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世界中の「Live2D」開発者が集結した「alive 2016」イベントレポート

新機能の発表、Awards表彰式、コンテンツセッションと充実の1日

7月2日取材

会場:日本工学院専門学校蒲田キャンパス

各社によるデモ展示会場の模様。VR体験には行列も

 Live2Dは7月2日、「alive 2016」と題した、同社の2D立体表現ツール「Live2D」の今がわかるイベントを開催した。

 「Live2D」とは、イラストレーターやアニメーターが作画した2Dのキャラクターを、2Dの良さを活かして画面に描画するミドルウェアおよびその周辺の開発ツール群のことで、会社としてのLive2Dでは、2Dで描かれたデジタルのイラストデータを元に「Live2D」用のデータを製作するサービスも提供している。ここ2~3年は、従来のウェブや携帯ゲームに採用される以外に、スマートフォン向けのコンテンツでの採用が目立っている。「Live2D」用のデータを作成する環境は、2Dのグラフィックデザイナーにとって使いやすいように工夫されており、近年イラストレーターを志す学生が増えていることから、開発ユーザー層が大きく拡大している。

 そんな「Live2D」を取り巻く環境のなか、2014年から開催されているのが、この「alive」だ。ゲームエンジン「Unity」の「Unite」や「Unreal Engine」の「UNREAL FEST」に相当する「Live2D」開発ユーザーのおまつりイベントと言える。イベントの構成自体は例年同様で大きな変化はないが、来場者数は回を重ねるごとに増加しており、本年はついに500名を突破している。

Live2D Creative Awards 2016の最終選考に勝ち残ったクリエイターたち

 イベントは、「Live2D」の産みの親であり、今でもチームの先頭に立って「Live2D」のプログラミングを行なっている中城哲也氏ほか、國定みゆき氏、笹原正哉氏、阿曽直貢氏の3名を加えた総勢4名の「Live2D」開発者による基調講演で始まり、基調講演に続いては、プロアマを問わず、また国内外合わせて9カ国から集まった70を超える作品の中から、最終選考に勝ち残った14の作品から優秀作品を表彰するLive2D Creative Awards 2016が行なわれた。

 Live2D Creative Awards 2016の審査員を務めるゲストの顔ぶれは多彩で、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの小林信行氏、A-1 Picturesデジタル制作部の工藤菜央氏、日本工学院専門学校の荒川巧也氏、Happy Elementsの「あんさんぶるスターズ!」開発チーム、Live2D Creative Award 2014でグランプリを受賞し、現在はLive2D社内でモーションアニメーターとして活躍するYuan_H氏に加え、「Live2D」をプラグインとして取り込んで人気が急上昇したチャットアバターソフト「FaceRig」を開発するルーマニアの開発会社Holotech Studios SRLから、CEOのDragos-Florin Stanculescu氏が本イベントのために駆けつけ、審査員に加わっていた。

 午後からは、2つのセッションルームに分かれて、合計で5つのセッションが開催された。筆者はそのうち、「運用に適したLive2Dの作り方 in バトルガールハイスクール」と題して、コロプラの開発者とみー氏、きたぽよ氏(両名共に本名非公開)が行なったセッションと、「ボーイフレンド(仮)×Live2D ~カレ達に命を吹き込む政策過程」のテーマで、サイバーエージェントの池田碧氏とLive2Dの國定みゆき氏が行なったセッションの2つを受講した。どちらの作品も、2Dで描かれたイラストレーションのキャラクターの魅力をいかに引き出すか、という部分に全精力を傾けて開発されているコンテンツで、セッションの内容も非常に濃密なものであった。

 残念ながら「ボーイフレンド(仮)」のセッションは、撮影が一切禁止されてしまい、レポートすることができないため、本稿では、午前中の基調講演とLive2D Creative Awards 2016のレポートと共に、「バトルガールハイスクール」のセッションの模様をお伝えする。加えて、中城氏とStanculescu氏に対して個別インタビューをする機会が得られたので、こちらもご一読いただきたい。

開発者自身が「Live2D」の新機能を語ったalive 2016基調講演

Live2D代表取締役にしてスーパープログラマーの中城氏

 基調講演では、中城氏に始まり、次々とLive2Dの開発スタッフが登壇する形で進行した。中城氏からは、開発者として「Live2D Cubism」バージョン2.1の新機能の紹介にはじまり、「Cubism Editor PRO」のインディ版発売の話題からスピーチを始めた。

 続いて紹介された「Live2D」の数字には目を見張るものがあった。ここ最近、大きく「Live2D」開発者数を伸ばしていることは、なんとなく感覚的に理解していたものの、実際どの程度なのかが数字で示されると驚くものがある。PRO版のライセンス販売数の伸びが800%であったり、海外の開発ユーザー数が40%を占めるようになっているといったあたり、いよいよ「Live2D」がブレイクし始めていることが確認できた。

