「iPhone 3GS」発売記念ゲームレビュー集 後編
世界に挑戦する日本の小規模デベロッパー


【iPhone 3GS】
6月26日 発売


 App Storeが世界的な成功を収めている理由の1つに、Intel MacとiPhone/iPod touch、そしてiPhone Developer Program(スタンダードプログラムで年間10,800円)を購入すれば、誰でもアプリケーションを開発し、全世界に課金配信できる点がある。開発環境やSDKも無料でダウンロード可能だ。そこにはコンソールゲームにはない自由さと、PCのシェアウェアにはない堅牢で使いやすい課金システムがある。

 iPhoneプラットフォームはこうした特性から、国内の中小デベロッパーにとって、世界に向けて自社タイトルを発信できる、数少ないプラットフォームの1つとなった。今では学生やアマチュアも含めて、数多くのデベロッパーがさまざまなゲームを作って、海外市場に挑戦している。そこで「iPhone 3GS」発売記念ゲームレビュー集の後編では、これら国内の小規模デベロッパーによるゲーム群に焦点を当ててみよう。




■ LightBike

ジャンル:レーシング

発売元:パンカク

価格:115円(無料版あり)

配信日:2月27日(配信中)



 iPhoneゲーム開発のサクセスケースとして、国内で最も有名なタイトルが、この「LightBike」だ。無料版に続いて有料版がリリースされると、販売数がうなぎのぼりとなり、米App Storeで有料アプリの販売ランキング1位を獲得した。発売元の株式会社パンカクは、元々SNSを手がける学生ベンチャーで、それまではゲーム開発の経験がほとんどなかった。それが並居る強豪を押しのけ、米国で1位を獲得したのだから、まさに快挙だ。

 ゲームは自分の軌跡に「光の壁」を作るバイクを操作し、壁に敵のバイクを衝突させて倒す3Dレーシングだ。画面からわかるとおり、映画「トロン」(1982年)に登場したバイクアクションシーンをモチーフにしている。ちなみに、このシーンは1980年代の8bitパソコンでは定番のネタで、筆者もBASICでプログラムを組んだ覚えがある。サイバー調のグラフィックスも美しく、「おっさんホイホイ」としての破壊力は抜群だ。

 ゲームとしての完成度も秀逸で、特に画面のスピード感や操作のキビキビ感はなかなかのものだ。画面の左右をタップ(指で叩く)して鋭角的にターンし、画面下の“boost!”アイコンをタップすると、一定時間スピードアップする。これらを上手く操作して相手を自滅させていくのだ。バラバラに走るだけでは時間切れで引き分けになりやすいので、相手に近づいて急加速し、ギリギリで曲がって激突させるのがセオリーだが、逆に自分が操作ミスで死ぬ確率も高くなる。冷静かつ熱い駆け引きが勝利のコツだ。

 また本作の特徴の1つが、画面を上下分割して2人対戦ができることだ。iPhone/iPod touchを2台持ち寄れば、合計4人で対戦プレイができる。顔をつきあわせての対戦プレイは白熱すること請け合いで、iPhoneならではのプレイスタイルだろう。この対戦モードを備えたゲームは当時珍しく、プレイ動画がYouTubeで流れたことが北米市場でのプロモーションに大きく貢献したという。日本語が全く表示されない、ローカライズ不要のタイトルという点でも興味深い。中小デベロッパーにとって、お手本のような内容だ。


【スクリーンショット】
画面の左右をタップすると、その方向に90度ターンする。グラフィックスはサイバー調で美しい画面下の“boost!”アイコンをタップすると、一定時間スピードアップするゲームは4台による勝ち残り戦。制限時間以内に勝負がつかなければドローで再戦となる
難易度は3段階から選択でき、デフォルトでは3回生き残ると勝利となる画面を上下分割して2人対戦も可能。さらに2台のiPhoneをWi-Fiで繋げば4人対戦もできるオプション画面では時間制限の有無やフィールドのサイズなど、さまざまな設定ができる



