2017年8月10日 07:00
ついに発売された「HITMAN」。本作は「ヒットマン」シリーズの最新作である。シリーズ第1弾の「Hitman: Codename 47」は2000年に発売されており、長いシリーズであるが、本作は丁寧でやり応えのあるチュートリアルも搭載され、初心者でもシリーズの独特のルールを把握できるので、今作がシリーズ初挑戦、という人も安心である。一方、シリーズのファンは、これまで描かれなかった47と彼のパートナーであるダイアナの出会いも描かれているところなどは、グッとくるだろう。
むしろ洗練されたシステム、豊富なステージ、多彩な要素と本作はシリーズの“決定版”とも呼べる作品であり、本作こそシリーズが提示してきた「暗殺ゲームの完成形」と言っても過言ではない。
弊誌では本作の魅力を取り上げるため、まず前作のレビューでシリーズのコンセプトを紹介し、最初のステージであるパリに重点を置いた特別企画「ノビコフは7度死ぬ」で、「HITMAN」ならではの作り込みと、その凝ったステージだからこそ実現できた自由度の高さを紹介した。今回は「HITMAN」のいくつものステージやさらなるやり込み要素を紹介していきたい。
ゲームプレーヤーの中には、お気に入りのゲームを何度クリアしても、ひたすらずっとそのゲームだけをプレイするタイプの人もいるが、「HITMAN」はそういった人にうってつけだ。「こういった進め方はどうだろう」、「侵入経路をこっちにしてみよう」、「こうすればこのやり方ができるのか!」などなど、アプローチを変えたり、暗殺の手順を洗練させたり、様々なやり方でずっと楽しむことができる。スルメのように噛めば噛むほど味が深まるゲームである。
美しく、緻密なフィールドを舞台に、暗殺を成功させる達成感
47、彼は一体何者なのか……ルーマニアの病院で47は発見されたが、彼自身は記憶がなく、経歴も一切不明。しかし“暗殺者”としての素質はずば抜けていた。彼はICA(International Contract Agency)のエージェントにスカウトされ、ダイアナの強い推薦を受けて「エージェンシー」の暗殺者として様々なミッションに挑み、成功させ、そして“伝説の暗殺者”となっていくのだ。
パリ、サピエンツァ、マラケシュ、バンコク……様々な場所、様々なターゲット。世界の脅威になりかねない恐ろしいウィルス兵器を生み出した科学者、クーデターを企て国に混乱を巻き起こそうとする将軍、大金持ちの1人息子のロックスター、ターゲットは全て“消されなければならない”理由を持っている。
しかし状況はまさに“暗殺不可能”を示している。パリはファッションショーの真っ最中。マラケシュは国民を裏切る投資詐欺を行なった男が領事館に逃げ込み、国民は彼を引きずり出そうと集結、暴動一歩手前となっている。他にもガードが非常に厳しいホテルや、組織の拠点などアリ1匹すら入れないような厳重な警戒態勢にあるところばかりだ。そしてそういった場所で、47はプレーヤーの手によって暗殺を遂行していくのだ。
SFの“ストーリータイプ”の1つに「ループもの」というジャンルがある。何らかの理由で物語の中の人物は今後の状況を以前に経験しており、その進行する事柄に対して、かつての経験を元に改変を試みる、というストーリーだ。ループしている人物にとって、その状況、そして未来に起きる状況はすでに経験済みのことで、彼はその記憶を元に不可能を可能にしていく。
「HITMAN」はまさにその「ループもの」の主人公になったような気分を味わえる。試行錯誤し、何度もトライしたプレーヤーにとって、どこに何があり、侵入経路はどこにあり、警戒態勢、起きることになるトラブルさえも既知のものとなっている。プレーヤーはトライ&エラーで得た知識を元に47を効率的に立ち回らせ、不可能と思える暗殺を実行していく。本作のうまいプレーヤーのリプレイを見たときは、「お前は一体何周目なんだ?」というループものの“お約束”の言葉を掛けたくなってしまうだろう。
