「イースIX -Monstrum NOX-」レビュー

イースIX -Monstrum NOX-

壁登りや滑空で立体ダンジョンを攻略!都市アドベンチャー×ダークファンタジーなシナリオも見どころ

ジャンル:
  • アクションRPG
発売元:
  • 日本ファルコム
開発元:
  • 日本ファルコム
プラットフォーム:
  • PS4
価格:
7,741円(税込)~
発売日:
2019年9月26日

 9月26日、30年以上の歴史を持つ日本ファルコムのアクションRPG「イース」シリーズの最新作にして、ナンバリング第9作となる「イースIX -Monstrum NOX-」が発売された。

 冒険家「アドル・クリスティン」の世界各地での冒険を描く「イース」シリーズでは遺跡や大自然が舞台となることが多いが、今回は「都市」が主な舞台。またアドルが異能を扱う「怪人」となるなど、ダークでゴシックな雰囲気により発売前から「異色作」という印象だった本作。実際のプレイ内容はどうだったのかお伝えしていきたい。

【PS4「イースⅨ-Monstrum NOX-」TGS2019ver. デモムービー】

アドルが怪人に!?「都市アドベンチャー×ダークファンタジー」で展開するシナリオ

 アドルの今回の冒険の舞台は、8年前に戦争があり、その結果現在はロムン帝国の属州となっているグリア地方。なかでも巨大な監獄があることから≪監獄都市≫とも呼ばれる都市「バルドゥーク」が主な舞台となる。

 旅の途中でバルドゥークに立ち寄ったアドルは、かつての冒険で遭遇した事件の重要参考人としてロムン兵に身柄を拘束され、不当とも言える投獄を受けてしまう。脱獄を試みたアドルはその途中で、アプリリスと名乗る黒衣の女性に謎の銃で撃たれて呪いにより姿が変わり、「異能(ギフト)」に覚醒。こうして「怪人(モンストルム)」と呼ばれる存在に変身できるようになったアドルはその異能で脱獄を果たすが、呪いによって街から出られなくなってしまう。アドルは呪いを解くため、そして謎多き監獄の真実に迫るため、街に潜伏しながら活動を開始する……。

呪いにより怪人となってしまった主人公「アドル」
脱獄したアドルは髪を黒く染めて街へ潜伏し、呪いを解くために動き始める。ちなみに怪人へと変身すると赤毛に戻る

 そんな導入から始まる本作は、街での情報収集やたびたび行なうことになる監獄への潜入など都市アドベンチャーめいた作りとなっており、「イース」としてはなかなかに異色だ。バルドゥークでは≪赤の王≫と名付けられたアドルの他に、以前より5人の怪人が活動しており、ゲームの進行としては彼らを1人ずつ仲間にしながら、徐々にこの地の謎を解き明かしていく、という流れとなっている。

 「怪人」というとおどろおどろしい響きだが、アドル達はサブクエストなどで、ときに異能も駆使して街のさまざまな事件や頼まれ事を解決していき、むしろ“変身ヒーローもの”に近いテイストを感じる面も。アドルが出会う他の怪人達も正体が意外な人物だったりそれぞれの思惑があったりと、変身前後のギャップなども含めて魅力的なキャラクター達ばかりだ。

 というように、事前の印象よりは幾分ライトな雰囲気の作品……ではあるのだが、終盤にはさらに印象が一転。バルドゥークの、グリアという地の、そしてアドル達「怪人」の真実はなかなかに重く衝撃的なものとなっている。そこに至るまでの設定と伏線も練られており、8年前の戦争が残した禍根や監獄を舞台に蠢く陰謀など、人が多く集まる都市ならではの展開も多い。もちろん「イース」らしい神秘的な要素も健在で、これらが絡み合って「都市アドベンチャー×ダークファンタジー」の良作に仕上がっている。怪人達が自らの運命とどう向き合い何を選択するのか、最後まで見届けたくなるシナリオだと感じさせられた。

アドル達はときに怪人の力も使いながら、街で起きる事件や頼まれ事を解決していく
怪人達はやがて、監獄に蠢く陰謀やグリアの伝承、そして自らの存在の謎へと迫っていく
グリア再独立を掲げるレジスタンス組織≪解放の鐘≫の首領マルゴット。さまざまな人物の思惑も絡み合いながら物語は展開していく

縦方向にも立体的な街やダンジョンを異能アクションで縦横無尽に探索!

