2018年8月21日 17:00
ゲームをプレイしていて、こんなにずっと歯を食いしばっていたことはなかったと思う。パーティーは壊滅する。それが前提ですらある世界で、様々な苦痛に耐えながら前に進まなくてはいけない。本作「ダーケストダンジョン」は、あらゆる意味で“ストレスのゲーム”であるところが最も強烈だ。
本作のジャンルは、いわゆるターン制のローグライクRPG。最大4人のパーティーを引き連れてダンジョンへと挑み、エリアの探索や敵との戦闘を行ないながら、クエストごとに示される目的達成を目指していく。流れそのものは一般的なローグライクRPGと言えるが、本作の特徴は「ストレスを管理する」要素がゲームにあることだ。このシステムが本作第一の「ストレス」にあたる。ヒーローたちはダンジョンを進むだけ、敵の攻撃を受けるだけでどんどんストレスを溜めていく。攻撃がクリティカルヒットだったりすれば、精神的にも大打撃を負ってしまう。
ストレスが溜まれば精神が崩壊し、さらに溜まれば死んでしまう。不安や恐怖心に押しつぶされたヒーローは、回復を拒否したり、勝手に行動をパスしたり、仲間を攻撃したり、プレーヤーの思い通りに動いてくれなくなる。ネガティブな発言を繰り返しては、ストレスを振りまいて他のパーティーメンバーの精神崩壊を誘ってしまう。そうなると倒せるはずの敵が倒せなくなり、ヒーローはどんどん疲弊して精神を病み、悪化した状況がさらにヒーローにストレスを与えるという、頭痛のするような悪循環が生まれていく。
その先に待ち受けるのは死。そして全滅の2文字だ。死んでしまったヒーローは消滅し、基本的に2度と戻らない。報酬も戦利品もヒーローも無に消えて、漫画「進撃の巨人」の名台詞「なんの成果も!! 得られませんでした!!」を言いたくなるような、圧倒的絶望感が待っている。これが本作第二のストレスだ。筆者がそうであるように、プレーヤーは自分の奥歯が心配になるほど、耐え難い絶望をグッと噛みこらえながらプレイを進めることになるだろう。ゲーム内のヒーローのストレスが、プレーヤーにそのまま襲いかかってくるような感覚だ。
ではただ辛いだけなのかというと、そんなことはない。ヒーローの特性、敵とダンジョンの情報、アイテムの使い方など、目の前の情報を総動員して攻撃や攻略法を組み立てていくことで、ヒーローは生還し、一縷の望みが少しずつ繋がっていく。悩みに悩み、緩慢にプレイできないというストレスを常に抱えながら、強大なダンジョンに立ち向かうギリギリ感は、むしろゲーマーの腕の見せ所だ。「ストレスがものすごいけど、あともう1ダンジョン進めたい!」と妙な中毒性もあるのが、本作の優れているところだ。
実際に評判も良く、Steamで販売されている英語版は150万本以上のセールスを記録している。そしてこの8月9日には、Steam、Nintendo Switch、プレイステーション 4、PlayStation Vitaにて、公式日本語版が発売された。今回はNintendo Switch版をプレイして、その面白さをさらにご紹介していきたい。
戦力は常にギリギリ! 「準備」がすべての行方を決める
「ダーケストダンジョン」は、まずヒーローが村にやってくるところから始まる。登場するヒーローは、「クルセイダー」、「追いはぎ」、「ペスト医師」、「修道女」など15種類。個性の異なる彼らを登用することで、最大4人のパーティーを組んでいく。そして数あるダンジョンクエストを1つずつクリアし、ヒーローを成長させ、村を少しずつ発展させながら最後の難関「ダーケストダンジョン」の攻略を目指す。
本作でまず悩むところは、パーティーの組み方だ。本作には最前衛から順番にポジション1、2、3、4という概念があって、ヒーローによっては前衛が得意だったり、後衛が得意だったり、またスキル構成によってはどのポジションでも戦える、というヒーローもいる。
たとえば、回復スキルを持つ「修道女」は一見後衛向きだが、前衛で攻撃できる「メイスの殴打」も覚えられる。また「墓荒らし」なら、攻撃とともにポジションを2つ前進する「突き刺し」、敵に気絶効果を与えながらポジションを1つ後退する「影隠し」があって、戦闘中に配置を前後しながらトリッキーに戦っていくことが可能だ。
前衛なら前衛、後衛なら後衛向きのスキルでパシッと固めて効果を最大にしたいところだが、困ったことに、敵の中にはポジションを強制移動してくる者もいる。もしポジションがズレズレになった場合、全員が何もできず、貴重な1ターンを無駄にする……という事態も起こる。そうした様々な要素が重なるので、このパーティー組みからして一筋縄ではいかない。序盤はヒーローが少ないのであまり考える余地がないが、プレイが進んで村に入るヒーローが増えてくると、スキルと配置が最適だと思うパーティーを決めるだけでも本当に悩ましい。
