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JAGMO、「UNDERTALE × JAGMO Orchestra Concert」を開催

練りこまれた演出とフルオーケストラが紡ぎ出す素晴らしき「UNDERTALE」ワールド!

3月17日開催

会場:江戸川区総合文化センター

 ゲーム音楽プロ交響楽団JAGMO(Japan Game Music Orchestra)による、「UNDERTALE」単独のフルオーケストラコンサート「UNDERTALE × JAGMO Orchestra Concert」が3月17日、東京都江戸川区総合文化センターで開催された。

 JAGMOの定期公演は弊誌でも何度か取り上げているが、おさらいさせていただくと「ゲーム音楽を、音楽史に残る文化に。」というビジョンのもと、2014年からオーケストラ公演活動を行っているゲーム音楽プロ交響楽団である。昨年はフルオーケストラ公演に加えて、ビッグバンドツアー公演「BIG BAND JAGMO」を開催、より身近により親しみやすくゲーム音楽文化の間口を広げるべく精力的に活動を続けている。

 今回は昨年8月のJAGMO定期公演「旅人達の追想組曲」で初お披露目となり、「BIG BAND JAGMO」でも演奏されたインディーズゲームの「UNDERTALE」単独タイトルでの公演となる。「UNDERTALE」はインディクリエイターのトビー・フォックス氏が開発した「誰も死ななくていいやさしいRPG」である。プラットフォームは2015年にリリースされたPC版をはじめとし、家庭用ゲーム機向けにPS4/PSVita版が2017年にリリース(日本語版は有限会社ハチノヨンが担当)、そしてNintendo Switch版のリリースも今後予定されている。

 舞台となる地底世界と愛すべきキャラクター達がドットで描かれた味わいのあるグラフィック、時にはコミカルに時にはシリアスに展開される重厚なストーリー、RPGという要素の裏をかいたとも言えるあっと驚く構成・演出、緊張感(と一部脱力感と絶望感)溢れるモンスターとの戦闘、等々が世界中で人気を博している。そして何と言っても物語に華を添える珠玉とも言える音楽の存在無しにはこの作品は語れないだろう。

 「UNDERTALE」をプレイしたきっかけは、音楽に「一耳惚れ」したからという読者も多いのではないだろうか。一度聴いたら忘れられない特徴あるメロディは勿論、曲の端々にこれまで冒険してきたシーンでのフレーズがちりばめられており、否が応でもこれまでのストーリーやゲーム体験を色鮮やかに思い起こさせる構成には脱帽の一言。

 「UNDERTALE」は、サウンドの良さが愛されている大きな要素となっており、本公演告知から早々にチケットがSOLD OUTとなったことからもファンからの期待と注目度合を窺い知ることができるであろう。「UNDERTALE × JAGMO Orchestra Concert」のセットリストは以下の通り。

『序幕』
-「Once Upon a Time / むかしむかし…」

『第一章 いせきのトリエル』
-「Start Menu / スタートメニュー」
-「Fallen Down / おちてきた子」
-「Ruins / いせき」
-「Enemy Approaching / ENEMY APPROACHING!」
-「Ghost Fight / ゴースト・ファイト」
-「Heartache / 心の痛み」

『第二章 雪景色のスケルトン』
-「Snowy / 雪景色」
-「sans. / サンズ」
-「Dogsong / ドッグソング」
-「Snowdin Town / スノーフルのまち」
-「Bonetrousle / Bonetrousle」

『第三章 ロイヤル・ガード隊長 アンダイン』
-「Waterfall / ウォーターフェル」
-「Undyne / アンダイン」
-「Temmie Village / 手ミーむら!」
-「Spear of Justice / 正義の槍」

『第四章 メタトン』
-「It's Showtime! / イッツ・ショータイム!」
-「Metal Crusher / メタル・クラッシャー」
-「Another Medium / Another Medium」
-「Can You Really Call This A Hotel,I Didn't Receive A Mint On My Pillow Or Anything / 枕の上にミントチョコレートも置いていない宿泊施設をホテルと呼んでよいものだろうか」
-「Death Report / 絶対絶命レポート」
-「Spider Dance / スパイダーダンス」
-「CORE / コア」
-「Oh My... / なんとッ!」
-「Death by Glamour / 華麗なる死闘」

『第五章 アズゴアとひとつのエンディング』
-「Undertale / UNDERTALE」
-「Bergentruckung / Bergentruckung」
-「ASGORE / アズゴア」
-「Your Best Nightmare / 最高の悪夢」
-「Finale / フィナーレ」
-「An Ending / ひとつのエンディング」