そして本作の面白いところは「暗殺を遂行する」というメインの目的だけでなく、プレイのアプローチを変えることで、バックストーリーや、人物像をとことんまで掘り下げることが可能なのである。あえて暗殺のチャンスをそのまま活かさず、ターゲットの行動を見守っていると様々なドラマが展開するのだ。
偉大すぎる父親を持ってしまったロックスターの苦悩や、強力なウィルス兵器を作ってしまった科学者の心の内など、思わず暗殺をためらってしまいそうな「ターゲットの人間性」に直面することもある。47は眉1つ動かさず、淡々と任務をこなしていくが……。もちろん「ターゲットの意外な一面」を知るためにも発見されにくい場所撮りや変装などで工夫が必要となるが、こういった“ドラマの楽しみ”も本作の大きな魅力だ。
さらに本編に関わらない部分でも様々な人間模様が描かれている。パリの華やかなファッションショーの裏では愛憎渦巻く人間ドラマが展開しているし、ホテルの片隅では従業員の1人が延々と奥さんへの愚痴を同僚に漏らしていたりする。本作ではこういった音声も全て日本語化され、声優の熱演で語られているのが楽しい。こういった要素が「HITMAN」の世界に重厚さを与えている。本当にステージの隅の隅まで味わいたくなるゲームなのである。
そして……「HITMAN」はステージでのドラマだけでなく、暗躍する「影のクライアント」が姿を現わしてくる。本編のメインストーリーはこの要素が徐々に濃くなっていくのだが、実は各ステージの会話の一部でも語られている。クリア後もステージを色々歩き回ることで様々な事柄が見えてきて、一層「HITMAN」の世界にのめり込んでいけるだろう。
いかにターゲットに近づくか、不可能を可能にする47の能力
ここからは改めて本作の独特なシステムを紹介していきたい。「HITMAN」のフィールドは様々な“制限”がかけられている。従業員用のロッカールームや厨房は一般人は立ち入り禁止だ。こういった場所は警備員やボディガードも入れる場合がある。裏オークションをしていたり、秘密の会合をしていたりと、警戒が厳しい場合もある。
47は“制服”を手に入れることで従業員や兵士、警官からチンピラマフィアまで自然になりきれる“変装”の才能を持っている。物陰でホテルの従業員を昏倒させ、彼から服を奪って身につければ、他の人は47をホテルの従業員だと思い込んでしまうのだ。この変装を活用してターゲットに迫っていくのである。
成り変わる対象は1人でいる相手が望ましい。複数の人がいれば騒ぎ立てられ、任務の遂行は難しくなる。この場合、コインを投げたり、近くの機械を動かしたりして注意を引いておびき寄せるのが有効だ。気絶した対象を隠せる箱などが近くにあれば完璧である。箱に隠せばその対象はゲーム中は見つからない。反対に放置すると他の人に見つかり、変装がばれてしまう。その場合は即時に変装を変える、というのも対処方法の1つだ。
姿を変えターゲットに迫るというのが本作の基本だが、仲間の顔を記憶しているリーダーなどがいる場合がある。その場合は頭の上にマークがつくので彼に近づかないように移動しなくてはならない。47は「インスティンクト」という能力で壁の向こうの人物も探知できる。この能力を使えば遠い距離からも要注意人物やターゲットはわかるので有効に使っていきたい。
そしてターゲットの効果的な“隙”を見つけることができるのが「アプローチ」である。女性ターゲットを誘惑しようとするゴルフコーチがいたり、クーデター軍の指令の下に反政府ビラを刷っている連中がいたり、ターゲットが気まぐれで現地のボロ車を買う約束をしていたりする。メニュー画面でアプローチを選び、そのポイントに行くことで「殺しのチャンス」に遭遇できるのである。
もちろん、アプローチがあればすぐに成功するわけではない。最初のアプローチ地点が警戒が厳しくて近づけなかったり、ステージの構造を理解しないとダメな場合もある。「HITMAN」はクリアだけを求めるゲームではない。まずは歩き回り、成り変わるのに良い人物がいないか、隙がある瞬間がないかなど、調査が重要だ。
