【特別企画】

【eスポーツ探訪】「VCJ2023 Split1 Playoff Finals」に競技種目としてのFPSと関西eスポーツに明るい未来を見た

【VALORANT Challengers Japan 2023 Split1 Playoff Finals】

3月18日・19日開催

会場:インテックス大阪

 3月18日と19日の両日、インテックス大阪で行われた「VALORANT」の日本選手権「VALORANT Challengers Japan 2023 Split1 Playoff Finals」を現地観戦し、久々にeスポーツの醍醐味をオフラインで存分に愉しむことができた。

 eスポーツは、その特性上、オンラインで快適な観戦環境が整うため、ついついオンライン視聴に頼ってしまう。今回も、大阪という遠方での開催であることと、期末の忙しさを理由にオンライン観戦のつもりだったが、在阪の関係者に「大阪初開催なんです。関西の盛り上がりを見に来ませんか?」とわざわざ声を掛けていただいた。「それは確かにエポックメイキングな出来事だな」と思い、一泊二日の強行軍で観戦に行ってきた。

 今回の視察の目的は2つだ。1つは、関西でeスポーツが本当に盛り上がっているのかどうか。そしてもう1つは、チームベースFPSの最新世代タイトルである「VALORANT」の人気、観戦の醍醐味について。戦いの行方については、大会レポートを参照いただくとして、筆者は上記ポイントについて現地観戦した感想を述べていきたい。

「VALORANT」で改めて感じるチームベースFPSの魅力と「Counter-Strike」の偉大さ

 今回筆者は2日間観戦してきたが、両日とも開始前から超満員。“わずか4分でチケット完売”というのは誇張でも何でもなく、公式グッズやチームグッズも飛ぶように売れていた。物販や飲食ができるコミュニティエリアも大混雑で、2日目の朝、SCARZブースで、選手のサイン会が開かれた時は、たちまち並びきれないほどの行列ができていた。

【超満員の会場】
開場前の様子。多くの来場者が列を作った
ステージを取り囲むように埋め尽くされた客席
コミュニティエリアも混雑
スポンサーブースも来場者で一杯だった
【SCARZブース】
2日目コミュニティエリアでは、昨夜惜しくも敗れたSCARZの公式グッズサイン会が行われた

 試合会場も熱気十分だった。とりわけ初日は5試合目までもつれ込み、eスポーツ観戦に慣れてる人でも応援疲れを感じるほどの長期戦となったが、ほとんどの来場者は最後の最後まで席を立たず熱心に観戦する姿が見られた。この熱意、真剣さは、eスポーツの本場である米国やヨーロッパに勝るとも劣らないものがあり、筆者もeスポーツシーンを見続けて25年ほどだが、日本でコミュニティレベルまでeスポーツが浸透したのは初めてのことではないか。日本のeスポーツはついに大きく花開いたことを実感した。

【派手な演出】
スパークを多用した派手な演出。選手入場時の選手のアクションもおもしろい
【キャスター陣】
eスポーツファンにはお馴染みのキャスター陣。左よりOooDa氏、yukishiro氏、岸大河氏、yue氏
初日、絶妙な掛け合いを見せた岸大河氏とyue氏
2日目はOooDa氏とyukishiro氏が実況解説を担当。OooDa氏は食レポもこなす

 この風景をもっとも喜んでいるのは、筆者のような「Counter-Strike 1.5」時代からチームベースFPSを楽しんできた往年のFPSファンだろう。

 1993年の「DOOM」に端を発し、1998年の「Quake」、1999年の「Unreal Tournament」で大きく花開いた対戦型FPSは、「Half-Life」のMODとして1999年に登場した「Counter-Strike」の登場によって、それまで個人技主体だったeスポーツシーンに“チーム戦”という革命を起こし、スポーツとしての競技性とライブ観戦の醍醐味を備えた人気ジャンルにまで一気に上り詰めた。

 余談だが、日本の“eスポーツ元年”がいつかについて2018年説を採るメディアが多いように思うが、筆者は自身の経験から、「CS」の正式サービスがスタートし、世界に選手を送り込むようになってきた2001年説を採る。このあたりの状況については長縄実氏とのインタビューで詳しく取り上げているので、興味のある方は御一読いただきたい。

【World Cyber Games 2001】
筆者が初めて取材したeスポーツの国際大会「World Cyber Games 2001」。写真は、「CS」の決勝戦の模様。この年は日本予選は開かれず、日本代表は送り込んでいない
WCG2001の日本代表選手達。「Age of Empires II」、「Quake III Arena」、「Unreal Tournament」などの日本代表を送り込んだ。彼らが日本のeスポーツ第一世代だ

 話を戻すと、その後、世界中で大会が開かれるようになり、日本でも雨後の竹の子のように無数のアマチュアチームが誕生した。その代表格として初のプロチーム「Four Dimension(4DN)」が登場し、世界一を目指して世界を転戦したが、残念ながら思うような結果は出せなかった。当時は国内大会はおろか、腕を磨く練習環境、安定した給与、そして応援してくれるコミュニティ、何もなかった。我々メディアも含めてほぼ全員が手弁当で、気持ちだけで世界一を目指したが、支えるものが何もない。続くわけがなかった。

