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縦スクマンガ制作リアリティショー「TOON GATE」オンライン発表会&トークセッションが実施。関係者がWebtoonの展望を語る

【「TOON GATE」オンライン制作発表会】

6月23日 実施

 6月23日、小学館、バンダイ、BANDAI SPIRITSによる共同プロジェクトである縦スクマンガ制作リアリティショー「TOON GATE(トゥーンゲート)」のオンライン制作発表会が実施された。

 「TOON GATE(トゥーンゲート)」は、「漫画をつくってみたい」、「アイデアをかたちにしたい」と思う全ての人が漫画を作れる世界を目指すコンテストプロジェクト。一般公募から選出された10組がプロの制作陣とチームを組み、縦スクロール漫画を制作する。さらに、ミッションを勝ち抜きながら、グランプリを目指す様子に密着し、縦スクマンガ制作リアリティショー番組として配信する。グランプリを獲得すれば賞金300万円とLINEマンガ掲載が贈呈される。

 番組は6月28日20時よりYouTubeにて配信される。また、番組MCをお笑い芸人のニューヨークが担当。サポーターに小宮有紗さん、かが屋の賀屋壮也さん、まつきりなさん、ナレーションには櫻坂46の小池美波さんが起用される。

【【予告】縦スクマンガ制作リアリティショー「TOON GATE」6/28(火) 20時配信スタート!】
番組出演者

 なお、今回行なわれた発表会では、トークセッションも行なわれ、縦スクロール漫画の未来や、小学館とバンダイがタッグを組んだ理由について等が語られた。小学館から第一コミック局プロデューサーの井上拓生氏、バンダイから取締役の富樫憲氏が登壇したのに加え、「LINEマンガ」を運営するLINE Digital FrontierからContent Production室室長兼インディーズ企画運用部部長の小室稔樹氏も参加した。

今回登壇した小学館の井上拓生氏(左)、バンダイの富樫憲氏(中)、LINE Digital Frontierの小室氏(右)

幅広い層の漫画家が参加するプロジェクト

 「TOON GATE」では、「1st GATE」と称してキャラクターのイラストや設定などのアイデアを一般募集し、続く「2nd GATE」では選考を通過した10組が、プロの制作陣とともに縦スクロール漫画を制作する。ミッションを勝ち抜くことで、「3rd GATE」および「Final GATE」へと進出することができる。

 「1st GATE」では多種多様な挑戦者による、約500作品もの応募があったとのこと。実際、「2nd GATE」に進んだ10組の中には、プロの漫画家や、映画「カメラを止めるな!」の原作者とアマチュアのコンビのようなプロのクリエイターだけでなく、40代のサラリーマンや小学5年生もおり、参加者の職業や属性、年齢層等が多様なことが見受けられる。

「TOON GATE」の流れ

 富樫氏は実際に応募された作品をみた感想を聞かれ「応募された方の属性は、LINE漫画がキャッチアップするところと全く異なっていて個性豊かだった。リアリティーショーということで、応募してきた人の属性等も考慮すべきかとも思ったが、結果的に作品だけで10組を決め、たまたま超個性的な人が集まったので良かったと思う」と語った。

「TOON GATE」コンテスト通過者

 「1st GATE」を突破した10組。選考基準に関して井上氏は、突出した才能を持っている人を選考の中で選んだとのこと。今回の選考では、これまでの漫画賞では出会えないような才能と出会えたとのことだ。

ギャルちゃんのひみつ/ayapii氏
探しものは悲劇ですか「収醜癖」/大和ハンスケ氏
バグバスター/カレースライス氏
最速のバスターズック!/小泉作十氏
ラブスター/さや子氏
ガンエルフ/軸音氏
神様遊戯/紫乃なゆこ氏
藁人形/田田田氏
時時雨GRAFFITI/ボルボズ氏
NINJA△GAME/四葉タト氏

 番組の見どころについて、井上氏は「初めて縦スクロール漫画の制作現場に立ち合うこともあって、どのように作られているかは興味深かった。年齢も性別も様々な人たちが作品を作り上げていくそれぞれの過程やドラマなどが印象的だった」と話した。

 また、番組に注目しているポイントについて小室氏は「作家さんの人間模様や、他の編集者が作品に対してどうフィードバックしているかを見れる機会はないので、漫画業界に身を置いている立場としても興味がある。作品が生まれるまでの物語と、そこからできた物語も楽しみだ」と語った。

