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MET Asia Series: PUBG Classic、中国/台湾勢のボイコットを乗り越えて韓国Gen.Gが涙の総合優勝
2019年7月29日 03:54
- 【MET Asia Series: PUBG Classic】
- 7月26日~28日開催
- 会場:BITEC Bangna(タイ バンコク)
「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS」のアジア大会「MET Asia Series: PUBG Classic」が7月28日最終日を迎え、全15ラウンドで111ポイントを獲得した韓国代表Gen.Gが総合優勝した。Gen.Gには優勝賞金13万ドル(約1,400万円)が贈られる。日本チームは、DetonatioN Gaming Whiteが10位、Rascal Jesterは15位という結果に終わった。
最終日は、突き放しに掛かる韓国勢と、追いすがる中国勢、地の利を活かして応援を力に変えたいタイ勢の3勢力の争いになると思っていたが、まさか2日目の最終戦ラウンド12で発生した再試合によって、3日目の序盤で中国/台湾勢のボイコットが起き、2時間近く試合が中断し、ラウンド12~15を無効とした上で、改めて4ラウンドをやり直すというストーリーになるとは想像も付かなかった。
タイのeスポーツ大会運営が、まだ黎明期にあり、様々なミスを犯すことは、2月に取材したPredetor Leagueの取材から予想できていた。今回も、大会前日のリハーサルの段階で、日本の2チームだけでも、チーム名、個人名、国旗など、様々な要素が間違えており、試合が始まってからも、マップ画面の表示が見切れていたり、選手間の視点切り替えがたどたどしかったり、エキサイトメントを下げる行為が目立っていた。ある意味でのミスの集大成が、2日目ラウンド12で発生した停電だ。
その時点では「いつかやると思ってた」ぐらいで、これが大会自体を揺るがす大問題になるとは想像できていなかった。停電後は、LANサーバー、各クライアントを再起動して、1時間弱のインターバル後に、再試合が行なわれた。ただ、そのサーバーダウンで試合が途中で中断したラウンド12の扱いについては、翌日に持ち越された。
その後の顛末は、ニュースにしたとおりだ。
本レポートは当然のことながら大会終了後に書いているが、今の時点でもなお正式なアナウンスがないため、以下の内容は推測が含まれてしまうことをご了承頂きたい。個人的には問題の起点が停電にあり、MET側にその責任の一端があることは間違いないが、ボイコットという大問題が発生してしまった責任は、裁定を行なったPUBG Corp側にあると思う。
PUBG Corpはこの件で数々の失敗を犯している。試合終盤でサーバーエラーが発生した場合の裁定を規約に盛り込んでいなかったこと。ボイコットの直接の原因になったと推定される玉虫色の裁定を、出場チームの合意なしで決めてしまったこと。その裁定を是としなかった中国/台湾勢のボイコットを認めたまま9チームでラウンド15(本来はラウンド14)を開始してしまったこと。ラウンド15の決着が着いた後に、中国勢ボイコットがもたらす真の意味に気づき、ボイコット側のワガママを丸呑みする形で、4ラウンドもの無効化/再試合を決定してしまったこと。そしてなんといっても、そういった個々の決定について、一切観客に説明せず、ただひたすら待たせたことだ。
これらの決断がもたらしたものは実に甚大だった。ラウンド12の再試合におけるGen.Gの15キルドン勝が無効になっただけでなく、最終日最初の2試合で、ほぼ満員の客席からの大声援を力に変えて2連ドン勝を取ったタイ代表Tokio Strikerの大活躍、そして応援までもが丸ごと無効にされたのだ。細かいことを言えば、ラウンド12でのGokuri選手の単独での驚異的な粘りや、ラウンド14での7キル7ポイントという上々の滑り出しを見せたRascal Jesterの活躍、とりわけエースとしてキルレート1.4、全体の8位まで食い込んだWesker選手の見事なインファイトも全部無効になってしまった。
筆者はこれで2日目を終えて2位と23点差を付けて独走態勢に入っていたGen.Gが優勝を逃すようなことがあったら、新たな禍根が生まれるなと思った。ただ、本大会は、主催の恣意的な判断で無茶な裁定が繰り返し行なわれてきたため、「ここまで来たらそうなっても仕方がないんじゃないですか」といった、関係者の間で頽廃的な雰囲気が漂っていたのを感じた。総じてMET Asia Series: PUBG Classicは、eスポーツとはとても呼べないような大会になってしまったように思う。
2連ドン勝で最高4位まで順位を上げていたタイ代表Tokio Strikerは、2連ドンが丸ごと無効になったことで心が折れたのか、再試合では大きくスコアを落とし、13位。3日目の緒戦で7キルを取ったRascal Jesterは、再々試合では調子を上げられず15位。ボイコットを起こした中国/台湾勢も、3位に食い込んだWeiboを除いて軒並み調子を落として下位に低迷した。
本来ならば最終日のレポートは、eスポーツとしての「PUBG」の醍醐味や、韓国/中国に代表されるトップリーグの代表選手達の強さの秘密、筆者のようにわざわざ海外まで行ってLAN(オフライン)大会を観戦することの楽しさ、その延長線上として、eスポーツとしてよりエキサイトメントを高めるための改善要求など、eスポーツファンが読んで楽しめるレポートにしようと思っていたが、あまりに大会運営がヒドすぎて、その気が失せてしまった。こんなことを繰り返していたら、eスポーツとしての「PUBG」は速攻で終わると思う。
酷すぎる大会運営の中でわずか救いがあったとすれば、もう1チームのタイ代表であるArmory GamingがTokio Strikerの弔い合戦とばかりに調子を上げて4位に食い込んだこと。そして最後まで集中力を失わず、ラウンド14での11キルドン勝を含めて好調を維持したDetonatioN Gaming Whiteが10位まで順位を上げたこと、そしてなんといってもGen.Gが数々の酷い裁定による苦難を乗り越えて見事優勝したことだ。
Gen.Gの2日目までの独走態勢が無効となったことで、優勝の行方は最終戦までもつれ込んだ。結局ラウンド15で下位の中国ViCi Gamingがドン勝したことで、かろうじてGen.Gが優勝を手にしたが、選手全員が涙を流していた。それはそうだろう、どういう権利があってGen.Gがもぎ取った10キルドン勝相当の25ポイントを無効にできるのか。これはあくまで筆者の推測に過ぎないが、その再々試合決定の理由が、中国市場を失うことを恐れたことがわずかでもあったとするなら、これほど残念な話はないと思う。
ちなみにタイのeスポーツ大会運営は黎明期と書いたが、観客のeスポーツ熱は非常に高く、客の質もとてもいい。タイのチームが敗れてもブーイングしたり、あからさまに観戦意欲を失ったりしないし、ナイスプレイに関してはチーム関係なく拍手し、惜しくも全滅してしまったライバルチームに対して拍手を送るフェアネスの精神がある。
筆者も最終戦は、タイの観客に交じってバルーンスティックを手に、Tokio StrikerとArmory Gamingを応援したが、とても楽しい経験だった。機会があればまたタイでeスポーツ観戦を楽しみたいと思う。さらに、本大会で大きな経験を積んだ、DetonatioN Gaming Whiteと、Rascal JesterがPJS season 4で、スケールの大きな戦いを見せてくれるのか、今から楽しみにしている。