2018年6月20日 17:53
これまで培ってきた「スプラトゥーン」の操作スキルがすべて試される……! これがNintendo Switch「スプラトゥーン2」の追加コンテンツ「オクト・エキスパンション」をプレイしての感想だ。
「スプラトゥーン2」が発売されて約1年、シリーズ初の追加DLCとして発売されたシングルプレイ用の「オクト・エキスパンション」。当初、配信時期は今年の夏と案内されていたため、「夏だから7月か8月、少なくとも夏休みシーズンに入ってからだろう……」などと予想していた方も多かったのではないだろうか。
筆者もまったく同じ予測を立てていたため、E3の開催に合わせて急転直下で配信日が決まると、「え、配信日決まったの?! しかも明日?!」と喜びと困惑が入り交じる悲鳴を上げてしまった。その時、心の準備がぜんぜん整っていませんでした!
そして配信日を迎えてさっそくプレイしてみたところ、最初の感想となったわけである。単にステージを進んでクリアするだけでなく、チャージャーの正確なエイム技術を問われたり、敵の弾を避け続ける試練があったり、あるいは敵NPCのタコゾネス軍団と「ガチホコ」ルールを戦わせられる、なんていうものもあった。すべて、想像していた以上に手応えたっぷりのステージばかりだ。
こうしたステージの中には、正直、心が折れそうになるほど難しいものもある。しかしこの“挫けそうになるほど難しいステージ”の存在が、「オクト・エキスパンション」をより魅力的なものにしている。そして世界観の作り込みは「忘れ去られたトレンド」がテーマになっていて、これはこれで筆者の心を撃ち抜いた。さっそく、その魅力をお伝えしていきたい。
「ナワバリバトル」とはまた違う“達成感”が最大の魅力
改めて「オクト・エキスパンション」の概要をお伝えしておくと、簡単に言うなら“タコ”を主人公としたシングルプレイモードだ。「スプラトゥーン2」の本編にもシングル用の「ヒーローモード」があるが、「オクト・エキスパンション」はこの上級編と考えるのが手っ取り早いかもしれない。
舞台は、本編での地上世界から深く深く地下に潜った場所にある「深海メトロ」。ここには80以上のステージが用意され、数々のステージをクリアしていきながら、地下からの脱出を目指していく。ただし「ヒーローモード」と大きく違うのは、ステージクリア条件がバラエティに富んでいることだ。
特に印象深かったステージとしては、×マークのある風船、黄色い箱型のマトが画面いっぱいに並べられ、「チャージャーでマトだけを制限時間内に20個撃ち抜け」というものがあった。間違えて風船を撃ったら即ミスとなってしまう。たくさんの風船が空中を動き回り、制限時間のプレッシャーもあるため、ルールは単純だがなかなか難しい。しかも筆者は普段、チャージャーをほとんど使わない。エイムのぎこちなさもあり、ミスに次ぐミスでかなり苦労させられたステージだ。
さらにシビアなものになれば、ライドレールに乗りながら「1個も逃さずにマトを撃て」というステージも登場する。「1個も逃さずに」というところが何よりミソで、1つでも逃してしまうと途中脱落となり、最後までプレイすらさせてもらえない。途中には障害物もあり、ぶつかればこれも即ミス。マトが浮かぶ場所を覚え、移動しながら正確にマトを撃ち抜き、さらに障害物を避ける移動操作も必要だ。これがびっくりするほど難しい。
もちろんすべてがこんな調子ではない。特に最初のうちはそれほど難しくなく、「ヒーローモード」の序盤にも近い感覚でプレイできる。ステージ選択画面は地下鉄の路線図のようになっていて、そのレベルは路線ごとに変わる。なおステージをプレイするためには「チャレンジ料」が必要で、最初は100から始まり、路線と駅が変わるたびに200、300、500、1,000、3,000と料金が上がっていく。先程のチャージャーのステージは500、ライドレールのステージは1,000のチャレンジ料なので、中級から上級に近いステージだと考えていただければいいだろう。
それに「オクト・エキスパンション」には救済措置がある。同じステージでミスを何度か繰り返すと「テンタクルズ」のヒメとイイダが力を貸してくれて、そのステージを「クリアした」ことにしてくれる、というものだ。このサポートは割とサクッと使えるようになるので、「自分には無理だ」と感じたら、早々にステージクリアを諦めて先に進むこともできる。
しかし……。本当にサポートを使ってしまっていいのだろうか……と筆者は思ってしまう。形式上で「クリア」にするのではなく、自分の手でクリアしてこそ本当の「クリア」になるのではないだろうか。サポートの誘惑を振り切って挑戦を繰り返し、諦めずにクリアを目指す。折れない心でようやくクリアにたどり着いたとき、何にも代えがたい達成感がそこにはある。