番組の制作背景には、漫画市場の変化も

 発表会では、番組の内容だけでなく、縦スクロール漫画の紹介や、「TOON GATE」のプロジェクトが始まった背景についても説明された。

 まず、プロジェクトが始まった背景には、急激に変わる漫画市場のトレンドがあるとのことだ。2021年のコミック市場は、紙と電子市場を合わせて3年連続で急成長し、過去最大を更新している。2014年に電子コミックが登場して以降伸び悩んでいたが、2020年以降はコロナ禍での巣ごもり需要もあって大きく成長した形だ。販売金額については、紙コミックは伸び悩んでいるのに対し、電子コミックは大きく成長しており、今後の成長も期待されている。

 また、電子コミックス市場の急成長の一因となっているのが、電子コミックスが急拡大した2020年以降、作品数が急激に伸びており、若年層を中心に読者層も増えている「縦スクロールマンガ(Webtoon)」とのことだ。

漫画市場はコロナ禍の自粛期間の影響もあり急成長を続けているとのこと

 年々拡大している漫画市場のトレンドとその変化について聞かれた井上氏は、紙のコミックスの売れ行きは厳しいが、電子コミックの市場は伸びている。現在は従来の漫画をデジタル化した横読みのものが圧倒的に売れているが、スマホに最適化されている縦読み漫画は今後かなり伸びていくとした。

 また、小室氏は、生活必需品であるスマートフォンで漫画が読めることが、電子コミックや、縦スクロール漫画の成長に繋がっているとした。購読者については、最初は若年層中心だったが、現在は30、40代の方も親しんでいるようだ。

 また、小室氏は縦スクロールマンガが広まったきっかけについても聞かれ、漫画といえばページ形式だったが、スマートフォンの中で漫画が読めるようになり、スマホの画面に合わせる形で縦スクロール漫画が登場し、成長していったと答えた上で「まだ日本では縦スクロールの代名詞になっているような作家は数が少ないので、今回のような取り組みを通じて新たな才能が生まれることを期待している」と語った。

縦スクロールマンガとは、韓国発の縦にスクロールする漫画の形式で、様々なヒット作が生まれている。スマートフォンで読むことに適しており、デジタルファーストで制作されるためフルカラーのものが多い

分業制を活かし、誰でも漫画作りに参加できるように

 また、縦スクロール漫画は制作過程も異なっており、従来の紙の漫画ではあくまでも1人の作者が主体となって制作されるが、縦スクロール漫画ではアニメのように分業で行なわれることが多く、効率的に面白い作品を生み出せるとのこと。「TOON GATE」でも、制作の進行に合わせてプロがチームに加わることとなる。

制作過程において、縦スクロールマンガは分業制で進めることが多い

 井上氏によると縦スクロール漫画の制作のポイントは、それぞれの得意分野を活かして漫画作りに参加できるという点にあるという。漫画家になりたくても絵が描けなかったり、絵が描けても話を考えるのが苦手という人は少なくないが、縦スクロール漫画のスタジオ形式ならば長所を活かせるというわけだ。

 また、小室氏は作品の質や数への影響について「アプリでは読者の方は待ってくれないので、基本的に週刊連載が求められる。フルカラーで100コマ近くある作品を作家1人で作るのには限界があるので、分業制の制作スタイルが増えているのは理にかなっている。イラストレーターもWebtoon作家という新たなフィールドを得て活躍している」とし、さらに「Webtoonの縦スクロール形式自体が、コマとコマの間が開いていることでゆったりした雰囲気が生まれ、カメラワークが移っているようにも感じられるので、制作体制だけでなく、漫画自体が映画・映像に近いものになっているのではないか」と話した。

 「TOON GATE」は、こうした縦スクロール漫画の分業制を活かし、誰でも漫画作りに挑戦できるプロジェクトとなっているとのことで、本プロジェクトを始めるにあたって、全国の10代から40代までにアンケートをとった結果、約68%の人が、漫画を描きたいと思ったことがあり、そのうち90%が漫画を描くことを諦めた経験があるという。諦めた理由は、漫画を描くのに必要な才能の多さであり、半数以上がチャンスがあれば漫画を描きたいと考えているとのことだ。こうした、漫画を作りたいのに挑戦できないという人のために、本プロジェクトが始まったとした。

アンケート結果。紙の漫画は、制作過程で求められるスキルが多く、諦める人が多かった

 「TOON GATE」の立ち上げた思いや、3社がタッグを理由について井上氏は「通常であれば漫画は作家と編集者がタッグを組んで世に出すものだが、僕がいた『ちゃお』や『コロコロコミック』では、玩具メーカーと一緒に作品やコンテンツといったIPを育てることが重要な柱であり、バンダイさんとは一緒に『たまごっち』や『妖怪ウォッチ』のようなものを作ってきた。今までは今まではマンガをテレビアニメにして、それを玩具にするという流れがあったが、ユーザーのライフスタイルも変化し、そのモデルが崩れてきた。その中で、Webtoonというフィールドで新しいIPの創出ができないか、というのが僕らの狙いです」と話した。

