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世界中の「Live2D」開発者が集結した「alive 2016」イベントレポート

日本とルーマニアの協業を実現させた2人のリーダーにインタビュー

現在は50名を超える規模で開発が続けられている「Live2D」、今後は70名体制を視野に入れている中城氏

 Live2D Creative Awards 2016の終了後、中城氏とStanculescu氏を捕まえて、短い時間ながらインタビューすることができた。中城氏は、本日の来場者だけでも500名以上と注目を集め、プロアマ問わず、多くの開発者に支持されていることについて、非常に感謝しており、Live2D開発側が想定するレベルを超えた作品が現われ始めていることに、素直な喜びの気持ちを表明していた。

 基調講演の締めのスピーチで中城氏が発した「ようやく60点のところまで来た」というコメントに感じ入った筆者は、今後の「Live2D」はどこに向かっていくのか、さらに突っ込んでみた。中城氏は、決してひとつの方向に絞っているわけではないとし、2Dの作画を活かした表現はどこからいくのが理想なのかということを常に考えながら開発を進めていると言う。場合によっては、今まで積み上げたものもあえて否定しながら、ずっと作り続けるしかないとしていた。中城氏は前向きだ。作ってみないと何が正解かわからない、だから作る、作り続けるという明解な論理で、過去の資金的に厳しい時期にできなかったことが、資金調達(昨年10月にコロプラが出資)を行なった結果、できるようになった今、次々と勝負をかけているという。

 新しい2Dと3Dのハイブリッドの「Euclid」を社内の他の開発者に任せ、中城氏自信は「Cubism」に注力するという新体制を敷いた今後の「Euclid」について、自らは担当しない中城氏の心境と、従来の「Live2D」とは一線を画した「Euclid」を中城氏自身はどう捉えているかについても尋ねてみた。中城氏は、今まで2Dの限界を他方向に目指してきて培った技術を「Cubism」のみならず、「Euclid」にも反映させていければ良いと考えている。「Euclid」が3Dを取り込んだからといって、3Dツール化していくわけではなく、決して中城氏のやりたいことと乖離してはいないのだ。実際、昨年までのプロトタイピングのフェイズでは、「Euclid」は中城氏が中心になって開発を進めてきた。若手が台頭するなか、いつまでも「Live2D」の全てを中城氏を中心に開発しているのも良くないと考え、新体制では「Cubism」の方をしんがりを引き受ける気持ちで担当することにしたそうだ。

 “しんがり”と言っても、今後も中城氏自身が担当する「Cubism」の開発が終息するわけではなく、バージョン3.0になった今も様々な機能追加が予定さてれいる。実験的な機能も多く含まれ、どの機能が優先とは言えないが、イラストレーションを主体として考える「Live2D」開発者からのニーズもあり、ラインを綺麗に描く改良は優先したいと語っていた。実際、「Live2D」が、ごく初期のスプライン曲線を構成する頂点データの移動のみでアニメーションさせていたものから、平面ポリゴンにテクスチャを貼り付け、グリッドのデフォーマの座標位置を変化させてアニメーションさせる今の「Live2D」に変化したのは、グラフィック製作者のニーズではなく、スマートフォンなどで3DのAPIを活用して高速に描画せざるを得ないという技術上の制約から来るものだったと言う。美しいラインへの改良を優先するということで、やはり「Live2D」は、2D表現を最高のものにするために、現状のシステムを“否定”して進化していくのだろう。

 中城氏は、以前から“3倍”というキーワードを、たびたび口にすることがあったと言う。さらに豊かな表現に、さらに便利に、さらに使いやすく、と、あらゆることに”3倍”を目指すのが中城氏の指針だ。インタビューの最後に、「Live2D」の今年の目標として「Live2D」の実行速度を“3倍”にすることを目指すと、力強く語ってくれた。

東欧ルーマニアのインディ開発ながら「FaceRig」で注目を集めたHolotech Studios SRLを率いるStanculescu氏

 Stanculescu氏からは、「FaceRig」でのLive2Dの人気は非常に高く、「FaceRig」のワークショップで製作された「FaceRig」アバターの170のうち、150ものアバターが「Live2D」で作られているということが明かされた。90%が「Live2D」ということで、如何に「FaceRig」のアバター製作者のなかで「Live2D」が注目されているかがわかる。Stanculescu氏は「Live2D」でアバターが作りやすいことを主要因として挙げていたが、やはりこれはキャラの中の人になりたいという欲望のなせる業だろう。本日発表された「Live2D」の新機能では、Stanculescu氏はやはり「Euclid」に注目と期待をしており、「FaceRig」がVRに対応する計画があるなかで、「Euclidが有意に働くと見ているようだ。「FaceRig」自体の将来のビジョンとしては、ごく簡単な操作で誰でも2Dや3Dのアバターを自分自信で製作できる機能を提供して、ウェブやVRといったあらゆるオンライン空間でユーザー同士がコミュニケーションを取れる状況を実現したいとしていた。