そういう点で、「オクト・エキスパンション」は「ダークソウル」シリーズに近いところがあるのかもしれない。今ちょうど、並行して「DARK SOULS REMASTERED」をプレイしているところだが、難しくて、少しのミスでやり直しになる絶望感はステージによってかなり似ている。ただ、その先にある達成感の気持ちよさも知っているからこそ、筆者はこのサポートがどうしても使えないのだ。
またネタバレになるので詳細は伏せるが、ストーリーを進めてたどり着く最終ステージは、本当に素晴らしい作りだった。少しのミスも許されない緊張感とスピード感の中で、ひとつひとつを順番に、正確にプレイしていく。何度繰り返したかわからないほど挑戦し、やっとクリアできた時、最高潮の興奮と共に「オクト・エキスパンション」を買ってよかった! と実感した。“挫けそうなほどの難易度”があるからこそ、「オクト・エキスパンション」は「ナワバリバトル」とはまた違った「スプラトゥーン」の楽しさを感じさせてくれるのだ。
懐かしすぎて笑ってしまう“ちょい古”モチーフの数々
本作の魅力は、ストーリーと世界の描き方にもある。辺りはいかにもアングラで不気味な雰囲気たっぷりだが、注目したいのはところどころに「忘れ去られたトレンド」のモチーフが出てくるところ。
たとえばステージのネーミングがそうだ。いきなりの「森ガール」にはじまり、「ちょい悪オヤジ」、「カセットの爪を折る」、「すっとこどっこい」、「省エネルック」、「ゴングロ」、「ヤマンバ」、「エッチスケッチワンタッチ」などなど、死語をもじった熱いステージ名が並んでいる。「え、そこ?」と、大人であるほどニヤニヤしてしまうようなものばかりだ。
こうしたモチーフはまだまだある。印象的なのは「チャットルーム」だ。これは、ヒメとイイダ、アタリメ司令の「チャットルーム」での会話ログがステージクリアごとにアンロックされるというもの。このログを追うことで、今まで謎だったヒメやイイダの過去を垣間見られるのだが、この作りがいかにも古い「チャットルーム」なのだ。
今ではLINEが主流だが、かつてこうしたネットでの会話は「チャット」と呼ばれていた。筆者も中学生の頃、よくPCのメッセンジャーアプリで友人とダラダラとチャットしたものだ。ああ、懐かしい……。この「チャットルーム」、本当に芸が細かくて、「管理人」が「入室」や「退室」のログを残したり、挨拶などで「>ALL」と文末に付けたりする会話作法がちゃんと再現されている。中でもアタリメ司令の「おんぷマークってどうやって出すんですか?」という主旨の質問は当時の自分にも経験があり、「そんな時代もあった……!」と思わず遠い目をしてしまった。
という感じで、とにかく様々なものが「ちょっと古い」のだ。他にもステージを見渡していると、テープ式の風船ガムや、ストラップが付いた折りたたみ式携帯電話が空中に浮かんでいたりする。どちらも筆者に直撃の「忘れ去られたトレンド」だ。モチーフの意味がわかるプレーヤーなら、色々なものを「うわ、懐かし!」と笑いながらプレイできるだろう。
そもそも「スプラトゥーン」の世界は、最先端を行く若者のトレンドがコンセプトの1つとなっている。だからこそ、この地下の奥深くに「忘れ去られたトレンド」が蠢いている感じはユーモラスであり、やっぱり不気味でもある。実はこうした数々の「忘れ去られたトレンド」には、ストーリー上にもちゃんと意味がある。これもネタバレになるので詳しく説明することは避けるが、どういう意味かはぜひプレイして確かめていただきたい。
「オクト・エキスパンション」の魅力は他にも様々にある。たとえば、何より「8号」こと主人公の「タコ」がかわいいということ。イカたちの元気で無邪気なかわいらしさとは違って、タコたちは少しだけクールな佇まいをしている。普段の顔つきがクールな分、ステージクリア時のにこやかな表情が余計にかわいく見えたりする。周りは古いもので溢れているのに、今どきの子らしく自撮りするシーンなんかは、特にスクリーンショットチャンスだ。
ゲームを進めていくとストーリーは急速に展開し、「脱出」に向けて一気に疾走していく。見事に地下から地上へと脱出することができれば、タコを本編のプレーヤーキャラクターとして使えるようになる。だから「オクト・エキスパンション」をプレイするなら、まずは「タコをバトルで使いたい!」という動機で始めてもいいと思う。プレイを進めるうちに、「オクト・エキスパンション」の奥深い魅力に気づくはずだ。
特に30歳代以上の熟練ゲーマーなら、難易度的にも世代的にも、細かいところまで含めて楽しめるのではないだろうか。クリアを目指すだけなら難易度はそこそこだが、すべてのステージをクリアしようと思ったら難しさは途端に跳ね上がる。まだプレイしていないという方は、隅から隅まで楽しめる「オクト・エキスパンション」にぜひ触れていただきたい。
© Nintendo