【Four Dimension(4DN)】
「CS」国内初のプロチーム4DN。多くのメンバーがまだ日本のeスポーツ界で活動している

 その後も、日本ではゲームコミュニティ、スポンサー、PCメーカーなどが、様々な形で日本のFPSを盛り上げるために汗をかいてきたが、一度として大きなムーブメントには繋がらなかった。“何故なのか?”という点については、時代が早すぎたという一言で片付けたくなるところだが、究極の所、“テロリストが活躍するゲーム”という「Counter-Strike」の根幹を日本社会が受け容れなかったというところが大きかったのではないかと思う。

【GALLERIA GAMEMASTER CUP】
2017年に開催されたGGC。賞金総額500万円と、当時としては破格の賞金額で話題を集めた。本大会で優勝したSCARZ Absoluteのメンバーは、ZETA DIVISIONをはじめ様々なチームで活躍している

 ただ、「Counter-Strike」がなければ今の「VALORANT」の成功がないのは揺るぎのない事実で、「Counter-Strike」が確立したチームベースFPSを、換骨奪胎して今の世代にも十分アピールできる作品に昇華したのが「VALORANT」だ。

 「VALORANT」の対戦は、本質的に「Counter-Strike」とまったく同じだ。5対5の13本先取、爆弾(「VALORANT」ではスパイク)設置を境に攻守が入れ替わるスリリングなゲーム展開、クレジット管理による場外での駆け引き、Half-Life TV譲りの優れた観戦システム、ピストルラウンド、エコラウンド、そして勝負のラウンドの存在、どこからでも一撃必殺のスナイパーライフル、観る者を魅了するアサルターの近接戦闘などなど、書き出すとキリがないが、「VALORANT」は、本質的に「CS」と“まったく同じ競技”だ。とりわけ、“打撃感”と呼ばれる瞬間的なエイム力がすべてを制する戦いは、他のジャンルでは到底味わえない爽快感がある。

 「VALORANT」が凄いのは、20年以上本質的に何も変わっていない「CS」のゲーム性を一気に進化させたことだ。エージェントの存在によって、スキルやアルティメットといった技を繰り出すことで、「CS」では想定できないような戦術や個人技が可能となり、さらに定期的に新しいエージェントを追加することで、強制的にメタを変えることが可能となった。このあたりはさすが「League of Legends」を成功に導いたRiotという感じで、観戦する側を飽きさせない、常にフレッシュな戦いを堪能することができる。

 選手達は新しいエージェントやそれにともなうメタの変化に対応するのが大変だと思われるが、「CS」は良くも悪くもそこを放置しすぎた印象があるし、大会運営もESLをはじめ外部組織に任せっきりで、賞金や大会スケジュールなど、選手ファーストになりきれなかったところもある。この点Riotは、「CS:GO」や「オーバーウォッチ」などを反面教師としながら「LoL」で成功したノウハウを存分に注ぎ込んで、「VALORANT」のプロリーグを自ら構築した。

【VALORANT Champions Tour】
「VALORANT」のeスポーツシーンは4つのレイヤーで構成されている

 自ら構築したという点ではBlizzardの「オーバーウォッチ」と同じだが、大きな違いは在野のチームにも、トップリーグ、そして世界一への門戸を開いたことだ。まさに今回の大阪大会がそれで、本大会に勝ち進んでいけば、ZETA DIVISIONやDetonatioN FocusMeが所属するインターナショナルリーグへの参加が可能となる。在野の無名チームでも世界一を目指せるからこそ、FPSコミュニティは活性化し、チーム創設も活発化する。チームメンバーは本気になって練習に取り組み、大会では死力を尽くして戦い、勝てば喜びを露わにする。その熱量がコミュニティに伝わり、もっと応援しようという気持ちになる。見事にプラスのスパイラルが働く仕組みになっている。

 野球で言い換えれば、日本プロ野球で優勝すればメジャーリーグへの参戦が叶うような話で、それでいて草野球のチームも参戦可能で、勝ち進めば世界一も夢ではないという、誠に夢がある仕組みになっている。もっとも、ZETAやDetonatioNらインターナショナルリーグのチームは、結果を出し続けるために、今後大型選手の獲得を行なっていくだろうし、不振選手の戦力外通告もあるかもしれない。まさに実力勝負のプロスポーツの世界が待ち構えている。いずれにしても「VALORANT」を興行として盛り上がる仕組みを作ったRiotはさすがというべきで、同作のeスポーツシーンはこれからますます盛り上がりを見せていくだろう。

【昇格の道】
日本が入っているのは10の国/地域がひしめくアジア太平洋。激戦区だ
「VCJ2023 Split1 Playoff Finals」は、一番下のChallengersに含まれる。ZETAやDetonatioNがいるインターナショナルリーグに昇格するには、国内で勝つだけでなく、さらに真ん中のChallengers Ascension APACでも勝ち抜く必要がある
昇格できても参戦できるのは2年間だけ。かなり厳しいルールだ

