【特別企画】

少年たちが自分自身と向き合いながら進む物語「マギ」第1巻発売から14周年

人間模様が目まぐるしく変わる中でしっかり描かれるキャラクターたちの姿が魅力

【「マギ」1巻】

2009年12月18日 発売

 漫画家の大高忍氏によって週刊少年サンデーで2009年から2017年まで連載された冒険活劇「マギ」。本作の第1巻が2009年12月18日に発売され、本日で14周年を迎える。

 本作は説話集「千夜一夜物語(アラビアンナイト)」をモチーフに描かれた作品で、登場人物の名前も「千夜一夜物語」から付けられているキャラクターが存在する。時代背景も古代のローマ帝国や中華帝国などの古代文明を題材とした世界となっているなど、「千夜一夜物語」の存在を感じさせる作品となる。

 本作は世界中に「迷宮(ダンジョン)」と呼ばれる謎の建造物が突如現われた世界が舞台となっている。この迷宮を攻略すると巨万の富と「ジンの金属器」と呼ばれる宝物が手に入るため、その宝を目指して挑戦する冒険者が後を絶たない。本作の主人公の1人アリババもアルバイトをしながら借金を返すために迷宮に挑むことを夢見ていた。そんなアリババが馬車の運転手のアルバイトをしているときに乗客の1人として乗ってきた少年アラジンと出会う。アラジンが持っている金の笛はウーゴくんというジンを呼び出すことができる。一方のアラジンは迷宮に眠るジンの金属器を探していた。アリババは借金を返すため、アラジンはジンの金属器を探すために迷宮攻略へと挑むという物語だ。

 本作の魅力は、主人公たちが運命に導かれるように様々な試練を乗り越えていくその姿だ。本作では2人の主人公と様々な登場人物たちが世界中の様々な場所を訪れ、時に仲間とともに、時に離れ離れになりながら冒険していく。そんな中でそれぞれのキャラクターが自身と向き合い、自身がどうあるべきか悩みながら進んでいく姿は読んでいて胸を打たれる。世界を巻き込んだ壮絶なバトルも見どころではあるが、筆者はそんな戦いの中でも思い悩み成長していく姿が何より本作のおもしろさだと思う。

【「マギ」新トレーラー】
アニメも2012年より放送された

マギが出現させる迷宮が全ての始まり

 この世界では突如出現した「迷宮」を攻略することで巨万の富を手に入れることができるため、冒険者たちこぞって攻略を目指している。しかしこの「迷宮」は攻略するほかに出口はなく、帰ってこないということがそのまま死に繋がるとても怖いところでもある。またこの迷宮には「ジン」と呼ばれる主がおり、その主に認められると迷宮攻略後「ジン」の力を借りることができる。ジンの力はそれぞれキャラクターたちの思い入れのある物に宿り、その宿ったものを「ジンの金属器」と呼んでいる。

 また、この世界にはマギと呼ばれる創世の魔法使いが3人おり、彼らによって次代の王も選定される。このマギたちが迷宮を出現させている。

 本作の中では世界中が「ルフ」と呼ばれるすべての生命の源が流れており、このルフによってマギたちは魔力(マゴイ)を得ており、強力な魔法を使うことができる。

 主人公のアラジンは自分が何者かも知らず、一緒にいたジンのウーゴくんとともに「ジンの金属器」を探している。そんな時、馬車の運転手でもう1人の主人公アリババが借金を返すために迷宮攻略を目指していることと、その迷宮に探していたジンの金属器があることを知る。お互いの目的のために2人で10年間誰も攻略することのできなかった「第7の迷宮」に挑むことになる。様々な命の危機や試練を乗り越えて「第7の迷宮」を攻略したアラジンとアリババはそれぞれの目的を果たす。そしてこの冒険こそが2人を大きな運命の流れに誘っていく。迷宮攻略後、別々の場所に飛ばされた2人はお互いを探してそれぞれの冒険に旅立つというのが序盤の流れだ。

 本作の中ではたくさんのキャラクターたちが登場し、少しだけ登場したキャラクターがまた改めて出てくるということがある。そんなたくさんの登場人物の中から物語の中で重要なキャラクターたちを紹介したい。

アラジン
・ジン:ウーゴくん
 自分の出自を知らない主人公の少年。見た目がかなり幼く見えるが年齢は不詳。非常に無邪気な性格で、綺麗なお姉さんが好き。家族や友達に憧れがあり、アリババが友達と言ったり、黄牙一族の長が「ババの子」だと言った時に目が輝かせて喜んだりする。金色のリコーダーのような笛を持ち、吹くとジンのウーゴくんの体部分のみ召喚することができる。他にも空を飛べる「魔法のターバン」も頭に巻いており、不思議な道具を持っている。

