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Tokyo VR Startupsが最終発表会を開催

スタートアップ第1期5チームによるプレゼンの成否は如何に!?

6月29日開催



会場:ベルサール秋葉原

TVSの関係者の皆さん

 VRに特化してシードを支援するTokyo VR Startups(以下「TVS」)は6月29日、2016年1月より半年にわたって支援を続けてきたVRプロジェクトの最終発表の場となる「デモディ」イベントを行なった。本イベントは、大きく3つに分かれており、各種メディアや投資家に対して、実際にプロジェクトの成果物を体験させて評価を受ける「デモタイム」と、メディア向けの講演会、そして各プロジェクトのプレゼンテーションという構成になっていた。「デモタイム」の詳しい模様は、Tokyo VR Startups Demo Dayレポートに委ねるとして、本稿では講演会とプレゼンテーションの模様をお伝えする。

 メディア向け講演会に登壇したのは、TVSの代表取締役で、TVSの実質的な主宰者であるgumiの代表取締役でもある國光宏尚氏と、gumi Americaが資金を投じているVR向け投資ファンドVR FUND,L.P.のジェネラルパートナーVR FUND PARTNERS, L.L.Cにgumi Americaと同一の立場で参画するTipatat Chennavasin氏の2人。それぞれが個別にスピーチを行なうというスタイルで進行した。

 続いてのプレゼンテーションでは、國光氏の冒頭の挨拶に始まり、TVS1期生5組のプロジェクトチームから、それぞれのチームリーダーが登壇して、プロジェクトの成果発表を行った。このプレゼンテーションは、限られた時間ということもあってか、何もやや駆け足であったものの、内容的には非常にすばらしく、わずか半年でよくここまでの成果を上げられたものだなと素直に感心させられた。

エンターテイメントVRの発展の鍵は異分野にあるのか

gumiの代表取締役でありTVSでも同じく代表取締役を務める國光宏尚氏

 メディア向け講演会において最初に登壇したのは國光氏。米国でのVRファンドへの参画や、TVSでの各プロジェクトに対する支援といったVRに関連する取り組みをごく簡単に報告した。國光氏のスピーチは、かなりあっさりしたもので、特にこれといって目新しい発表はなかった。VRに対するgumiの投資成果という観点では、仕込みを始めてからそう時間も経っておらず、現段階では成果云々を語るのは時期尚早ということだろう。何れの取り組みも概ね順調に進行にしているから今は見守ってほしい、というメッセージと受け取れた。

TVSの活動を紹介する國光氏のスライド

北米でgumi Americaと共同してVRファンドを運営するTipatat氏

 続いて登壇したTipatat氏の講演内容は、「VRとはなんぞや?」に始まり、VRマーケットの成長予測、リリースが予定されている新しいVRデバイスやコンテンツ開発環境、ゲームジャンルや応用分野の広がりといったことまで、幅広い内容を丁寧に解説するものであった。VRを認知していない一般の人向けだとするなら、このようなエントリーレベルの内容で完璧だっただろう。ところが実際のところは、VRに魅せられて情報を熱心に収集しているゲーマーや、相応にVR情報を追いかけているゲームメディアにとって、特段に新しい話題はなく物足りないものだったと言わざるを得ない。

 一方で、決して新しい話題というわけではないが、比較的語られることの少ない、メンタルケア、手術支援、医療技能のトレーニングといった医療分野への応用について触れていたことは興味深い。エンターテイメント分野とは、ずいぶんと距離が離れているように感じられるが、手術支援システムのようなものに対して技術開発が進むのは、VRエンターテイメントにとってもプラスになると考えられる。というのも、医療は人間の生命を左右しかねないクリティカルな要素が含まれる分野である。求められる入力やフォースフィードバックの精度、撮像や出力映像の解像度、視認性といった項目で、すべて最先端のテクノロジーが注ぎ込まれる分野だ。何よりこれらを可能にしている予算規模が大きい。現時点では最先端の設備を誇る大学病院にしかない設備であっても、内視鏡やMRIがそうであったように、将来は必ず街のクリニックでも比較的安価なシステムが導入可能になるだろう。そうなれば、ホビー向けにも、そこまでの精度や耐久度が要求されない前提で、より安価なデバイスが供給されるようになるに違いない。