 Holotech Studios SRLが小さい会社ということもあり、常にオープンでパートナーを求めており、日本の会社に限定せず世界中の会社と、幅広い協業を行なっていきたいと語っていた。協業する分野もゲームのみならず、教育やマーケティングなどアバターベースのコミュニケーションが活用できる可能性のあるありとあらゆる分野に広げていきたいと言う。「FaceRig」は、PCのSteam配信で、かつゲームでもないため、まだまだポピュラーとは言えないが、今後計画されているスマートフォン向けのリリースに期待しているとのことだ。その他のプラットフォームとして、もちろんコンソール機、特にPlayStation VR向けの開発にも興味はあるが、今はまず海外クラウドファンディングサイトIndiegogoで、「FaceRig」の開発資金を集めた際の約束を果たすのが先決だとしていた。

「バトルガールハイスクール」の開発者が注入するキャラクターへの想い

コロプラで本作のディレクターを務めるきたぴよ氏

 午後からは、2つのクラスルームに分かれて、「Live2D」に関するセッションが行なわれた。そのなかでも注目を集めていたのは、「Live2D」の能力をフルに活用している「バトルガールハイスクール」のセッションだ。本セッションではコロプラのグラッフィックス担当とみー氏とディレクターのきたぴよ氏が登壇し、「バトルガールハイスクール」における「Live2D」の活用事例を紹介した。

 「バトルガールハイスクール」は、コロプラがサービスを行なう学園を舞台にしたアクションRPGで、200万人のアクティブユーザーを擁する。日本のみならず台湾でもサービスが行なわれており、こちらも好評だという。「Live2D」は、本作の学園パートで活用されており、本作のキャラクターの魅力は、「Live2D」で作成されたキャラクターの細やかな演技アニメーションによって、極限まで引き出されている。

同じくコロプラのとみー氏。本作の「Live2D」デザイナーを務める

 セッションでは、6月に追加されたばかりの「星月みきのウェディングドレス姿」を例にとり、「Live2D」でのアニメーションの機微が紹介された。「Live2D」モデルは、あくまで2Dで描かれたキャラクターを関節などの可動部でレイヤー分けした素材をアニメーションさせるシステムであるため、その性質上、画面の奥行き方向に対する変化は苦手としている。ところが、「バトルガールハイスクール」では、この苦手分野に対しても積極的に挑戦し、前傾姿勢になったり前後に移動する動きをさせても破綻しない見事なアニメーションを付けている。年間400体ものキャラクターを投入しており、その過程で培われたノウハウと、非常に細かい部分のミスにまで目を光らせるチェック工程により、このクオリティは維持されている。

「星月みきのウェディングドレス姿」は、「Live2D」の特性を活かしたデータ構造をしている

 キャラクターの「Live2D」モデルのシステムは、キャラクターの身長差によって2種類、足の開き方など微妙にポーズの違う4種類の合計8種類の素体(衣装をまとっていない裸の状態のキャラクター)が用意されており、衣装によって最適な素体を使うことで、違和感のない表現を実現している。キャラクターのテクスチャも高解像度と低解像度の2種類を用意することで、高解像度のディスプレイを持つ端末でも高精細にキャラクターが描かれるように工夫している。テクスチャは、どんな衣装を身にまとっているときも使用される共通のテクスチャと、変化する衣装ごとに用意される衣装テクスチャの2種類に分けられて管理されており、この2つのうち衣装テクスチャにも肉の部分、つまり肌露出がある場合の肌部分や髪型が変化する場合の変化後の髪型も衣装部分に含むことで、多彩な衣装の変化を実現している。

 アニメーションは、キャラクターごとに用意されたボディのモーションと表情のモーションを組み合わせることで複雑で多彩な動きを実現している。「Live2D」で破綻の生じやすい衣装のデザインは、あらかじめ避けるようにデザイン規約を定めており、その規約はバトルモードの3Dモデルで実現できないものや破綻しがちなデザインを避けることも考慮に入れている。2Dは2D、3Dは3Dと割り切って、まったく異なる表現を行なう仕様のゲームも多いなか、本作ではゲームの状態が大きく変化しても違和感を生じさせないことを優先しているというわけだ。

