SNKプレイモア、DS「ツキビト」

プロモーションムービーを公開 監督の鈴木一也氏にインタビュー


8月6日 発売予定

価格:5,040円

CEROレーティング:B(12歳以上対象)


 株式会社SNKプレイモアは、ニンテンドーDS用アドベンチャー「ツキビト」を8月6日に発売する。価格は5,040円で、CEROレーティングはB(12歳以上対象)

 「ツキビト」は目に見えないが人にツいている奇妙なモノで、ツいたツキビトによってその人の運気や、性格などに影響を及ぼすという不思議な存在。

 本作は「ツキビト研究所」所長に「新耳袋」などで知られる木原浩勝氏、監督に「女神転生」などを代表作に持つ鈴木一也氏、デザインに「リヴリーアイランド」などで人気のデザイナー集団、MONSTER★SOUP、音楽に「SHADOW HEARTS」などを手掛けた弘田佳孝氏、ラインプロデューサーには「SHADOW HEARTS」、「DQ&FF inいただきストリートSP」などのJames Wang氏といったクリエーター陣によって制作されている。

 ゲームは、「神楽町」と呼ばれる町を舞台に、10章で構成されたストーリーを進めていく謎解きアドベンチャー。主人公は神楽町に住む少女で、思いつめて自殺を考えるも、そこで一切の記憶を失った少年カガミと出会うところから物語は始まる。2人は町を見守るツキビトに見込まれ、あちこちに点在する「コマリゴト」の原因を究明することになる。時には町を歩いて人と話し、人との会話から生まれる「気モチ」を集めたり、タッチペンを使ったミニゲームで対決したりしながら、数々の謎を解明していく。

 ゲームコンセプトは奇妙でどこか懐かしく、切ない、謎解きアドベンチャー。本稿では同作のプロモーションムービーならびに本作監督の鈴木一也氏のインタビューをお伝えする。

【プロモーションムービー】




デジタルデヴィル株式会社 代表取締役/ゲームクリエイター 鈴木一也氏

―― 早速ですが、鈴木さんが「ツキビト」の世界観や設定、シナリオに携わられているとお聞きしました。本作のコンセプトや特徴などを教えていただけますか?

鈴木一也氏:元々はシナリオを作る前に所長の木原浩勝さんとキャラクターデザインを手掛けるMONSTER★SOUPさんが「ツキビト」という設定を作っていましたが、途中から一緒に作っていきました。たとえばですが、ツキビトたちは「しゃべれない」、「コミュニケーションはダンスで行なう」といった設定ですね。これはミニゲームにあるダンスバトル(ツキビト舞踏)に活かされています。コミュニケーションを取るために相手と同じダンスをすることで、気持ちが通じ合って、ツキビトに意図を伝えるためのものです。ゲーム制作に入る前に、こうしたさまざまな設定について時間を掛けて話し合い、形作っていったんです。

 キャラクターデザインはMONSTER★SOUPさんですが、シナリオ上必要なキャラやツキビトのイラストを依頼すると、良い意味で設定の斜め上をいく絵がでてきて、「すげぇな」という感じで喜んで仕事をさせてもらいました。MONSTER★SOUPさんの考えていることは筋が通っていて、時々ぶつかるんですけど、次の新しいものへのひらめきにもなるので、いい感じでやれたうえに、本懐に関わるところにまで関わっていますね。彼らの持っているモヤモヤとしたツキビト感に対して、「こうなの?」と提示すると「そうじゃなくてこう」と面白いアイデアが出てきて「じゃあ、ゲーム的にはこう表現しようか」とか、そんな感じで固まっていきました。

 ゲームの舞台になっている「神楽町」というのは、東京にある神楽坂がメインのモデルになっています。神楽坂でロケハンを行なって、いい場所を参考にして作っています。ほかにも江ノ島や鎌倉などモデルになった場所があって、昔の観光地などもロケを行ないつつ、懐かしい雰囲気を出していますね。ただし、神楽町は観光地としてはさびれてしまってますが……。

 神楽町の設定は、町自体がツキビトを信仰する「オツキ信仰」によって栄えていた町なんですが、60年前にこのオツキ信仰の中心人物であるオツキ様がいなくなってしまって、廃れてしまったというバックストーリーがあります。

ゲームの世界「神楽町」は、名前から想像できるとおり東京の神楽坂がベースになっている

―― オツキ様というのは、神主さんや巫女さんのような感じですか?

