【特別企画】

「Fate/stay night」20周年! 実は18禁ゲームだった「Fate」プロジェクトの原点

初回限定版“アレ本”など当時の思い出を振り返る

【Fate/stay night】

2004年1月30日 発売

画像はTYPE-MOON公式サイトより

 TYPE-MOONが2004年1月30日に、PC用ソフトとして発売した伝奇活劇ビジュアルノベル「Fate/stay night」が、本日で20周年を迎えた。

 「Fate/stay night」は、それまで同人サークルとして活動していたTYPE-MOONの商業デビュー作で、奈須きのこシナリオによる「Fate」シリーズの原点。発売当時はアダルトゲームとして制作され、いわゆる「18禁ゲーム」であった。後に性的要素などを削除した「Fate/stay night [Realta Nua]」がPS2/PC/PS Vita/iOS/Androidなどで発売されている。

 同人サークルの時代から根強いファンの多いTYPE-MOONだったが、一般的な人気が爆発したきっかけは2011年10月から放送された「Fate/Zero」のTVアニメだったように感じられる。

 その後、2014年に「Project Fate/stay night」が始動。TVアニメとして「Fate/stay night Unlimited Blade Works」が放送され、その人気を一層高めることとなった。そして2015年7月30日、誰もが知るであろう人気スマートフォン用ゲーム「Fate/Grand Order」が配信開始。PC版「Fate/stay night」は、これらの作品の原点である。

 本稿では、そんな「Fate/stay night」を振り返っていく。

20年前、当時の18禁ゲームコーナーはまだ肩身が狭かった

 20年前当時、「月姫」や「空の境界」など、奈須きのこ氏の作品に魅せられていた筆者。中身は女だが、大学生の頃からPC98向け18禁ゲームなどを嗜んでおり(主にエルフ辺り)、TYPE-MOONにも注目していたものだ。

 そんなTYPE-MOONが商業デビュー! しかも題材は魔術師(マスター)と使い魔(サーヴァント)が二人一体となって戦う聖杯戦争!吸血鬼のお話だった「月姫」とはまた随分ガラリと変わったと思ったものだが、公式サイトなどの情報から、「空の境界」に登場する魔術師や魔法の設定はどうやら引き継がれていそうで、とてもワクワクしたのを覚えている。

 しかし、この頃筆者は子供を産んだばかりで、とても忙しかったのだ。忙しいと……そう、予約を忘れてしまうのである。この時の筆者も例に漏れず通販の予約を忘れてしまい、発売日になって絶叫したことを今でも覚えている。慌てて当時新宿西口のヨドバシカメラに走ったのは、忘れられない思い出だ。

 ちなみに今では家電量販店で18禁ゲームのコーナーをあまり見かけなくなってしまったが、20年前の頃は最上階などの人目につきにくいところにひっそりと置かれていることが多かったように思う。

 そしてこの頃、悲しいことに、18禁ゲームに女性の居場所はほぼなかった。今でこそ性別関係なく楽しまれているゲームジャンルのひとつだと思うが、当時は女性が18禁ゲームコーナーにいるだけで、そこにいる男性たちから白い目を向けられたのだ……。

 だが、通販であと数日待つこともできない。そもそも「Fate side material」(通称アレ本)という設定資料集がついた初回限定版はもう通販では買えないので、店頭をしらみつぶしに探すしかない。

 というわけで、筆者はそこにいる男性たちに心の中で「ごめんなさい、ごめんなさい」と平謝りしながら、思いつく限りの18禁ゲームコーナーを走り回ったのだった。そこに居合わせてしまった男性たちは、とても居心地が悪そうだった。

 ちなみに結果から言うとソフマップで初回限定版が買えました、ありがとうソフマップ。

読み込みすぎて少々ボロボロになっているアレ本。アレ本には当時本編には出てこなかったランサーの最初のマスター・バゼットさんの設定と設定画が乗っていて、「男装の麗人」などと書かれていたものだから「バゼットさん、こんなキャラだといいな」妄想も捗ったものです。当時は僕っ子が多かった妄想バゼットさん

サーヴァントが英雄であるということは実はあまり語られていなかった

 今でこそ、「Fate」シリーズと言えば様々な英雄たちの魂が死後、信仰によって精霊の領域にまで昇華されたものであるということは、よく知られていることであろう。そしてサーヴァントが英霊を使い魔として召喚したものであることも、言うまでもない。