『第六章 アズリエルとおちてきた子の真実』
-「Once Upon a Time / むかしむかし…」
-「Dating Start! / DATE START!」
-「Dating Fight! / DATE FIGHT!」
-「Alphys / アルフィー」
-「Here We Are / 真実」
-「Amalgam / アマルガム」
-「Hopes and Dreams / 夢と希望」
-「SAVE the World / SAVE the World」
-「His Theme / 彼のテーマ」
-「Reunited / 再会」
-「Respite / 自由」

『終章』
-「Once Upon a Time / むかしむかし…」
-「Your Best Friend / キミの親友」
-「Battle Against a True Hero / 本物のヒーローとの戦い」
-「MEGALOVANIA / MEGALOVANIA」

『アンコール』
SECRET

演出:山本和哉
指揮:永峰大輔
コンサートマスター:西江辰郎

 「UNDERTALE」をプレイしたことのある読者にはセットリストを見ていただくとすぐに気づくと思うが、「UNDERTALE」のストーリー及びエピソードを8つの楽章に分け、音楽劇と呼ぶに相応しい形式に再構築している。さらにはステージ後方にある大型スクリーンにはゲーム画面が演奏とシンクロして流れ、否が応でも観客にとってはまるでゲームを追体験しているような没入感が得られる心憎い演出となっている。

 ちなみに今回使用したゲーム画面は、JAGMOプロデューサーの山本和哉氏が実際にプレイしたものを先に出来上がった音を元に編集・組み込まれている。山本氏は「UNDERTALE」を30周近くゲームを繰り返しプレイしている筋金入りのファンであり、過日の公演でお披露目した際の反響の大きさもあり今回の公演を決めたとのこと。演出等については山本氏とハチノヨンで綿密に連携をし、眼前に展開される「UNDERTALE」の世界へより没入できるよう様々な工夫が凝らされている。開演前のステージ後方のスクリーンにはネタバレを防ぐため一部にモザイク処理をしており、それでも意図せずネタバレになってしまう可能性があることをあらかじめおことわりする旨のメッセージが映し出され、ゲーム未プレイの観客のための配慮もされていた。

 さて、ここから各章のレビューを行っていくにあたり、本公演の趣旨に沿ってなるべく重大なネタバレにならないよう書いたつもりだが、曲の特性上どうしても核心に触れなければならないものも存在する。本タイトルを未プレイで本記事をご覧いただいている読者にはあらかじめその旨ご了承いただきたい。

開演前に映し出されたネタバレに関するおことわりメッセージ。

 まずは序章。「UNDERTALE」世界への入口となる「Once Upon a Time」がフルートのソロから静かに紡がれ、フルートのソロで静かに締めくくられた。

 一旦間をおいて遺跡エリアが舞台となる第一章。スタート画面の「Start Menu」、道中で出会う母性溢れるモンスター「トリエル」を表したような優しいタッチのピアノで奏でられる「Fallen Down」、そして「Ruins」と続く。淡々と進行すると思いきや、突然一人で放り出されるシーンの曲が間に割り込んでくる、フィールド曲である「Ruins」からエンカウント音を皮切りに通常戦闘曲である「Enemy Approaching」に突入後また「Ruins」に戻る、今度はジャズスイング調にアレンジされた「Ghost Fight」が中ボスのような形で立ちはだかる、とまさに実際にゲームをなぞるような展開である。

 章のクライマックスは、ゲーム音楽特有の単調なループとならないよう各楽器を駆使し濃淡のある展開に編曲された「Heartache」。そしてスクリーン内の主人公が遺跡の出口をくぐった直後にジングルが演奏され、スクリーンにタイトルよろしく映し出される「UNDERTALE × JAGMO」の文字。ゲームを周回プレイした方にとっては何度も見たシーンであろうが、これから始まる物語への期待が膨らむような演出に、会場内にケツイが静かに満たされていくのを感じた。

 第二章はスノーフルエリア。当章でも「Once Upon a Time」から始まり「Snowy」へと引き継がれていく。雪を表現する楽器の定番とも言えるベルが添えられ、エリアの特徴をより醸し出していた。途中ボサノバ風味の味付けがされた「Sans.」、BPMが不安定な原曲を忠実に再現した「Dogsong」を挟み、主役を張るシロフォンに加えて途中からあくまでも優しく入って来る弦楽パートにより穏やかな町の風景が浮かび上がってくる「Snowdin Town」へと辿り着いた。最後に行く手を阻むは愛嬌満点のスケルトン兄弟の弟パピルスとの戦闘をマーチ風に編曲・構成した「Bonetrousle」。本曲を走り切った後にまた「Once Upon a Time」で余韻を残しつつ第二章は終了。

