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初開催された「eSports Summit」セッションレポート

競技ゲームの盛り上がりは、開発面もユーザーコミュニティが支えている!

3月2日~6日開催



会場:San Francisco Moscone Convention Center

大会場で盛大にオープンしたeSports Summit

 GDC 2015ではVRゲームやクラウドゲームといった新興のゲームジャンルが大きなトピックとなっていたが、それに並び、競技性の高いゲームをスポーツとしてプレイする新しい文化、すなわちe-Sportsにもハイライトが当てられていた。

 実際、e-Sportsは世界的に大きなムーブメントとなっており、特に「League of Legends」や「Dota 2」といった人気のMOBA系ゲームでは、最高峰の大会なら賞金総額数億円、ストリーミング放送の視聴者は延べ数千万人から億人単位に登るというほど。プレーヤーにとってはもちろん、ゲーム開発者にとっても、e-Sportsの存在はその大きさを増している。

 それを受けて、会期2日目のチュートリアルデイにはe-Sportsをテーマとする集中連続セッション「eSports Summit」が初開催された。これは、AI、F2P、ナラティブ、インディーゲームといった各Summitに並んで、e-Sportsの存在がゲーム開発者にとって重要なものになってきたことを明らかに示している。本稿では「LoL」や「StarCraft 2」、「Counter-Strike: GO」といった人気タイトルが多数取り上げられた関連セッションの模様をご報告しておこう。

Summit開幕1発目のセッションでは「League of Legends」のリードゲームデザイナー、Ryan Scott氏がトーク。e-Sports文化の盛り上がりや「LoL」の開発を率いる日々についてざっくばらんな話を展開

人気コンテンツはMODベース。ユーザーの努力で育った文化

MODコミュニティ出身の開発者、Rysan Schutter氏
観戦用UI「GameHearts」。試合内の重要な情報がわかりやすく表示される
その出来の良さから大きな大会でも採用されるようになった

 eSports Summitの各セッションでは、取り上げられるゲームそのものの開発者ではなく、MODコミュニティ出身の人々、平たく言えばユーザー側よる講演が目立ったのがひとつの大きな特徴と言える。

 そのひとりは、「StarCraft II and GameHeart: Evolving eSports Interface with Modders」というセッションで講演したRysan Schutter氏だ。

 Schutter氏は現在でこそBlizzard Entertainmentの社員として「StarCraft II」開発チームの一員となっているが、それはわずか半年ほど前からのこと。そもそもBlizzardに入ったきっかけは、在野のMOD開発者として「StarCraft II」の大会中継用オーバーレイUI「GameHeart」を開発し、コミュニティから高い支持を得たことだった。

 共同開発者であるMIT Game LabのPhilip Tan氏と一緒に行なった講演で、Schutter氏は「GameHeart」開発の経緯と、人気につながった秘密を紹介している。

 「StarCraft II」は1対1で対決するRTSで、マップのあちこちでいろいろなことが同時並行的に進行することが特徴だ。標準のプレイ用のUIでは、秒刻みで変化する試合状況を観戦者の視点で追いかけ続けることが難しい。そこで、大会の盛り上がりにつれて、観戦専用のオーバーレイUIMODが多数作られるようになった。

 Schutter氏が開発した「GameHeart」はそういったMODの中の1つ。度重なる改善を重ね、観戦者が試合の状況を非常に掴みやすく工夫されていることが特徴だ。その表示内容はあくまでシンプルにまとめられているのだが、重要な情報をアダプティブに選択してレイアウトするシステムによりプレイ画面の見やすさを維持したり、対決プレーヤーの情報を、横にではなく縦に並べることで、各要素の有利不利をひと目で比較できるようにしてあるなど、多数のノウハウの結晶といったものになっている。

 他にも、各ユニットのチームカラーを強調する機能や、それぞれの建物で生産中のアイテムをオーバーレイでわかりやすく表示する、マップの各地で起こった重要なイベントをポップアップで表示していくなど、e-Sports的に重要な情報が過不足なく視聴者に伝えられるよう多数の工夫が加えられているのだ。

