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VR、クラウド、e-Sports、IP。今後のゲームはどう変わるのか?

AMDシンポジウム「デジタルエンタテインメントの新潮流」

10月23日開催

開会挨拶を行なった襟川恵子理事長

 一般社団法人 デジタルメディア協会は10月23日、業界関係者を対象としたデジタルエンタテインメントに関するシンポジウム「AMDシンポジウム『デジタルエンタテインメントの新潮流』」を開催した。

 シンポジウムには、コーエーテクモホールディングス代表取締役社長を務める襟川陽一氏、カドカワ取締役を務める浜村弘一氏、ソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイド・スタジオの吉田修平プレジデント、シンラ・テクノロジー・インクの和田洋一社長と、それぞれの分野を代表する方達が講演者としてズラリと名を連ねた。

 というのも、後援を総務省が、協賛をソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジアが務めたこともあり、シンポジウムとしては豪華な内容となった。各分野に関連する内容を20分程度で語るということで、若干時間が足らないながらもゲーム業界の最新の動向と未来予測が行なわれた。コーディネータは慶応義塾大学大学院 特別招聘教授の夏野剛氏。

講演後には少ない時間ながら夏野氏が疑問をぶつける形で質疑応答が行なわれた。VR、e-Sports、クラウドゲームに対するネガティブな反応については、後援者全員が「新しいテクノロジーには副作用もある。良いところも見て長い目で判断して欲しい。良い部分を伸ばして帳消しにしたい」と口を揃えた。また総務省への要望として和田氏は「ITインフラを発展させるためにコンテンツをタダにしろという論争が過去にあったが、それはおかしい。コンテンツが流通していくために、ITインフラを装備して欲しい」と語った

襟川陽一氏「コンテンツサービスの創造と展開」

コーエーテクモホールディングスの襟川陽一氏。コンテンツ側のトレンドを中心に披露
ゲームクリエイター「シブサワ・コウ」として今後手がけたいコンテンツについても披露した

 トップバッターは、シブサワ・コウことコーエーテクモホールディングスの襟川陽一代表取締役社長。襟川氏はコーエーテクモゲームスの経営方針としての「IPの創造と展開」を中心に紹介。

 IPを効果的に活用し広げることでユーザー数を拡大させ、最大限の収益を上げていく。基本的にはマルチプラットフォームに展開し、ユーザーがどこからでもIPに接することができるプラットフォーム戦略。無双エンジンを根幹に国内外のIPと大型コラボを組むことでユーザー層の拡大を図るコラボ展開。欧米に合ったコンテンツ(たとえば「Dead or Alive」など)は欧米を中心に展開し、アジアでは「三國志」や「大航海時代」など歴史物のコンテンツを中心にサービスを行なうといった全世界展開を目指すグローバル展開など。1つのIPを様々なゲームジャンルでリリースしていくジャンル展開といった、多方面に展開していく各戦略を紹介。

 これらの戦略が功を奏しコーエーテクモゲームスはここ数年好調な業績を維持している。今後もこの方針に揺らぎはないが、より強力なIPを開発していく開発力の強化、トレンドへの対応などが焦点となっていく。襟川氏はゲームの未来として「ビジネスモデル」の変化、「開発予算」の高騰などの問題点を挙げながら、ゲーム実況やスマートフォンとゲーム機の融合、サンドボックスタイプのゲームのヒットなどのトレンドを紹介。

 同時にシブサワ・コウとしての今後の希望と、作っていきたいゲームなどにも触れた。シブサワ・コウとして興味を持っているジャンルは、高度な自然言語処理やAI、シミュレーションをベースに自然な会話でゲームが進行していくゲームの実現、そして地形の生成や物理シミュレーションなどスーパーコンピューター並みの処理能力を用いて世界観を構築し、ゲームシステムを端末側で処理するクラウドと現行のシステムを融合させたゲームの作成などを実現させたいと語った。

 こういった技術的に進化の過程にあるゲームを一両日中に実現することは難しいが、もう少し近い未来での希望として、日本文化に根付いた社会派の問題を扱ったシニア層をターゲットにしたゲームを作りたいという。ちなみに新しいゲームシステムを盛り込んだ「NIOH 仁王」に現在1番注力して開発を進めているという。