 すでに4カ国語への対応を済ませている「Live2D」は、韓国でも「DESTINY CHILD」というタイトルで採用されているほか、WebCamで自分の顔を取り込むだけで、即座にキャラクターとのファイシャルアニメーションとマッチングが行なわれるアバターチャット「FaceRig」に「Live2D」プラグインが提供されて注目を集めたことも記憶に新しい。このほかにも、新たな「LIVE2D」開発コミュニティLive2D Creators Circlenの始動や、aliveちゃんイラストコンテストといった取り組みが発表された。

【「Live2D」の現況資料】

Live2Dを熟知したアートワークのスペシャリスト國定氏

 中城氏に続いて登壇した國定氏は、自社内のLive2D Criative Studioで製作された作品を紹介するムービーを流した後、ムービーに登場したLive2Dモデルやアニメーションテンプレートを今後順次公開し、「すべて無料でダウンロード可能にする」とコメントしていた。加えて、開発者向けのサービスとして、ウェブマニュアルの整備や、今までのシンプルなサンプルではなく、もっと新機能が理解しやすいサンプルの公開、オンラインセミナーの実施や、開発者が集う“Live2Dラボ”の解説などの計画を発表した。

 中城氏や國定氏の発表からは、3Dゲームエンジン「Unity」が開発者に受け入れられ始めた頃に似た雰囲気が感じられた。ステージを見つめる会場に集まった500名以上の「Live2D」開発ユーザーは、学生などの若い開発者、ことに女性開発者が多い印象を受けた。「Live2d」がサイバーノイズとして創立された時から、学生やインディ開発者を大切にしてきたことが、確かに実を結び始めている。

【今後の「Live2D」の取り組み】

昨年は、ステージを客席から見守る立場だったと語る笹原氏

 続いて登壇した笹原氏からは、今年の夏から秋にかけての時期にベータ版のリリースが予定されている「Cubism」3.0の新機能が解説された。まず3.0では、従来ツール間を横断する必要があったものを、1つのツールに統合してマルチビューに対応するといった開発ツール環境面で大きく進化する。

 これに加えて、3.0の最大の目玉となる機能はグルーの実装だ。グルーとは、関節部分など「Live2D」の描画オブジェクト間を自動的に繋いで、アニメーションが破綻しないように適切に設定してくれる機能だ。これにより開発ユーザーは、細かなパラメータの調整に忙殺されることはなくなる。その他、アニメーションの補完アルゴリズムにも改良が加えられる。

【「Live2D Cubism 3.0」の新機能】

 「Unity」との連携強化も大きなニーズのある項目だ。3.0では「Unity」のアニメーションシステムであるMecanimに対応している。シーン内でのキャラクターの状態に応じて、Mecanimがキャラクターのアニメージョンを切り替える制御を行なうことを意味し、アーティストはアニメーションのフロー、ダイヤグラムをMecanimのシステムに則って製作することになる。

 これは、「Live2D」のSDKが「Unity」のコンポーネント化されたことによるもので、Mecanim対応以外にも、従来とは「Unity」から見た「Live2D」オブジェクトの取り扱いが変更される。結果として、「Live2D」オブジェクトをドラッグ&ドロップで簡単にインポートできるようになるのも、アーティストにとっては大きな生産性向上につながるだろう。

Mecanimの機能で「Live2D」アニメーションを製作している好例として、KLabの坂中氏が登壇し、同社で作成したサンプルを披露した

3Dグラフィックスとのハイブリッド「Euclid」のリーダー阿曽氏

 笹原氏の後を引き継いで登壇した阿曽氏からは、新世代の「Live2D」となる「Live2D Euclid」について解説が行なわれた。

 「Euclid」は、2Dでの表現にこだわった既存の「Cubism」系列とは大きく異なり、3D空間での利用を主眼に置いている。「Euclid」のキャラクターは、その体躯は3Dモデルをベースとしながらも、イラストレーションやリミテッドアニメのテイストでの表現が要求されるフェイス部分は、反転を除いた7方向から2D作画したビルボードを3Dの身体と親子付けして存在させている。「Unity」のエディタで見ると、あらかじめ各方向に投射した状態で描かれたキャラクターの顔を見ることができ、概念が理解しやすい。完全な3DCGでも、レンダリングの結果、最終的に画面という平面に2Dの像を結ぶという意味では2Dと同じであるから、2Dで作画したキャラクターの表情を、あらかじめ空間中につじつまが合うように配置しておいても、結果は同じことになる。結果が同じならば、描きやすい2Dという手法を採ればいいというのが発想の根幹だ。

