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【SIGGRAPH 2018】Luminous ProductionsがNHKと共に「ルミナス・スタジオ」関連技術で描く「人類誕生」

多様なジャンルのゲームに加え映像CGにも活用の幅が広がる自社エンジン関連技術

8月12日~16日開催

会場:Vancouver Convention Centre

Luminous Productionsの長谷川勇氏

 SIGGRAPH 2018会期中、スクウェア・エニックスが2018年3月に発足させたばかりの新スタジオ「Luminous Productions」は、グループの内製ゲームエンジン「ルミナス・スタジオ」の活用事例を紹介するセッションを行なった。プレゼンテーションを行なった長谷川勇氏が担っているのは、グループ各社で共有するためのライブラリ、ツール、エンジンの開発に加え、ビジネス事業領域の拡大など、積極的に他社や学術分野との協業を行なっているという。

 今回のスピーチの中心も、その活動の一環として始まったNHKとの共同プロジェクト、「人類誕生」の話題だ。本稿の執筆中に「人類誕生」のYouTubeビデオをチェックしたところ、最大再生回数のものではなんと3,500万回を超えている。映像の中身の方を製作するのが、「ファイナルファンタジーXV」の田畑 端氏がCOOを務めるLuminous Productionsの製作陣だというから、そのクオリティのほども推して知るべし、といったところか。NHKで「ファイナルファンタジー」(以下。「FF」)クオリティの映像が見られる時代になったということになる。

 本セッションでは、その「人類誕生」や「FFXV」世界の広がりを支える「ルミナス・エンジン」の特性を、エンジニアリングを担当する側からの視点で紹介していた。

 まず最初に長谷川氏が紹介したのは、昨年の東京ゲームショウでも上映していたという「FFXV」世界の広がりをまとめたムービーだ。こうして縦覧してみると、アニメから、モバイルゲーム、そしてもちろんナンバリングタイトルの「FFXV」までその幅は本当に広い。

 そしてその中核をなす「FFXV」関連タイトルは、「ルミナス・スタジオ」を基盤に開発されている。「ルミナス・スタジオ」誕生までには紆余曲折があったが、「FFXV」のリリースから2年を経て、ついに他のプロジェクトにも応用できるところまで来ている。

【FFXV関連作品紹介ムービーより】

 それを証明するのが、今回紹介されたNHKとの協業プロジェクト「人類誕生」であると言える。映像の製作プロセスに「ルミナス・スタジオ」の技術が使われていることを知っている人も、知らない人も、皆一様に本映像の持つ説得力に引き込まれていると言えるだろう。というのも、「FFXV」のトレーラーのうち最大再生回数となっている「TGS2014」のものでも約430万回にとどまっており、「人類誕生」は実に8倍以上視聴回数を稼ぎ出しているからだ。もし「人類誕生」ビデオの視聴者がスクウェア・エニックスのファン、あるいは「FF」シリーズのファンだけなら、ここまでの数字にならないはずだ。

 長谷川氏は、「人類誕生」が、考古学的、科学的考証に基づいて、一定の正確性を持っていることが人気の秘密だと分析する。それらを背景に、この現代に実際には存在し得ない古代の情景を、確かに具現化しているのが「ルミナス・スタジオ」のテクノロジだ。

【【人類誕生CG】240万年前の人類のライバルはハイエナ!?【NHKスペシャル×NHK1.5ch】】

【お詫びと訂正】

当初記事掲載時、映像作品「KINGSGLAIVE: FINAL FANTASY XV」が「ルミナス・エンジン」で製作されているとしておりましたが、これは筆者の錯誤による誤りで、SIGGRAPH ASIA 2017取材記事の通り、正しくはV-RAYでレンダリングして製作されています。関係各位にご迷惑をおかけしましたことをここにお詫びし、訂正させていただきます。

 「ルミナス・スタジオ」に関連する技術はリアルタイムゲームのみならず、プリレンダリング映像のクオリティを視野に入れて開発されていることは、過去の技術デモ等でゲーマーにもよく知られているだろう。