鈴木氏:そんな感じですね。このオツキ様というのは「ツキビト見」でより強力な力を持っていて、直接的にツキビトに力を与えていたのですが、それがいなくなり、「コマリゴト」がたまってしまったと……。ゲームではこのツキビトの「フタバエル」が、ツキビトが見える主人公とカガミ君の2人を新しいオツキ様として育てるために、クエストを与えていくという内容になっています。また、カガミ君が記憶を失った原因というのは、暗いお話が背景にあったりします。

―― プロモーションムービーでも出ていましたが、首を吊ったロープを切られて頭を打ってカガミ君が記憶を失ったとかではなくてですか?

鈴木氏:それはないですね(笑)。記憶を失ったのも重要な謎のひとつです。何も覚えておらず、自分には哀しみしか無くて、どうしていいかわからなくなって、いいところに吊るものがあって、使っちゃおうかという感じですね。カガミ君の家も町の中にあるのですが、最初はそれもわからない。両親もどうしたかわからない。そうした記憶を取り戻すのを、主人公が助けていくんです。

―― 家も覚えていないというのは重症ですね。

鈴木氏:カガミ君本人は、最初のうちは言葉も忘れてしまい、「ウー」や「アー」としかしゃべれない状態なんですよ。ツキビトの設定では、言葉を使えるのは100年くらいツキビトをやっているものだけになっています。ただ、ツキビトたちは直接的に言葉を発することはできないので、媒体として人を介す必要があるという設定もあります。カガミ君はちょうど空っぽなので、ツキビトの「フタバエル」がツいてしゃべりやすいんです。

 ゲームの本編では、メインキャラクターの1人であるカガミ君の記憶を取り戻すという部分と、ツキビトの「フタバエル」によって困りごとを解決していくというのが基軸になっています。またカガミ君の名前ですが、これはストーリー中に偶然呼ばれることになるのですが、この名前は前からも使われていてという謎などもでてきます。

カガミ君と主人公。序盤のカガミ君は言葉を発することはできないが、ツキビト「フタバエル」に取り付かれ、主人公は「コマリゴト」を聞くことになる

―― 鈴木さんというと、大司教など愛称と共にオカルト系のイメージがありますが、「ツキビト」もそういうテイストかと思う人もいます。プロモーションムービーの冒頭ではかなり暗い印象を受けましたが、ゲームのグラフィックスやイラストは非常に暖かいものになっていますよね。MONSTER★SOUPさんというと女性受けの良いイラストなども有名ですが、本作は女性ターゲットも意識しているとかでしょうか?

鈴木氏:プロモーションムービーの部分で暗いのはほんの最初だけですよ。ゲーム部分でいうと冒頭の10分程度だけになります。ゲームのテイストとしては、きもかわ系のモンスターを作るMONSTER★SOUPさんと神様悪魔系の私が合体すると、ハートフルな内容になってしまいました(笑)。たしかに女性は意識していますし、「ツキビト」に登場するキャラクターは、MONSTER★SOUPさんに存分に描いてもらったら女性向けになるだろうと予想はしていました。ストーリー自体も中学生の男の子と女の子のひと夏の冒険という感じなので、女性に遊んでいただいても楽しい内容になっています。

―― 甘酸っぱいような内容になっていると。

鈴木氏:そうですね。淡いというか、物語のバックに流れてるものには三角関係もあったり、また微妙に四角になったりすることもあります。それがとても切ない物語につながっていく。

―― ゲーム中には、人間の黒い部分として「裏サイト」など、現代社会で問題にもなっているような話もでていますが、これはどのように捉えたものでしょうか?