 Tipatat氏は広がっていくVRの応用分野の一例として紹介していただけだったが、一般論の中にまで登場しているということは、こういった医療分野でもVRに対する期待と感心が高まっているということの表れであると思われた。

Tipatat氏はVRの現況と将来を解説

 本メディア向け講演会について、もうひとつ残念なことがある。というのも、事前の案内には講演会に國光氏とTipatat氏の対談が含まれるとの記載があったのだが、実際には2人の対談の場は設けられなかったからだ。せっかくファンド事業を共同で運営するTipatat氏をアメリカから招聘したのだから、gumiのVRに対するビジネス面の話題も欲しかった。結局、國光氏がすでに発表されているアメリカでのVRファンドの概要について触れただけで、それ以上に言及することは両者ともになかった。この部分は大きく肩透かしを食らった格好だ。

 國光氏の言う、VRの発展のため、日本のため、というキーワードは、素直な気持ちであり確かにそういう想いでVR対する投資に取り組んでいるというのは真実なのだろう。ただ、それだけではないはずだ。ファンドの目的は巨額のリターンを得ることでなければならないはずだし、國光氏の立場からすれば、gumiの成長より公益を優先する理由はないはずだ。機会があれば、國光氏に対して、是非とも、そのあたりのところを伺ってみたい。

バラエティに富んだ5チームが最終プレゼン

 イベント後半戦では、TVS1期生の5つのチームによるプレゼンテーションが行なわれた。このプレゼンテーションの成否によっては、最悪の場合、プロジェクトをたたんでインキュベーション施設からも退去ということになるのだから、どの顔も真剣そのものだ。

桜花一門の高橋健滋氏

 今回、最終発表に臨んだ5チームのうち、もっともTVSの趣旨に合致したプロダクトを提示したのは、桜花一門の高橋健滋氏だろう。同社のVRホラーゲーム「Chain Man」は、高橋氏が過去3年間に20本ものVRコンテンツを開発した経験に基づいて開発されている。Playstation VRをプライマリのターゲットハードに選択し、同プラットフォームの特徴であるVRデバイスと通常のテレビ画面という2つの表現面に対して、それぞれ異なった視点からの画面を出力して、VR体験者と周囲の友人が同時にゲーム体験を共有できるようにしている。

 ただ、現状の「Chain Man」プロトタイプはゲームの基礎部分のみで、あまりにもビジュアルに対しての開発が行なわれていない。ゲーム会社内のプロトタイピングならば、その評価を行なう者もある程度ゲームに通じていることが期待できるわけだが、一般の投資家がゲームデザインの良し悪しを判断するのは困難だろうから、その点が気がかりだ。

「Chain Man」プロトタイプゲーム画面とキービジュアル

よむネコの新清士氏

 同様に、ゲームらしいプロジェクトと言えるのが、ゲームジャーナリスト新清士氏が立ち上げたよむネコによる「エニグマスフィア~透明球の謎」だ。VR空間内のガラス玉を破壊してクリア、というシンプルなゲームデザインだが、ゲーム開発者側からの主観的なゲームデザインの提示に終始する開発手法ではなく、VR未体験者を含めたテストプレイの模様をビデオに収め、プレーヤーの体感を分析しながら開発にフィードバックするという手法を確立させている。どこまで定量的に捉えて開発に活かされているのかはわからなかったが、ジャーナリストであり、教育者である新氏らしいアプローチと言えるだろう。

 その一方で、今回のプレゼンテーションで発表された開発ロードマップ上のステップに予定されている、プレーヤーがレベルをコンストラクションできる機能や、VRコミュニケーションスペースへの統合進化は、欲張りすぎに感じる。プレーヤーが求めていることが本当にそこにあるのかを、初期バージョンのリリース後に改めて分析評価する必要があるように感じられた。

