【特別企画】
4人の主人公と多彩なキャラクターたちが魅力の「ワールドトリガー」はコミックス第1巻の発売から10周年
切磋琢磨していくキャラクターたちが愛おしくなる作品
2023年7月4日 00:00
- 【「ワールドトリガー」コミックス1巻】
- 2013年7月4日 発売
集英社の漫画雑誌「月刊ジャンプスクエア」にて連載中のマンガ「ワールドトリガー」は、コミックス1巻が発売された2013年7月4日より本日で10周年を迎える。
「ワールドトリガー」は、漫画家の葦原大介氏が手掛ける作品。2013年から「週刊少年ジャンプ」で連載され、2016年から2018年の休載期間を経て、連載再開後、掲載誌を「月刊ジャンプスクエア」へと移し現在も連載中のSFアクション作品だ。コミックスは第26巻まで発売中で連載開始より10周年となる。
またアニメ化も行なわれており、2014年から2022年までに既に3期までが放送されている。
本作はSFアクションでありながら人間模様やキャラクターたちの成長をしっかり楽しめることが魅力だ。SFの世界観もしっかり味わうことができ、同時に切磋琢磨する10代20代のキャラクターたちの成長と仲間を思いやる姿を体感することができる。また、主人公たち以外のキャラクターも個性がしっかり描かれているため、さまざまなキャラクターたちが際立っている。読み進めて行くとキャラクターたちの個性がどんどん出てくるので、よりキャラクターへの理解や愛着も沸いていく。まるでリアルの人間関係のようにすら感じるテンポでキャラクターたちを知っていくことができる。
また、SFということもあり、少し用語が難しかったり戦闘時の描写が複雑な時もあるが、その都度しっかり解説が入る。この解説も他のキャラクターが周りにわかりやすいように説明してくれるので世界観を壊すことなく用語や状況を把握できるのもいい。本作の世界観を理解しながらキャラクターたちをしっかり見ることができるのが本作の魅力だ。
ボーダーとネイバーの戦いを描く「ワールドトリガー」のあらすじを紹介
本作品はある日突然、異世界への「門(ゲート)」が開いた架空の都市・三門市が舞台となっている。門からは「近界民(ネイバー)」と呼ばれる怪物が現われて街を襲撃した。これに対抗する組織・界境防衛機関「ボーダー」の登場で三門市は日常生活を取り戻す。
物語としては三門市内の中学校に通う三雲修(みくもおさむ)は転校生の空閑遊真(くがゆうま)から自身が近界民(ネイバー)であることを告げられる場面から大きく動き出す。2人の出会いで三雲修の生活が一変していく。
本作中では対ネイバー用の武器としてトリガーという武器を使う。このトリガーはもともと近界民(ネイバー)の力を使いやすいように改造したもの。戦闘時に活躍するキーアイテムあであり、トリガーを使うためには体内にあるトリオンという力が必要になる。
また、トリガーの中には優れたトリオン能力の使い手が自分の命と全トリオンを注ぎ込んで作った「黒トリガー(ブラックトリガー)」という通常のトリガーとは比べ物にならないほど強いトリガーもある。ただ、黒トリガーは生前の人格や感性が強く反映されており、使う者を選ぶ。
4人の主人公と多彩なキャラクターたちが彩る世界
本作は主人公が空閑遊真、三雲修、雨取千佳(あまとりちか)、迅悠一(じんゆういち)の4人となっており、話によって視点が異なる。連載の周年記念の際には第1話の4人が描かれている見開き表紙と同じ構図のイラストが毎年描かれている。それぞれの主人公たちのプロフィールは以下のようになっている。
三雲修(中学3年生)
本作で序盤の物語を進める主人公。ボーダーのC級隊員。自分が弱いことを自覚しているため、その上でどうするべきかを考える人格者。年齢の割に落ち着いているように見えるが、焦りや空回りは年齢相応な感じもする。
雨取千佳(中学2年生)
