もたらすのは希望か、さらなる混沌か?
- ジャンル:
- ファーストパーソンアクション
- 発売元:
- ベセスダ・ソフトワークス
- 開発元:
- プラットフォーム:
- PS3
- Xbox 360
- 価格:
- 5,980円
- 発売日:
- 2012年10月11日
- プレイ人数:
- 1人
- レーティング:
- CERO:Z(18歳以上のみ対象)
ベセスダ・ソフトワークスの「Dishonored」がついに発売された。本作は“暗殺”をテーマにしたファーストパーソンアクションだ。主人公コルヴォは女王暗殺によるクーデターに巻き込まれ、暗殺者にその身を墜としていく。コルヴォは陰謀渦巻くこの世界を生き抜き、彼を慕う女王の娘エミリーを救うことができるだろうか?
本作の最大の特徴は“自由度”である。どのルートを進むか、敵を倒すか、迂回するか、そして標的を殺すか、それとも他の方法を探るか……。さらに主人公のひとつひとつの行動が後のシナリオにまで影響してくる。他の作品以上にプレーヤーの行動でゲーム展開が変わってくる幅が広い。その作り込みからは、スタッフの“気合い”を強く感じさせるとても魅力的な作品である。
■ 汚名を着せられ、暗殺者へと身を堕としたコルヴォ、彼が目指す明日は?
コルヴォは仮面に顔を隠し、暗殺という任務を請け負う。復讐の刃をどう振るうかは、プレーヤーに委ねられている |
血の海に倒れる女王。残されたさらわれた王女エミリーをコルヴォは救えるだろうか |
謎めいたアウトサイダー。彼に与えられた“超常能力”がコルヴォの超人的な活躍を可能にする |
「Dishonored」の舞台は“ダンウォール”という街。この街はネズミを媒介とする疫病が蔓延している。疫病に冒された者は目から血の涙を流し、街をさまよいながら人を襲う“ウィーパー”になってしまう。ネズミは凶暴化し群れをなして人を襲うようになり、死体は瞬く間にネズミに食われてしまう。
この疫病による混乱に乗じてクーデターを行なったのが摂政伯爵だ。彼は女王を殺し、コルヴォに暗殺者の汚名を着せ、王女エミリーをさらって街の支配者となった。天才科学者ソコロフの技術を使い、巨大な竹馬のような2足歩行の兵器「トールボーイ」や、近付く敵を焼き殺す「光の壁」などを作りだし、街を力で押さえつけた。
コルヴォは処刑寸前に“王政派”を名乗る者達の手引きで収容所から脱獄し、“暗殺者”として協力を要請される。王政派は暗殺という方法で摂政の力を削ぎ、エミリーを救い出したいという。さらにコルヴォには“アウトサイダー”と名乗る神とも悪魔ともつかない謎の存在が接触してきて、コルヴォに“魔法”としか説明のつかない超常能力を授ける。コルヴォはこの能力を使って与えられたミッションを次々と成功させていくのだ。
本作の序盤の展開や基本の要素はこちらで紹介しているが、今回改めて本作を通してプレイすることで改めて様々な魅力を感じることができた。 まずは世界観だ。“鯨油”を使った産業革命によって「Dishonored」の世界は独特の技術を発展させている。光の壁やトールボーイ、コルヴォの装備などは、現代の我々の技術すら越えるオーバーテクノロジーでありながら、近世風の雰囲気も持っている。
ダンウォールは、戒厳令下の場所、貧民街、貴族の館などで様々な表情を見せる。前回紹介した「LADY BOYLE'S LAST PARTY」での貴族の仮面舞踏会は、今回民衆達がどれだけ悲惨な境遇なのかを見ることで、改めてその華美な世界と退廃を感じた。階級社会の醜さも本作はうまく表現している。暗殺で政権をひっくり返そうとする王政派もまた同様だ。リーダーの1人であるペンドルトンは、実の兄2人の暗殺を依頼してくるのだ。政治と権力のために狂っていく世界を本作は見事に描き出している。
そして、“超常能力”の存在である。この世界では“魔法”として扱われる能力で、アウトサイダーによりコルヴォ自身も使えるようになっており、女王を暗殺した暗殺者も同じような能力を使った。コルヴォの能力を増す「ルーン」や「ボーンチャーム」はこの世界では異端視される呪術アイテムで、何人かが隠し持っているが、実際にコルヴォが持つと能力を発揮する。