 ウーゴくんと一緒にいた部屋を出るときにウーゴくんから「ジンの金属器」を探してほしいとお願いされて探しながら旅をしている。

アラジン

アリババ
・ジン:アモン(第7迷宮の主)
 自身の借金を返すためにアルバイトをしている主人公の少年。物語の序盤は借金を返すために迷宮に挑戦することを目指している。非常に打算的な性格だが、情に脆い。自分の弱さを自覚しており、自信があまりない。過去に自身が起こした行動から起きた事件を引きずっており、ちょっと後ろ向きな思考をすることもある。

アリババ

モルジアナ
 赤髪の異国風の女の子。アラジンとアリババが出会った町で奴隷として扱われていた。言葉は少ないが、心優しく弱っている人に寄り添う。暗黒大陸と呼ばれる土地にいた戦闘民族「ファナリス」だが、民族は奴隷狩りで壊滅してしまった。非常に強い戦闘能力を持ち素手で大男を殴り倒すことができる。アモンの眷属器であるアンクレットをつけている。

モルジアナ

シンドバット
・ジン:バアル(第1迷宮の主)など7人
 第1の迷宮の攻略者であり、シンドリア王国の王。第1の迷宮攻略後も6つの迷宮を攻略しており、複数のジンの力を使うことができる。うっかりしているようで、先を見据えているような読めない思考の持ち主。

シンドバット

練白龍(れんはくりゅう)
・ジン:ザガン(第61迷宮の主)など2人
 煌帝国(こうていこく)の第四皇子。シンドリア王国に留学してきており、アラジンたちと行動を共にする。生真面目な性格で序盤は融通が利かないと感じるほど頭が固い。煌帝国を取り戻すために奮起する。

練白龍(れんはくりゅう)

ジュダル
 「マギ」の1人であり、煌帝国の神官も務めている。実際の正体は世界に異変を起こし世界の運命を逆転させること(堕転)を目論む組織「アル・サーメン」の構成員。かなり好戦的な性格で非常に短気。

ジュダル

少年少女たちが自身の過去と向き合って乗り越えていく強い姿が心に刺さる

 本作では主人公を含むキャラクターの内面もしっかり描かれている。どんな局面でもそれぞれのキャラクターたちの悩み、迷いが出てそれに立ち向かう姿が描かれている。

 筆者が好きなエピソードはいくつかあるが、その中でも序盤の方にあるエピソードを紹介したい。コミックスで3巻~8巻までに収録されている「盗賊砦編~バルバット編」だ。このエピソードでは主要キャラクターのモルジアナと主人公のアリババに焦点が当てられている。

筆者の好きなエピソードが掲載されている3巻

 どちらのエピソードもそれぞれの出自や過去のトラウマや後悔に関連するものだ。前半の盗賊砦編はモルジアナにフォーカスが当たっている。目的地までの道のりにある盗賊の砦から盗賊たちに立ち退いてもらうために赴いたモルジアナだったが、その砦で奴隷商人に捕まってしまう。その時に同じく捕まっていた幼い少女に出会い、その姿が自身が奴隷狩りで捕まり、奴隷として辛かった幼少期と重なるなかで、少女が処分されそうになる。手枷足枷を付けられて少女を救えないと嘆く彼女にかつて奴隷仲間だったゴルタスのルフが背中を押すことで、自身のトラウマからも脱する。

 そしてバルバット編ではアリババに焦点が変わる。元々この国のスラム街出身で第3皇子という身分でもあるアリババは、スラム街の仲間たちとこの国の盗賊団の組み頭となっていた。腐り切ったこの国を何とかしたいと思いながらも、一歩踏み出せなかったアリババだったが、シンドバットと出会い、モルジアナの言葉に背中を押される形で兄である王に立ち向かう。スラム街のみんなから離れて1人王宮に行ってしまったことや、自身の行動が父親である先王を死に追いやってしまったことなど様々な過去と向き合いながら自身が考える母国の姿を提唱し戦っていく。悲しい戦いの末新しい国として出発するところまでこぎ着ける。

 この2つのエピソードはどちらも過去の自分を受け入れた上で、その後悔やトラウマを乗り越えていくお話だ。こういった後悔やトラウマを乗り越えていくのは、新たなステージへの到達でもあり、本作ではスタートラインともとれる序盤にこのエピソードが来ていることで、キャラクターたちの人となりもわかるようになっている。この前にあるアラジンと黄牙一族とのエピソードも合わせて、アラジンとアリババ、モルジアナの精神的な成長が見ることができ、それぞれの心の在り方がよくわかるエピソードとなっている。それぞれのキャラクターが色濃く見えて、キャラクター自体の印象が強くなったと感じた筆者の好きなストーリーだ。

 本作ではここからさらに様々なキャラクターたちが登場し、人間模様がコロコロと変わっていく。キャラクターたちが時に寄り添い、時に敵対し傷つきながら進んでいく物語は読みごたえ抜群だ。全37巻とちょっと長めの物語となっているが、時間があるときにぜひ読んでみてほしい。

小学館コミックの「マギ」1巻の試し読みページ

最終巻となる37巻は2017年11月に発売された
各種動画配信サービスではアニメも配信中
Prime Videoで視聴