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「ハースストーン」の世界大会「HCT 2017 World Championship」がアムステルダムにて開幕

予選リーグがスタート。eスポーツとしての「ハースストーン」の魅力とは?

1月18日~21日開催

会場:Beurs van Berlage

 オンラインカードゲーム「ハースストーン」の世界大会 「Hearthstorn Championship Tour 2017 World Championship(HCT 2017 World Championship)」が1月18日、オランダ アムステルダムのBeurs van Berlageにおいて開幕した。会期は1月21日までで、18日、19日は予選リーグ、20日からは決勝トーナメントとなり、21日に7,000万人の頂点が決まる。試合の模様は公式Twitchを通じて日本語による実況解説で観戦できる。

会場となったBeurs van Berlage
会場はアムステルダムの大通りに面した繁華街にある。ヨーロッパの冬の夜は長く、会場入りしたときも出たときも暗かった
メイン会場を上から見たところ

 「HCT」は、「ハースストーン」の世界1位を決めるBlizzard Entertainment公式の世界大会。毎年、同社最大規模のイベントであるBlizzConで開催されてきたが、今年初めてBlizzCon以外での開催となった。会場となったのは、オランダ、アムステルダムにあるコンベンションセンターBeurs van Berlage。ランク戦やメジャー大会を通じて獲得したHCTポイント上位入賞者が出場できる地域別プレイオフおよびシーズン選手権(WINTER、SPRING、 SUMMER、LAST CALL)を勝ち抜いた16名が賞金総額100万ドル(約1億1,100万円)を賭けて集結した。優勝賞金は25万ドル(約2,780万円)、2位15万ドル(約1,670万円)、予選リーグで敗れても2万5,000ドル(約278万円)と、個人戦のeスポーツ大会として最高額を誇る。

 今回、日本のゲームメディアとして「HCT 2017 World Championship」を現地取材する機会に恵まれたが、初日の時点でeスポーツイベントとして驚かされることが多かった。筆者は、「Counter-Strike Global Offensive(CSGO)」や「オーバーウォッチ」、「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS(PUBG)」など、eスポーツの花形であるFPSの大会を取材する機会が多いが、「ハースストーン」はそれらとは異なる魅力を備えたeスポーツコンテンツであることが実感できた。

 本稿では「HCT 2017 World Championship」の観戦ガイドの代わりとして、大会初日の取材を通じて筆者が驚いたポイントをご紹介することで、本日より21日まで開催される「ハースストーン」世界大会の魅力をお伝えできればと思う。試合の模様については、繰り返しになるが、公式Twitchで日本語実況解説付きの放送を視聴するか、見逃した方はTwitchの録画を参照いただきたい。

【試合の様子】
初日の18日は、予選リーグのAグループ、Bグループが4試合ずつ行なわれた。予選リーグから1試合ずつすべて実況解説付きで行なわれていく
「ハースストーン」イベントには欠かせない暖炉。実際にはCGだが、雰囲気を大事にしたeスポーツイベントだ
待っている間の仕草が可愛らしいと話題のSamuelTsao選手(台湾)。2戦全勝で決勝トーナメントへの出場を決めた

 まずひとつ目は、「非常に拓かれたeスポーツイベントである」ということだ。eスポーツとしての「ハースストーン」は、現時点では個人戦のみであり、ランク戦の延長線上、つまり、個人の日々のオンライン対戦の延長線上に世界大会が存在するという珍しいゲームだ。eスポーツと言えば、大前提として本サーバーでのオンライン対戦と、プロリーグはまったく別の存在であることが多く、チーム戦がほとんどであり、まずは一定の実力を示してプロチームオーナーに認められてプロ選手となり、チームのスタメン選手に選ばれる必要があるなど、スタート地点のハードルが非常に高い。これに対して「ハースストーン」は、プロチームに属する必要も、プロ選手になる必要もなく、目の前の相手に勝ち続けるだけで良く、すべてのプレーヤーに平等に世界1位の道が拓かれている。

 ただ、その道のりは、当然のことながらとてつもなく遠く険しい。まずランク戦やポイント付きの地域大会に出場してHCポイントを稼ぎ、地域別プレイオフへの参加資格を得る必要がある。地域別プレイオフを勝ち上がるとシーズン選手権への出場が可能となり、そこで決勝まで駒を進めることで初めて「HCT 2017 World Championship」の出場権が獲得できる。「ハースストーン」というゲームは、30枚1組のデッキを交互に1枚ずつランダムドローしながらプレイするカードゲームであるため、どうしても運の要素が絡む。強運を引き当てることで、誰でも勝ちを拾うことができるが、当然ながら“まぐれ勝ち”だけでは世界大会に出場できず、実力を繰り返し示す必要があるわけだ。