 一方、小室氏は「長年作品を作り出してきた出版社の大御所である小学館さんと、玩具メーカーの大御所であるバンダイさんが、我々のようなIT業界がやっていたWebtoonの世界に来てくださって、どんなかけ合わせで化学反応が起きるのかが楽しみ」とした。

トークセッションで語られた今後の展望

 発表会終盤に行なわれたトークセッションでは、縦スクロール漫画や「TOON GATE」の今後について深掘りが行なわれた。まず、縦スクロール漫画の可能性や魅力について小室氏は「フルカラーで読みやすく、それが臨場感や没入感に繋がっている。作家目線だと、原作が書ける、絵がうまいといった得意分野があれば参入できる点が魅力だ」とし、それに加え「最近では初めて読んだ漫画が縦スクロールだという人も出てきている」と語った。

 どのような人に縦スクロールマンガが広がっていくかという質問に対し井上氏は「スマホに最適化されているので手軽に読みやすいということもあり、電車の中で読んでいる人も見受けられる。また、横読みの漫画は読むのにリテラシーが必要で、横読みの漫画の読み方が分からないという人もでてきている。手軽さや、読み方が分かりやすいという点から、横読みの漫画とは違った文化で発展していくジャンルだと思っている」と話した。

 また小室氏によると、漫画に選ばれる題材やテーマは、縦スクロールだと横幅に制限があるので、広いフィールドで行なわれるスポーツ漫画は厳しいと考えていたが、クリエイターの工夫でスポーツ漫画も出てきているとのこと。また、パッケージ販売の形である雑誌と異なり、Webtoonは作品単体で売っていくので、ジャンル問わず冒頭は読者を引き付ける仕組みが取り入れられているとコメントした。

 玩具メーカーとして、縦スクロール漫画にどのような可能性を感じているかを聞かれた富樫氏は、「Webtoonはアニメよりは低コストで、漫画よりはカラフルな、中間的な存在に位置しているのではないかと考えている。もっとも多くのチャレンジができれば、大ヒットIPが生まれるのではないかと思う。この座組で世界的なヒットが生まれれば魅力的」と語った。

LINEマンガで配信されている「先輩はおとこのこ」は、海外でも配信されており、世界的にも好評だという

 また、縦スクロールマンガの今後について質問された小室氏は「読者も増えれば作品も増える。世界中のプラットフォームで、日本の作家の作品が読めるという時代も、それ程時間がかからないと思う。作家さんにとっても、大御所がいないのでチャンスの多い市場になっている」とし、この話をうけ井上氏は、「紙の漫画は書店などの流通の問題や、翻訳のコストといった問題があり、日本の漫画が世界に普及しきれなかったが、縦読みの漫画は世界中の人が持っているスマートフォンで提供されるので、日本発の縦スクロール漫画を世界の人に知ってもらって、そこから更に深い内容を盛り込んでいける横読みの漫画に繋がるような導線を引けると嬉しい」と語った。

 最後に、「TOON GATE」の今後の展開について質問され、富樫氏は「シーズン2ができればいいなと思っている。継続していく中で応募者みんなを巻き込んでWebtoonを作っていき、面白いマンガになって、アニメになって、商品になったりするといいなと思っているので、シーズン2、3……とずっと続けられればと思う」と語った。

 一方で井上氏は「普段は出会えないような才能の方と出会えたのが収穫だった。出版社は常に才能との出会いを求められているので、従来とは異なるチャンネルを作れるのは魅力的だし、今まで組んだことのない3者が組めたのも本プロジェクトがあってこその関係性だった。今後も「TOON GATE」を軸に、今までとは違った才能と出会えたらいいと思っている」

 最後に小室氏は「皆様の強みが掛け合わさっている企画だと思う。我々の強みは読者の数や、グローバルであること。ここからでた才能が、世界のあらゆる場所に届けられたらと思う」と語った。

 Webtoonは今後も伸びていくことが期待されるコンテンツなだけに、本プロジェクトのような新たなIPを創出するプロジェクトは重要だ。また、それを差し引いても「TOON GATE」は単純にドキュメンタリー・エンターテイメントとしても面白い内容の番組になっていることが期待されるので、6月28日の番組配信を是非チェックしてほしい。