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【GDC 2014】ハリウッド式三幕構成に死を! ゲームストーリー作りの最新事情

ナラティブ研究最前線。ゲーム独自のストーリー作成法が語られる、はずが……

3月17日~3月21日 開催(現地時間)

会場:San Francisco Moscone Convention Center

映画の脚本術としては基本の三幕構成。色々パターンがあるが、基本構造はどれも一緒

 100年以上前から映画産業が醸成されてきたハリウッドでは、「三幕構成」という脚本作りの基本が存在する。三幕構成には様々なバリエ―ションがあるが、主要なものでは「Setup(組み立て)」、「Confrontation(対立)」、そして「Resolution(解決)」の3段階で物語が構成される。盛り上がりをグラフで示すとピークは終了直前で、滑り台を逆から登ったような線になる。日本で言えば起承転結、もしくは序破急と似たような考え方だ。

 映画、特にハリウッドでこの手法はもはや常識であり、ゲームのストーリー作りにおいても三幕構成が参考にされることが多々あるが、今回紹介するセッションはそんな三幕構成がゲームのストーリー作りにはマッチしていないこと=“死”を示しつつ、ゲームならではのストーリー構成を探るというなかなか挑戦的な主旨だった。

 セッションが行なわれたのは、GDC 2014「Game Narrative Summit」内でのこと。「Game Narrative Summit」では単純なストーリーとも区別された、ゲーム特有の物語構成「Narrative(ナラティブ)」について集中的な講義が設けられている。

 登壇したのは、Riot Games Narrative LeadのTom Abernathy氏とMicrosoft Game Studios Design LeadのRichard Rouse III氏。特にRouse氏については、GDCでのゲームデザインに関する発表が恒例となっており、来場者にも人気のセッションとなっていた。

Riot Games Narrative LeadのTom Abernathy氏
Microsoft Game Studios Design LeadのRichard Rouse III氏

「アンチャーテッド 黄金刀と消えた船団」や「The Last of Us」も三幕構成を応用

三幕構成によって作られた映画「トイ・ストーリー」と、「アンチャーテッド 黄金刀と消えた船団」

 Abernathy氏が三幕構成のロールモデルとして取り上げたのは、映画「トイ・ストーリー」。映画はバズ・ライトイヤーが新しいオモチャとして登場するところから始まり(Setup)、ピザ・ステーションに主人公2人が置いてけぼりにされる、バズが本物のスペース・レンジャーではないと悟って気力を失うという2つのピンチを迎え(Confrontation)、最後はロケット花火でバズが空を飛んで自信を取り戻し、さらに引っ越しで移動中の車に追いつくことで問題が一気に解決され、ハッピーエンドを迎える。

 三幕構成を使ったゲームとしては、「アンチャーテッド 黄金刀と消えた船団」(2009年)が挙げられた。「アンチャーテッド 黄金刀と消えた船団」では「トイ・ストーリー」と同様に物語全体(1つの事件)を通して三幕の構成となっており、宝探しを持ち掛けられる冒頭から列車が大破するピンチを経て、最終的なエンディングへと向かう。

 また三幕構成を繰り返すことで連続ドラマ的なストーリー作りになっているのは、「ウォーキング・デッド」(2012年)と「The Last of Us」(2013年)だ。「ウォーキング・デッド」はもともと5つのエピソードを1つずつ売り出していくという販売手法を取っており、三幕で構成された1エピソードを繰り返すことで最終的な結末へと向かっていく。

 「The Last of Us」は1つのパッケージではあるが、いくつかのストーリーが季節と場所を区切って語られており、段々と盛り上がりの振り幅が大きくなるように設計されている。

連続ドラマ的手法で作られた「ウォーキング・デッド」と「The Last of Us」

ではゲームにおけるストーリー構造は? 「よくわかりません!」

オープンワールドについては、「当てはまらないのでわかりません」。ここら辺からセッションの雲行きが怪しくなっていく
ゲームのストーリーに構造はありません。最新の構造を解説するとしていた講義タイトルをその場で修正

 ではこの三幕構成を受けて、オープンワールドタイプのゲームのストーリー構造はどうかというと、 Rouse氏は「実際、よくわからない(笑)」とした。「Fallout 3」(2008年)を例にとると、始まりと終わりは決まっていても、後は「ウェイストランド」の探索を繰り返すだけ。無理やり構造に当てはめようとしても、プレーヤーによって内容は全く異なるため「こう」とは決められない。

 Abernathy氏はここで話を一旦止めて、Microsoft調査による1つのデータを示した。データはゲームとそれ以外の「物語」について、調査の参加者に語り直してもらうというもので、参加者より語られた単語数が多いほど、参加者がより豊かにコンテンツを体験したということになる。結果から言えば、ゲームは他の媒体に比べて語り直される時の単語数が少ないという。

 これはゲームの「ナラティブ」がまだまだ開拓される余地があることを示しているが、調査ではほかに、他のメディアに比べてプレーヤーは物語を最初から最後まで追うことが難しいこと、役割や背景がなくてもキャラクターは覚えていること、ストーリーを中心に語っていてもナラティブによるゲームプレイを思い出していたこと、逆にストーリーは無視していても、ナラティブがゲームプレイに文脈を与えていたことなどがわかったとした。

 さらにAbernathy氏はSteam Achievement Dataより、ゲームのコンプリート率を調べたところ「The Elder Scrolls V:SKYRIM」(2011年)のメインクエストが32%、「BioShock Infinite」(2013年)が53%、「Portal」(2007年)が47%などと、プレーヤーは最後までクリアしない傾向があることを示した(「Portal」なんて5時間くらいのゲームなのに! とAbernathy氏は叫んだ)。

 そんな事情もある上、最近登場した話題作、入国審査ゲーム「Papers, Please」(2013年)やナレーションに反抗できるアドベンチャーゲーム「The Stanley Parable」(2013年)は、三幕構成とは全く無縁のところでナラティブを作り出している。

 三幕構成は、映画作り、脚本作りの基礎となっているためゲームにもある程度は応用できるが、三幕構成を用いることが必ずしもナラティブを向上させる結果には繋がらない。三幕構成はもはやゲーム作りの1つの方法論ではなく、大作だからいい、映画っぽいからいいという時代は終わり、三幕構成に頼ったゲーム作り自体がナンセンスになりつつあるのではないか。

 むしろ最近の傾向では三幕構成とは無関係の、他の媒体でのノウハウが通用しないような方法論こそが、ゲームらしいゲームを生み出している。今回は、その新しい構造を示すというセッションだったはずだが、整理しきれていない部分が多そうで、両氏の結論としては「ゲームのストーリーに構造なんてないよ!」である。

 「これから話し合っていこうじゃない」という逃げの態勢を取ったなんとも投げ槍な解答だったが、今回の研究でナラティブの向上には「キャラクター」に焦点を当てること、レベルデザインやユーザーエクスペリエンスを見直すことなど、新たな希望も見つかったとした。ナラティブ研究の余地はまだまだあるようなので、今後の研究成果も期待したい。

コンテンツ体験を語り直す、という実験では、ゲームのナラティブ理解が低いことが判明し、さらに最後までプレイしてくれないという傾向も発覚。まだまだ開拓の余地はあるようだ

(安田俊亮)