■ つみネコ -Mew Mew Tower-

ジャンル:アクション

発売元:ビースリー・ユナイテッド

価格:115円

配信日:3月18日(配信中)



 国内で「LightBike」と知名度を二分するiPhoneゲームが「つみネコ」だ。何といっても浮き沈みの激しいApp Storeの中で、2008年12月に配信されたタイトルにも関わらず、未だに有料ランキングの上位に留まっている。独特の「ゆるい」感覚が中毒性を呼ぶ不思議な内容で、女性層の受けも抜群。猫好きにはたまらないタイトルだ。

 ゲームはランダムで出現する大中小のネコをタップして積み上げていき、“猫タワー”の高さを競うというもの。猫の位置と画面上でタップするポイントが若干異なるので、うまく位置がそろうように注意が必要だ。倒れそうになっても、本体を傾ければバランスが保てるが、それにも限度がある。バランスが崩れると猫タワーが崩壊してゲームオーバーだ。

 本作のポイントは、この「ゲームオーバーが1番楽しい」点だ。猫を積み上げた順にタワーが上から崩れていき、ニャーニャーと鳴きながら落ちてくる。入力と結果が実はダイレクトにつながっており、しかもコミカルだ。だから何度も繰り返してしまう。また、あるベテラン開発者に見せたところ、「なぜ亀ではなく、猫を積むのか?」という、至極まっとうな感想が返ってきた。しかし、亀ではここまでヒットしなかっただろう。

 発売元の株式会社ビースリー・ユナイテッドは、これまでモバイル向けのソリューションビジネスを行なってきたベンチャー企業で、iPhoneでのゲーム開発もこれが2作目だ。しかし、この自由な発想がヒットを生んだ。iPhoneの「機能見せゲーム」として、とりあえずインストールしておきたい定番だ。


【スクリーンショット】
右上の「NEXT CAT」アイコンをタップし、画面をスライドさせてネコを積み上げていく。気球に乗っているのが次に登場するネコだ。ネコには大中小の3つのサイズがあり、次第にバランスをとるのが難しくなっていく。本体を傾けて左右のバランスを取ることもできるので、右に左に、うまく置き場所を調整しながら進めていこう
バランスが崩れると、ネコタワーが崩壊するアニメーションと共に、ネコたちがニャーニャーと鳴きながらバラバラに落ちていく。最後にネコタワーの高さと、どのサイズのネコを何匹積み上げたかの記録が表示される。10mを超えるのはかなり大変だが、ついつい再挑戦してみたくなるゲームだ



■ パズルプリズム

ジャンル:アクションパズル

発売元:ポノス

価格:350円(無料版あり)

配信日:2008年11月17日(配信中)



 3Dの落ちものパズル。過去にさまざまなタイトルがリリースされ、注目を浴びることなく消えていった、不毛のジャンルだ。しかし「パズルプリズム」は、こうした状況に一石を投じるタイトルになるかもしれない。1度始めると、やめられずにダラダラとコンティニューを繰り返してしまう魅力がある。

 本作は回転しながらせり上がる2×2マスの柱に、さまざまな形状のブロックを落として消していく落ち物パズルだ。ブロックはフリック(指を触れてはらう)で左右に回転させ、落とせる。連鎖の概念もあり、どんどんブロックを消していく爽快感は本作ならでは。逆に1番上まで柱が登り切ってしまうとゲームオーバーだ。BGMは3種類用意されているほか、iPhoneに入れた自分の音楽をBGMにもできる。スコアをサーバーに送れるハイスコアランキングも用意されている。

