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シンラ・プレジデントが語る、将来のゲームは「生きた世界」が舞台に!
クラウド技術とゲームデザインの融合。和田洋一氏が示す業界の将来像とは?
(2015/8/27 21:59)
CEDEC 2015ではスローガン“Reach Next Level”(次のレベルへ)を掲げ、Oculus RiftやProject Morpheusといった、ローンチ寸前まで来ているVRゲームについての講演がハイライトのひとつとなっていた。VRゲームは来年には産業化が実現するだろう。しかし、それは短期の変化だ。さらに先、その“次のレベル”では、クラウドゲーミングが時代の主役を担うことになるかもしれない。
今後数年~10年という中長期の変化について、クラウドゲーミングの抜本的な進化を成長エンジンとして掲げる講演を行なったのは、シンラ・テクノロジー・インクのプレジデント、和田洋一氏だ。
和田氏は「シンラ・テクノロジーが創り出すクラウドゲームの世界」と題されたこの講演で、「少し抽象的な話にはなりますが」と前置きしつつ、シンラ・テクノロジーが実現しようとしている将来のゲームの形をつまびらかに語った。それが実現するのは、本質的な意味で「生きた世界」を舞台とする、全く新しいゲームデザインへの可能性である。
ゲームを構成する3大要素に残された、最後の革命のフィールド
講演の冒頭、和田氏は「今は時代の流れが非常に速いですから、近い将来に対して現在の延長として2割くらいの力を割いたとしても、それができる頃にはもう普遍化している」と、この時代に新しい試みを行なうことの難しさを語った。
そこで必要となるのは、ある程度遠い将来のイメージを持ち、そこから逆算して今10%~20%の力で取り組むべきことを見つけることだという。なぜこのようなボンヤリとした話からはいるのかというと、シンラ・テクノロジーが目指すものが、これまでゲーム業界で10年に1度単位で起こってきた、不連続的な産業の進化にあるからだ。
不連続な進化とは何か。抜本的な進化と言い換えてもいい。ゲームの遊び方、ゲームの形、ゲームの流通、ゲームビジネスそのものを変えてきた核心要素のことだ。それは、これまでは端末とストレージの発展の中にあった、というのが和田氏の分析だ。
まず1970年台のアーケードゲームに始まり、1980年台にはファミコン等の登場でゲームは家庭で長時間遊べるものへと進化した。1990年台にはCD-ROMが登場し、ゲームを映画に並ぶ映像メディアへと進化させた。2000年台にはオンライン化がゲームとの関わり方を大きく変えることとなり、2010年台に入るとモバイル端末の台頭でゲーム産業は極普通の人たちを巻き込み、飛躍的な拡大を果たした。
こういった不連続な進化が起こるたび、古い様式のゲームが駆逐されるというよりも、新しい様式が主役となって新しいユーザー層に訴求し、急激に市場を拡大させてきたというのがゲーム産業の現実だ。そしてモバイルゲーム全盛となり、ごく普通の人も日常的にゲームに触れるようになった今、次に何が抜本的な進化のエンジンとなるのか。それがクラウド技術である、というのが和田氏の結論だ。
というのも、和田氏は現在までのゲーム産業の歩みについて、「端末側、入力と出力の進化はほとんどやり尽くされた」と考えているからだ。
・究極の“媒体”がもたらす産業のゲームチェンジ
ゲームは3つの要素から構成される。コンピューターへの操作入力と、コンピューターの中で行なわれるロジックやグラフィックスの処理と、その結果をユーザーに見せるための映像出力、の3つ。簡単にいえば入力、処理、出力、だ。
入力に関しては、ゲームの可能性を広げ、より広い層にへゲームを届けるため、これまで様々な取り組みが行なわれてきた。その中で和田氏は「任天堂はゲームユーザーと一般ユーザーの間をつなぐ、本当にすごいことをしてきた」と評価。その流れの中で、ゲーマー向けから一般向けまで、だいたいやれることはやり尽くしたのではないかというのが和田氏の現状認識だ。
出力に関しては、ゲーム業界は産業の成立からおよそ30年以上にもわたって、「ほとんど何もしてこなかった」と和田氏。要するにこの30年の間、コンピューターゲームのゲームの出力装置はずっとフラットスクリーンであり続けたということだ。しかし、ここにきてVRやARの技術が成熟期に入り、ようやく出力の部分で抜本的な進化が起きようとしており、産業化も進行中だ。
そうすると、抜本的な進化のフィールドとして最後に残されるのは、処理系の部分と言える。これまでゲーム産業は新しい半導体技術を貪欲に導入し、端末の性能を飛躍的に向上させてきた。だが、結局は「端末でやれること」にその可能性は縛られており、ごく連続的な発展に過ぎなかった。
ゲームの形を根本的に変えてきた技術をもういちど振り返ると、ファミコンにしても、スマホにしても、処理能力の向上がドライブしてきたというよりは、「媒体の進化」に引っ張られてきた側面が非常に強い。つまり、業務用機の内蔵ROM→ROMカセット→CD/DVD/BD→オンラインストレージという流れで、媒体の変化そのものが産業のゲームチェンジャーとなって、ビジネス構造の抜本的な変化をもたらしてきたという実情がある。
では、次のゲームチェンジャーとなる媒体は何か?