 だが、実は発売前の段階ではサーヴァントが英雄であるということは、ほぼ語られていなかった(筆者は18禁ゲームの雑誌等は読んでいなかったため、公式サイトのみからの情報)。なので、いざゲームを初めてみて、「そういう設定なのか」とは驚いた。

 「Fate/stay night」は物語の途中の選択肢によって、ストーリーがセイバールート、凛ルート、桜ルートの計3ルートに分岐するようになっており、プレイ可能になるシナリオは固定化されている。つまり、セイバールートをクリアしなければ凛ルートは開かないし、凛ルートをクリアしなければ桜ルートは開かない。そしてセイバールートでは明かされなかった謎が凛ルートや桜ルートなどで明かされたり、各サーヴァントがルートによって異なる結末を迎えるような内容となっている。

 そういった点からも、プレイ中は英霊の正体を推測して、そこで「おお!」と驚きを得ることを楽しむゲーム性だった。今は「Fate/Grand Order」で英霊の正体がガチャから解ってしまうため、英霊の正体を推測して楽しむ、ということがあまりできなくなってしまったし、恐らく今アーチャーの正体を知らない人も少ないだろう。もちろん英霊の正体当て以外でも非常に完成度の高いシナリオなので、英霊の正体を全部知ってからプレイしても充分に楽しめる作品なのだが、その点は少々残念に思う。

 ちなみに筆者はサーヴァントの性別と剣を持っている、という点から、セイバーの正体をジャンヌ・ダルクだと思っていたのだが、同じように騙されてしまった人は多くいるのではないだろうか。

 なおこの3ルートを読破するだけでもプレイ時間は軽く60時間を超える。「Fate」を初めてプレイした時は、読んでも読んでも読み終わらないという嬉しい悲鳴をあげたものだ。だがしかし、本来はもっと多くの分岐も構想にあったというのだから、驚きだ。特に幻となったイリヤルートだけは、結果的に桜ルートに統合されているとはいえ、未だに見たかった思いが強いルートである。

「Fate」

 そんな在り方が似ている、と彼女は感じていた。 だがそんなものは自惚れだった。

 ――似ていると思ったのは自分だけ。
 似ている筈などなかったのだ。
 あの少年の心は強く。
 彼の言葉を否定するだけだった自分こそが、その道を間違えていた――

 自身に誓いをたて、その達成に全てをかける。

 「Fate」――通称セイバールート。セイバーの真名はもちろんのこと、このルートで大体の英霊の真名は判明する。アニメ化が真っ先に行われたルートで、本作の軸を担う物語と言っても過言ではない。セイバーが聖杯を求める理由は「王の選定をやり直すこと」である。セイバーと、そのマスターである衛宮士郎の心が交わっていく様を描いている。

 セイバーのわからずやっぷりはなかなかのものだが、士郎の心もかなり歪んでおり、最後の最後までお互いの道は交わらなさそうに思える。だが、互いの心に互いの欠けている部分を感じ取り、ふたりの心は重なってゆく。最終的には別々の道を歩むことになるふたりだが、その終わりは非常に爽やかである。

「Unlimited Blade Works」

 その手で救えず、その手で殺めた者が多くなればなるほど、理想を口にする事は出来なくなる。 残された道は、ただ頑なに、最期まで守り通す事だけだった。

 その結果が。
 衛宮士郎が夢見ていた理想など一度も果たせず、
 はた迷惑なだけの、愚者の戯言だと知ってしまった。

 誰に言うべき事でもない。

 「Unlimited Blade Works」――通称凛ルート。TVアニメ化されたルートで、「Fate」シリーズの人気を揺るぎないものにしたストーリー。「Fate」ルートが王道だったのに対して、こちらはマスターとサーヴァントの間で裏切りなどが発生し、波乱に満ちた展開になっている。そのため見ている方としては一番中だるみしないルートとも言えるだろう。

 前ルートでわかった衛宮士郎の心の歪みは、アーチャーによって否定される。アーチャーが何故士郎を否定するのか。その理由はアーチャーの正体が判明することによって明かされてゆく。