開発テストに参加した女性のコメントと女性が見ているゲーム内の画面
IcARusの村下熙氏

 國光氏が支援対象にするか最後まで悩んだという逸話を持つIcARusの村下熙氏がプレゼンテーションしたのは、やはりVRとは何も関係ないドローンだった。当初は、ドローンに搭載したカメラからの映像をHMDに投影し、現実のドローンでは成し得ないドローン同士のドッグファイトをVR世界の中で具現化するというVRゲームらしいものだった。おそらくは、実現可否について國光氏をはじめとするメンターたちと幾度となくプロジェクトのゴールに対する協議が行なわれたのだろう。たとえ新規性の高いVRゲームであったとしても問題点が多すぎて実現しなければ意味がない。

 紆余曲折を経て到達した撮影機能付き超軽量ドローンというのは、実に魅力的なプロダクトだった。これなら大当たりするかもしれないと感じさせるプロダクトになっていた。

InstaVRの芳賀洋行氏

 InstaVRの芳賀洋行氏がプレゼンテーションを行なった「InstaVR」は、THETAのような廉価なカメラで撮影した360度映像を、誰でも簡単な操作でスマートフォンアプリに仕上げることができるVRオーサリングツールだ。すでに公開されているツールで、完成度も高いように感じられる。建築分野でのビジュアライゼーションの流れもあり、ビジネスになるチャンスは大いにあるだろう。

 芳賀氏は、「InstaVR」の現在の課題を、主に認知度やBtoBセールスと捉え、これから注力していくべき事項としていたが、アプリケーションのターゲットが中小零細規模の住宅関連事業者をも含むとするならば、筆者には素材撮影からアプリを仕上げるまでを請け負うサービスが必要だと感じられた。

 「InstaVR」の誰もが簡単にアプリを作れる環境を提供するというコンセプトと矛盾するように感じられるかもしれないが、そうではない。誰もが簡単に操作できる優れたツールがあったとしても、誰もが簡単に住宅の販促に最適な画像映像素材を用意できるわけではないからだ。ターゲットのニーズと「InstaVR」が提供するサービスとの間には、まだ少しギャップがあるように感じられた。

「InstaVR」のオーサリング環境と各種デバイスでの実行画面

ハシラスの藤山晃太郎氏

 ハシラスのVR製品は、本当に楽しい。いわゆる大型の体感筐体がHMDの登場とともに、正統に進化した姿だと言えるわけだが、ハシラスの製品はそれだけではない。元マジシャンという異色の経歴を持つ代表の藤山晃太郎氏のバックグラウンドによるものなのか、温かみのある芸事のニオイが製品から滲み出ている。

 プレゼンテーションで大きく紹介された「TOKYO弾丸フライト」は、マンガやアニメのシーンでおなじみの人間大砲の気分が味わえるVRコンテンツだ。体験者の姿はかなりバカっぽいのだが、この手の大型体感筐体はそれがいい。ハシラスに関してだけは、TVSの支援は必要ないのではないか、とさえ感じられるほどであった。

「TOKYO弾丸フライト」はまるで人間大砲

 以上がTVSの支援を受けた5チームによるプレゼンテーションの内容だ。メディアの立場では、本イベントに参加した投資家の判断は知る由もないが、プレゼンテーションに熱心に聞き入る人やプレゼンテーション終了後、個別にヒアリングする人の姿が会場のあちこちで見受けられた。今後2カ月のうちにプロジェクト続行の資金的な目処が立たないとTVSのインキュベーション施設から退去しなければならないという過酷な状況ではあるものの、5チームそれぞれの代表者の目に悲痛さはなく、自己のプロジェクトの未来を信じる希望の光に満ちていた。各プロジェクトに対する出資の決定の続報、また第2期に名乗りを上げる挑戦者等、今後も明るいニュースに期待したい。

【TVS 第2期のスケジュール】