鍵のかかったドアがあった場合、どこかで鍵を探すのも有効なのだが、ちょっと待っていると人が通りかかり鍵を開けて中に入ったりすることもある。探索を通じて得た知識を活用し、よりスマートな暗殺方法を追求していくのは、「HITMAN」の魅力の1つだ。
ターゲットに対してはいくつかのアプローチが用意されている。これらを試していくことで前述のターゲットが抱えている様々なドラマを見ることができる。ターゲットである弁護士をスイートルームに案内したら、「ここが汚れている、あそこが拭かれてない」ともう大騒ぎ。殺すはずのターゲットを目の前にして掃除をやらされる羽目になったり、ちょっとユーモラスなものも用意されている。
そしてさらに、「HITMAN」ではプレイを進め、チャレンジをクリアしていくことで、スタート地点や持ち込む装備を増やしていく要素をアンロックできるのだ。スナイパーライフルやリモコン爆弾などを入手できるようにあらかじめマップに配置したりできるし、NPC達のドラマも普段のプレイでは見れないものを、見ることができるかもしれない。今回のプレイではオンライン機能がなかったため体験できなかったが、ぜひ製品版でやりこんでいきたいところだ。
ステージの楽しさがさらに広がるボーナスコンテンツ
「HITMAN」にはさらなるコンテンツが用意されている。1つが「ボーナスミッション」。マップは同じだが、全く違うターゲットを追うことになる。これが非常に凝っていてパリのファッションショー会場を舞台にした「クリスマスのドロボウ達」は、フィールドのあちこちがモールに飾られ、プレゼントが置かれている“クリスマス仕様”になっていて、ここで盗みを働いているドロボウを追うことになる。なぜかドロボウは他の人には見えないようで、ちょっと奇妙な味のあるミッションだ。
今回筆者の一番のお気に入りがサピエンツァのボーナスミッション「ザ・アイコン」。イタリアの映画スターかなぜか周囲の反対を押し切り「ア●アンマン」風の特撮ヒーロー映画を撮るために夢中になっていて、制作費がふくれあがりすぎたので監督であり主役の映画スターを始末しろというのだ。美しいイタリアの観光地がSF風の映画セットになっているところがまずスゴイ。
映画スターは「敵の怪物の吐く炎が小さい、爆発に迫力がない」などこだわりまくりの文句を言いまくり。暗殺の手段のいくつかが、その特殊効果をさらに派手に、つまり彼の言うとおりにパワーアップして、結果“不幸な事故”を起こさせるところも皮肉たっぷりだ。
感心させられたのがある機械を誤作動させるというアプローチ。ただ動かしても異変を感じたスタッフが機械を元に戻してしまうのだ。そのスタッフは警備員の近くにいるので排除ができない。四苦八苦してようやく見つけたのが“作動のタイミング”だ。撮影が始まり、まさにその機械と映画スターが対峙する直前に機械を動かすことで成功するのだ。こういうシビアなアプローチもあるのかと改めて本作の面白さを感じた。
他にも各ステージにはボーナスミッションがある。さらにPS4版では、世界的なテロリスト達がターゲットとなる「サラエボ・シックス」というコンテンツも楽しめる。そして「コントラクト」がある。「コントラクト」はユーザーが“実行した”きわめて難易度が高い暗殺チャレンジに挑戦できるコンテンツだ。こちらも製品版でぜひ遊んでみたい。
「HITMAN」は本当にこだわりまくったフィールドと、そこに盛り込まれたドラマが魅力だ。ボーナスミッションや、コントラクトでさらにフィールドの魅力が増幅される。本当にこれまでのシリーズの集大成とも言えるゲームであり、気に入った人は本当にこの「HITMAN」だけで、他のゲームを全くやらずひたすらやりこむという人もいるに違いない。どこまでも、どこまでもやり込めるゲームである。ぜひ多くの人に触ってもらい、このやりがいのあるゲームの魅力に触れて欲しい。
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