 「バトルガールハイスクール」の女の子の可愛らしさやキャラクター性へのこだわりは、静止画のイラスト表現にとどまらない。「Live2D」モデルのパーツにも反映させて描いているほか、「Live2D」モデルのバストボリュームに応じて、Physicsパラメータを変更して、バストの揺れアニメーションでもキュートな演技をさせている。

残念ながら、本作ファンにとって非常に重要と思われる情報は非公開。本スライドを眺めて重要情報に想いを馳せていただきたい

 本作のクオリティは、「Live2D」の特性を活かすように合理的に設計されたキャクター制御システムと、1ピクセルのミスも許さない細かいチェックの両面で維持されている。本セッションでは、チェック工程で報告された1ピクセルの塗りのはみ出しといった非常に細かい例や、Photoshopでのレイヤー分けで生じる不具合の程も紹介されていた。こういった品質にさほど影響しない部分にこだわることは実際問題コストに見合わず、あまり意味がないことだと思われる。これらは、あくまで極端な例であって、両登壇者の言いたいことは、1ピクセルのミスをも発見するほど優秀なチェック担当者を置いてミスを見逃さない体制作りができていることが、本作の品質維持に寄与しているということなのだろう。

「バトルガールハイスクール」における「Live2D」モデルやテクスチャの構造
「バトルガールハイスクール」のアニメーションはボディと顔を組み合わせて表現される

実写のネット情報番組「なでなで情報局」に「FaceRig」キャラの星月みきが登場

 もうひとつ「バトルガールハイスクール」における興味深い試みは、本作の情報を配信するネット番組「なでなで情報局」に「FaceRig」を活用したキャラクターを番組に登場させていることだ。「なでなで情報局」用の「Live2D」モデルやモーションアニメーションは、アプリ内のものとは別のものが用意されている。この「なでなで情報局」用「FaceRig」キャラクターの振る舞いには、実際の収録現場でキャラクター担当声優の洲崎綾さんのしぐさを、「FaceRig」の機能でリアルタイムキャプチャした結果を用いている。各表情感のアニメーションのつなぎに、やや硬い部分は見られるものの、この「なでなで情報局」用「FaceRig」キャラクターは非常に良くできている。本作のプロデューザーと洲崎綾さんとの対話で、洲崎綾さんが実際に見せている表情がちゃんと伝わって来ており、トークや収録の雰囲気を楽しんでいるさまが想像できる。

 アプリそのものでは伝えきることのできないキャラクターの魅力を、ネット配信番組でファンに伝えるために「FaceRig」を活用することは非常に有効だ。「FaceRig」によるキャラクターからは、アプリにはないアドリブ感や担当声優がキャラになりきって演技する息遣いが感じられ、まるで命を吹き込まれたようだ。「FaceRig」がスマートフォンに対応した暁には、本作から派生した「バトルガールハイスクール」専用の「FaceRig」ビデオチャットアプリが登場すると、ファンに大人気になりそうだと感じられた。

2016年に飛躍する「Live2D」の未来に期待

 日本発で、アジアを中心に世界に広がりをみせる「Live2D」。ビジネスとしての収益より、まずはユーザー層の拡大を狙うアプローチは、かつての「Unity」を彷彿とさせる。現状の「Live2D」のライセンスモデルも「Unity」のそれに非常に近しい。「Unity」が、特にアジアで強いことからも、技術面では今後も「Unity」との親和性を高める方向性に間違いはないだろう。

 「Live2D」の方向性の正しさは、技術面だけではない。元来、2Dに特化してきたということもあり、日本のメジャーゲームパブリッシャーのタイトルで次々と採用されている。ゲームのメインプラットフォームが、スマートフォンにシフトしたことで時流にも乗っている。次のムーブメントとして期待されているVRへの取り組みにも意欲的で、すでに純日本型VRに「Euclid」の親和性が高いことは「Live2D保健室」のデモが証明している。「Live2D」は、ゲーム全体をマクロで見れば非常にニッチではあるものの、各社のコンテンツを通じて獲得したマニアックなファン層が短期的に離れることはないだろう。「Live2D」開発環境は、アマチュアがコンテンツ製作をホビーとして楽しむにも最適だ。ビギナー向けのチュートリアル書籍も、いくつか販売が始まっている。

 「Live2D」にとって、2016年が大きな飛躍の年になることは間違いないだろう。2014年から、年に1回開催されている「Live2D」のビッグイベントaliveは、「Live2D」コミュニティの成長と共に、来年もさらに大きくなって帰ってくるに違いない。来年のaliveでの報告が今から楽しみだ。

展示会場には、ARやVRデバイスも
VR体験コーナーはここでも行列ができる大人気