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ゲームだからこそできる「悪の道」への選択と、ストーリー展開
実は“悪のプレイ”を積極的に選ぶプレーヤーは10%以下?
(2015/3/4 16:55)
「Beyond Binary Choices: How Players Engage with Morality」というタイトルで、 Microsoft Technical EvangelistのAmanda Lange氏は、「ゲームの中で提示される善と悪」をテーマに講演を行なった。
ゲームにおいては善と悪のどちらもプレイできるものがある。また、社会的には悪とされる行動をあえてインタラクティブ性を持たせることで、プレーヤーの心に葛藤を生じさせる手法もある。これらの行動に対し、Lange氏は自身の解釈、ゲーム論を展開していった。
悪の選択肢と結果を提示することで、ゲームはリアルに近づく?
Lange氏は様々なメーカーやタイトルに関わり、クリエーターのゲームをプレイしてきた。その中でLange氏が強い影響を受けたのがピーター・モリニュー氏と彼のゲームであるという。
特に彼の「ゴッドシム」とも呼ばれる神の視点のゲームでは、善の神だけではなく、悪の神もできるところに強く衝撃を受けた。Lange氏はモリニュー氏が闇の神の帝王であり、気がつくと自分も“すっかり染まって”しまい、悪の神として自分が行動しゲームをプレイしていることに気がついた。
モリニュー氏は善と悪どちらもプレイできる「Fable」シリーズも手がけている。しかし、モリニュー氏はユーザーからデーターをとってみたとき、実際は一握りのプレーヤーしか悪側をプレイしていないことがわかり、嘆いたという。善側と同じくらい時間をかけ、悪側のコンテンツを作っても、プレイする人はそれほど多くはないというのだ。
実際にそうなのだろうか? Lange氏も統計を取り、調査を進めていった。そうすると、善と悪がプレイできるとき、最初のプレイで悪側を目指す人は10パーセントほどだった。しかし、“2度目のプレイ”の場合、悪側をプレイする人は50パーセント近くまで上昇するのだ。悪のコンテンツも、プレーヤーは確実に楽しんでいるのだ!
善と悪をプレイできるというゲームとしては、「インファマス」シリーズがある。「インファマス」では自分の超能力を利己的に使うことで、様々な要素が変化していく。「マスエフェクト」シリーズにも選択の結果で、プレーヤーの善悪のパラメーターが変化し、ストーリーに影響を与えていく。こうした選択があることで、ゲームによりリアルな感触が与えられていると感じるプレーヤーが多い、というデータもLange氏は提示した。
また、「プレーヤーが善悪の選択を迫られる場面のあるゲーム」も数多い。「HEAVY RAIN」ではどうしても許せない犯人を追い詰めたとき、私怨を晴らす選択肢が提示される。「スカイリム」では、善のドラゴンを殺さなくてはいけない状況に立たされることがある。「バイオショック」では少女の姿をした「リトルシスター」で選択が提示される。また、「Call of Duty Modern Warfare 2」ではプレーヤーに選択権すら与えられず、テロリストとして一般市民に銃を撃つシーンなどもある。
最後に「重要なポイント」としてLange氏は、今回の統計はあくまで一例であり、全体的なプレーヤーの傾向を必ずしも示さないこと、プレーヤーがコンテンツを楽しむものと、開発者が「こうして欲しい」と思うことは、必ずしも一致しないこと、プレーヤーは“純粋な悪”を望む人は少なく、悪を演じるには葛藤を感じ、強制的にさせることで強い摩擦を感じてしまうことなどを指摘した。
1つの物語に対して、複数の結果を用意し、プレーヤー自身のインタラクティブな選択でそれらを提示するだけでなく、比較することすらできるというのは、「ゲーム」だからこそできる「物語り(ナラティブ)」だろう。
ナラティブという言葉は現在様々に解釈され、議論されているが、GDCの「ナラティブサミット」においては、「どんな手法で、どのような物語を語っていくか」というテーマに対して、様々な持論の展開や、疑問の提示が行なわれていた。日本ではどのように「物語り」の議論が展開されていくかも興味が惹かれるところだ。