そこではじめて、インタラクティブコンテンツの媒体としては究極系の、クラウド技術が視野に入ってくる。シンラが目指すゲームの具体像は、まさにそこから導かれるのだ。
スーパーコンピューターで遊ぶ、「生きた世界」のゲームへ
クラウド技術をゲームに応用することは、まずゲームの流通形態を変える。この試みは既に米OnLiveを皮切りに、最近ではPlayStation Nowという形で最新の家庭用ゲーム機でも行なわれている。国内ではスマートテレビ向けの「ひかりTVゲーム」というクラウドゲームサービスも2013年より提供されているし、NVIDIAのようなGPUメーカーも独自にサービスを展開していたりする。
だが、それらがゲームチェンジャー足りえるか?というと、NOだ。確かに、クラウド技術による恩恵のうち、インストールやダウンロードや端末側のアップデート等が不要、非力な端末でも高品質のゲームが遊べる……という部分は享受できるが、それで実際にプレイできるゲームが、バックカタログ(既に他の端末で遊べるゲームタイトル)でしかなく、本当の意味で新しい体験を届けられていないからだ。
もう1度ゲームの進化を振り返ってみよう。業務用機からファミコンへ、ROMカセットへの進化は何をもたらしたか。家庭での長時間プレイを前提に、セーブ機能が実現された。「ドラゴンクエスト」の“ふっかつのじゅもん”である。それによって、重厚長大なストーリーをどっぷりと楽しむという、全く新しい体験が可能になった。CD-ROM等光学メディア世代では、膨大なデータ搭載が可能となり、「ファイナルファンタジー」シリーズをはじめ、映画に匹敵するような説得力ある映像体験が可能となった。オンライン化によってはMMORPGやFPSなど、マルチプレイを軸とする新しい体験がもたらされた。スマホ世代になると、「Angry Bird」のようにタッチ操作を活かした直感性と手軽さによって、これまた新しい体験が可能となった。
こうして見ると、新しい媒体は、それによって新しい体験を届けられるコンテンツとセットになったときにのみ、本質的な産業構造の変化を引き起こしているようである。私達ゲームユーザーの視点から見れば、これは自明の理だ。全く新しい体験が得られるとわかったときにはじめて、そのプラットフォームに関心を持つことができるのだ。
逆に、私達がいまひとつ関心を持てない既存のクラウドゲーミングサービスは、ビジネスの根幹をバックカタログの提供に据えており、そこに新しい体験はない。なぜこうなってしまうのか? それは、既存のクラウドゲーミングサービスをやっている事業体が、つまるところゲーム屋ではないからだ。
和田氏の本当に面白いところは、こういったゲーマー的に共感しうる結論に、経営者サイドのマクロな視点から到達しているというところだ。新しい媒体には、それに適したコンテンツがもたらす、新しい体験が必要。クラウドゲームも例外にあらず。だからこそ「ゲームのことはゲーム屋がやっていこう」となる。それがシンラ・テクノロジーの存在理由だ。
・「生きた世界」が核になる
では、クラウド技術によって可能となる、全く新しいゲーム体験とは何だろうか? 具体例はまだない。しかし、処理系としての進化がもたらす可能性の広がりは明確だ。
ゲーム専用に設計されたクラウドサーバーでは、膨大なCPU/GPUの演算力や、100GB単位の巨大なメモリスペースをフルに使い、これまでの端末では全く不可能だったスケールの世界を構築できる。そして、その世界に同時多数のプレーヤーが参加できる。このときの仕組みはローカルマルチプレイと同じであり、コントローラーとゲーム機、モニターをつなぐ線がネットワークになっただけだ。だから、面倒な同期管理の仕組みも不要だ。
