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【GDC 2013】EA、「Dead Space 3」のビジュアルアーツの秘密を語る

「Dead Space」の5つのコアバリューを、ビジュアルアーツの力で最大限に増幅!

3月25日~29日開催(現地時間)

会場:San Francisco Moscone Center

 2013年2月に発売されたばかりの「Dead Space 3」。今回は英語版限定ながら日本でもWindows PC向けに発売されているため、プレイしたという人も多いだろう。

 「Dead Space」シリーズは、「バイオハザード」シリーズを手がけたゲームクリエイター三上真司氏も認める、純度の高いホラーがウリのSFスペースアドベンチャーだ。主人公は常に孤立し、無人とおぼしき宇宙空間の中を探索していくことになる。

 「Dead Space」は他のホラーゲームと比べて何が違うのか、なぜ“恐面白い”と感じられるのか。どういった部分が人々を引きつけるのか。GDC5日目に実施されたセッション「The Art of Dead Space 3: Expanding the Visual Universe and Retaining the Core」では、その謎をビジュアルアーツの側面から明らかにしてくれた。

【Dead Space】

「Dead Space」シリーズの“コアバリュー”とは何か?

「Dead Space 3」アートディレクターAlex Muscat氏
「Dead Space」シリーズのイメージ
Muscat氏が考える「Dead Space」の5つのコアバリュー

 講師を務めたEAのAlex Muscat氏は、「Dead Space 3」ではアートディレクターを担当した。Muscat氏は、まずシリーズを経ることによって拡散していった「Dead Space」本来の“コアバリュー”を抜き出すことからチャレンジする。

 Muscat氏が考える「Dead Space 3」のコアバリューは、「Isolation」(圧倒的な孤立感)、「SF」(サイエンスフィクション)、「Immersive Atmosphere」(没入感の高い世界観)、「Visual Pacing」(変化のあるビジュアル)、「Signature Visuals」(Dead Spaceらしいユニークなビジュアル)の5つを挙げた。

 「Dead Space」シリーズが日本等で残虐ゲームの代表格としてやり玉に挙げられるゴア表現や部位欠損の表現は、予想通り、コアバリューでも何でもない。コアバリューを活かすための方法論のひとつに過ぎないわけだ。ともあれこの5つのコアバリューにより、Muscat氏がアートディレクターとしてチャレンジすべきビジュアルの方針も決まってくる。

 まず、「Isolation」と「SF」という点では、「Dead Space 3」ではファンが期待する代表的なSF表現である宇宙空間を舞台にしたアクションに力を入れている。主人公はスタート直後から、宇宙空間に放り出され、宇宙服内の空気の残量を気にしながら、別の宇宙船にたどり着かなければならない。この際の圧倒的なSF感、そして「Dead Space」がこだわる孤立感はシリーズ中でも白眉といえる表現になっている。

【「Isolation」&「SF」】

 「Immersive Atmosphere」については、SFであり、仮想世界でありながらも、一定のリアリティがなければプレーヤーは世界に没入することはできない。可能な限り納得感のある世界観を提示した上で、プレーヤーを「Dead Space」ならではの恐怖と不安の世界に没入させなければならないわけだ。

 ここでMuscat氏が取り上げたのは、「Dead Space 3」の新しい舞台である惑星Tau Volantis。ここは氷に閉ざされた世界だが、かつて人々が拠点として活動していた基地がある。今回、主人公はこの基地を探索することになる。

 Muscat氏が提示したイメージイラストは、見るだけで凍えてくるような圧倒的な“凍”の世界であり、いまやその世界は基地の内部まで浸食し、かつて生活していたエリアまで凍り付かせている。ちなみに基地の中にある各種機材や備品の類いは、未来世界を舞台にしながらも若干レトロな雰囲気であり、ここが「Dead Space 3」のひとつの味になっている。

【「Immersive Atmosphere」】

 Muscat氏によれば、まさにその部分が「Signature Visuals」なのだという。今回の「Dead Space 3」のビジュアルテーマは、わかりやすさと親しみやすさということで、実際にデザインする際に参考した写真資料を見せてくれたが、タコメーターが並ぶ古い機械やブラウン管のテレビ、フロッピーディスク、古いPCなど。

 そして次のスライドでは実際にゲームにどう活かしたのかも見せてくれた。確かに未来の要素とビンテージ要素がうまく結合されている。ちなみに主人公らが来ている宇宙服も、NASAの宇宙服をベースに、レトロな雰囲気は残しつつSFっぽさも同時に描いている。

【「Signature Visuals」】

「Dead Space 3」ビジュアルアーツの真骨頂は「Visual Pacing」。チャプター毎にカラーパレットを変化

「Dead Space 3」のライティングと色に対する考え方。「ダーク&カラフル」が基本方針になった

 そして最後の「Visual Pacing」は、Muscat氏にとってもっとも大きなこだわりどころになったようだ。

 「Dead Space 3」は、闇に閉ざされた宇宙空間をモチーフにしたホラーゲームなので、当然のことながら基本的な色彩は「ダーク」だ。Muscat氏は、ここで新たな色彩を加えることに、物語に新たな色味を加えることができると考えた。また、ダークな色彩は地味で、プレイフィールも単調になりがちであるため、それを軽減させるためにも、新たな色を加えることにしたのだという。

 Muscat氏はその具体例を見せてくれた。キャラクターの武装がカラフルだったり、施設の照明に変化が加えられていたり、ステージの奥には夕暮れが見える。感心させられたのはここからだ。Muscat氏は、各チャプターの分解図を1枚のスライドで見せてくれたのだが、チャプターによってカラーパレット自体が異なるのだ。このため、同じダークでも色味が異なっており、プレーヤーは常に“新鮮な恐怖感”で探索することができる。

【ダーク&カラフル】
暗いところはとことん暗く、暗いシーンでも各所に色を付けてメリハリを出している

序盤の宇宙船から脱出するシーン。非常に多くの色が使われている

 また、カットシーンを挟み、事態が大きく変化するようなシーンでも、色彩を大きくいじっている。前後を若干単調気味に抑え、破壊シーンを色彩の渦に変える。こうすることでエキサイティングなシーンに更なるメリハリを付け、プレーヤーの心情をゆさぶるわけだ。思わず「なるほどなあ」と唸らされてしまった。

 Muscat氏は、まとめとして、ゲームのコアバリューを理解すること、ビジュアルプランをしっかり立てること、そしてコアバリューをサポートする形で、人々を夢中にさせるテーマを設定することの3つが重要であると語り講演を終えた。

 初代「Dead Space」は、かなりの低予算で作られたことで知られるが、いまや誰もが頷くようなしっかりとしたコアバリューを持ち、独自の存在感を放つAAAタイトルに成長している。「Dead Space 3」がリリースされたことで、今後同シリーズがどのような進化を見せるのかはまだ不透明だが、今後も「Dead Space」のコアバリューを活かした作品が出続けてくれることを期待したいところだ。

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(中村聖司)