「ペーパーマリオ オリガミキング」レビュー
ペーパーマリオ オリガミキング
パズルの奥深さは発明級、さらに大量かつカオスに放り込まれたネタに笑う快作!
- ジャンル:
- アドベンチャー
- 発売元:
- 任天堂
- 開発元:
- インテリジェントシステムズ
- プラットフォーム:
- Nintendo Switch
- 価格:
- 5,980円(税別)
- 発売日:
- 2020年7月17日
2020年7月16日 00:00
Nintendo Switch「ペーパーマリオ オリガミキング」は、数ある「マリオ」タイトルの中でもあらゆるジャンルを詰め込んだ、ごった煮エンタメ精神に溢れたお祭りのようなゲームだ。
アクションアドベンチャーを基本としながら、シンボルエンカウントによる戦闘と冒険を繰り返す手触りはRPG的だし、その戦闘はパズル色が強い。さらに大事な場面ではクイズが発生するし、あるいはシューティングセンスが問われるようなときもある。いわゆる「マリオ」のイメージとは一線を画しながら、それでも多くの人が楽しめる内容に仕上げた快作となっていた。
そもそも「ペーパーマリオ」シリーズは、スーパーファミコン「スーパーマリオRPG」の続編として企画されたRPG「マリオストーリー」が原点となる。インテリジェントシステムズは作品を重ねるごとにシステムを変遷させ、2012年発売のニンテンドー3DS「ペーパーマリオ スーパーシール」以降は“ペラペラのマリオたちが、ペラペラの特性を活かした舞台とゲームシステムの中で冒険する”という独自路線を確立した。
その最新作となる「ペーパーマリオ オリガミキング」では、ペラペラのマリオたちの前に折り紙でできた「オリガミ軍団」が立ちはだかる。クリボーやノコノコ、ヘイホーなどおなじみの面々がオリガミで表現されているほか、ボスはもう見た目からして文房具そのままの「イロエンピツ」や「わゴム」といった面々が待つ。ときにファンタジックに、ときに妙な現実感を織り交ぜつつ、笑いに哀愁、恐怖、そして涙とあらゆる感情を打ち込んでくる。
では一体「ペーパーマリオ オリガミキング」とはどんなゲームなのか。その内容とともに、魅力をお伝えしていきたい。
オリガミがこんなに怖いとは。かわいくも恐ろしいオリガミ軍団
まず「ペーパーマリオ オリガミキング」は、オリガミの表現がいい。本作においてオリガミのキャラクターは基本的に敵なのだが、「これって本当にオリガミで作ってそう」と思える見た目になっている。クリボー、ヘイホー、ノコノコなどのオリガミ姿はかわいらしく、ペラペラとの対比としても楽しい。
そして実際にプレイしてみると、このオリガミたちはとても怖い。本作でオリガミ軍団を生み出すのは「オリガミ王国の王」を名乗るオリガミの「オリー」なのだが、彼はペラペラの住人たちを「折りたたむ」という方法でオリガミへと変えていく。
つまり、本作で戦うオリガミ軍団は元ペラペラたち。思考は根本から作り変えられ、喋る言葉はカタコト。目には生気が宿っていない。かつて、オリガミがこんなに怖く表現されたことがあっただろうか。オリガミ軍団はフィールド上で、マリオを見つけ次第直線的に襲ってくる。その姿はかわいらしくも恐ろしく、「こんなオリガミにだけはなりたくない」という思いをとても強くさせる。
一方で、オリーの妹オリビアはオリガミでありながら、マリオの仲間となって旅をともにする。オリビアは兄の野望に懐疑的で、オリーを止めるために協力してくれる。性格は優しく、天真爛漫。好奇心が強く、冒険そのものを心から楽しむ。どこか抜けているところもあるが、オリガミならではの能力も抜群に駆使してくれるのでじつに頼もしい。
鮮烈な印象を残す「ボムへい」など、魅力的なキャラクターが大量に登場
キャラクターの点では、冒険を彩る様々な仲間たちも味付けがいい。
まず各エリアの様々な場所にいるキノピオたち。彼らは虫や花に折られて風景に溶け込んでいたり、折られたり挟まれたりして大抵が困っている。助けると本来のペラペラの姿に戻るが、虫や花の名残が残っていることも多く、そういったときの一言にちょっとニヤッとしてしまう。
旅の途中で出会うキャラクターの中で、個人的に最も印象に残っているのが「ボムへい」だ。ボムへいとは、乗り合わせたロープウェイの中で出会うのだが、このボムへいは記憶をなくしている。記憶がないなら思い出すまで一緒に旅をしようとなり、マリオとオリビアとの三人旅がそこからスタートする。
このボムへいがなかなかトボけたキャラクターで、マリオを「アニキ」と呼んでみたり、先へ急いでトラブルに巻き込まれたり、それでいてあっさりと助かってみたりと楽しい騒動を起こしてくれる。床に腰を下ろして足をプラプラさせるアニメーションはかわいく、一見やる気がない感じがまたいい味を出している。
ボムへいは連れ立って歩けるほか、戦闘にも参加する。筆者としてはこのボムへいがかなりお気に入り。ストーリーとしても大きく心を揺さぶってくれることもあり、彼は筆者が見てきたボムへい史上“最も印象的なボムへい”となった。本作をプレイした方は、多くの場合、同じ感想を持ってくれると思う。
ほかにも、考古学者のキノピオ、掃除が得意なカメックなど仲間になるキャラクターを始めとして、道中にも川下り名人のキノピオ、DJのキノピオ、テーマーパークスタッフのキノピオなどクセのあるキャラクターたちが目白押し。彼らのどのセリフにもユーモアセンスがばっちり行き渡っていて、どの出会いも会話も楽しめるはず。バラエティに富んだキャラクターたちとの出会いは、本作のウリのひとつだ。
