NVIDIA CEO ジェンスン・ファン氏インタビュー
GeForce Experienceは「Free to Play」時代に向けたクラウドサービス
「GeForce LAN / NVIDIA Gaming Festival 2012」のオープニングを飾ったNVIDIA CEOジェンスン・ファン氏のキーノートスピーチ終了後、メディアとの合同インタビューが行なわれた。1誌につき1つの質問までと厳しく制限されたものの、ファン氏は質問についても、聞いていないことも含めて旺盛に語り、NVIDIAのストラテジーの一端を覗くことができた。インタビューではゲーム誌のほか、一般誌やPC誌から様々な質問が出されたが、比較的ゲームに関係のある質問をピックアップして紹介したい。
■ 「Keplerにはまだ秘密がある」。GeForce Experienceは「Free to Play」を意識
インタビュー会場 |
精力的に語るNVIDIA CEOジェンスン・ファン氏 |
インタビュー中、発表したばかりのGeForce GTX 690を手にとって見せてくれた |
キーノートの目玉は、GeForce GTX 690とGeForce Experience |
イベントには多くの協賛メーカーが参加 |
Q:FermiやKeplerなど、NVIDIAの新しいアーキテクチャはいつもサプライズがあるが、今回ハッピーなサプライズはあるか?
A:Keplerに関してはまだ発表していないものがあり、我々としても非常に重要なアーキテクチャだと考えている。G80は世界で始めてGPUコンピューティングを実現した。CUDAでは始めてダブルプレシジョンを実装できたアーキテクチャで、サーバーサイドのハイパフォーマンスコンピューティングを実現し、スーパーコンピュータに採用されるきっかけとなった。2年前は2つしかなかった対応アプリが、いまは70ほどあり、スーパーコンピューターも35以上になった。中国の最速のスパコンもNVIDIAのGPUによって稼働している。フェルミ世代では世界で初めてテッセレーションを採用した。これにより、よりリッチで繊細な世界をゲームで再現できるようになった。今日のデモでお見せした「PLA」(Giants)や「Crysis3」(Crytek)でもテッセレーションが使われており、より細かいディテールを再現している。
Keplerは我々が開発したGPUの中でももっとも成功したもののひとつで、ヨハネス・ケプラーという有名な自然科学者の名前から取っている。彼の名言に、「1番少ないリソースを使って何かをする」というものがあるが、効率の面において彼の名言がそのままKepler GPUのデザインコンセプトになっていて、1番大きな差別化にもなっている。1年以内に、性能を3倍にしながら、消費電力を同程度に抑えた。そのためケプラーはウルトラブックやデスクトップPC、スーパーコンピューターの分野で高いパフォーマンスが発揮できる。実はほかにも多くのイノベーションがあるが、今日はまだお伝えできない。
Q:今年のTegraの展開戦略について
A:今年はTegraは大きな存在。Tegra3は世界初のクアッドコアとして世界で出荷できているし、NVIDIAとしても力を注いでいる。また、USでLTEが重要視されているが、USは強いが、欧州アジアではまだまだ。ただ、次世代スマートフォンはクアッドコアになる。最初にTegra3を搭載したスマートフォンはHTCからリリースしたもので、中国でも中国のモバイルフォンカンパニーからリリースを予定している。メーカーはまだ言えない。年末にはTegra 3を搭載したWindows8タブレットの発売も予定している。
Q:2015年にモバイル端末がXbox 360やPS3と同じ性能を持つと言われており、将来的にはモバイル携帯の演算力も今のPCレベルまで上がることになると思うが、Keplerのような電力効率が良いテクノロジーは未来のTegraにも使われていくことになるか?
A:イエス、イエス、イエス、簡単な質問をありがとう(笑)。
Q:インテルもスマートフォンとタブレットに参入し、競合相手となる。NVIDIAはスマホやタブレットの分野では先行者だが、彼らで新しい分野で成功すると思うか? またx86はスマートフォンやタブレットで成功を収めると思うか?
A:インテルはとても手強い相手、実力も侮れない。重要な市場ではインテルを無視できない。そしてタブレットやスマホでは、1番重要な市場となる。インテルとしてもとても重要な市場になるはずなので、彼らも本気を出してくるだろう。
ただし、このモバイル/タブレット市場はPC市場とは大きく異なる。PC市場はx86が必須で、ソフトはx86を必要としていた。ソフトウェアはすべてx86で書かれているから。すべてのPCでx86が走るという利点があった。モバイルコンピューターはクラウドに繋いでいるので、あらかじめ店頭でソフトを買う必要はない。この点でARMに大きなアドバンテージがある。ソフト開発者は、市場にシェアを持つCPUアーキテクチャをターゲットに開発することが理にかなっている。モバイル市場ではARMが一番大きなシェアを持っている。一方でx86はモバイルで何かアドバンテージがあるわけではなく、ディスアドバンテージ、フリーな状況からスタートしている。
Q:GeForce GTX 680と比較して、GeForce GTX 690のスペックはどの程度高くなるのか?
