「iPhone 3GS」発売記念ゲームレビュー集 前編
iPhone/iPod touchの機能を生かしたゲームとは?
iPhone OS 3.0のバージョンアップに続いて、新モデルの「iPhone 3GS」が日本でも26日、いよいよ発売された。Appleの公式発表では、iPhone OS 3.0のダウンロード数は全世界で600万回を超え、先に海外で発売された3GSも、3日間で100万台を記録したという。さらに初代iPhone(国内未発売)を含めると、iPhoneの全世界販売台数は2,000万台を超えたようだ。これにiPod touchを加えれば、計4,000万台に達したともいわれる。2007年6月のiPhone発売後、わずか2年でここまで拡がりを見せたことには驚かされる。
この躍進を影で支えているのが、全世界のiPhone/iPod touchユーザーにアプリケーションを配信できる、App Storeだ。ダウンロード回数は全世界で10億回を超え、さらに増加し続けている。その中でもゲームの人気は最も強く、全体の3~4割を占めるという試算もあるほどだ。いささか出遅れていた感のある国内メーカーも、ハドソン、KONAMI、バンダイナムコゲームス、カプコンといった大手企業が参入し、活況を呈してきた。
ただしiPhone/iPod touchでは通常のゲーム機と違い、スティックやボタンといった、ゲームユーザーになじみのあるインターフェイスがない。代わりに用意されているのが、5カ所まで同時検出できるマルチタッチスクリーンと、3軸加速度センサーだ。そこで本稿では、評価の高いゲーム群をレビューするとともに、どのようなゲームデザインの工夫が見られるか、主に操作アクションの面から考察してみたい。
具体的には「アイコンタッチ」、「なぞる」、「押す(押し込む)」という操作アクションを取り上げる。また加速度センサーを用いた「傾ける」例についても考察しよう。
■ アイコンタッチ ―― 「iShift」
ジャンル:アクションパズル
発売元:Armor Games
価格:115円(無料版あり)
配信日:5月1日(配信中)
iPhone/iPod touchの最も基本的な操作アクションが「アイコンタッチ」だ。これは画面上に十字ボタンやアナログボタン、アクションボタンなどの操作ボタンを配置し、これらをタップしたり、スライドすることで操作させる方式だ。左手で移動、右手でアクションといった、両手持ちコントローラーと変わらない操作がデザインできる。FPSや3Dアクションでよく用いられ、コンソールからの移植タイトルでの使用例も多い。
ただしボタンを操作するために、指で画面が隠れてしまうという最大の欠点がある。そのためキャラクター表示やステージデザインに注意が必要だ。またボタンを押したときの反応がないので、いつの間にか指がボタンから外れてしまう問題がある。指で操作させるため、ある程度ボタンを大きくする必要があり、数多く配置することもできない。総じて激しいアクションを行なわせるには不向きだ。
こうした問題をうまく解決しているアクションパズルが「iShift」だ。モノクロ表示されたステージの色と上下を反転させながら仕掛けを解いていき、ゴールまで到達することが目的となる。画面の左右に右・左の操作ボタンがあり、上方には画面を反転させるための「SHIFT」ボタンがある。どちらか片方の操作ボタンを押している間は、別のボタンがジャンプボタンに切り替わる仕組みで、うまくボタン数を省略させている。上下に移動するボタンはないが、下に降りるには重力で、上に昇るには画面を反転させればいい。
ゲーム画面を見ればわかるように、本作ではゲームエリアと操作エリアを分けて、指が直接ゲームエリアに被らないようにしている。ゲームエリアは小さくなるが、画面をモノクロにして見やすくし、さらにモノクロであることをゲームデザインとうまく結びつけている。プレイしていてセンスオブワンダーを感じさせる、優れたゲームデザインだ。惜しむらくはステージ数が少なく、すぐに終わってしまうことだが、115円という価格を考えれば納得できる。しかも無料体験版もあり、至れり尽くせりだ。
■ なぞる ―― 「クルクルコンバット」
ジャンル:パズル
発売元:クワトロメディア
価格:600円(無料版あり)
配信日:4月18日(配信中)