村では他にも、酒場や修道院、療養所といった施設でヒーローのストレスや病気を解消させたり、スキルや武器防具のレベルアップ、トリンケットと呼ばれる装備品の装着など、やることはとても多い。何しろ戦力がギリギリなため、とことんこだわらざるを得ないのだ。
常に戦力がギリギリなのは、1つ理由がある。クエストレベルに対してヒーローのレベルが上がりすぎると、「子供の遊びだ」とか「易しすぎる」とか散々文句を言ってパーティーに参加してくれなくなるのだ。低レベルのクエストは低レベルのヒーロー同士で組む必要があるので、そうなると満遍なくヒーローを育てる必要が出てくる。その組み合わせもまた、悩みどころなわけだ。
文句を言う……と言えばヒーローたちはとにかく癖が強い。暗いところが怖かったり、戦利品を盗む癖があったり、悪魔に取り憑かれていると信じていたり、新たな癖を覚えてはステータスが変化し続ける。良いことも悪いことも含めて癖がある。そんなヒーローたちの力を最大限に発揮するのが、プレーヤーの務めとなるのだ。
少しのきっかけで待ち受ける「死」! それでも希望は途切れない
そして、悩みに悩んで「これだ!」と決めたパーティーに待っているのが「死」だったりする。筆者が実際にプレイしたのは、前から順番に「追いはぎ」、「追いはぎ」、「墓荒らし」、「修道女」という配置にしたパーティー。「追いはぎ」には先頭から敵の先頭に向かって攻撃し、さらに50%のダメージボーナスが付く「至近弾」という強力な技がある。追加効果として、自分と敵の配置を1つ後退させるのも特徴だ。この特徴を利用して、前2人の「追いはぎ」で「至近弾」をローテーションさせようという組み立てだ。「墓荒らし」は後方から撃てるクリティカル値の高い攻撃を持っていること、「修道女」は回復役として選んだ。
狙いはかなり当たって、「至近弾」で近くの敵はガンガン打ち倒せるし、遠くの敵は「墓荒らし」が毒矢や投げナイフで戦力を削ぎ、体力は「修道女」がケアできる。我ながらいいパーティーを組んだと思っていた……のだが、予想外だったのが、ある戦闘で敵の攻撃がなぜか「墓荒らし」を狙い続け、しかも連続でクリティカルヒットになったことだ。その結果「墓荒らし」が瀕死となった。味方の瀕死は、周りに重大なストレスを与えていく。
本作では体力が0になってもすぐには死なない。ただし体力0の状態でさらにダメージを受けると、一定確率で死んでしまう。「墓荒らし」を「修道女」で一時的に回復するものの、敵の攻撃が上回って追いつかず、何度も瀕死になる。そうこうしているうちに全員のストレスがジリジリ上がっていって、堰を切ったように全員の精神が崩壊してしまった。戦場は一気に地獄と化した。
ある意味でここからが本作の本番とも言えるのだが、筆者の場合はそのままボス戦に突入して、それはもうボコボコにされた。すぐに「追いはぎ」1人以外が全員倒されて、「せめて撤退……!」と思ったのだが、この「追いはぎ」が撤退のストレスに耐えきれず心臓発作(ハートアタック)で死亡。全滅でフィニッシュ。「完璧」と思っていても、少しの綻びから歯車が狂っていく恐怖を味わうこととなった。辛い……。
唯一の救いは、それでも村にはヒーローがやってくるということ。レベルは0からのスタートだが、ヒーローの使い方や敵の動きなど、プレーヤーが得た情報から作戦をもう1度練り直して挑むことができる。そうしていくうちに、敵の行動前にダメージを与えられる「毒」と「出血」の重要性、「ターゲット」スキルを持つヒーロー同士のシナジー効果など、生き残るための知恵をどんどん覚えていくこととなる。
そうして作戦が上手く行ったとき、疲弊と安心感が混ざり合うような、癖になる達成感が味わえる。ヒーローは成長し、資金や戦利品が集まって、村の設備を徐々に発展させられる。そうしてまた次のクエストへと挑む準備が整う……。「毒」や「出血」などについては、あえてここでは詳しく説明しない。ぜひ実際にプレイして、「ダーケストダンジョン」の準備と戦闘における暗黒の奥深さを体験していただきたい。
追加DLC「クリムゾンコート」がゲームの深み(悩み)をさらに増す
今回発売された公式日本語版には、追加DLC「The Crimson Court(クリムゾンコート)」が付属しているので、こちらも紹介しておきたい。
「クリムゾンコート」には、ダンジョンエリア「呪われた庭園」、ヒーロー「フラジラント」、村の設備「区画」が含まれている。DLCを適用すると本編にこれらが登場し、ゲーム体験が広がるというものだ。