 今回は都市が舞台ということで、人間ドラマの要素が厚い(かつ熱い)ことからシナリオ面の紹介に熱が籠もってしまったが、「イース」といえばやはり本分は「アクションRPG」である。戦闘スタイルが異なるメンバー3人を編成して切り替えながら戦えるパーティ制や、4つまでセットして使い分けられる多彩なスキル、ジャンプや回避などのアクションを駆使して戦う、スピーディで爽快感のあるバトルは健在。それに加えて本作ならではの特徴は、異能による特殊なアクションだ。

 まず、≪赤の王≫ことアドルが習得するのが、離れた場所へ一瞬で移動する「クリムゾンライン」。マップ上に設定されたポイントを視界に入れてコントローラのトリガーを引くことで発動できる。ロックオンした敵への接近にも利用可能だ。

瞬間移動の異能「クリムゾンライン」。移動先はマップに設定されているポイントに限られるが、街中では随所に設定されており、テンポよく屋根伝いに移動できたりする

 そして最初に仲間になる怪人≪白猫≫の異能は、「異能ゲージ」が続くかぎりダッシュで壁登りができる「ヘヴンズラン」。その次に仲間になる怪人≪鷹≫の異能は、異能ゲージが続く限り翼を広げて滑空できる「ハンターグライド」となっている。なお、怪人が仲間になるとその異能は共有されパーティ全員が使えるようになるので、「壁登りのために操作キャラを≪白猫≫に切り替える」といった必要はない。

壁登りの異能「ヘヴンズラン」。本作はこれを習得してからが本番と言っても過言ではない。行ける所が一気に増えて街の探索が非常に楽しくなる
グライダーのような滑空を可能にする異能「ハンターグライド」。高所からの滑空は遊覧飛行のようで気持ちいい

 他の怪人もそれぞれ異能を持つが、「移動の自由度を高める」という点ではこの3つの異能が要だ。バルドゥークは元は城塞都市で、高低差が激しいほか大聖堂など背の高い建物も多く、壁を駆け上って移動をショートカットしたり、尖塔の天辺から滑空して別の高所へ飛び移ったりと、普通は人が通れない所を移動しまくる非日常感を存分に堪能できる。

 街の中には「蒼い花びら」という収集アイテムが多数散りばめられており、これを探すというやり込み要素も。バルドゥークの街はいくつかの街区に分かれているが、建物内やごく一部を除き街中の移動でロードは発生せず、オープンワールド的に1つの都市を縦横無尽に駆け巡り、飛び回れるのが本作の醍醐味だ。行けるかどうか挑戦したくなる場所、行けなさそうで頑張れば行ける場所なども存分に用意されており、都市マップとしてのレベルデザインも秀逸であると感じさせられた。

いくつかの区画に分かれたバルドゥークのほぼ全体が、1つのマップで繋がっている。ファストトラベルも完備されているが「異能でショートカットした方が早いか?」と感じることも多い

 もちろんダンジョンにおいても異能の活用がポイント。縦方向にも立体的な構造のダンジョンはぱっと見で進行ルートがわからない場合もあり、道なき道を切り拓いていく楽しさがある。メインのルート進行にもそれなりに頭を使うが、それ以外にも異能を駆使することで取得できる「ゲーム進行に必須ではない宝箱」も多数散りばめられており、ダンジョン探索の楽しさに繋がっている。

 オートマッピングにより近くに宝箱があること自体は示されるため「何もないかもしれない場所」を延々探る必要はなく、「宝箱があるのはわかっているが、行き方がわからない場所」へどう到達するかの試行錯誤に集中できる。周囲をよく観察しつつ悩んだ挙げ句、「行けそうかな」→「行けた!」となる瞬間はたまらない。複数の異能の組み合わせが必要な場面もあるなど、探索アクションゲームとしてのやり応えは抜群だ。