本作において“魔法”は、アウトサイダーに認められた者しか使えないという限定的な存在ではあるが、実在する力として扱われている。ゲーム中盤にはコルヴォの超常能力に対抗するための技術も出てくる。こういった“オカルト色”が濃いところは「Dishonored」の世界に独特のアクセントを加えている。世界観はメモや本、さまざまな人が声を吹き込んだ「オーディオグラフ」でも語られる。様々な要素が絡み合った、とても魅力的な世界を作りだしている。ゲームを進めるほど、隅々を探索するほど、この世界にどっぷりはまり込んでいくだろう。
ゲーム部分で特筆したいのは、やはり“自由度の高さ”である。特にミッション3からは多彩なルート、任務に対するアプローチの多さに驚かされるだろう。超常能力の「ブリンク」は視界内の様々な場所に瞬間移動できる。さらに憑依能力「ポゼッション」で、鼠や魚になる事でもルートが広がる。敵を倒しての正面突破だけでなく、忍び込むルートがいくつも用意されていることに気づくだろう。
ミッションの目的そのものも、NPCからの情報や、本に書かれていること、漏れ聞こえる会話などで変化する。暗殺を依頼されているが、ミッション内で必ず彼等に直接刃を振り下ろさないですむ方法も用意されているのだ。しかもゲーム内の様々な行動は、その後のミッションに濃密に影響してくるのだ。ゲームをプレイしていくと、開発者ができるだけユーザーに何度も遊んで欲しい、隅々まで味わって欲しいと考えて作っているのが伝わってくる。じっくりと楽しみたいゲームである。
目の前で女王を殺され、汚名を着せられたコルヴォは、収容所から謎の協力者の導きで脱出を果たす | ||
彼を助けた王政派は、“暗殺”での協力を要請してくる。その夜、コルヴォはアウトサイダーより、魔法としか言いようのない超常能力を授けられる | ||
街は圧政に苦しめられ、疫病で死人に溢れている。右は疫病に冒され自我を失ったウィーパー |
■ “超常能力”と武器を使い、超人的な活躍を成し遂げろ
ルーンを消費し取得できる様々な特殊能力 |
こちらはピエロから買える装備のアップグレード |
“護符”として使われているボーンチャーム。所持していると異端視されるものだが、コルヴォが持つと様々な効果をもたらす」 |
コルヴォは、多彩な超常能力、そして様々な武器で戦う。ブリンクは瞬間移動の能力だが、移動中は敵の目にとまらないため、物陰から物陰に移動するのに便利だ。移動直後は時間の流れが遅くなってるため、相手の背後に飛びこみ相手に気づかれる前に襲う、ということも可能だ。
「ダークビジョン」は壁の向こうにいる敵を感知できる。敵の視界も表示されるので、ステルスには欠かせない能力だ。敵は正面以外の視界が狭い。最初はコツがつかみにくいが、慣れてくると敵のパターンも予測できる。しかし未知の地域ではいきなり敵と遭遇することもあり、ダークビジョンによる調査は必須と言える。
ダークビジョンをレベル2まで強化すれば、保安装置の配線なども探知できるようになる。保安装置は鯨油タンクを抜き取って無力化することも、回路を繋ぎ直して敵を焼き尽くすこともできる。また、ダークビジョンは換金アイテムや、回復アイテムなどもわかりやすく表示してくれるので、かなり有用な能力と言えるだろう。
ネズミを大量に呼び出せる「ラットスワーム」で“悪の魔法使い”を気取るのもいいし、敵の死体を灰にする「シャドウキル」を使えば、敵の死体を隠す手間が省ける。ちなみに不用意に敵の死体を増やすと評価の“カオス度”が上昇し、街はウィーパーの溢れる恐ろしい場所になってしまうようだ。今回はできるだけカオス度を抑えるステルスプレイをしてみたが、再プレイ時にはあえて街に混沌をもたらすプレイをしてみて、街の変貌も比べてみたい。ちなみに敵を殺した場合は、ちょっとしてから戻ると死体が無惨にネズミに食われていてぞっとした。街に蔓延する暗い影を感じた瞬間だった。