 今回、出場した16名は、ヨーロッパから6名、アメリカから5名、アジアから5名。日本が所属するアジアからは中国2名、台湾2名、韓国1名という内訳で、日本人は残念ながら昨年度に続いて今年も出場を逃している。ポイントを稼ぐことでプレイオフまでは参加できるが、その先が勝ち抜けない。カードゲーム先進国である日本の選手が出場機会を逃してしまうほど、レベルの高い大会になっているのだ。

【客席の様子】
来場者は長テーブルに向かい合うように座る。テーブルには電源も用意され、試合を見ながら持ち込んだデバイスで「ハースストーン」を楽しんでいる。自由な感じがおもしろい

 もうひとつ驚いたのは、試合前に出場選手のすべての手の内が公開されていることだ。「ハースストーン」の公式大会では、事前に全出場選手のデッキが公開される。「HCT 2017 World Championship」でも4つのデッキが事前に公開され、公開後はもうデッキの内容を変えることはできない。各選手とも、コントロールウォーロックやハイランダープリースト、アグロドルイドなど、今年の環境に最適化された強いデッキを、独自にアレンジして準備している。これらのデッキは、我々観戦者のみならず、対戦相手も見ることができる。お互いにデッキの内容は変えられないため、相性が悪いデッキを“バン”し、残り3つのデッキで戦うことになる。しかも3つのデッキで1勝ずつし、3勝することで初めて勝利となる。

 試合は、すべての人間がデッキの内容を把握した状態で進められる。試合の見所も、選手達がどういうカードをデッキに組み込んでいるかではなく、最初のマリガンの選択や、キーとなるカードの使い方、攻守の開始タイミングなどに絞られるため、非常にわかりやすい。たとえば、「CSGO」のトッププレーヤーは、信じられないような応答速度、正確なエイミング、冷静な状況判断能力で、時として超人的な活躍を見せる。こうしたスーパープレイはeスポーツ観戦の醍醐味のひとつといえるが、「ハースストーン」はそうしたスーパーマンのような身体能力はまったく必要とされず、将棋や囲碁のようにすべてがつまびらかな状態での純粋な頭脳戦となるため、選手とまったく同じ目線で試合が観戦できる。これは「ハースストーン」ならではの魅力だ。

【公式Twitch放送】
公式Twitch放送も充実している。初日の時点で、英語の本放送は6万人以上が視聴し、日本語放送も4,000人以上が視聴するなど人気放送となっている。用意したデッキ、バンしたデッキ、勝利済みのデッキといった情報が視覚的に分かるだけでなく、マリガンやお互いの手札も1画面内でわかるようになっている。ちなみに、日本でも高い人気を誇るKolento選手(ウクライナ)は、とにかくドローに恵まれず2戦2敗で、予選リーグ敗退が決定した。eスポーツとしては、「PUBG」以上に運の要素が強いタイトルと言える

 もっとも「HCT 2017 World Championship」に出場するようなトップランクの選手たちと、レジェンドランクにも到達できない筆者が、同じ目線であるはずがなく、実際には、脳内の状況はまったく違っていて、遙か先のターンまで読んだ上での1手であるはずだが、それでも同じシチュエーションで、「自分ならカードをこう切るな」、「その判断は間違っているんじゃないか」、「ドロー運がなさ過ぎるな」と、自らの状況に置き換えて観戦できるため、他のeスポーツタイトルとは異なる味わいがあるのだ。Twitchで観戦していても、妙に上から目線のコメントや、早い段階での勝ち負け判定を行なうコメントが多くて、「ハースストーン」の“舞台”である、タバーンで対戦者同士をギャラリーが囲んで勝手気ままにヤジを言い合う感じが出ていておもしろい。

【コメントを見ながら観戦するのが楽しい】
その手はどういう判断なのかは、推測するしかないが、コメント欄には色んな考えが披瀝されていておもしろい。実況解説と共にコメントも見ながら観戦するのが正解だ。ちなみにKolento選手の試合では、贔屓にするファンと、そのアンチの煽りで大いに盛り上がった

 会場は、中世の酒場にあるような長机を囲むように座るようになっており、酒を飲んだり、スマートフォンやPCを取りだして対戦をしながら自由気ままに観戦を楽しんでいる。タルや暖炉、シャンデリアといったアイテムにもこだわっており、建物自体もレンガ造りで全体がタバーン風なのも良いところだ。非常に雰囲気にこだわったeスポーツイベントとなっている。

 「HCT 2017 World Championship」は、まだ残り3日間の会期を残している。上述したような要素を意識しながら観戦するとより楽しめるのではないかと思う。年に1度の7,000万人の頂点を決める戦いを、ぜひ存分に堪能したいところだ。

【会場の様子】
会場入り口を入ってすぐのところにあるメインロビーには実物大の“ハースストーン”が置かれている
多目的スペースとして使われるタバーンエリア。ここではクリエイターのトークイベントや、即席の大会が開催される
メイン会場後方に掲げられた選手リスト
優勝トロフィー。優勝は誰になるだろうか!?