A:重要なのはソフトウェアだと思う。GeForce ExperienceはGeForce680、690でPCゲームに対して最大のパフォーマンスを引き出す方法を提供する。そしてゲームメーカーに対して、TXAAのような新しいテクノロジーをゲームに埋め込んで貰えるように働きかけている。TXAAは、Kepler上で動く新しいアンチエイリアスの手法ですが、次世代ゲームエンジンにも搭載される予定になっている。CrytekのCryEngine3、Epic GamesのUnreal EngineUE4でもKeplerに最適化されているので、次世代ゲームは最適なパフォーマンスを発揮できる。そして我々は同時平行して次世代GPU「Maxwell」の開発にも取り組んでいる。Maxwellは物理学者からとった名前。それまではKeplerのノートブック、ウルトラブック、PCが登場するので楽しんで欲しい。
Q:NVIDIAはモバイルからスパコンまで幅広い分野に製品を展開しているが、今後、これらの製品を融合したりテクノロジーを共通化することはあるのか? たとえば、TegraとGeForceを統一したり、Teslaをクラウドで、活用したりする計画はあるのか?
A:良いアイデアだ(笑)。GeForce Experienceもそうだが、将来のコンピューティングはクラウドが重要な位置づけになる。PC単体ではPCにあった設定が何かというのを自分で探し出すことは困難だが、クラウドに繋げば、GeForceのスパコンがテストした結果を活用することができる。今はまだ難しい部分もあるが、未来はすべてのモバイルデバイスが、将来はクラウドに接続しているとおもう。そうなればTeslaで重い演算をして、Tegraで軽い演算をするということも可能だと思う。そもそもTeslaは、クラウドにあるスパコン用に開発しているので、GeForceが搭載されている端末にクラウドを通じて繋ぐことは相性が良い。現在、クラウドと端末の両方にプロセッサーが搭載されているので、今後はそういったソリューションも可能だと思う。
Q:PCゲームをもっと簡単にするツールを開発してくれてありがとう。GeForce Experienceは海賊版対策にも役立つのか?
A:皆がインターネットに繋ぐ時代のPCゲーミングは「Free to Play」が一般的なので、海賊版がどうこうということは変わっていくと思う。そしてGeForce Experienceは海賊版対策を意識したソリューションではない。Giant「光栄使命」、Crytek「Warface」、Meteor「Hawken」もFree to Playを採用している。「Crysis3」以外はすべてFree to Playだ。
海賊版というテーマを考えると、Free to Playというビジネスモデルは、PCゲームを大きく広げることになると思う。50ドルをゲームに払うというのはハードルが高いが、Free to Playは無料で体験することはできるためとてもハードルが低い。このためプレーヤーベースが巨大になる。「Dungeon & Fighter(邦題「アラド戦記)」などの人気タイトルは、数万数十万ではなく100万単位でユーザーが集まっている。現在ゲーム開発者は、基本的な体験を無料で提供し、プレミアムな体験を有料にするFree to Playというビジネスモデルを採用し始めている。
そこで我々が解決したいのはそうした数百万というユーザーは、ゲームのメインストリームであって、エンスージスト(熱狂的なファン)ではないということ。GeForce Experienceでは、カジュアルユーザーでもコアユーザーでもワンクリックで手持ちのPCに最適な設定を当てはめることが可能になる。
Q:GeForce Experienceの最適化アルゴリズムはどのような内容になっているのか?
A:まず、我々は、スパコン/データセンターの中に、あらゆる組み合わせのCPUとGPUの組み合わせのPCがある。CPU、GPU、OS、ドライバー、あらゆるコンビネーションのPCを用意している。これによりデータセンターで1番高いパフォーマンス、画質のバランスを探しだし、ユーザーにとって最適なプロファイルを作成することができる。GeForce Experienceのソフトは、PCの構成を把握して、クラウドでデータセンターに接続した際に、1番近いものを探してデータを取ってくる。現在の設定と比べて最適な設定を持ってくる。
【GeForce Experience】 | |
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【GeForce GTX 690】 | |
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【GeForce GTX 690当選者と記念撮影】 | |
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(2012年 5月 1日)