 ゲームモードは3種類で、通常モードの「STANDARD」モードと、2分間でのハイスコアを競う「TIMEATTACK」モード、そして上級者向けの「EXTRA」モードがある。「EXTRA」モードでは柱が逆に下がっていくので、ブロックを積みあげて消し、逆に柱を成長させていくのが目的。ただし柱のすぐ上の地点以外で消してしまうと、フロアが消失して柱が沈んでしまう。柱が消失するとゲームオーバーで、落ち物ならぬ「落ち育て」ゲームだ。

 本作はフィールドを2×2マスに割り切ったため、シンプルで遊びやすい反面、いわゆる「積み込み」の要素はほとんどなく、ゲーム的な深みも薄い。その一方で脳の一部が常にチカチカと発火を続けているような、クラブ系の面白さがある。既存タイトルでいうなら「ルミネス」的な感じだ。しかもiPhoneなので、ほとんどのユーザーがヘッドフォンをつけてプレイする環境にある。開発は携帯アプリやプレイステーション向けゲーム開発で実績のあるポノス株式会社で、京都で活動中だ。ある意味で非常にiPhoneらしいタイトルだろう。


【スクリーンショット】
ゲームを始めると、2×2マスの面積を持つ正方形の柱が回転しながらせり上がっていく。画面上のブロックを左右にフリックして回転し、下方向のフリックで落としてはめていこう。1面がぴったりそろったらブロックが消え、連鎖もできる。柱が1番上までせり上がったらゲームオーバーで、スコアが表示される
ゲームモードは、標準ルールの「STANDARD」モードのほかに、2分間での最高点数を競う「TIMEATTACK」(左)モードと、ブロックを消すことで柱を逆に育てる、上級者向けの「EXTRA」(右)モードがあるフリックによる操作のほかに、アイコンタッチによる操作も用意されている。アイコンの並び方で2種類から選べるので、自分の好きな方でプレイしよう



■ Territory

ジャンル:パズル

発売元:モノバイト

価格:230円

配信日:6月7日(配信中)



 iPhoneゲームの中でもユニークな、オリジナルの完全思考型パズルゲームが「Territory」だ。「大地にはルールが存在する」というサブタイトルどおり、騎士を操作してステージを歩き回り、さまざまなルールや条件に従って、土地を分割するのが目的となる。

 ゲームを開始すると、ヘックスに仕切られたマップが表示される。マップには城ヘックスがあり、城には数字が表示されている。画面下の矢印アイコンをタップして騎士を動かすと、歩いたヘックスが暗くなり、領地を分割できる。城の数字は、それぞれの城が持つ領地の広さなので、歩き回って境界線を広げていき、それぞれの城に表示された数字と同じだけの領地を持つように分割していくのだ。ただし1度暗くなったヘックスは、原則として2回歩けないため、一筆書きの要領でうまく歩き回ることが必要になる。

 各ヘックスには「城:進入不可」、「森:何度でも歩ける」、「街:進入すると、進行方向の1一列のヘックスの色が反転する」、「山:進入不可で、ある領地とつながっていると、その領地としてカウントされる」、「橋:一定方向からしか進入できない」など、さまざまなルールが存在する。これらが巧みなパズル性を生み出しているのだ。制限時間はなく、何度でも繰り返し挑戦でき、敵キャラクターやアイテムなども出ないので、詰め将棋感覚で楽しめる。全100ステージ収録と、遊び応えも十分だ。

 発売元の有限会社モノバイトは福井県のデベロッパーで、携帯電話アプリでJavaやFlashを用いたゲーム開発を行なってきた。iPhoneゲームはカジュアルに遊べる右脳系ゲーム「Touch Touch Shapes」に続く第2弾で、共に英語向けにローカライズが行なわれており、当初から明確に世界を見据えている点が興味深い。


【スクリーンショット】
スタート地点から進んでいき、城ごとに表示された領土面積になるように、一筆書きの要領で土地を分割していく。進入したヘックスは色が変わるので、これを境界にして分割していけばいい。ただし1度入ったヘックスは原則として2回入れないので注意
森は何度でも進入可能で、色も変わらないが、領土としてカウントされる。町は特殊なヘックスで、進入すると、向こう側1列のヘックスが反転する。こうした様々なルールが存在するので、はじめにチュートリアルをプレイしよう。ヘルプも充実している