武器としては、王政派の天才ピエロが作りだした様々なものがある。クロスボウのボルトは通常のものだけでなく、麻酔ボルトや、焼夷ボルトもある。焼夷ボルトは数発でトールボーイも倒せるが、逆にトールボーイも攻撃でこのボルトを使う。拳銃は大きな音がしてしまうが、コルヴォ用は改造することもでき、接近戦で強力だ。ステルス中心に戦ったためあまり使用する局面はなかったが、グレネードなども使うことができる。
今回のプレイでは、時を止めることができる超常能力のベンドタイムと、麻酔ボルトを多用した。クロスボウは連射速度を上げ、麻酔も瞬時に効くように改造することでさらに強力になる。複数の敵が固まっているところに、時を止め、敵の前に飛び出し、それぞれに麻酔弾を撃ち込む。再び時が動き出すと、複数の敵は折り重なるように昏倒する。非常にカッコイイアクションができた瞬間だった。
瞬間移動するブリンク、ルーンなどを探せるハート、壁の向こうを見透すダークビジョン | ||
敵を吹き飛ばすウインドブラスト、ネズミを襲わせるラットスワーム、憑依能力ポゼッションでネズミに取り憑き狭いダクトに侵入 | ||
麻酔ボルトに、焼夷ボルト。右はベンドタイムで時を遅くしたところ |
■ 様々な選択肢が提示されるミッション、コルヴォがもたらすのは平和か混乱か
怪しげな老婆グラニー・ラグズ |
目標に近付くには、様々なルートがある |
「Dishonored」のストーリーは、ミッション仕立てで進行し、1ミッションが1ステージで、ステージクリア型のゲームとなっている。ミッション1でコルヴォは汚名を着せられ、処刑寸前で収容所から脱出する。ミッション2から、暗殺者としてダンウォールの街へと向かうこととなる。ミッション2と、ミッション3は重なる地帯が多く、街の貧民街から、貴族達の浴場となっている地域までも含む広大な場所を舞台となる。ダンウォールという街の具体的なイメージをつかめるミッションとなっている。サブミッションが連携しているところも興味深い。
ダンウォールでは「グラニー・ラグズ」と、ギャングを率いる「スラックジョー」が対立している。スラックジョーは疫病を防ぐというエリクサーを密造しているのだが、グラニーはこのエリクサー蒸留器の中に疫病に感染した鼠の内臓を仕込めというのだ。これに従ってしまえば、エリクサーを使った人が確実に疫病に冒され、さらに拡散してしまう。
このミッションをクリアするにはまずネズミを研究している医師の屋敷に忍び込み、そして蒸留所にまで忍び込まなくてはならない。かなりカオス度を上げてしまいそうなミッションであり、1度目のプレイでは鼠の内臓は入手したものの、エリクサーに入れるのは躊躇してしまった。ミッション4では、スラックジョーと接触することで、ミッションが有利に進む。そしてスラックジョーのミッションでも医師の屋敷に忍び込まなくてはならなくなる。
この時面白かったのは、1度目の侵入で開けた金庫などがそのままだったことだ。ミッション形式のゲームで、ミッションをまたいでも状況が継続されているというのは新鮮だった。もしミッション2でプレーヤーがグラニーのミッションを完了していたら、もしくは全くグラニーと接触しなかったら、ミッション2のみならず、ミッション3も展開は大きく違うものになる。街のカオス度はこの後のミッションで変わっていくものだが、このミッション2と3の関係は直接的で興味深かった。ちなみに、グラニーとスラックジョーの対立は、貴族達とはまた異なるドラマとして、この後も展開していく。
ミッション2でターゲットとなる「キャンベル上級監督官」は、殺すのではなく、異端の焼き印を押しつけることで、政治的に失脚させることができる。こちらの方が見方によっては残酷な復讐方法と言える。ミッション3でも、直接手を下さなくてすむ選択肢が提示される。また、グラニーとスラックジョー以外の小さなサブミッションなどもあり、細かくチェックすることで、より楽しめる。
