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ヒーローを執拗に追う怪物を生み出す「Sunset Overdrive」のAI

厳しすぎず、間抜けでもない、緊張と爽快感を生み出すにはどうするか?

3月2日~6日開催



会場:San Francisco Moscone Convention Center

 「AI in the Awesomepocalypse - Creating the Enemies of Sunset Overdrive」はInsomniac GamesのSenior Gameplay Programmer,Adam Noonchester氏によって、「Sunset Overdrive」の“敵”のAIをどう作っていったかが語られた。

 ゲームにおける敵は、プレーヤーのヒーロー性を際立たせるための存在だ。プレーヤーに爽快感を与えるには、ひたすら効率よくプレーヤーを追い詰めるのではなく、かといって間抜けすぎない、“やられ役”としての美学を要求される。特に「Sunset Overdrive」では敵は群れをなして襲いかかってくる。Noonchester氏はどんなアプローチでこの命題に挑んだのだろうか。

わらわらと集まってくる集団の敵。適度な緊張を生み出すバランス

Insomniac GamesのSenior Gameplay Programmer,Adam Noonchester氏
様々なルートでプレーヤーを追ってくる集団。多彩なAIの組み合わせでこの感触は作られている
プレーヤーからの直線で、AIを制御

 「Sunset Overdrive」は大企業フィジコが発売するエナジードリンクによって人々が怪物「OD'd(オーディード)」に変わってしまった世界で展開されるアクションゲーム。プレーヤーはOD'dがひしめく街中を電線でグラインドし、自動車をトランポリン代わりにして飛び跳ね、フリーランニングそのままの爽快なアクションで駆け抜けていく。

 OD'dは群れをなしてプレーヤーキャラクターを追い回す。街を進んでいると敵の数はどんどん増えていく。彼らは人間を超える身体能力を獲得しており、高い壁もよじ登り、高所から飛び降りてきてプレーヤーの回りに集結してくる……。

 Noonchester氏はOD'dのAIの基礎となっているのは、Insomniac Gamesが手がけたFPS「RESISTANCE3」の技術も使われている。しかし「Sunset Overdrive」はオープンワールドのゲームであり、フィールドは大きく異なる。プレーヤーが移動方法と、OD'dの移動方法は異なっている。OD'dは壁もよじ登り、高いところは飛び降りる。開発スタッフは怪物ならではの移動アニメーションを作り上げ、組み合わせてOD'dの移動を表現した。

 次に「プレーヤーを追いかける挙動」である。最短距離をまっすぐ進むようにすることはできるがそれではプレーヤーはすぐに囲まれ倒されてしまう。そのようなプログラムではプレーヤーのヒーロー性を表現できない。OD'dのAIでは、まずプレーヤーキャラクターの“周り”を追いかけるようにした。プレーヤーを取り囲んでくるようにポイントを設定したのだ。

 さらにグラインドなどで移動しているときは、高低差があってもポイントそのものは高さを無視して設定されるようにした。ビルの縁に立っているとき、ビルの下にわらわらと敵が集まったり、橋の下を進んでいるとき橋の上に敵が集まってくるような動きが可能となった。

 プレーヤーを追いかけるとき、OD'dは半円を描くように広がるような動きも見せる。先頭は頭1つ抜けて、真上から見るとアーモンドのような形になる。さらに近くによると飛びかかるモーションをとりいったん立ち止まる。プレーヤーが走り続けていれば簡単には敵に追いつかれないという状況を、露骨ではない形で作り出している。また、プレーヤーを追いかけるとき、走り出しはわざと反対方向に動き、迂回するかのような曲線を描いて追うように設定した。

 これらの“仕掛け”により、OD'dはプレーヤーの恐怖をあおるかのようにしつこく、集団で追いかけることができるようになった。見た目は恐ろしいのだが、プレーヤーがきちんとオブジェクトを利用し、ジャンプしていると、かなり危機を回避できるようになっている。演出として非常に効果的に危機を表現できるAIとなっているのがわかる。

 「Sunset Overdrive」ではOD'dにより破壊されてしまった社会で生き抜く無法者も存在する。彼らはアサルトライフルを持ち、こちらに射撃を加えてくる。建物の影に隠れるなど狡猾さを感じさせる。このAIはプレーヤーキャラクターから放射状に伸びる線で制御されている。古本はプレーヤーから伸びる線を追いかけているが、プレーヤーの線が障害物に当たると、その障害物に隠れるように機能するのである。

 もちろん隠れたままだと攻撃できないので、攻撃時は設定された位置からプレーヤーから伸びる線に対して対象の位置に移動する。攻撃時は障害物から出て全身をさらすため、こちらにとっては攻撃のチャンスになるのだ。

 また放物線を描く毒液を放射してくる変異型のOD'dもいる。彼らの攻撃は赤いサークルで表現される。そのサークル内にとどまっていると毒液が降ってくるので、プレーヤーは急いでサークルの外に出なくてはならない。

 このサークルは数パターンあり、プレーヤーに危機感を味わわせるスパイスとなっている。また、グラインドで高速移動しているときなどはこちらの進行方向にサークルを出現させて、プレーヤーを焦らせる。方向転換をするのが正解だが、実はそのまま加速して突っ込んでも避けられるようにもしている。これも危機感と、切り抜けたときの爽快感をもたらす仕掛けだ。

 Noonchester氏はこういったAIを作るためにはプレーヤーの意見が必要不可欠だと語った。社内できちんとQAテストを行なって実際にプレイしているのと同じ環境で戦闘のバランスを見直す。いつでも簡単にカスタマイズできるプログラムにしておく、そしてゲーム制作、AI構築にはたっぷり時間をかけるべきだという。

 最後にNoonchester氏は「物事を容易にするためには、グループのロジックを用いる」、「AIが参照しやすいロジックを心がける」、「プレーヤーが“できること”に対して集中する」という3つの考えるべき点を提示した。

OD'dの移動経路と、壁を越えるアニメーション
いくつものプログラムを組み合わせ、プレーヤーを追う集団を作り上げる
障害物に隠れつつ射撃するプログラム。敵としての“弱さ”も考慮されている
これ以外にも、様々な敵のAIが用意され、バリエーション豊かな戦いの感触を生み出している

(勝田哲也)