Game Developers Conference 2012レポート

【GDC 2012】Naughty Dogのゲーム“ポリッシュ”哲学が明らかに
良いゲームを優れたゲームにするには全体の2割以上を磨き込みに当てるべし


3月5日~9日開催(現地時間)

会場:San Francisco Moscone Center



 「クラッシュ・バンディクー」や「ジャック×ダクスター」を皮切りに、SCEのセカンドパーティーとして名を挙げてきたNaughty Dog。プレイステーション 3と共にスタートした新規IP「アンチャーテッド」シリーズにより、今や押しも押されぬAAAタイトルメーカーに成長した。

 Naughty Dogは、2011年11月に最新作「Uncharted 3(邦題:「アンチャーテッド 砂漠に眠るアトランティス」)をリリースしたこともあり、今年のGDCではゲームデベロッパーとしては最多となる実に15ものセッションを実施。本稿ではその中でも近年重要度が増しつつある“ポリッシュ”(磨き込み)の重要性について語ったセッションを取り上げたい。

 「アンチャーテッド」は2007年に誕生したばかりの新シリーズである。わずか5年足らずの間に3作を完成させ、いずれも300万本を超える大ヒットを記録し、ゲームファンの間からの評価も高い。なぜこれほどのヒット作を連発できるのか。本セッション「The Last 10: Going From Good to Awesome」では、彼らの強さの秘密の一端が明らかにされた。




■ 「こんなことは誰も気にしないと思ったらそれは問題だ」

Naughty Dog Senior Game DesignerのBenson Russell氏
ポリッシュはゲーム開発の中でももっとも重要な要素のひとつ

 ゲームの最終段階で行なうポリッシュ(磨き込み)は、ゲーム開発のQA(品質管理)のプロセスの中でももっとも重要なプロセスとされる。しかし、一般的にはデバッグやβテストの一部として組み込まれ、タイムスケジュールが優先されるあまり軽視されがちだ。

 Naughty Dog Senior Game DesignerのBenson Russell氏は、ポリッシュの方法論はまだ確立されておらず、メーカーによってその方法論は異なり、自分自身の方法論もまだ完璧ではないと断った上で、重要なのはゲームの開発工程にポリッシュの時間を組み込むことだとした。

 Russell氏にとってポリッシュとは、ゲームをおもしろくする工程ではなく、不完全なところを取り除き、ゲームを完成させ、発売まで導くのが目的としている。Russell氏がとりわけ気をつけているのが、ゲームプレイの問題と演出まわりについての問題。ゲームプレイについては当たり判定やゲームプレイ上の違和感、スタックバグなど、演出まわりについては、ユーザーインターフェイスのわかりにくさや、アニメーションの違和感、タイミングのぎこちなさなど。Russell氏は「こんなことは誰も気にしないと思ったらそれは問題だ」とこうした部分を軽視する風潮を一刀両断した。

 それで、Naughty Dogのアプローチはというと「完璧を目指す」と断言。「気になったらすべて直す。ちりも積もれば山となり、全体のフィーリングに影響する。ささいなことが結果として没入できなくなるゲームにしてしまう」と説明。

 ここでRussell氏は「アンチャーテッド 砂漠に眠るアトランティス」で、実際に処理したポリッシュを、ビフォアアフターで見せてくれた。内容的にはカットシーンのわずかなグリッチ(ノイズ)や、アニメーションの違和感などで、言われれば気づくが一発ではわからないケースが多い。しかし、確かに直すことで、そのシーンの説得力が増している。Russell氏は、ポリッシュ前のシーンを忌々しげに「Stupid AI!!(馬鹿すぎるAI!)」という言葉で表現し、ポリッシュ後のシーンを見せながら「実際はこうでなければならない。わずかな部分だが直すことでゲーム展開がスムーズになる。これはとても大事なこと」と、ポリッシュの重要性を改めて力説した。