画面に特定の操作ボタンを設けず、画面をなぞらせる操作アクションも、iPhone/iPod touchではよく見られる方式だ。DSのタッチパネルに似ているが、タッチペンではなく、指でなぞるため、より大ざっぱで感覚的な入力スタイルとなる。またアイコンタッチと同じく、指でゲーム画面が隠れてしまうため、これに対する配慮が必要だ。
パズルゲームの「クルクルコンバット」は、この問題をちょっと捻って解決した。基本システムはパズルゲーム「ZOO KEEPER」と同じだが、こちらはカジュアルな現代戦という世界観だ。画面上には8×8マスのステージ上に、戦車・歩兵・飛行機などの8種類の軍事ユニットがびっしりと敷き詰められ、画面上方に味方陣地に進撃してくる敵軍の様子が表示される。隣同士のユニットを指でなぞって入れ替え、同じ兵科のユニットを3つ以上並べて消すと、ミサイルが発射されて、侵攻中の同じ兵科のユニットが攻撃される。敵軍が味方陣地に到達する前に、定められた数のユニットを撃破するとステージクリアだ。
このゲームの巧みな点は、「ユニットを入れ替える」という入力行為と、「ミサイルが発射され、ユニットが撃破される」という結果表示が、ダイレクトに結ばれておらず、ワンテンポずれることだ。入力に対する結果が表示されるのは、指を画面から離した後なので、指の存在が邪魔にならない。また、いくらユニットを消しても、侵攻ルートに同じ兵科ユニットが存在しなければ、ミサイルは発射されない。そのため、ある程度攻めさせてから消していく方が効率的だが、その一方でリスクも高くなる。いわゆる「リスク&リターン」の導入で、本家「ZOO KEEPER」の面白さを、うまく高めている。
ドット絵の描きこみや、BGMやSEのこだわり、総合的な演出力など、国産の商業ゲームならではの作り込みだ。ステージが進んでも敵のユニット数が増えるだけで、大きな変化が見られないのが玉に瑕だが、ついつい空き時間に遊んでしまう中毒性がある。既存ゲームを元にした改良例という点でも興味深い。
■ 押す(押し込む) ―― 「ShapeShape」
ジャンル:アクション
価格:350円
配信日:6月9日(配信中)
iPhoneプラットフォームでは画面を直接タッチさせるため、画面上の標示物と指との一体感を、より強調させられる。そのためボタンやアイコンを、ただタップするだけでなく、タップし続けている時間を計測し、アニメーションやSEと組み合わせることで、「押す(押し込む)」アクションも演出できる。ただし指が画面にかかることで、ゲームが見にくくなるデメリットがあるのは、前述の通りだ。
この制約を逆転の発想で乗り越えたのが「ShapeShape」だ。正方形の自キャラクターを「押す」のではなく、その周囲を押して波紋を起こし、その反動で動かしていく。これならキャラクターが指で隠れないというわけだ。キャラクターの動きは慣性がついており、画面を押し続ければ、より大きな波紋を起こせる。キャラクターの向きと波紋の当たり方で、思わぬ方向に移動してしまうのもユニーク。これは「押し込む」アクションの応用版だ(このほかモーションセンサーで、本体を傾けて操作するボーナスステージもある)。
ステージには触れたらミスとなる針の床や、くるくる回って邪魔をする板など、さまざまな仕掛けが配置されている。これらをうまく避けつつ、画面上のスターを集めて、制限時間以内にゴールにたどり着くことが目的だ。「1回も床に落ちない」、「壁にぶつからない」、「スターを全部集める」、「一定時間以内にゴールする」、「1回もミスしないでクリアする」という5つのボーナスもあり、タイムやスター数と共に、クリアの仕方でスコアが増減する。全体的にハイセンスで、きれいにまとまっている。
このほかステージエディット機能もあり、ギミックを配置するだけでなく、難易度も3段階で選べる。オンラインでのステージ交換や対戦機能などがないのが残念だが、今後のアップデートに期待したいところ。また、このアクション操作を使って、別のゲームへの応用も考えられるだろう。指で波紋を送ってキャラクターをぶつけ合い、4人対戦などができれば面白そうだ。
■ 傾ける ―― 「Heavy mach.」
ジャンル:アクションシューティング
発売元:IndieAn
価格:115円(無料版あり)
配信日:3月25日(配信中)