■ Sevensword Prologue

ジャンル:MMOアクションRPG

発売元:アソビモ

価格:無料

配信日:5月15日(配信中)



 最後にもう1つ、注目タイトルを紹介しよう。今は無料の「プロローグ」版だが、正式に公開されれば、かつてないゲーム体験がiPhoneでも可能になる。それがMMOアクションRPGの「Seven Sword Prologue」で、完成すれば最大で50人対50人の集団戦闘が楽しめるという触れ込みだ。

 現バージョンでプレイできるのは、キャラクターメイキングとチャット、そしてコロシアムでのデスマッチのみ。キャラクターは「グラディエイター」、「スカウト」、「ソーサラー」、「クレリック」の4種類で、男女から選べる。画面左下のバーチャルスティックで操作し、右側のアクションアイコンをタッチしてプレイするスタイルで、画面をピンチ(2本指でつまむ・開く)して拡大縮小したり、視線変更もできる。戦闘では近接戦闘、遠距離戦闘のほか、クラスごとに異なる3つのスキルが使える。

 グラフィックスは美麗で、通信対戦では若干のラグも見られるが、総じて操作性は良好だ。ただし現状では通信から落ちやすく、メモリ管理もキツキツのようで、かなり動作が不安定だ。もっとも、iPhoneで多人数対戦できるオンラインアクションはおそらく初めてなので、興味のあるユーザーは1度プレイしてみると良いだろう。開発元のアソビモ株式会社は、これまでも携帯電話アプリ向けにMMROPG配信の実績があり、iPhoneでも期待できそうだ。


【スクリーンショット】
まずキャラクターを作成しよう。4種類のクラスがあり、性別も選べるメッセージウィンドウの“C”マークをタップするとソフトウェアキーボードが表示される。英文チャットも可能だステージ中央にコロシアムへの入り口がある。マネージャをタップして、開催中のコロシアムとチームを選ぶ
コロシアムにログイン後、“RUSH”と表示されたらバトル開始だ。右側のアクションボタンをタップすれば攻撃できる。さまざまな特殊攻撃も繰り出せる



 以上のように現時点の注目作をピックアップしてみたが、まだまだ海外デベロッパーに比べて、日本の中小デベロッパーの動きが鈍く感じられるのは残念だ。日本のお家芸と言われるゲームデザインの分野でも、ハッとさせられるようなタイトルは、残念ながら海外作品が圧倒的に多い。App Store開始時とは異なり、ゲームアプリがあふれかえる今では、中小のデベロッパーによる孤軍奮闘だけでは露出に限界があり、共同パブリッシュによるブランド展開などが必要な時期にさしかかっているのかもしれない。

 もっとも前述のように、iPhone OS 3.0ではゲーム内でのアイテム課金が可能になり、ビジネスモデルの転換が期待できる。そしてビジネスモデルが変われば、求められるゲームデザインも変わる。FacebookをはじめとしたSNSとの連動や、ブラウザゲーム、ソーシャルゲームといった領域も、まだまだ未開拓の分野だ。そしてゲームデザインこそ、最も少ない投資で最大の差別化が図れる手段であることは明らかだろう。小回りのきく中小デベロッパーだからこそ、全世界をあっと言わせるようなアイデアのゲームを期待したい。


[LightBike](C)Pankaku. Inc.
[つみネコ -Mew Mew Tower-](C)B3 UNITED Inc.
[パズルプリズム](C)PONOS Corp.
[Territory](C)monobyte Inc.
[Sevensword Prologue](C)2009 ASOBIMO, Inc. All Rights Reserved.

(2009年 7月 3日)

[Reported by 小野憲史]