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シンラ・テクノロジーで実現する3つのゲームコンセプトが明らかに!

次世代クラウドゲーミングの本格始動。その先に広がる未来とは?

6月16日~18日開催

会場:Los Angeles Convention Center

 プレイステーション 4、Xbox One、PC、そしてVR。今をときめくゲームプラットフォームに多数の注目タイトルが登場したE3 2015。最新の端末で動作する数々の“次世代ゲーム”が華々しく披露された表舞台の傍らで、今は小さいながら将来のゲーム産業に巨大な影響を与えうる、全く新しいゲームプラットフォームが重要な局面を迎えていた。

 それはシンラ・システムだ。和田洋一氏が率いるシンラ・テクノロジー・インクが開発中のシンラ・システムは、これまで誰も実現したことのない、新概念のクラウドゲーミングプラットフォームである。

 これまで弊誌で繰り返しお伝えしてきたとおり、シンラ・システムのコンセプトは“スーパーコンピューター並みのサーバーマシンをフルに活用し、新の意味で生きたゲーム世界を実現する”というもの。そのアーキテクチャについてはこちらの記事【特別企画】シンラ・テクノロジーが目指す“スーパーコンピューターゲーミング”とは何か?で詳しくお伝えしている通り、従来のクラウドゲームサービスとは一線を画するものだ。

シンラ・システムのポテンシャルを示す「Living World R&D デモ」

 シンラ・テクノロジーでは、このシステムの基板となる特許技術、リモートレンダリングのシステムを完成させ、去る5月には対応ゲームを開発するためのSDK、クラウド・コミュニティ・デベロッパー・キット(CCDK)を全ゲーム開発者向けにリリースしている。

 そしてシンラ・システムではこれらの技術によって、G29DC 2015のレポートにてお伝えした通り、次世代ゲーム機でも高性能PCでも到底不可能な、巨大でフルにダイナミックな世界を構築し、ひとつながりのゲームプレイ空間として同時複数のユーザーに提供することができる。

 2014年9月にシンラ・テクノロジー・インクの設立が発表されて10カ月近くが経過し、このシステムによって空前の、なにかとんでもないゲームを作れるような雰囲気はでてきた。しかし、ゲーマーにとっての将来を語るためには決定的に欠けているものがあった。実際にゲームクリエーターが実現する、シンラ・システムならではのゲームコンテンツの姿だ。

 シンラ・テクノロジー・インクはE3 2015の開催に合わせ、6月16日、ここロサンゼルスで初のゲーム開発者によるラウンドテーブルセッションを開催した。そこでついに、シンラ・システム向けに開発が進められている3つのゲームのコンセプトが明らかになったのである。

ゲームクリエイター中嶋謙互氏が開発する「スペーススウィーパー」は、従来のオンラインゲーム開発の手法では同期不可能な、膨大な数のダイナミックオブジェクトからなる世界を大人数のプレーヤーで共有できる例を示している

シンラ・システムがもたらすゲーム制作のパラダイムシフト

ラウンドテーブルの模様
シンラ/テクノロジーのプレジデント、和田洋一氏

 E3会場近くのホテルで開催されたラウンドテーブルセッションには、シンラ・テクノロジーのプロトタイプ・アクセラレータープログラム(開発支援施策)に選定されたゲームデベロッパー3社の代表が登壇し、それぞれが開発を目指すシンラ・システムならではのゲームコンセプトを披露した。

 この議論に先立ち、シンラ・テクノロジー・インクのプレジデント和田洋一氏は、シンラ・システムが解決すべく取り組んでいる問題認識を次のように語っている。

 「今回のE3でも様々な素晴らしいゲームが紹介されておりますが、ビジュアル的に素晴らしい物がたくさん出てきている一方、みな似たような内容になっているのではないかという印象があります。ゲーム産業は新しいゲーム体験が牽引するものです。ですから、そのためにそろそろゲームのルールを変えていかなければならないと思います。ゲームのルールを変えるというのは、全く新しいプラットフォームを作るということです。それが、シンラを作った理由です」。

 和田氏が言う“新しいプラットフォーム”であるシンラ・システムは、従来のゲームプラットフォームとは異なり、ゲーム内容を端末の性能に縛られることがない。現時点の仕様でも、100GBを超えるフラットなメモリ空間、サーバー用の超強力なプロセッサ、レンダリング専用マシンとの連携による膨大な演算力により、これまで端末側では性能的な限界で不可能であったことがあらかた可能になってしまう。もっと性能が必要なら、さらにサーバーマシンのスペックを盛る事もできるだろう。