年の割に小さ目のおかっぱの女の子。おとなしい性格で口数も少なめだが、意思は強い。
体内のトリオン量が膨大で、それ故にトリオン兵から狙われている。自分のせいで近界民(ネイバー)に攫われたと思っている兄が近界で生きている可能性を知ったことをきっかけにボーダーへと入隊する。
主人公たち以外のキャラクターも魅力的で目が離せない
物語は三者三様の見え方や考え方をもとにそれぞれの視点で描かれているので物語の全体像が把握しやすくなっている。
本作ではタイトルに「空閑遊真1」や「大規模侵攻1」など、それぞれ話によってどのキャラクターを重点的に描いているのか、また出来事全体が物語の軸として描かれているかわかりやすくなっているのも本作の特徴だ。
序盤の物語は三雲修と空閑遊真の視点で描かれることが多いが、世界観の導入や遊真の立ち位置など物語の根幹をしっかり感じることができるものとなっている。世界観を十分に説明した上で、2人の行動の礎となる雨取千佳や先輩の立場に当たる迅悠一が加わってくる。
また4人が主人公とはなっているが、本作の中ではたくさんのキャラクターの視点もありこの世界をしっかりと楽しむことができる。登場人物の多くは中学生や高校生など10代の若者が多いが、中には20代の隊員や30歳以上の上層部の大人なども登場する。最初は嫌な大人に見えることも多いが、少しずつ見えてくる性格もあり段々と愛着が湧いてくる。 本作の用語や戦闘での動きの解説もキャラクターたちが個性たっぷりで解説してくれるので、用語や戦闘に戸惑うことなく世界観をキチンと楽しむことができるのも嬉しい。
□「ワールドトリガー」のポータルサイト連載当初は作画の細かさやそれぞれの登場人物のキャラクター性などがおもしろいなぁと感じていた。のらりくらりとした遊真や自分の弱さを知った上で立ち向かっていく修、他人をとにかく大切に考える千佳、サイドエフェクトで見えた複数の未来から最良の未来を掴めるように冷静に奔走する迅といったように主人公たちだけでなく、登場するキャラクターたちすべてが魅力的に描かれていると感じた。
特に筆者はめっちゃくちゃ強いけど実は嫉妬心や強がりも見せる等身大の女の子として可愛い木虎藍(きとらあい)や、ボーダーを運営する上層部の鬼怒田本吉(きぬたもときち)が好きだ。鬼怒田本吉は、開発室長のきつい物言いのあと他のキャラクターにデレデレしている場面などギャップが人間らしく描かれている。
また地球へと侵攻をしてくる近界民(ネイバー)側のキャラクターもそれぞれ魅力的な人たちが多い。ザ・悪役といった性格のアフトクラトルのエネドラや、置き去りにされてしまい何とか帰還を目指すヒュース、ガロプラの兵士の中のちょっと空回りしてしまうレギー(レギンデッツ)など1人1人のキャラクターが非常に魅力的に描かれているので読んでいて楽しい。
展開は少しゆっくり目ではあるが、大規模侵攻やランク戦といった作中の大きな出来事以外にもそれぞれの葛藤や成長展開が事細かに描かれているので、キャラクターたちの成長をしっかり見ることができる。そして何より本作は登場人物ほぼ全員が誰かを思いやる心にあふれているのが本作の素的なところだ。それがどの話でも感じられるのが読んでいてほっこりする。誰かと対戦することが多い本作だが、あまりギスギスした感じがない。どちらかというと仲間全体が切磋琢磨してそれぞれを尊重している感じがする。
対異世界人との戦いを描く物語ではあるが、現時点では三門市に侵攻してきたネイバーとの防衛戦を描く話が多い。物語のターニングポイントになりそうな近界(ネイバーフット)への遠征は、序盤からキーワードとして登場しているものの、もう少し時間がかかりそうである。一方で、まだ大きく明かされていないネイバーの世界での活躍など今後の展開が楽しみになる。これから先、主人公4人を含むボーダーのキャラクターたちがどう成長していくのか非常に楽しみな作品だ。
(C) 葦原大介/集英社