ステージ全景。背後の大型スクリーンに実際のゲーム画面が映し出され、ゲーム画面と演奏者のどちらを目で追うかで悩まされた。

 第三章はウォーターフェルが舞台。前章ではシロフォンがこれでもかと存在感を示していたが、本章は雨風のような環境音と共にグロッケンが静かに鳴り響く「Waterfall」で始まった。セットリストには明記されていないが、道中にある石像に傘地蔵よろしく傘をさしてあげた時のシーンや、それをヒントにギミックを解くシーンも演出の一環としてこっそり混じっており、「分かってるなぁ」という観客の心の声が漏れ聞こえてくるようであった。

 「Temmie Village」では、不思議な生き物であるテミーのコミカルさを再現、ホッコリするのも束の間、アンダインに追いかけられ緊張感が高まるシーンからそのまま「Spear of Justice」へとなだれ込む。オケヒをふんだんに用い、管楽器と弦楽器が殴りあうように掛け合いをするさまは、アンダイン戦の激しさを物語っていた。そして最後に不穏なフレーズが一瞬だけ演奏され、嫌な予感がしつつも第三章は終了。

 第四章はホットランドからコアとよばれるエリアが舞台。またもや「Once Upon a Time」によく似たフレーズから始まり、クイズ番組で耳にしたような「It's Showtime!」、どことなくスペイン民族音楽を連想させる編曲の「Metal Crusher」、メロディ合間のブレイクポイントでオーボエが光る「Another Medium」、料理番組で耳にしたような気がする、ミュートトランペットがいぶし銀の「Can You Really Call This A Hotel,I Didn't Receive A Mint On My Pillow Or Anything」、ニュース番組で耳にしたような「Death Report」と矢継ぎ早に続く。

 そしてファン待望の名曲「Spider Dance」。「Ghost Fight」の姉妹曲のような位置づけだが、第一章の「Ghost Fight」はどことなくダウナーな雰囲気の編曲に対し、「Spider Dance」はアタックを効かせたアッパーな雰囲気を纏ったものとなっており、対照的な印象を受けた。「CORE」を経て「Oh My...」、そして屈指の人気曲でもある「Death by Glamour」が立ちふさがった。「CORE」や「Metal Crusher」、「It's Showtime!」のフレーズをベースに、ドラム、トランペットをはじめとした各パートが盛り上げ、華やかな原曲を一層ブリリアントなものとした。華麗なる死闘の果てにクラリネットのソロを以て第四章は終了。

 第五章はいつもの「Once Upon a Time」と見せかけて「Undertale」が演奏され、いよいよ物語も佳境に入ったのかと思わせる。出だしは原曲に忠実に、それからは原曲をあくまでもリスペクトしながら盛り上がっていく展開となった。そして鐘が打ち鳴らされ、鳥のさえずる環境音が聞こえてくる……が、特に何事もなく「Bergentruckung」を経て何かが壊れる音と共に「ASGORE」が始まった。

 「ASGORE」はなんといっても原曲1分50秒あたりのブレイクポイントであるピアノソロのところが一番の見せ場だろうと個人的には思うが、見事に再現していた。そしてリバースシンバルを挟んで一度演奏が仕切りなおしとなり、何故か「Once Upon a Time」が始まるが、どこかおかしいと思う間もなく「Your Best Nightmare」が唐突に始まってしまう。とうとうここでスクリーンに映し出されたゲーム画面にモザイクがかかってしまい、ここはストーリー上重大なシーンだということがわかる。各所に仕込まれた不協和音もこれはただ事ではないという演奏サイドからのメッセージが伝わったと思う。そして悪夢に等しい演奏はいくつかのフェーズを越えて「Finale」、「An Ending」へと至る。十分な余韻と、何か満たされないものを残して第五章は終了。

 休憩を挟んで第六章が開始。最早お馴染みになったと言える「Once Upon a Time」が始まり、もうここまで来ると繰り返しという要素を強く意識させているのではないかと思わざるを得ない展開である。第二章で聴いたことのあるフレーズが混じりながら「Dating Start!」、「Dating Fight!」がパピルスとのこれまでの思い出と共に演奏された。続いての「Alphys」は、どことなく間が抜けていながらも愛嬌のあるキャラクター性をうまく表現。そしてエレベータ落下から謎の場面へ(ここでまたモザイクがかかり、重要な局面だということがわかる)。「Here We Are」、「Amalgam」と、今までとは何かが違うと思わせる曲が続く。そしていくつかのシーンを経てついに「Hopes and Dreams」と「SAVE the World」が。もうこの時点で視界がぼやけた方もいたかもしれないが、フルオーケストラの総力を以ての演奏でさらに盛り上げた。興奮冷めやらぬうちに「His Theme」、「Reunited」、「Respite」の静かながらも怒涛の追い打ちがかかった。もう涙腺がもたない、勘弁してほしいと思った方も多いのではないかと思う。