立体的な構造のダンジョンを、異能を駆使して攻略していく

 異能は戦闘でも、位置取りや回避などに活用できる。とくに先述の通りロックオンした敵へ向けて瞬間移動できるクリムゾンラインは有用で、伝統的にヒット&アウェイが重要な「イース」シリーズのボス戦において、一瞬で距離を詰められるメリットは大きい。また、飛んでいる敵をロックオンすれば空中にも簡単に移動できるので、キャラクターやスキルを問わずテンポよく空中戦を繰り広げられる。クリムゾンラインの存在により、本作の戦闘はよりスピーディで密度の濃いものに仕上がっていると言えそうだ。

クリムゾンラインにより、敵との距離を一瞬で詰められる。空中のターゲットにも簡単な操作でスキルを叩き込むことが可能

前作に引き続き「ダブル主人公」要素を採用。今度の主人公はアドルと……アドル!?

 「イースIX -Monstrum NOX-」では、前作「イースVIII -Lacrimosa of DANA-」に引き続きダブル主人公の要素を採用しており、前作同様に本作の大きな謎のキーとも言えるものとなっている。本作で主人公として操作するのは、まず街に潜伏するため特徴的な赤毛を黒く染め、怪人へと変身しながら活動するアドル。そしてゲームを進めると登場するもう1人の主人公は、なんと「監獄に囚われた赤毛のアドル」である。

 赤毛の囚人アドルは怪人となったアドルのことを知る様子はなく、独自に監獄の調査を行なっていく。そこで明らかになっていく事実も興味深いが、何より「このアドルは何者なのか?」というのが大きな謎として、ストーリーを大きく牽引していく要素となっている。ネタバレになるので詳細は伏せるが、この設定がある一点に集束する終盤のワンシーンは、演出も相まって本作屈指の名場面と言えるだろう。シリーズを追い続けていた人ならば、殊更に感慨深いかもしれない。

ゲームを進めると、“もう1人のアドル”を操作するパートが挿入される。監獄の中で“怪人”について思索するアドルだが、その怪人の中には「脱獄したアドル」も居るはずで……?

 アクションの面でも、「もう1人のアドル」はユニークだ。怪人として様々な異能を使える方のアドルとは違い特殊能力は一切なく、また装備も錆びた剣のみと心許ない。それでいて調査のために訪れる監獄の区画は一撃死もありのトラップが満載で、攻撃が全然通じない敵を避けたりトラップを利用して倒したりと、慎重なプレイが求められる。異能やスキルを駆使してガンガン進められる怪人アドルとは対称的で、そのギャップもプレイのアクセントとなっている。

「もう1人のアドル」の操作パートでは、意地の悪い即死トラップやアドルの攻撃では絶対に倒せない敵も登場。爽快アクションがウリの「イース」シリーズとしてはなかなかに異色の作りで、プレイのアクセントになっている

伝統を受け継ぎつつ、新境地を拓いた意欲作

 本作には今回紹介しきれなかった要素がまだまだたくさんあるが、本稿では「都市という舞台」と「移動の自由度の高さ」、そして「2人のアドル」にフォーカスしてご紹介した。長く続くシリーズの中で新たに生み出された本作ならではの魅力が伝われば幸いだ。

 コンシューマに軸を移した「イース7」以降、「イース」はその時々のゲームシーンのトレンドを取り込みつつ進化しているというのが筆者の持論だが、「イースIX -Monstrum NOX-」においては「1つの都市を丸ごと(ほぼ)オープンワールド化し、高所を移動できるアクションで縦横無尽に探索」、「敵への詰め寄りにも利用できる瞬間移動」といったあたりに、ここ数年話題となった複数のAAAタイトルを思い起こすこととなった。

 もちろん、ただ流行り要素を取り込んだというのではなく、「イース」らしい爽快感や手触りのよさ、ここ数作品で培われてきたマップまわりをはじめとする高いユーザビリティ、奥行きのあるキャラクター描写、そして何より謎と神秘に満ちた展開と相まって、「イース」らしい作品にまとめ上げられていると感じられる。

 現代のプレーヤーがまず最初に手に取るイースとして十分にオススメできるし、シリーズのファンなら新鮮に感じられる面もありつつ「お馴染み」の安心感も得られるだろう。伝統を受け継ぎながら時代に応じてアップデートしていくことを止めないという決意を示されたようにも感じる「イースIX -Monstrum NOX-」は、「イース」シリーズの令和第一作に相応しい良作にして意欲作だ。