「Heaven's Feel」

 他の考えは全て打算と妥協にまみれた失策だ。 放っておけば十の人が死ぬ。
 それを、予め一人の命を絶つ事で九人を助けられるのなら、それは――
 ――それは。
 衛宮士郎がずっと否定してきて、心の奥で、受け入れていた過去(げんじつ)だ。

 死が救いになる、という事ではなく、人を救うという点で言うのなら、遠坂の決断こそが正しい。

 「Heaven's Feel」――通称桜ルート。第三魔法「ヘヴンズフィール」のことを指している。魔法とは、「Fate」シリーズのファンならば今更かもしれないが、その時代におけるすべての技術や知識をもってしても不可能な事象のことで、魔術とは区別されている。

 セイバールート、凛ルートで「正義の味方になりたい」という願望を示していた衛宮士郎だが、桜ルートではその願いを捨てて桜ただひとりの味方になることを選ぶ衛宮士郎。自分の生き方を曲げてまで、桜を選んだ士郎。

 士郎の生き方はもちろんのこと、イリヤスフィールや言峰綺礼など様々なキャラクターのこれまで明かされていなかった真実が明かされていくルートとなっている。

 また、全ルートで最も18禁ゲームらしい展開となっており、劇場版ではそれらのシーンもかなりしっかり描写されている。桜ルートはグロテスクを含め18禁部分があってこそ完成すると筆者は感じているので、劇場版をまだ見ていない人がいたらぜひ見てほしい(ただし「Fate」、「UBW」の履修は必須な展開となっている)。

そもそもは男性向けではあったものの……

 繰り返すが、本作はPC用18禁ゲームで、そもそものユーザは98%が男性ではないかというくらい、男性プレイヤーが多いゲームだった。だが、数少ない2%の女性ファンもいた。筆者のように元々18禁ゲームを好んでプレイしていた人もいれば、ネットなどで「Fate/stay night」をおススメされてプレイしたという人もいた。

 そんな女性ファンを虜にしていたのは、ランサーやアーチャーなど「男性向けゲームに出るにはあまりに男前な、カッコよすぎるキャラクターたち」だった。

 いずれも「FGO」などでも人気のキャラクターたちだが、「Fate/stay night」の話になると真名ではなくクラス名で呼びたくなるのは、やはり「例え真名を知っていたとしても、伏字にすることでまだ知らない人を呼び込みたいし、せっかくならネタバレなしで読んでほしい」という想いが強いからに他ならない(ここを読んでいる人ならば、恐らく真名は知っていると思うのだが……)。

 もちろん、キャラクターがカッコいいからというだけではハマらない、業の深い女性たちなので、男女問わずのめりこめる素晴らしいシナリオを奈須きのこ氏が描いたこと、武内崇氏が女性ファンも魅了しやすい絵柄だったこと、BGMがかっこよかったこと、様々な要素が複雑に絡み合って、女性ファンも獲得したのだと思っている。

 実際、奈須氏のシナリオの重厚な世界設定は、性別など関係なく読んだ人を引き込んでしまう強さを持っている。キャラクター間のドラマの描き方も秀逸だ。そして武内氏のイラストは奈須氏の文章を上手く補完し、言葉で長々と説明したくなる部分を1枚のスチルで魅せることを可能にしている。

 もしも最近「Fate/Grand Order」をプレイし始めたばかりで、実はまだ「Fate/stay night」には触れていないという人がいたら、20年前の原点に触れてみてほしい。18禁要素に躊躇してしまう、という人は性的表現などが抜かれた「Fate/stay night [Realta Nua]」をプレイするのも良いだろう。実際、筆者は桜ルート以外、18禁要素はなくても良かったのではないだろうかと思っている(ただし桜ルートだけはどうしても18禁要素抜きに語れないので、劇場版で補完してほしい)。

 男性向けでありながら、女性も楽しめる。それが「Fate/stay night」だ。20年経った今でも自信を持ってオススメしたい作品で、古臭さを感じられないような斬新な作品になっているのは「Fate/Grand Order」のヒットからも感じられるはずだ。

 筆者はやはり原点である「Fate/stay night」が一番の推しである。20周年のこの機会に、まだまだ現在でもプレイしてもらえる作品であると改めて確信もした。なお、当時産まれたばかりだった我が家の子供も、18歳になった記念にこのPC版「Fate/stay night」をプレイしていた。ぜひ後に続く若人が増えてくれれば幸いだ。