 その出来映えがコミュニティから高く評価された「GameHearts」は、やがてBlizzardに認められて事実上公式の大会用UIに採用。世界的なe-Sportsの盛り上がりは、競技者だけでなく、在野の開発者たちも大いに支えているというわけだ。

スポンサーやチームロゴの合成表示といった、ショービジネス向けの機能もしっかり実装されている
チームカラーを強調して視認性を高めたり、各地で発生中のイベントをわかりやすいアイコンで表示。ファンが試合の山場を逃さずに観戦できるほか、実況や解説者の仕事も容易になる
コミュニティマップ製作者のSal Garozzo氏は元プロゲーマーだ
Garozzo氏らが制作した人気マップ「DE_CACHE」
爆弾設置サイトの例。ゲーマーとしての経験を活かし、緻密な計算でレイアウトされている
トリックジャンプポイントの例。失敗しやすく時間もかかるが、うまくいけば意外な方向から攻撃できる
講演者たちがお手本に挙げた「DE_DUST2」

 現在e-Sports界で1番人気のFPS「Counter-Strike: GO(以下CS:GO)」についての講演を行なったのもMODコミュニティの人物だ。「CS:GO」はSteam上での同時接続ユーザー数が50万人を越えるなど前代未聞の人気ぶりを示しており、各種大会も世界的に盛り上がっている。その人気を影から支えているのも、ユーザー側の努力と創意工夫にほかならない。

 その「CS:GO」において毎日2万時間以上が遊ばれているマップ「DE_CHACHE」を制作したのが、コミュニティマップ製作者のSal Garozzo氏とShawn Snelling氏だ。

 マップのレイアウトデザインを担当したGarozzo氏は、10年に渡るプロゲーマー経験を持つ人物。その「Counter-Strike」に対するプレイ技術、愛情、深い知識、試合展開への造詣などなどが渾然一体となって、「DE_CHACHE」の楽しく奥深いゲームプレイを生み出している。

 例えば、勝負どころを限定しつつも裏とりなどの立ち回りも可能にする接触ポイントの配置、戦略的にバリエーション豊かな選択肢を持つ爆弾設置サイトのレイアウト、“ブースト”(他のプレーヤーを足場に高い場所に登る)を利用できる地形、高度なトリックジャンプでのみ利用できるショートカット、キャンピングと壁抜き撃ちのすくみが発生する勝負ポイントなどなど。誰もがプレイして楽しいと同時に、ハイレベルな試合ででまた一味違った展開が見られる工夫が随所に取り入れられているのだ。

 その上で、アートデザイン面を担当したShawn Snelling氏が強調したのがマップの“Readability”(可読性)だ。過剰な陰影を抑えてプレーヤーの姿を見やすくしたり、マップ各地に特徴的な地形を用意して位置関係を把握しやすくするような工夫だ。このような工夫はプレイしやすさを高め、プレーヤーをより勝負そのものに集中させることに役立つ。

 そんな哲学を持ってマップ制作に取り組んできた両氏が“歴代最高”のお手本に挙げたのは、初代「Counter-Strike」時代から圧倒的な人気を誇り、いまもトップランクの人気を持つマップ「DE_DUST2」。その優れた可読性とミニマリズムに傑作の秘密があるとし、新たなマップ制作でそれを越えることは難しいが、常に意識していることを明かした。

 この講演で印象的だったのは、講演者から溢れ出るe-Sportsと「Counter-Strike」への愛だ。好きだからこそ誰よりも深くゲームをプレイし、その蓄積をマップデザインに反映できる。その結果が、プロが作った公式マップを越えるほどの人気マップをもたらした。好きこそものの上手なれ、という格言がぴったりである。

とある試合、爆弾設置サイトで選手がハンドガンで3人抜きを成功させたシーン。考えぬかれたレイアウトは、ハイレベルな試合において印象的な場面を作り出す
レイアウトを工夫し、様々なテクニックを考慮した勝負どころを各所に作りこんでいる
アート・デザインにおいては可読性とミニマリズムを重視。そのお手本として「Team Fortress 2」や「Mirror's Edge」といった、意識的に記号性を高めたデザインが挙げられている

(佐藤カフジ)