浜村弘一氏「世界が熱狂するe-Sports」

カドカワ取締役を務める浜村弘一氏
こちらはニコニコ生放送のデータ。生中継を行なった後はユーザーのアクティブ度が上がる。ここからイベントを継続的に行なっていく必要性を説明

 カドカワの浜村氏は、ゲーム業界のトレンドから現在何が重要になりつつあるのかをひもとき、そこから現在「e-Sports」が重要視される流れとなっているかについて紹介した。

 浜村氏は各種データを紹介しながら、スマートフォンゲームを中心に開発を行なっている会社と、コンシューマーゲームを中心に開発を進めてきたメーカーのアプローチは対称的でありながらも、同じ方向を向いていると分析。スマートフォンゲームメーカーはソーシャルゲームの開発を得意としながらも、端末のリッチ化に伴いグラフィックスなどの開発力を強化。一方コンシューマゲームメーカーは、元々のゲーム開発力を土台に、ソーシャルゲームの開発ノウハウを蓄積しヒットタイトルを連発するようになってきた。結果、各社とも「ハイエンド化・サービス化」に向かっていると分析。

 そんな中で重要となるのは「コミュニティマネジメント」だと浜村氏は語る。これまでは作りたいコンテンツを作り、盛り上げはユーザー任せだったが、今後はコミュニティマネーシャーを立てユーザーの意見を取り入れながら作り上げ、ユーザーと共に長期的に開発を続けていくスタイルに変わっていっている。

 このようにゲームが買い切り型からサービス型に変化する中で、継続的にイベントを投入し話題を喚起し、ユーザーと共に盛り上がる必要性がある。イベントの投入やDLCの開発を行ないながらもこういった開発にはコストが掛かることから、ゲームにユーザーが介入する余地を作ることでユーザー同士が自然に盛り上がる仕組みも重要になっていくとしている。

 また、こういったサービス型ゲームの登場とコミュニティマネジメントの重要性から、浜村氏は「e-Sports(リアルイベント)」のムーブメントが起こったのは必然とした。現状まだ日本では「e-Sports」は爆発的な盛り上がりの一歩手前といった状況だが、対戦格闘ゲームが盛り上がっていることや、世界中で「ポケットモンスター」などの日本のコンテンツの「e-Sports」イベントが盛り上がっていることから、今後日本でもきっかけがあれば盛り上がると予測して講演を締めくくった。

吉田修平氏「バーチャルリアリティシステム『プレイステーション VR』の展望」

ソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイド・スタジオの吉田修平プレジデント

 ソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイド・スタジオのプレジデントを務める吉田修平氏はPlayStation VRを含めたVRコンテンツに関して講演を行なった。

 これまでゲームはグラフィックスやサウンド、ゲームシステムなどの進化はあったが、ディスプレイの前でプレイするスタイルに変化はなかった。VRの登場はその根源的な部分でパラダイムシフトを起こすものであり、はじめてプレーヤーがゲームの世界に入ることができるようになる。

 コンピュータエンタテイメントにおいて大きな変化もたらすこの潮流は、今回がはじめてではない。これまでにも何度か巻き起こってきたVRの波だが、これまでとはどこが違うのかについて吉田氏は「これまでも大きなブームがあったが、当時のコンピューターの技術ではシンプルなものしか実現できず、コストも高かった」と説明。

 ではなぜ今なのか? 理由として挙げたのは「スマートフォンの普及」だ。VRに転用可能な高性能なスマートフォンのディスプレイパネルが大量生産されたことで、デバイスの高性能化と低価格化が両立した。また、コンピュータのハードウェア性能の向上から、3Dグラフィックスの技術が向上し、高度なコンテンツの制作が可能となった。そしてUnity、UnrealEnginの普及によって3Dグラフィックスを使ったインタラクティブコンテンツの制作が容易になった点も大きいとした。