鈴木氏:主人公の設定の1つに、人の気持ちが形や色に見える力があります。ですので町の人がいいことを言っても色は黒く見えるようなのとか、人間の裏の部分をほのぼのと描いていってます。登場キャラクターは見ての通り変な人ばっかりで、キャラクターの個性を生かすという意味でシナリオも考えていますので、どこか毒を持つ黒い部分もあります。黒いところもあるんだけども、心温まる方向性を持たせている感じですね。

―― キャラクターの絵柄を見ていると、親しみやすいというか、どこかで見たことのあるようなデザインが多いですよね。

鈴木氏:暗い部分よりも個性的で明るい部分がいいですよね。1話1話が人助けということになっていますので、内容も前向きになっています。

 キビトというのが人々からでる気モチを食べて生きているので、その気モチの善し悪しによって、いい効能を持つものもいれば、悪い効能を持つものもいます。たとえば、「セカイデヒトリ」というツキビトは、誰にも注目されないという効能がありますが、自分自身の独自の世界を持てるというメリットもあります。ゲーム中に登場するキャラクターにはこれが付いており人は誰にも注目されず、さみしい思いをしているため騒ぎを起こしてしまいます。

―― それを主人公とカガミ君が良い方向へ持っていくと。

鈴木氏:そうですねツキビト舞踏(ダンス)で、いい方向へともっていく感じです。

―― ところで、キャラクターの絵の中に悪の秘密結社のような人たちがいますが、彼らは一体何者ですか?

鈴木氏:N結社という団体ですね。世の中は間違っているという信念の元、ツキビトをコントロールする力で、様々な「コマリゴト」を強引に解決しています。N結社の中には強力な力を持ったツキビト見もいるんです。

 主人公たちは「コマリ絵馬」を見て解決してくのですが、N結社はゲーム中の裏サイトを見て、苦情を発見したら、力づくで解決していくと正反対のスタイルになります。当然、主人公たちとの関わり合いも謎の1つになっています。

N結社のメンバー。強引な手法で、コマリゴトを解決していく。決して悪の秘密結社ではない

―― 鈴木さんがシナリオを書くにあたってテーマを考えられたと思いますが、どのような部分に重点を置かれていますか?

鈴木氏:テーマを説明するのは1番苦手ですが、1つあるのは「不満」ですね。N結社が解決していく町の人たちが抱えている「コマリゴト」というのは裏サイトにも書かれていますが、隠された不満など、それらをピックアップして解決していくという方法ですかね。

 こうした不満は現代社会にはびこっています。N結社の解決方法は強引ですが、皆心の中ではそれを望んでる。ネットなんかでも、犯罪や不正に対してすごく厳しいですよね? N結社はそうしたサイレントマジョリティーの目に見える姿です。一方で主人公たちは対話によって優しく解決していこうとする。そういった解決の方がいいんじゃないかなあ、というメッセージは込められています。

 あとは、町の絵がすごくいいんですが、町のそのままいる空気感というのを表現したいかなというのがあります。僕個人としてはデビット・リンチの「ツインピーイクス」とかがすごく好きで、あそこに登場する人々ってみんな変わってるじゃないですか、そういうののゲーム版という感じですね。キャラクターを面白くしていくことによって、不思議な人たちといるだけでも楽しいという。

 ちょっとしか登場しないキャラクターでも、その台詞の一言でキャラクター性や存在感が出るようにするのを大事にしています。

―― わかりやすいキャラクター性とは、セリフ回りなどでしょうか?

