Game Developers Conference 2012レポート

【GDC 2012】ChAIR、「Infinity Blade」開発秘話セッション
チームは未経験、期間は5カ月。モバイルゲーム成功のプロセスを語る


3月5日~9日開催(現地時間)

会場:San Francisco Moscone Center


 


 GDC 2012会期中の3月8日、ChAIR Entertainment Sr. ProducerのSimon Hurley氏は、同社のiOS用「Infinity Blade」シリーズについてのセッションで、同作品の開発プロセスとその内容を明らかにした。

ChAIR Entertainment Sr. ProducerのSimon Hurley氏

 「Infinity Blade」は、美麗なグラフィックと指1本でできる爽快なアクションで人気を集めているタイトルで、2011年のApp Design Awardを受賞した実績がある。Hurley氏は講演の中で、シリーズ1作目はわずか5カ月で制作されたと明かし、さらに最初13人でスタートしたチームの誰もがモバイル用のゲームを作ったことがなかったという。

 このセッションでは、Hurley氏がチームをどのように率いて「Infinity Blade」の開発したのか、作品を面白さと効率的に作業はどのようにして両立させていったかを語った。この記事では、Hurley氏が語ったチャレンジ成功の秘密をお伝えする。




■ モバイルゲームは未経験からスタート。効率化重視の開発プロセス

開発チームはスタート時点で13人。いずれもモバイルゲームの開発は初めてだったという

「Infinity Blade」は、剣士となって敵と1対1の決闘を行なうアクションゲーム。指1本のタッチ操作で斬る、敵の攻撃を防御する、避ける、弾くなどができ、1回の戦闘は短いながらも、手応えのある決闘アクションが楽しめる。

 冒頭にもお伝えしたとおり、何よりも驚くのは、本作は開発を始めてからわずか5カ月でリリースされたことに加え、開発開始の時点で「Infinity Blade」開発チームの誰もがモバイル用のゲームタイトルを作ったことがなく、ゲームエンジンすら完成していなかった状態だったという。

 元来ChAIRはコンソール機向けにゲームを制作していた経緯があるが、「Infinity Blade」の制作にあたってモバイルゲームの市場を徹底的に洗い直したそうだ。競合相手や顧客、技術的な限界を知った上で、Hurley氏は、断定できるスケジュールと制作における素早い決定、そして内部のコミュニケーションを高めることなどを重要視して、代わりに完璧主義と各作業工程の厳格な順守を犠牲にしたという。これは、「ゲームにとって大事なことを何よりも優先させたかったから」だとHurley氏は述べた。

スピード感と効率を重視した制作過程では、本当に必要なものだけが残り、あとは削ぎ落とされていった

 そうして実行に移された制作は、コアとなる決闘のゲームシーンがわずか3週間で実際に遊べるようになり、6週間目にはバーティカルスライス(コンセプトを楽しめる体験版)が完成したという。Hurley氏が目指したのは、ユニークで綺麗なビジュアルや、指1本で楽しめることをキーポイントとすること、またハードコアゲーマーでなくても楽しめることなどだったそうだ。

 Hurley氏が語る制作のスピード感は圧倒的で、1日の終わりにはチーム全員が報告を行ない、制作の過程で何が起きたか、何が達成できたかをHurley氏が把握しながら、常に見積もりのスケジュールと現実を合わせて管理していたという。途中で様々なアイデアが出たというが、Hurley氏はその中でゲームに本当に必要なものだけを厳選して、それ以外は切り落としていった。

 これらのゲームデザインは、モジュール式に組み立てていったという。ゲームのコア部分は3週間で既に決まっていたので、モジュール式にすることで要素のカットをより簡単にした。またこうした切迫したスケジュールの中でも、スタッフにはテストプレイを頻繁に行なわせた。そうすることで実際のゲームプレイ以上にプレイを反復してゲームの感触を知れ、それぞれが改めて内容を把握することで完成度を高めていったそうだ。

「Infinity Blade」は見事に成功し、リリース後6カ月後には1,000万ドルの収入があった

 こうして完成した「Infinity Blade」は、2011年のゲームアワードで20以上の賞を獲得し、リリース後6カ月で1,000万ドルの収入を得るまでに至った。

 またシリーズ2作目の「Infinity Blade II」は、「Infinity Blade」よりも規模が大きくなっており、ストーリーも掘り下げられている。ゲームデザインのコンセプトも、「どうやってやるか?」から「どうやったら前よりもよくなるか?」に移り変わった。

 ここでは、「Infinity Blade」で知れた技術のノウハウや、既にあるコンテンツを活かすことで、特徴やデザインの改良に集中できたそうだ。なお「Infinity Blade II」も各賞を獲得しており、1年でシリーズ累計3,000万ドル以上の収入となった。

Hurley氏はプラットフォームに合ったAAAのゲーム作りを志した。「情熱があればそれは可能」とHurley氏は語った

 Hurley氏は最後にゲームデザインで避けることとして、「自分のモバイルにおける体験を平均的な顧客と同じだと仮定すること」や、「完璧主義になること」、「伝統的なデザインに固執すること」などを逆説的に掲げ、結論とした。そしてHurley氏は「モバイルゲームだからといってAAAにならないことはない。常にAAAのゲームを作ろうと考えていればそれはできる」と話し、来場者を勇気づけた。


「Infinity Blade」の制作過程では、Hurley氏自身、App Storeの「Halo」になると確信したそうだ

(2012年 3月 11日)

[Reported by 安田俊亮]