特に「呪われた庭園」はゲーム全体に大きな影響を及ぼすエリアだ。最大のポイントは、蚊のようなモンスターから攻撃を受けると感染する「赤の呪い」。「赤の呪い」にかかったヒーローは血を渇望するようになり、「呪われた庭園」で手に入るアイテム「血」を飲み続けないと最後には死亡してしまう。
「呪われた庭園」のモンスターは他の地域にも登場するため、「赤の呪い」の拡散は避けられない。血を飲ませれば一定時間ステータスが上昇するメリットもあるが、血を集めるため定期的な「呪われた庭園」への冒険が欠かせない。「ストレス」に加え、「血」の管理という新たな悩みの種が増えるわけだ。
その代わりというわけではないが、ヒーローの「フラジラント」は強力だ。敵に対する出血攻撃、それに体力が50%以下になると使用でき、味方1人と自分の体力を一気に回復する「贖い」が優れている。体力回復リソースがヒーローのスキル以外にほぼない本作において、この回復スキルはとても貴重だ。
村でのストレス回復手段は“鞭打ちによる贖罪”だけに限られるという扱いづらさはあるが、攻撃と回復の両方を高いレベルで担えるので、使いこなせばパーティーの重要な戦力になるはずだ。また「区画」は、ヒーローのステータスが上昇したり、無料の「血」が自動で届くようになったりする村の設備を、追加で建設できるようになるもの。戦利品とお金を大量に使うため序盤は手出しができないが、中盤から終盤にかけて重要な意味が出てくるコンテンツだ。
なお「クリムゾンコート」の各コンテンツは、ゲーム開始時に導入するかどうかを設定できる。「初プレイだからDLCなしでやってみよう」などといった選択ももちろんアリだが、「赤の呪い」や「フラジラント」はゲームをさらに、確実に奥深くしてくれる。腕に自信があるなら、ぜひ初見からトライしていただきたい。
深遠な「ダーケストダンジョン」は“携帯モード”と相性バッチリ
最後にプラットフォームについてだが、Nintendo Switch版をプレイして良かった点に、Nintendo Switchの携帯モードがある。本作は派手なアクションはないものの、ものすごく頭を悩ませるゲームのため、出先で少しずつ進めるプレイスタイルと相性が良い。
長大な小説をちょっとずつ読んでいくようなもので、少しの空き時間でも準備を整えられるし、ダンジョン攻略もスリープモードを挟みながら進められる。むしろスリープモードを挟んだプレイの方が、プレーヤーのストレスが分散されて精神的には楽だと思う。
画面には情報が目一杯詰め込まれているため、携帯モードだとどうしても文字が細かくなってしまうが、これに慣れるとお出かけのお供に深遠なる「ダーケストダンジョン」はとても良いアイテムだ。
またタッチ操作にも対応していて、より直感的なプレイもできる。ただ操作方法がわかりづらいところもあって、戦闘中にステータスを見ようと敵をタッチしたら、そのまま攻撃が発動してしまうこともあった。慣れると便利だが、慣れるまでには少しコツが要るような感覚だろうか。コントローラー操作とタッチ操作は自動で瞬時に切り替わるので、場面によって使い分けるのも良いと思う。
「ダーケストダンジョン」は“悩むことを楽しむRPG”なのかもしれない
「ダーケストダンジョン」はヒーローたちの職場環境があまりに劣悪なため、“ブラック企業”に例えられることもあるそうだ。ストレスや病気を溜め込み、どうにも使えなくなったヒーローは切り捨てて、新たな人材を登用していく。効率だけを考えれば、そんなプレイ方法が最も良いという話も聞く。
ただ筆者の場合は、「せっかく登用したのだからみんな頑張ってほしい」という思いが強くて、今のところ使い捨てるようなプレイはせずに済んでいる。慎重に慎重を期すのでものすごく時間がかかる(それでも死ぬときは死ぬ……)のだが、そうなるとひよっこヒーローからベテランヒーローまでそれぞれ別の愛情が湧いてくるし、登用したヒーロー総勢でクエストに挑んでいる感じが出て、これはこれで気に入っている。
そんなプレイをしているからか、気づけばまた奥歯に力が入っている。クエストよりも準備時間の方が長いくらいに悩みまくるので、それがまた筆者の精神に負担をかけているらしい。本作を攻略し尽くすのが先か筆者の精神崩壊が先か、実に難しいところだが、現在はプレイを楽しめているので当分大丈夫そうだ。
「ダーケストダンジョン」は“ストレスのゲーム”だと最初に述べたが、ありとあらゆる手段でプレーヤーを悩ませる作りには恐れ入る。攻略そのものよりも、どうすれば攻略できるのか悩むこと自体が、このゲームの本質ではと思わせるほどだ。ゲーマーとしての精神的タフさが、この暗黒のダンジョンにどこまで通用するか。自分を試してみる意味でも、本作をプレイしてみてはいかがだろうか。
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