 その他、映像作品として、2016年のSIGGRAPHにおいて、「The Universe of FINAL FANTASY XV」が映像作品コンペElectronic Theaterで上演されたことも、長谷川氏は本講演のなかで触れていた。

【ルミナス・スタジオの紹介】

 「ルミナス・スタジオ」は「FFXV」のリリースに伴って開発が終了したわけではない。その後も、「FFXV」のアップデートに合わせて、あるいは別プラットフォームに向けて改良を続けている。昨年のGamescomに合わせて大きく報じられたウィンドウズ版「FF XV」開発に伴って、NVIDIAの技術協力のもと最新テクノロジに対応して、「ルミナス・エンジン」の描画品質をさらに押し上げたことも記憶に新しい。

 また、昨年末にバンコクで開催されたSIGGRAPH ASIA 2017での講演では、「ルミナス・スタジオ」が単なる描画エンジンにとどまらない、データIO、メモリマネジメント、ゲームロジックのドライブを統合した完全なゲームエンジンスゥイートであることが確認できた。

 特に感心させられたのはエディタ環境で、筆者が知る限り、あそこまで徹底して日本語が通用する、つまり日本人の開発者に向けたエディタ環境は他にはないと思われる。たいていのプログラマにとって、的確な訳語をあてたりマルチバイトを扱えるようにするのは多少煩わしいところがるので、海外製の日本語化が十分でない環境に慣らされているゲーム開発者も多いことから、平易な英語であれば許容できるとして開発環境のUXをおざなりにする傾向がある。スクウェア・エニックスでは、そういった妥協を許さず、多くの開発者ユーザーにとって利便性を向上させることが、最終的なゲーム品質を高めるために重要だと考えているのだろう。

【「人類誕生」紹介ムービーより】

 とは言え、「ルミナス・スタジオ」が真に本物のゲームエンジンであることを証明するには、「FFXV」以外のゲームのリリースを待たなければならないだろう。「FFXV」関連作品でのリリースは順調に続いているが、それだけではゲームロジックやレベルエディタとしての機能が十分に汎用的かどうかの証明にならないからだ。

 例えば、Crystal DynamicsやEidos-Montrealといった海外のグループ会社では、それぞれ「Foundation Engine」に「Dawn Engine」と自前のゲームエンジンを基盤としているが、グループ内では技術交流が活発に行なわれているという話もあるので、仮に海外スタジオのエンジンが「ルミナス・スタジオ」の知見を取り込んだとしても、それでもやはり「ルミナス・スタジオ」で作られたゲームにはならない。また、国内の外部委託プロジェクトでは、2017年の大作「ドラゴンクエストXI」に続き2018年7月発売の「オクトパストラベラー」と「Unreal Engine 4」の採用事例が目立つ。

 今後のカンファレンス等の機会に、国内の内製プロジェクト、国内の外部委託プロジェクト、国外の生粋のスクエニではないスタジオのプロジェクトと、それぞれの「ルミナス・スタジオ」活用の本当のところを確認して報告したい。

【「人類誕生」ギャラリー展示】
「人類誕生」撮影に使われた小道具(一部は本物の出土品)の展示に加え、カナダ出身のキャラクターデザイナーが即興でアートワークを披露していた

 長谷川氏の持ち時間の最後には、本年12月4日から7日の会期で開催されるSIGGRAPH ASIA 2018の告知で締めくくっていた。既知の読者もいるだろうが、毎年アジアをサーキットして開催されるアジア版SIGGRAPHが、今年は東京で開催される。日本で開催されるのは、横浜、神戸に続いて3回目となりアジア最多ということになる(香港、マカオを中国に含めれば中国が最多の4回)。

 いくぶん気の早い話だが、2019年は初めてパシフックエリアのオーストラリア、ブリスベンで開催されることが決まっている。本年の東京開催からは、プログラムも拡大、本家SIGGRAPHで好評を博している「Real Time Live!」や「Emerging Technologies」も新たに追加されることが決まっている。

 エリアの拡大、プログラムの拡大と、いよいよ盛り上がりを見せるアジア版SIGGRAPH。ゲーム関連セッションの拡充も著しく、今年は東京開催となることから、日本のゲーム、CGファンも是非足を運んで欲しい。