのほうがプレイしやすかった。シンプルなUIで多段階の操作を基本としているためだろう。海外ではPS3、Xbox 360版もリリースされているが、国内でどうなるかは不明。ぜひ、家庭用機メインのゲーマーの皆さんにも楽しんでいただきたいが、さてどうなるだろうか。


【スクリーンショット】
重要ミッションを軸に進んでいく歯ごたえたっぷりのストーリーや、エイリアンテクノロジーの背景を説明する読み応えのある文章などもある。急展開を見せるゲーム本編とともに世界観も楽しみたい1本だ

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(2012年 10月 10日)

[Reported by 佐藤カフジ]