ミッション3では、「ゴールデンキャット」というサロンに忍び込むのだが、ここではこれまで病と混乱で死んだようになっている街とはうって変わり、華やかな内装の建物の中で、貴族の男女が怪しげなパーティを行なっている。たくさんの男女や、衛兵が狭い場所にいて、暗殺の難易度はグッと上がる。
本作は、セーブ・ロードをこまめに行なうタイプのゲームだ。特に、ステルス中心でカオス度を上げずに進める場合、意図せず敵に見つかるのは周囲の敵を呼び寄せてしまい結果として大量の敵を倒さなくてはいけない結果になる。こうならないために、慎重なルート選択が必要だ。一見敵に見つかるしかない場所でも、上方向や建物の外のダクトなど、様々なルートが用意されている。試行錯誤をしていくのが楽しい作品となっている。
厳重な警戒態勢の中、キャンベルに近付く。情報を収集することで彼に死よりも辛い運命をもたらすことができる | ||
ペンドルトンの2人の兄を暗殺する。スラックジョーとの出会いも重要なイベントだ |
■ 大きな変化の中、それぞれの思惑を秘めたキャラクター達
エミリーを救出しアジトに運ぶ。エミリーはいつもは自分の運命を受け止めている様に見えるが、悪夢が彼女を苦しめる |
「Dishonored」は世界の描写に加え、キャラクター描写も本作は力が入ってると感じた。エミリー王女は、キャラクターの造形としてはリアル寄りとも思ったが、けなげでかわいらしいだけでなく、したたかさもうかがえる。政治の道具として利用されながらも、どこか達観している部分も感じさせる。しかし眠りの時に彼女の無理は表面に出るらしく、悪夢にうなされ続ける姿を見せる。彼女との邂逅はごく限られているが、“守らなくてはならない”と強く感じさせる演出が気に入っている。
隠れ家であるパブで杯を傾けながらコルヴォに暗殺を依頼する、王政派の怪しげな男達の雰囲気もいい。彼等はコルヴォの超人的な活躍で、事態がどんどん自分たちに有利になっていることに対し、調子に乗っているようなところもある。また、様々な道具を作るピエロは、ちょっとした奇行を見せたり、オーディオグラフに胸の内を吹き込んだりしているのが楽しい。船でコルヴォを運ぶサミュエルは、素朴でいい奴だ。コルヴォに対して素直に尊敬と好意を向け、自分が彼に協力していることを誇らしく感じている。
グラニーの狂気、スラックジョーのふてぶてしさ、街の住人達の様々なエピソードなど、本作はストーリー要素もかなり充実している。さらにルーンやボーンチャームを見つけ出すハートの超常能力を使うとキャラクターの内面をのぞき込むことができる。特に仮面舞踏会での貴族達の“正体”を探れるのが楽しい。コルヴォを観察し、プレーヤーの決断に様々な反応を示すアウトサイダーも興味深いキャラクターの1人だ。
冒頭でも言ったが、「Dishonored」は開発スタッフの“気合い”を強く感じさせる作品だ。ステージでのルートはいくつもあり、ブリンクや、魚やネズミに憑依できるポゼッションを使うとさらに広がる。前のミッションで入手したアイテムで、鍵が開き侵入が容易になるといった要素まである。ミッションクリア型のステルスゲームはいくつもあるが、これまでの作品以上に、プレーヤーの行動がゲーム展開に影響を与える作品だと感じた。
世界観、ストーリーの独特さもとても楽しい。新規IPであり、レトロフューチャー風の世界観のFPSのため本作の存在に注目していないユーザーもいるかもしれないが、実際にプレイするとこの世界にぐいぐい飲み込まれていく自分を発見できるだろう。“濃い”ゲームであり、コルヴォを自由に使えるようになるには多少の慣れが必要だが、この多彩な魅力を持ったゲームをぜひ触って欲しい。
ボイル婦人の仮面舞踏会。貴族達の退廃ぶりが感じられる | ||
様々なキャラクターが様々な表情を見せる。下中央は近付く者を焼き殺す光の壁、下左はこの世界の使用人の制服だ |
(2012年 10月 11日)