 では、プレイステーション 4でVRコンテンツを扱う優位性とはどこにあるのか? この点についても吉田氏は明確にしている。「家庭用ゲーム機はテレビにすぐ繋げられ手軽さと安心感がある。そして、たくさん作るから低価格で提供できる」とコンシューマー側の利点を説明。一方でコンテンツ制作者側には「(PS4でプレイするので)みんな同じ環境でプレイすることになるので、制作者にとって内容を確認しやすい。PCでは様々な環境があるので動かないこともある」と説明すると共に、UnityやUnrealEnginでコンテンツ制作が可能な点にも触れ、他のプラットフォームへの転用も可能など、制作者のリスクが低い点もアピールポイントとして挙げた。

 吉田氏は「ゲームだけでなくあちこち(の非ゲーム分野)からお声がけいただいている。VRを意識しなくても(VRコンテンツを自然に)サービスとして利用する日が、わりとすぐに来ると思っています」とVRの未来像を示した。一方で問題点としては、これまでのゲーム作りのノウハウが通用しない点、ユーザーの感覚を乗っ取ってしまうことから“モーションシックネス(VR酔いなど)”を起こすことへの対策などを列挙。また、体験しないとこの感覚は伝えにくいことから、クオリティの高い体験の提供と、その機会を増やすことを考えているとした。

和田洋一氏「次世代クラウドゲームの可能性」

シンラ・テクノロジー・インクの和田洋一社長
「シンラ・テクノロジー・インク」の社名はもちろん「ファイナルファンタジーVII」から。「主人公がクラウドだから対するのはシンラというシャレ」と社名を決めた経緯を説明し会場の笑いを誘った

 最後の講演はシンラ・テクノロジー・インクの和田洋一社長による「クラウドゲーム」について。

 和田氏は現状のクラウドゲーミングについて「これまでのクラウドゲームは、ゲームのストリーミングプレイの話題だった。ビジネス系から出てきたので、ストリーミングで便利になるといった話題しか上らなかった」と説明。しかしストリーミングによるゲーム配信について「便利になることは重要でいいのだが、ゲーマーは食いつかない」と一蹴。理由は明確で「いま出てるゲームをストリーミングにしても、(ゲーマーには)ピンとこない」と言いきる。

 ここで和田氏はゲームの歴史を振り返る。1つのゲームをプレイするために1台の機械が必要だったアーケードゲームの時代、家庭用ゲーム機の登場で1台のゲーム機で複数タイトルがプレイ可能になった。そしてクラウドゲームの登場で端末を選択する必要がなくなりゲームをプレイする上に置いてハードウェアに投資する必要がなくなる。

 一方でゲーム制作者に対するアピールとしては「オンラインゲームは各端末間の同期を取るのが大変で、8割方はチート対策。でも、クラウド化すれば全てサーバー側にあるので、その苦労は全くなくなる。いま行なっている開発の80%はやらなくていい」と語りかけた。

 そしてクラウドゲームの登場によって、どんな新しいゲームが登場するのか? 未来像をどのように描けばいいのだろうか? これについて和田氏は「誰もその新しいゲームを作っていないので、抽象的にならざるを得ない」としながらも、またゲームの歴史をひもときながら説明した。

 アーケードゲーム時代には、基本的にはセーブデータは存在しなかった。セーブデータの登場により、ゲームにストーリーが生まれた。そしてCD-ROMの登場により、音声や高度なグラフィックスを収録できるようになり映画産業に急接近した。映画産業の市場規模を超えたのもこの時期だ。映画の中に参加するような感覚でゲームができ、ゲームがメジャーな産業となるきっかけとなった。そしてネットワークゲームの登場へと繋がっていく。クラウドゲームはこれに繋がっていく新たなる変革への潮流であり、大きな地殻変動の中にあると和田氏は説明。

 和田氏は最後に「これまでは開発者が全部仕込んで、プレーヤーはそれを追体験していた。しかしクラウドゲーミングで、常に世界が変わり続け、(クラウドの空間が)もう1つの世界になる。それが実現する」と語り、「ゲーム産業は今の倍くらいになる」と語り講演を終えた。

(船津稔)