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【ホビー特別企画】ミニ四駆、小さなボディに込められた技術と理論

レース開始。迫るタイムリミットの前に持ち上がった複数の課題

レース開始。迫るタイムリミットの前に持ち上がった複数の課題

メディア対抗戦のマシン達。各車にこだわりが感じられる
重りをつけ、タイヤもさらに交換。ボディにシールも貼った。これできちんと走れると思ったのだが……

 そしてメディア対抗レース当日になった。準備も必要だということで早めに来てみると、なんだかすごいコースが! ぐねぐねとカーブが多く、さらにアップダウンも何カ所かある。見るからにテクニカルだ。難易度が上がっているこのコースに、僕のマシンは対応できるんだろうか?

 そして他のメディアの人達は、僕以上に“本気”だった。いくつものマシンを持っていたり、様々なパーツが詰まったツールボックスを開けパーツを選んでいたりと、かなりのやりこみが感じられた。こういう人達トレースをするのかと、ちょっとビビった。

 「まあそれでも、一応パーツはそろえたし……」と思って走らせると、すぐに吹っ飛んでいってしまった。ジャンプ台のような急なアップダウンをするところで飛び出してしまうのだ。練習したコースより難易度が上がっているのだ。しかし、だからこそ僕の心には燃え上がるものがあった。それならば、俺のマシンをきちんと対応させてやろうじゃないか! マシンをさらに強化できるのは、正直うれしかった。

 出場者達は自分の車を見せ合いながら相談している。声をかけると気さくに輪に入れてくれた。このときもらったアドバイスが、「タイヤの交換」だった。安定性を求めて替えたタイヤだが、直径が大きいというのだ。直径が大きいということは“歩幅”が広いということで、最高速が早くなる。小さい径のタイヤにすると最高速が抑えられるというのだ。もう1つ、“重り”をマシンにつけることでジャンプの軌道を低くでき、飛び出しが押さえられるとのことだ。

 そこで僕のマシンを持って行って、店員に相談した。重りに関しては“取り付け位置”も考える必要があるという。ジャンプ台がある場合、前に重りをつけると着地の際に前のめりになりやすい。すでに後ろにはファーストトライパーツセットについていた重りはついている。「追加するならば側面につけるのはどうか?」ということだった。

 しかもただの鉛の板をつけるのではなく、長いねじに通してあって、上下にスライドする「ダンパー」という機構を持ったものがいいのではないかということだ。こうすると重りはジャンプの時浮き上がり、着地の際に遅れて下方向に落ちてくるため、車体を路面に押しつけるのだ。

 タイヤは小径で、派手な赤い色のものにした。前後に6つのローラー、そして側面にも拡張用の板とダンパーが追加され、全部で4つのダンパーを装備した。もう“小改造”なんかじゃない。“完成”という実感があった。

 走らせてみるとジャンプの軌道が明らかに低い。安定してコースを走る。これはいけるかも! と思った。しかし、やはりバーニングブリッジで引っかかってしまう。見ていた人から、「ローラーの取り付け位置が間違っているのでは?」と指摘された。ローラーの取り付け位置は複数用意されていて、ローラーの径で取り付け位置が決まっている。引っかかってしまうのは、ローラーの取り付け位置が外側過ぎたからなのだ。この時点で時間は試合開始直前となってしまった。他の人が出走の準備をしている中、僕は慌ててねじを外しローラーの位置を変えた。

 試合直前、電池も交換してみた。実はこれもまずかった。ミニ四駆は電池の放電量で如実にパワーが変わる。電池は交換直後の出力が高すぎるため、しばらく放電させた方が安定するのだ。1回戦、僕の対戦相手はモーターとローラーを変えただけのマシンだった。まともに走れば勝てるはずだったのだ。しかし、直前まで組み立て作業をしていた僕のマシンには不安ばかりがあった。

 その不安は的中した。取り付けがうまくいっていなかったため、僕の車は走行中後ろのローラーが外れて安定性が失われ、コースアウトしてしまった。対戦相手のマシンは僕より遅いスピードで、ほんの少しの改造で安定した走りを見せ、完走した。

 すごく悔いが残った。そして、ここでは“レース”の難しさを実感したのだ。コースに合わせてセッティングする時間、改良する時間は限られている。だからこそ“普段”の走りが重要なのだ。前日の走行の時にバーニングブリッジに引っかかるという問題はわかっていたのに、その原因を追及しなかった。試合では普段の練習と、切磋琢磨が必要なのは全ての競技で共通している。負けたのがほとんど改造していないマシンだったのもまた悔しい。

 「ジャパンカップ」に出場した選手に色々話を聞いた時のことも思い出した。ジャパンカップでは選手は予選でいきなりコースを走る。練習や調整する時間はなくいきなりぶっつけ本番だ。このため、まず発表されているコースに合わせたセッティングを行ない、そこからさらに、その場では細かいセッティングのみ行なっていた。普段からも、「高速コース用」、「テクニカルコース用」など複数のマシンをテーマに合わせ作り込んでいる。

 これらのマシンを準備するのは日々の積み重ねだ。普段の走りでマシンを作り込んでおいて、試合直前まで部品を取り付けていては安定できるはずがない。僕は、レースに出場するための準備不足のために、走る前から敗れていたのだ。

 一方、優勝者のマシンは面白かった。優勝マシンは「ねんどろいど」の「巴マミ」を乗せた、ネタ要素満載のマシンなのだ。面白い外見なのに、早く、かつ安定してコーナーを駆け抜けていく。重りを全身に配し、フィギュアまで積んでいてかなり重そうな外見なのに、速い速い。これはスピード重視のギアとモーターが生むパワーを重いパーツで押さえ込んでいるからだろう。遊び心重視のボディがきちんとした走りを生み出すという、こだわりのマシンだ。安定性とスピードを両立させるために、かなりの走行を重ねたのだろう。ミニ四駆の幅の広さを感じさせるマシンだった。

アップダウンやカーブもある、練習より難しいコース。筆者は調整不足で完走できなかった。悔いが残るレースとなった
優勝したのは埼玉のプラモデルショップ「ケイ・ホビー」。ねんどろいどの「巴マミ」を乗せたユニークなマシンだが、スピードと安定感を両立していた

(勝田哲也)