【グリッチのデモ】
残念ながら静止画ではほとんどわからないが、指摘されると、「ああ、確かにそうかもしれない」と思う。しかし、Russell氏はそのかすかな違和感が重要だという

 そして実際にポリッシュをスケジュールに組み込む方法を伝授。Russell氏は、ゲーム開発工程を、プリプロダクション、プロダクション、アルファ、ベータの4つの期間にわけ、アルファとベータの期間に組み込むのが最適とした。通常の開発はプリプロダクションとプロダクションの期間が長く、アルファとベータの合間にポリッシュに取り組むため、終盤はとにかく終わらせることが第一義になってしまうが、Naughty Dogではそれを防ぐためにアルファ、ベータの期間を長く取り、しかもしっかりとしたアルファ版を作成するという。ボリュームとしては全開発工程の20%から25%で、「重要なのは変更を恐れないこと、最後の段階になると、壊れるから触るなという人もいるが、時間が許す限り手を入れるべき」だとした。

【Naughty Dog Development Schedule】
左が通常の開発スケジュールで、右がNaughty Dogのスタイル。Naughty Dogは、ポリッシュを行なうアルファとベータの期間をガッツリ確保し、全体の25%ほどをポリッシュに当てているという

 Russell氏は、「ローリングデッドライン」と呼ばれる独自の手法も紹介した。ポリッシュのプロセスを一番妨げるのは“ゲームの大きさ”だという。ゲームの規模が大きすぎて、どこからどのように手を付けていいかわからない。これを防ぐために、ゲームを複数のセクションに分けて、スケジュールをずらして順番に磨きを掛けていく。実際には各セクションがオーバーラップすることもあり、その期間は大変きつかったということだが、これにより満遍なくポリッシュをかけることができる。

 また、ポリッシュをかける際に、目標とするバグの数をあらかじめ設定し、それを減らしていくという手法を採っているという。Russell氏は、当時のバグチェックリストを見せながら、「青がノルマで、赤がオーバーしてる数、シネマティックス担当はバグがどうしても多くなるが、バグを多く抱えている人をバグの少ない人がヘルプする」という。

【ローリングデッドライン】
ポリッシュを複数のセクションに分けて行なうローリングデッドライン。右のスライドはバグ潰しに実際に使ったグラフ

 Russell氏の見解は確かに説得力のある意見ばかりだが、バグを直すということは開発工程が増える。開発工程が増えると、開発費や開発期間に跳ね返る。これはシニアゲームデザイナーの立場では責任を取りきれない問題ではないか? それではRussell氏はこのジレンマをどう克服しているのかというと、「キーパーソンの承認が必要な体制を作る」と断言。決断を経営判断まで上げてしまうことで、現場レベルの課題とせず、経営サイドにもその問題を共有させるわけだ。ちなみにアルファ時点では、開発プロデューサー1人、ベータでは2人、そして最終段階では社長を含む3人の承認が必要となるという。この方法論は面白いと思った。いずれにしてもポリッシュの重要性を会社が認めてないとできない行為であることは間違いない。

 Russell氏はまとめとして、「全開発工程の最後の10%が一番大事。全体の20~25%をポリッシュにかけること。ローリングデッドラインの採用。階層分けした承認システム」と説明してきたことを繰り返し、「品質水準を高く設定し、目標は完璧なゲームです!」と再度宣言。クオリティに対する高いこだわりと、有言実行するための工夫に、会場からは大きな拍手が送られた。AAAタイトルを連発するメーカーは、優秀な人材がいるだけでなく、優秀な人材の力をうまく生かす優れたシステムが必ず存在する。日本のクリエイターも学ぶ部分が多いセッションだったのではないだろうか。


【完璧を目標に!】
わかりやすいまとめの後は、おきまりの人材募集。早くもNaughty Dogの次回作「The Last of US」が楽しみだ

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(2012年 3月 12日)

[Reported by 中村聖司]