たったの3手で迷宮入り。発明級に奥深い「360°パズル」
プレイを進める上で外せないのが、オリガミ軍団と円形ステージで戦闘する「360°バトル」だ。ステージはバウムクーヘンの層ように4列にわけられて、さらに縦方向に10分割されている。このステージは、列を回転したり縦にスライドしたりして動かすことができる。
バトルは「敵の整列→マリオの攻撃→敵の攻撃」のサイクルで進行する。中でもキーとなるのは整列で、バラバラになった敵を動かして特定の形にするターンだ。実際のゲーム画面を見るのが最もわかりやすいと思うが、要はルービックキューブの平面版のようなイメージだ。
そして、このパズルがなかなかに難しい。目標は敵の4体を縦に一列揃えるか、中心から1~2列目の2×2マスに収めること。成功すれば直後のマリオの攻撃力が1.5倍になる上、敵をまとめて攻撃できる塩梅だが、複雑になるほど上級のスライドパズル脳が求められる。奥深さで言えば、発明クラスによくできているパズルだと思う。
最序盤に提示されるバトルは正答まで1手なのでわかりやすいのだが、ゲームが進むと2手の問題が出てくる。たとえ2手であっても敵の数や配置によっては「うーん?」と悩むには十分で、制限時間はあっという間に過ぎ去っていく。
さらにゲームが進むと3手の問題が登場するのだが、筆者の場合は3手の問題はほぼわからなかった。単にこうしたパズルが苦手なこともあるのだが、ステージをクルクル回しては「違うなぁ、違うなぁ」と考えているうちに時間切れが来て、攻撃力は上がらず、敵の位置はバラけて攻撃が当たりにくいといった厳しい戦いを強いられる。
ではバトルがプレイの大きな障害になるのかというと、そんなことはない。ポイントは、コイン消費でキノピオに助けを求められるコマンド「おうえん」があること。消費するコインの量によって「おうえん」の効果が変わるのだが、太っ腹に払えばほぼ正解手前までパズルを進めてくれたりする。
こうした救済があることで、パズルの難易度はグンと下げられる。ヘルプでサポートしてもらうのもよし、あくまで自力にこだわってパズルに挑むもよし。慣れの部分も大きいが、3手のパズルを自力で解いたときの爽快さはかなりのもの。パズルに特化して練習できる施設もあるので、腕に自信がある方はこちらも試してみるといいだろう。
キャラ付けされた“文房具”が立ちはだかるシュールかつ白熱のボス戦
そしてボス戦となると、「360°バトル」は新しい面を見せる。今度はマリオがステージの外周にいて、ボスはステージ中央に配置される。そして、マス目には矢印やアクションマスなどが現われる。つまり、パズルを動かして矢印とコマンドマスを上手く組み合わせ、マリオを誘導し、敵の特徴に合わせて最適なアクションを起こしていくわけだ。
ボス戦では「整列」とは違うタイプの脳の使い方が試される。矢印による誘導はもとより、行動を起こす際はボスとの距離や角度の位置(後ろに回り込むなど)が大切だったりする。ボスによってはマス目に罠を張るなどしてステージそのものに制限を加えてきたり、特定の行動にはカウンターを食らわせてきたり、一筋縄では行かない。
オリビアによるヒントなどをもとに、ボスの弱点を見極めつつ「こういうルートを通ってこのコマンドマスにたどり着かせる」と冷静にマリオを導く必要がある。
またボス戦はポピュラーな文房具が対戦相手になるのだが、その解釈とキャラクターとしてのアレンジが楽しい。
たとえば「イロエンピツ」であれば、缶ケース入りの色鉛筆セットそのままの見た目なのだが、“イロエンピツをミサイルとして発射してくる攻撃的なヤツ”といった性格になっている。全弾を発射し終わっても、缶を閉じてまた開ければ「リロード」してイロエンピツ弾が復活。じゃあどうするのかというあたりが戦闘のポイントで、クライマックスではマリオ側もそこそこ暴力的な手段に出る。強敵と化した文房具がいかにボコボコになっていくかも、本作ならではの見どころとなっている。
インテリジェントシステムズ、「ペーパーマリオ」で大いにふざける
最初にご紹介したとおり、本作にはあらゆるジャンルのエンターテイメントが詰め込まれている。油断していると突然カラオケが始まるし、さらに油断していると唐突に“突撃○×どろんこクイズ”が始まったりする。ハラハラしながら神殿の謎解きを進めていると、急にノコノコがマスターを務めるカフェ(とてもシックな雰囲気)が現われたりする。
「どこからどんな変化球が飛び出してくるかわからない」というのが正直な感想で、そのカオスさには大いに笑わせてもらった。ふざけるところに関しては、とにかくふざけまくっている感じである。ほかにも色々と面白いところがあるのだが、これ以上はネタバレになるのでぜひプレイして確かめてほしい。
先に少し触れた「困っているキノピオ」はやりこみ要素にもなっていて、エリアごとにクリア率が表示される。ほかにも各地に隠された「隠しブロック」や「おたから」などにもクリア率があり、すべてをオープンするにはかなりの根気がいるはず。ちょっとわかりづらい場所の先に道があるようなステージの作りもたくさんあり、その発見が楽しかったりする。
総合して、本作の完成度はかなり高い。とにかくネタの仕込み具合が大量なので、プレイした人同士でこそ「あそこが良かった」、「あれは泣いた」と話したくなるような内容だと思う。本当に、筆者にとって心に残る一作となった。