 「Euclid」の2Dフェイスの目的は、あくまでキャラクターの表情を美しく描くことである。従来より、3DCGの世界ではリソースや計算コストの削減を目的に、常にカメラに正対するビルボードが活用されてきた。目的は異なるが、3D空間中の「Euclid」フェイスのありようは、ビルボード表現に近しいものがあり、「Euclid」の価値とその効果は容易に想像できる。

【「Live2D Euclid」のメカニズム】

 阿曽氏は、将来の「Euclid」の完成形は全身Live2D化にあるとしていたが、筆者は現在の「Euclid」が非常に良い落とし所を見つけていると感じた。実際問題、マンガやアニメのテイストのモデルの場合、頭部まで3Dで製作すると破綻が生じやすい。原作のキャラクターに近づけるために、カットによって異なるモデルを用意したり、顔の一部分の表示、非表示を切り替えること少なくない。これは、マンガやアニメのキャラクター表現が、デフォルメによって一種の様式美と化し三次元的整合性が取れていないのが原因なのだが、それを憂いていても、マンガやアニメのテイストで描かれているキャラクターが支持されているという事実は変わらない。ならば、いっその事、フル3Dで作成することをやめてしまって、2Dで作画したオブジェクトを空間に配して、カメラワークのみ3Dであることを活かすという方法論もある。いわゆる2.5Dという手法だ。「Euclid」の現況は、もうすこし3Dに寄っているから、2.8Dといったところだろうか。

 「Euclid」の手法は、アニメやイラストなど、確かなデフォルメ画力がある開発チームにとっては、非常に有効だ。表情の変化といったフェイシャルアニメーションを考慮するとなおさらで、立体的な3Dモデルの頂点を、スケルトンやブレンドで動かしてフェイシャルアニメーションを成立させるより、はるかに少ない手間で結果を出すことができるだろう。

ゲームエンジンへの対応が進む
これからの「Live2D」は「Cubism」と「Euclid」の2枚看板

 実験的な機能を含めて、数多くの機能追加が予定されている「Euclid」。必ずしもすべての項目が実装されるわけではないとしながらも、立体形状の生成や、パスの自動生成など、18項目の実装予定が示された。これら「Euclid」の機能的な実装に加え、ゲームエンジンには「Unity」以外にも「Unreal Engine」に対応する計画が示されたほか、「HTC Vive」、「Oculus Rift」、「PlayStation VR」とVRデバイス御三家のサポートも表明された。

 「Cubism」3.0と「Euclid」の2つに大きくブランチされる「Live2D」。「Euclid」にも「Cubism」2.1からのデータインポーターを用意すると共に、ライセンス的にも既存の「Cubism」2.1ユーザーにはディスカウントプランを検討していると言う。また、開発環境は、Windows版に加えMac版も提供され、ぞれぞれ有料のPro版だけでなくフリー版も用意する予定だ。今夏にも、いよいよ開始されるクロースドベータを経て、オープンベータに移行するのは、早くても今冬だろうか。オープンベータやリリースの時期についての言及はなかった。オープンベータのみならず、正式リリース版の公開が待ち遠しい。

過去を振り返りつつ会場の聴衆に語りかける中城氏

 基調講演の締めに再び登壇した中城氏。過去からの「Live2D」の歩みを振り返るように、時々目を伏せ、一言一言ゆっくり言葉を区切ってスピーチを進めていた。ひとりのスーパープログラマによる未踏破プロジェクトとして始まってから10年。会社が成長して開発の規模が大きくなった今、特に「Euclid」の開発から退いてスタッフに任せることについては、嬉しさと寂しさの入り混じった複雑な心境だと言う。今後は、1枚の2Dの絵の可能性を追求する「Cubism」と、VRやダイナミックな表現のための「Euclid」のどちらかを選択するわけではなく、両方とも進化させていくとした。

 アニメーションする「Live2D」のライバルは静止画だと言い切った中城氏。「Cubism」では、動かないものがないのが当たり前、「Euclid」では、実際にはあり得ない想像上のキャラクターと生身の人間とが同じ空間を共有できるのが当たり前にしていきたいと語っていた。中城氏がいう通り、3Dがいくら発展しても2Dがなくなることはない。ひとりの2Dアーティストが描いた線は、仮に荒削りであったとしても、そこにはそのアーティストの持ち味があり、そう簡単に3Dに置き換えられるものではない。「Live2D」なら2Dの魅力を最大化できる。筆者にも確かにそう感じられた力強いスピーチであった。ようやく60点に達したと自己評価する中城氏。氏の手によって、100点、150点、200点と「Live2D」がどこまで進化するか楽しみだ。