鈴木氏:わかりやすいかどうかは、あれなんですが、すごく見た目と真逆のことをしてるんです。たとえば乙女心を持った格闘家なんてのが立ちはだかるんですけど、彼とどっちがより乙女なのかって言い合う「コトノハバトル」をするんですよ。そのときの台詞で「これが乙女なのか!?」とか楽しんでもらえるとうれしいですね。

 ほかにも、町で1番の美男美女のカップルがいるのですが、ツキビトの力によってちょっと変わったバカップルになってるんですね。その微妙な恥ずかしさを感じてもらったりとか。

 あとは余計な裏設定を読み取って遊ぶみたいなことですね。ミチハルって中学生のキャラクターですが、サービス精神が旺盛でもってチキンハートなんですが、彼は天文部に入っているんですね。でも夜の部活に参加しないで肝試しやる。何でかな~とか考えてもらうと嬉しいです。僕が好きなのは汗かきサラリーマンでして、いつも汗をかきながら愚痴を言っているだけという。でも最後の方で言葉尻に一言「ふたぐん」という(クトゥルフ好きの言葉)言葉が入っているなんて遊びも入れています。

個性豊かなキャラクターが登場。彼らのツキビトとはミニゲームでコミュニケーションを取る

―― ハートフルな部分についてですが、鈴木さんが新しいチャレンジをされていたり、女性などがターゲットの場合、泣けるような要素などはございますか?

鈴木氏:泣ける部分だと結末にいっちゃいますね。

―― では、結末までの中にサブストーリーやサイドストーリーみたいなものでは?

鈴木氏:泣けるのは余りないかもですが、笑わなくなった少女を笑わそうとして、一生懸命漫才の修行をする男の子とか、可愛いですね。あとはカガミ君の両親はどうなってるのかとか、解決されないで残る謎がいくつかあるんですが、そうしたのをユーザーさんに推理してもらう謎が隠されています。

―― 鈴木さんが自分についているツキビトがいるとしたら、何だと思いますか?

鈴木氏:ワタル君にツいてるやつかな……「オレガミチ」(空気を読まないツキビト)というツキビトがいますが、そのままのが付いているかと思います。ツキビトは複数つくこともあるので、ぜひとも「チャバシラタチマクリ」(運気を向上させるツキビト)に来てほしいなと。情熱的になって集中させるといったツキビトもいますが、こいつはすぐに色々なところを渡り歩いて長くいついてくれないんですよ。

―― 最後に読者の方へ向けたメッセージをお願いします。


鈴木氏:重く考えないでほしい部分があって、町とかキャラクターが話していることとかを楽しんでほしいですね。そうして楽しんでもらっているうちに、プレー中のちょっとしたことが心に残ってほしいかなと思います。テーマとして挙げた「不満」の部分などでは、いじめの問題なども扱っていますが、それは置いておいて、町のちょっと変わった世界を楽しんでくださいというところです。

 N結社の行動とかは、とても現代のネット社会的な動きに近いものです。匿名の巨大掲示板とかって社会の矛盾点とかまずいところを読ませてくれますが、すごく断罪的じゃないですか。ちょっとしたことも「スイーツw」で全否定みたいな流れがあって、それはそれでいいじゃんという見方もありますが、そういう動きって今の世の中で強いんですよね。

 でも、そうじゃなくって、それらの解決の仕方はとりあえずツキビトのせいにしてもいいし、主人公たちみたいに明るい解決の仕方はないのかな……と、考えてほしい部分でもありますね。

 またストーリー中には、カガミ君が記憶をなくした謎や主人公の少女が自殺を考えた謎なども答えを直接書いていなくて、推理していくという流れを用意しているので、プレイしていただいている人にじっくり考えてもらえたらと思います。そういった完全に謎を解かない謎解きアドベンチャーとでも言いますか(笑)。もちろん謎を解く伏線もちゃんと用意させていただいています。

 それぞれのキャラクターにツキビトがついているのですが、現実にもこのツキビト遊びができればと思います。先ほども出ましたけど、「チャバシラタチマクリ」という運気が増すツキビトがいますが、そういう部分も加味して遊んでもらえると面白いかなと思います。例えば公式サイトとかでも、ユーザーさんからもこう言うツキビトを見たという投稿を待って、それを絵にしていくということをやりたいですね。

―― 本日はありがとうございました。

【スクリーンショット】

(C)SNK PLAYMORE

(2009年 6月 19日)

[Reported by 鬼頭世浪]