iPhoneの操作デザインの中でも鬼門なのが、3軸加速度センサーを用いた「傾ける」操作だ。本体を傾けてハンドルを切るドライブゲームや、ボールを穴に落とさず進めていくパズルゲームなどで見られるが、操作が大ざっぱになりやすく、成功している例は少ない。本体を傾けることで、肝心の画面が見にくくなるなどの問題もある。寝そべって遊べないなど、プレイスタイルが画一化されるのも問題だ。
こうした中でも秀逸な成功例が、アクションシューティングの「Heavy Mach.」だ。横スクロールタイプの戦車アクションで、「メタルスラッグ」を本体を左右に傾けて操作するイメージだ。戦車の動きは前後進のみで、左の親指でジャンプレバーを操作する。右の親指は射撃操作で、画面をタッチした向きや地点に射撃する。このほか武装切り替えボタンがあり、状況に応じて切り替えられる。このように本作は「傾ける」操作と、「アイコンタッチ」による操作が組み合わされている。さらに両手で本体を持って傾け、左右の親指でそれぞれ違うアクションを行なう、左右非対称型の操作デザインが特徴だ。
本作のポイントはズバリ「戦車」という題材だ。大ざっぱになりがちな前後進の操作も、戦車という鈍重なキャラクターだけに、逆にしっくりくる。これと2段ジャンプ可能なジャンプアクションとの対比や、ドンドンドン、ダヒュンダヒュン、といった連射アクションとSEがうまく組み合わさって、独特のリズム感を生み出している。ステージから落ちると即死というアッサリ感もいいアクセントだ。
もっともタッチによる射撃操作を多用するため、必然的に画面右側が見にくくなるのは否めない。画面左側が自キャラクター、右側が敵キャラクターという配置なので、敵キャラクターが右手で隠れやすく、しばしば致命傷にもなる。もっとも残機制ではなくライフ制で、難易度もそれほどシビアではないため、それほど大きな問題ではない。また経験値制を導入しており、戦車の性能を向上させられる。同じステージを繰り返して経験値を稼げるので、この手のジャンルが苦手なユーザーでも、比較的楽に進められるだろう。ボリュームもあり、115円とは思えない完成度だ。
■ 大ざっぱな操作感でいかに遊びをデザインするか
このように、App Storeでヒットしたり、高い評価を得ているゲームでは、おしなべてiPhoneプラットフォームの操作特性をうまく生かしたゲームデザインが行なわれている。中でもポイントは、コントローラーなどのハードウェアUIよりも大ざっぱになりがちな操作感を、いかに遊びに転嫁できるか、という点だ。ここがうまくデザインできれば、それだけで面白いゲームが作れるといっても過言ではない。逆にさまざまな操作を盛り込んだあげく、遊びにくくなっては本末転倒だ。いかにシンプルな操作で、多彩なゲーム体験を可能にするかが肝心だろう。
なおコンソールのゲーム開発者の中には、iPhone向けの外付けBluetoothコントローラーなどの周辺機器を期待する声も聞かれる。確かにコンソールと同じ操作系がハードウェアでサポートされれば、タイトルの移植が格段に楽になる。しかし、Appleからそうしたアナウンスはされておらず、サードパーティから発売される可能性も低いようだ。一方でiPhoneプラットフォームの操作系には、まだまだゲームデザイン上の可能性が残されているはずだ(他にフリックやピンチ操作を用いた人気タイトルもあり、これについては、またの機会に譲ろう)。今後もさまざまなアイデアが、本機の魅力的な操作系の上で展開されることを期待したい。
[iShift](C) Armor Games 2008/2009
[クルクルコンバット](C)Quantro Media Corporation
[ShapeShape](C)inXile Entertainment, Inc.
[Heavy mach.](C)IndieAn.com
□Armor Gamesのホームページ(英文)
http://armorgames.com/
□クワトロメディアのホームページ
http://www.qmedia.co.jp/
□inXile Entertainmentのホームページ(英文)
http://www.inxile-entertainment.com/
□IndieAnのホームページ(英文)
http://indiean.com/
(2009年 6月 26日)