 第六章が終わると、唐突にスクリーンに浮かび上がる「このままさきにすすむとこうかいすることになります これいじょうききたくないひとはたいじょういただいてかまいません」という警告文とカウントダウンしていく数字。ゲーム未プレイ者にとっては終章はとんでもないネタバレ要素の塊なのだということと、ゲームクリア者にとってはゲーム中でところどころに見られるウイットに富んだジョークだということの2つの意味を持ったものであろう。この警告文が表示されるや否や会場内はざわついたが、笑い声が多かったところを見ると、観客は後者が多かったようだ。カウントはゼロになったが、勿論誰一人として席を立つことは無かった。指揮台に上った指揮者の永峰氏が観客を振り返り、「ほんとうにこうかいしないね?」といわんばかりにスクリーンを指さす。笑い声を上げこそすれ、やはり誰一人席を立たない観客。もう一度永峰氏が観客へ振り返りさらに念を押すが、観客は再度笑い声を以てそれに答え、終章が始まった。

 終章は全篇に亘ってネタバレの塊であり、スクリーンに映し出されるゲーム画面は至る場面でモザイクだらけ。まず最初はもう言わずもがなの「Once Upon a Time」この終章も繰り返しのひとつなのだということかもしれない。そしてここで初出の「Your Best Friend」。ゲーム未プレイだが曲だけを知っている方は何故この曲が途中テンポもメロディもおかしくなっていくのか分からないだろう。そして本ゲームを不運にもクリアしてしまったファンにとっては心がえぐられるようなシーンの後、最早原型を留めていない「Snowy」が演奏された。ゲームならではの演出ではあるが、グチャグチャで曲としての体をなしていないものをよく人の手で再現できるものだとある種の感動を覚えながら聴き入っていた。

 そしてとある曲から「Battle Against a True Hero」へと昇華された。この場面でのスクリーンに映し出されたゲーム画面はモザイクどころか「みるな」とまでご丁寧にデカデカと書かれていたが、先述したゲームクリア者にとっては笑いの種以外の何物でもない。疾走感溢れるドラムを先頭に、勇壮を越えた悲壮感を感じる演奏は圧巻の一言であった。その後は第五章を想起させる鐘と鳥のさえずり、何故かここにきて演奏されるゲームオーバー時の曲。「なぜここで?」とゲーム未経験者は思うかもしれない。そういうことかとゲーム経験者は頭を抱えるだろう。筆者も思わず苦い顔をしてしまった。ゲームオーバー時の曲からすぐさま本ゲームの代表曲と言っても過言ではない「MEGALOVANIA」が始まった。確実にゲーム音楽史に名を残すであろうこの曲は原曲はバリバリのロック調なのだが、それに負けず劣らずのケツイ120%の演奏は“LOVE20相当”の威力に匹敵すると言えた。

 名残惜しくも終章が終わり、鳴り響く拍手の中、指揮の永峰氏は退場。するとスクリーンに映し出される「あなたはもう一曲聴きますか?」という質問と、4つの選択肢(4つとも「拍手をする」となっており、どこぞの殺人ロボットを彷彿させた)。笑い声が起こりながらも拍手は続き、永峰氏が再登場、アンコールが演奏され本公演の全プログラムは終了となった。アンコールの詳細はプロデューサー山本氏の意向により伏せさせていただくが、最後の最後に相応しい曲、そしてセットリストからの消去法で考えると何が演奏されたか感づいた読者もいるのではないだろうか。

公演終了後、ガッチリ握手を交わす指揮 永峰氏とコンサートマスター 西江氏。

 本公演を通しての所感だが、今回の公演は徹底して演出に重きが置かれていたと思える。逆に言えば、いつもであれば華やかにステージを飾るはずの演奏者にとっては今回は演出のためのファクターに徹することにいささかの戸惑いがあったかもしれないし、観る側にとっても練りに練られた演出に満足しながらも何らかの違和感を覚えたかもしれない。勿論どちらかが正解というわけではないし、今回の題材である「UNDERTALE」はゲームへの愛と経験に満ち満ちていると山本氏は感じており、演出という手法で揺さぶればたちまちのうちにそれは感動と共感という名の決壊を起こすことは想像に難くない。実際に筆者個人も同じ考えである。そういう意味だと今回の手法は成功だと言えるであろうし、それに挑戦したJAGMOの姿勢には敬意を表したい。何よりも公演後に会場を後にしながら目を輝かせて「UNDERTALE」の思い出を語っていた多くの観客がそれを証明している。

 次のJAGMOはどんな挑戦を見せてくれるだろうか、今後も期待したい。

開演前の物販風景。@FangamerJPの「UNDERTALE」グッズに加えて「UNDERTALE × JAGMO公演オリジナルグッズ」が販売された。この長蛇の列は会場3階にまで及び、休憩時間、さらには公演後にまで列が形成された