 「これは本質的なパラダイムシフトであり、新鮮な視点を与えてくれ、ハードウェアの限界を越えてゲームを作れることに本当に興奮している」と一致して語るのは、Camouflajを率いるライアン・ペイトン氏、Hardsuit Labsを率いるアンディ・キプリング氏、Human Head Studiosを率いるテッド・ハルステッド氏。和田洋一氏が「ゲーム業界で最も情熱と才能のある3人」というゲームクリエーターたちだ。

新のダイナミックワールドがキモとなる、シンラならではの3つのゲーム

 それでは、3人それぞれがコンセプトアートとともに語った、シンラ・システムならではのゲームコンセプトを具体的に見てみよう。

・ライアン・ペイトン氏(Camouflaj)

コンセプトアート

 モバイル用AAAアドベンチャーゲーム「Republique」を華々しく成功させたCamouflajを率いるライアン・ペイトン氏は、日本のゲーム業界でのキャリアを持つゲームクリエーターだ。

 そのライアン氏が披露したのは、ダイナミックな移動アリーナを舞台とした、ステルス型マルチプレイのアサシネーションゲーム。シンラ・システムの能力を活かし、巨大なアリーナという環境そのものがダイナミックに変動し、変動の全てがゲームの流れに影響を与える、というコンセプトの対戦型ゲームだ。

 そこでさらにおもしろいのは、暗殺勝負の模様を見物する観戦者が、ゲームの環境にさまざまな作用を及ぼせるというアイディアだ。通常のストリーミング放送とはちがい、シンラ・システムでは双方向の観戦システムを容易に構築することができる。これによって、プレーヤー、観戦者の双方が1つのゲーム空間を作り上げるという、新スタイルのeスポーツが実現するのかもしれない。

・アンディ・キプリング氏(Hardsuit Labs)

コンセプトアート

 直近では登録者数200万人以上というオンラインFPS「Blacklight Retribution」をPC、PS4で成功させたHardsuit Labsのアンディ・キプリング氏は、従来手がけてきたタイプのゲームとはうってかわって、「進化シミュレーター」のアイディアを披露した。

 これはシンラ・システムの能力にて、長期持続的に存在し続けるダイナミックワールドを構築し、それを生態系シミュレーションに活用するというコンセプトだ。地球時間なら数万年、数億年にわたって繰り広げられる適者生存のプロセスを、ゲームワールドで再現する。これがどのようにゲームプレイ体験に落とし込まれるかは不明だが、いろいろな形、いろいろなレイヤーでの関わり方がユニークな遊びとして成立しそうだ。

・テッド・ハルステッド氏(Human Head Studios)

コンセプトアート

 有名どころではFPS作品「Prey」シリーズを手がけてきたHuman Head Studiosは、PC、コンソール向けにハードコアなゲームを多数開発してきた実力派の老舗スタジオだ。そのクリエイティブ・ディレクターを務めるテッド・ハルステッド氏は、シンラ・テクノロジーの「リアル・オーシャン」流体物理シミュレーションモデルを活用した海洋冒険ゲームを提案。

 緻密な海洋シミュレーションにより、潮の満ち引きや海流の動きといったマクロ的な環境変化だけでなく、波打つ水面の動きをゲームプレイに取り入れることができる。例えば、大波によって敵の砲弾を防いだり、波の動きを砲術に利用するといった考え方だ。

 「Battlefield 4」では一部のマップでこれに近いフィーチャーを実現していたが、従来手法ではネットワーク上での同期が難しく、見た目がおかしかったり、理不尽な動きになることも少なくなかった。それにひきかえシンラ・システムでは同期の必要がなく、より大規模で精密な波のゲームプレイ活用が可能だ。これによって実現する大規模マルチプレイの海戦重視の大航海ゲームは、過去になく臨場感溢れる海洋冒険活劇に仕上がりそうだ。

会場では、それぞれが持ち寄ったコンセプトアートをバックに、シンラ・システムで実現すべきゲームの議論が行なわれた
Camouflajのライアン・ペイトン氏。「Republique」関連の制作が完了に近づいており、近いうちにシンラ・システム向けの開発に集中できそうだとのこと

 今回、3人のゲームクリエイターが披露したゲームのアイディアは、まだまだ荒削りではあった。かつてない規模感やダイナミズム、壮大さは感じられるが、それをどのように個人的なゲームプレイ体験のおもしろさに落としこんでいくかが、ゲームクリエイター各氏の能力の見せ所になるだろう。

 シンラ・システムが実現しようとしているゲームの未来像は、まだおぼろげで、どのように実るものか想像しがたいものだ。しかし、これまで浴びるように様々なゲームをプレイしてきたハードコアなゲーマーほど、いろいろな想像が刺激され、ワクワクしてしまうことは間違いない。これからシンラ・システム独自のゲーム体験がどのように形作られていくか、ゲーマー目線で見守っていきたいと思う。

(佐藤カフジ)