【特別企画】
天然パーマな主人公が登場人物の心を揺さぶるマンガ「ミステリと言う勿れ」は1巻発売から6周年
ちょっと変わってるけど、知っていくとめちゃくちゃ魅力的な主人公
2024年1月10日 00:00
- 【「ミステリと言う勿れ」第1巻】
- 2018年1月10日 発売
漫画家の田村由美氏が月刊フラワーズで連載しているミステリーマンガ「ミステリと言う勿れ」の1巻が発売されてから、本日で6周年を迎えた。
本作はふわふわの天然パーマが特徴の大学生「久能整(くのうととのう)を主人公としたミステリ―作品となっており、彼が1つの事件に巻き込まれたことをきっかけにどんどん事件に巻き込まれていくというものだ。
また本作は菅田将暉さん主演で2022年にテレビドラマ化、2023年には映画も公開された。
本作の魅力は主人公の久能整本人のキャラクター性だ。大学生ながら淡々としており、どこか達観しているような雰囲気を纏っている。しかし、人の感情があまり読まず理路整然と事実や疑問点を投げかけていくため、故意でなくても相手を怒らせたり、本音を引き出すこともある。彼の存在が登場人物たちをより人らしく見せてくれるのが本作の特徴だ。
普通の大学生が1つの事件からどんどん事件に巻き込まれていく
大学生「久能整(くのうととのう)」は、ある日部屋に訪ねてきた大隣警察署の刑事たちに大学の同回生で高校のクラスメイト「寒河江」が殺された一件で任意の事情聴取を受ける。久能は目撃証言から自分が容疑者となっていることを知り、犯行をきっぱり否定するが、何度も警察署に通うことになる。その間出会った刑事たちは久能に個人的な問題をどんどん解決され、久能の思考や知識、話術に感心する。様々な物的証拠が出てくる中、久能が思い出した一件の出来事により事態は急展開を見せる。思いがけず事件を解決した久能整はここからどんどん不思議な事件に関わっていくことになる。
本作は主人公の久能整を中心に、様々な人間が事件に巻き込まれていく。その中で、1つの共通した星座石のアクセサリーが今までの事件を繋いでいくミステリー要素もしっかり盛り込まれている。
今回はたくさんいる登場人物の中から主人公の久能整と距離の近い登場人物たちを紹介したい。
・ 久能整(くのうととのう)
本作の主人公。教育学部に通う大学生でふわふわのパーマ頭が特徴の男性。
場の空気を読まず淡々と物事を話すため、時に空気自体を壊してしまうこともある。洞察力と記憶力、考察力が優れており、相手の言葉の矛盾を突きそこから心理的に問い詰めていく。友達や恋人はいないが、1人でも快適に生活できるタイプ。ただ、友達がいらないというよりは人付き合いが上手ではないだけで、彼自身と価値観が合いそうな人間にはその人がどんな人であれ積極的にコミュニケーションを取りに行く。
・ 犬堂我路(いぬどうがろ)
久能が巻き込まれた「バスジャック事件」の犯人。姉の死の真相を知るためにバスジャック事件後、姿を晦ませている。バスジャック事件の中で久能を気に入った彼が久能と様々な人を引き合わせていく。
・ ライカ
久能が検査入院していた病院に入院していた入院患者の女性。マルクス・アウレリウスの「自省録」を暗記しており、人に聞かれたくないことは本のページ、行、文字を数字で指定した暗号で伝える。病院を抜け出すのが好きだが、1時間ほどでベッドに戻る。
・ 相良レン(さがられん)
久能と同じゼミに通う大学生。コミュニケーション能力が高くモテる。久能とは正反対の性格をしているが、久能同様洞察力に優れており、推理力も高い。久能に会うたびにグイグイ行くなかで少しずつ久能と仲良くなった凄い人物。
・ 池本優人(いけもとゆうと)
久能が最初の冤罪事件で夫婦間の痛いところを突かれた刑事。冤罪事件後も夫婦間に何かあると久能を訪ねる。気さくな性格をしており、久能と警察の連絡係の役割も担っている。
・ 風呂光聖子(ふろみつせいこ)
冤罪事件で久能と出会い、刑事としての仕事の向き合い方が変わった女性。男性社会の中での自身の存在について悩んでいたが、久能と出会い考え方が変わる。その後、自身の地元で事件が起きた時に久能から言われた一言でより刑事らしくなった。
・ 青砥成昭(あおとなりあき)
仕事一筋で沈着冷静な姿が特徴的な刑事。久能に対して一線を引いているように見えるが、自身の娘が誘拐されたときに久能を頼った。敏腕な刑事であり、部下に対しても理解がある人物。真実を追い求める刑事でもある。
人の感情を揺さぶる理路整然とした物言いが癖になる
本作の魅力は主人公久能整のキャラクター性だ。
彼は思ったことをそのまま口に出してしまう性格のため、周りから浮いている。記憶力と洞察力、考察力に優れているため、事実から疑問に思ったことなど淡々と、そして長々と話してしまうため、相手にウザがられたり、面倒くさがられたり、時に怒らせたりしてしまう。故意で怒らせることもあるので、基本的に相手の感情や場の空気をしっかり読んでいる。この彼の性格が周りのキャラクターたちをより人間らしく見せる。久能によって痛いところを突かれた人たちは感情を揺さぶられ、露わにしていく。
特にその性格を顕著にみられるのが1巻の半ばから2巻にかけて掲載されている「バスジャック事件」だ。久能が乗り込んだバスがバスジャックされてしまい、バスの中という密室の中で脱出することもできず極限の中、久能の淡々とした疑問や理詰めに犯人が逆上してしまったり、他の乗客が安堵したりとネガティブになったりとどんどん揺さぶられていく。感情がたくさん出てくるとよりキャラクターたちが人として掘り下げられ、ヒューマンドラマを見ているような感覚になる。そして行く先々で彼と出会った様々な人たちも同様にとても魅力的に感じられる。このヒューマンドラマのようなリアルで身近に感じられるからこそ、現実にありそうでちょっとドキドキしながら読めるのが本作のおもしろいところだ。
もちろん、久能が首を突っ込み過ぎて自分自身が危険な目に合うこともあるので、そのハラハラドキドキ感あり、ミステリーとしてもおもしろい。
最新刊となる13巻では前巻12巻から続いていた富山での不可解な死亡事故が決着を見せる。富山の事件は風呂光刑事にフォーカスが当たっており、彼女の身内や知人たちが登場する物語となっている。事件の被害者も彼女の知り合いであり、教師をしていた彼女の祖母の教え子でもあった。被害者の死の真相を探るために奔走する風呂光刑事とそのサポートとして富山にいた久能は13巻でその事件の“常軌を逸した真相”にたどり着く。
また、彼自身も本作の中で様々な人たちと交流していくことで、彼の中にも様々な感情が芽生えている。どこか達観して人との距離が遠かった彼が、少しずつ他の人を信頼して頼っていく姿を見ると、彼自身が人間として心が成長しているように感じられて読んでいる側も嬉しい。
月刊誌ということもあり、連載ペースはゆっくりだが、久能の人間としての成長とここから起きるミステリーと人間模様を楽しんでいきたい。ちょっと変わった青年が主人公だが、ミステリーやヒューマンドラマが好きな人におすすめしたい1作になっている。
(C)田村由美/小学館