簡単に言えば、ネットワークを通じて、皆が1台のスーパーコンピューターを共有してゲームを遊ぶという形になる。和田氏はそこにこそクラウドゲーミングの未来があると確信している。オンメモリに展開された巨大な世界は、これまでのオンラインマルチプレイの仕組みでは通信量の制限により全く不可能だったような、地質学的スケールの変化を内包することもできる。その世界はプレーヤーが接続していなくても動き続け、環境そのものが変化し、その変化が持続していく。「生きた世界」、シンラ・テクノロジーがクラウドゲーミング時代の新コンセプトとして掲げる「Living World」の実現だ。
このスケール感やダイナミック性については弊誌で詳しくご紹介してきているので、ぜひ関連記事「シンラ、“スーパーコンピューターゲーミング”最新デモがスゴすぎる!」をご覧いただきたい。
この「生きた世界」の実現が、全く新しいゲーム体験のデザインを可能にしてくれる。シンラ・テクノロジーでは現在までに3社のインディーデベロッパーと協定を結び、この「Living World」コンセプトを前提とした3つのゲームのプロトタイプ製作を進めている。そのどれもが、にわかには夢物語に聞こえるようなゲーム性を提案しているのが面白い。
例えば、オープンワールドゲームに匹敵する広大な世界で、数十人が死闘を繰り広げるゲーム。このゲームでは、巨大な建物がまるごと崩壊する等の巨視的スケールのマップ変化と、その死闘を見守る観戦者(スペクテーター)がゲーム世界に積極関与できるという要素をフィーチャー。eスポーツにおけるプレーヤーと観戦者という関係性に、全く新しい概念を取り入れようというアイディアだ。
あるいは、惑星規模の環境そのものを緻密にシミュレートし、地質学的スケールの時間変化とともに、初期条件の僅かな違いが多彩なパラレルワールドを生み出すような、生態系の進化を根本に据えようというゲームコンセプト。あるいは、超大規模な水流シミュレーションを、帆船のバトルに活用しようというアイディア。
講演ではそれぞれタイトル名を挙げず「参考」としてそのコンセプトが示されたが、E3 2015で弊誌でお伝えした記事「シンラ・テクノロジーで実現する3つのゲームコンセプトが明らかに!」をお読みになればだいたいどれがどのゲームかわかる。いずれも、既存の端末ではまず不可能、シンラ・テクノロジーのゲーム専用クラウド技術によって初めて可能になるというゲーム性が提案されているのが興味深い。また、爆発的に増えるコンピューティングパワーを、見た目ではなく、ゲームの世界そのものの中身を豊かにする方向に大きく配分していることも、従来のゲームとは全く違うどころであると言える。
・ゲームと人間の関わり方をも変えていくか
和田氏はこのように、本質的なクラウドゲーミングの進化の軸に「生きた世界」を据えることで、その先に、プレーヤーと観戦者の関係が全く再定義されていくというビジョンも抱いている。クラウドゲームは本質的な意味で、その世界に対していろいろな形で関与できる。真っ向からゲームをプレイする以外の方法であってもいい。それはゲームへの関わり方を今以上に広げることに繋がる。
その流れで和田氏は、現在の映画スターに相当する「ゲームスター」の誕生を予言した。現在のe-Sportsのように“強い・弱い”でふるいにかけられる存在ではなく、よりその世界の中で“うまく振る舞える”ことが価値になるというように、多様化していくという話だ。
和田氏はこういったビジョンが実現する時期を「何年かかるかはわかりせんけれども」としつつ、そこにこそ次なるゲームの本質的な変化があるとして講演を終えた。シンラ・テクノロジーが目指すクラウドゲーミングの世界は、一朝一夕に実現しうるものではなさそうだ。ゲームファンとしてはまだまだボンヤリとした好奇心以上の関心を抱くことは難しいが、ゲームクリエイターは少しづつでも動き始めている。その先、実際にもたらされるものは何か。長い目で見守っていきたい。