「VALORANT」を基軸に盛り上がる関西eスポーツ。狙いは2025年の大阪万博

 もうひとつの視察テーマである関西のスポーツの盛り上がりについて。こちらについては答えはわかっていたが、自分の目で確かめたかった。

 というのも、関西は長年eスポーツ不毛地帯だったからだ。正確に言うと、東京以外はすべてがそうだった。eスポーツの歴史は25年ほどだが、RAGEのようなゲームメーカー以外が大会をホストするようになったのは、ここ数年の話で、それ以前は、ゲームメーカーがプロモーションの一環として、プレーヤーのモチベーション維持や、新規ユーザーの獲得を目的に行なう大会≒eスポーツだったため、東京以外で大会を開催されることが少なかったという経緯がある。

 言うまでもなく、実際には東京以外にもeスポーツファンはたくさん居たわけで、熱心なeスポーツファンはその都度上京して観戦したと聞く。今回、RiotやRAGE、そして南海電鉄が関西特別パートナーという特殊な位置づけで参画し、さらに大阪観光局を後援に加える形での大阪開催にこぎ着けたのは、冒頭にも書いたがエポックメイキングな出来事だ。

 今回、東京開催より会場が狭かったためか、入場者数は公式発表していないが、会場の客席数は3,500ほどだろうか。2日間で7,000席、これが4分で売り切れるのだからその人気は本物といっていい。さいたまスーパーアリーナで26,000人、東京ガーデンシアターで13,000人(いずれも公称)という関東開催の数字に比較すると小さいが、南海電鉄もハコを大きくすればまだまだ集客できるという手応えを掴んだのではないだろうか。

【2022 VALORANT Champions Tour Challengers Japan Stage2 Playoff Finals】
2022年6月にさいたまスーパーアリーナで実施された「2022 VALORANT Champions Tour Challengers Japan Stage2 Playoff Finals」の様子

 それを見越してか、今回、Split 2のプレイオフも大阪で開催されることが発表された。会場は、インテックス大阪5号館より大きいエディオンアリーナ大阪。奇しくも特別パートナーの南海電鉄の本拠地なんばでの開催となる。キャパは8,000人で、ステージ等のスペースを考えると5,000人というところだろうか。2日間で1万人規模のイベントとなりそうだ。

【VCJ 2023 Split 2】
3月21日よりスタートした「VCJ 2023 Split 2」。Split 1で活躍した6チームは、Split 1の順位に応じて有利なポジションからSplit 2に挑むことになる
そのプレイオフファイナルは、再び大阪開催
【Masters Tokyo】
そしてインターナショナルリーグ出場の上位チームが世界一を決めるMasters Tokyoの日程も発表された

 今回、南海電鉄は、特別パートナーとして、キッチンカーを導入したり、なんばスカイオにあるeスタジアムなんばで公式グッズの販売などを行なっているが、興行としてはまだまだ持ち出しが多く、反省点もたくさんあるという。

 同社の取り組みは、スポンサー就任による若い世代への知名度向上や、南海沿線への集客といったレベルではなく、最終的にはeスポーツ自体を事業化しようと考えており、ターゲットイヤーは2025年の大阪万博だ。ここまでに“eスポーツの街おおさか”に向けてeスポーツ大会やイベント誘致に向けて尽力していくという。

【南海の取り組み】
コミュニティエリア奥のキッチンカーは南海が手配したものだという
南海のeスポーツ施設「eスタジアムなんば」では、公式グッズも販売
【南海電鉄の遠北社長も視察】
2日目には、南海電鉄の社長兼CEOの遠北光彦氏も視察に訪れていた

 思えば、昨夏初開催されたeスポーツキャンプも「VALORANT」で、あの時期から今回のような展開を考えていたのだろう。eスポーツキャンプは2023年も絶賛準備中ということで、こちらも昨年以上に人気を集めそうだ。参加希望の高校生は、今から両親に承諾を得ておくといいだろう。

【eスポーツキャンプ】
南海が全面協力した高校生向けeスポーツイベント「eスポーツキャンプ」

 今回、現地観戦して、関西eスポーツの盛り上がりを肌で感じられたのはとても良かった。欲を言えば、試合中会場が静かすぎるとか、試合以外のアクティビティの不足、メインエリアとコミュニティエリアの導線の悪さ、eスポーツならではのタッチポイントの設定、選手らとの交流の機会の設定などなど、グローバル水準で見ると、まだ様々なものが不足しているが、日本eスポーツ界の宿願だった観客の大規模動員が実現したことで、筆者のような外部の人間がごちゃごちゃ言わなくても、回数を重ねれば自ずと整ってくるはずだ。

 ともあれ、南海および関西のeスポーツ界は筆者が想像していた以上にeスポーツに本気だ。これは関西圏のeスポーツファンにとっては嬉しいニュースだろうし、大阪万博が開催される2025年に向けて益々盛り上がりを見せていくだろう。今後の「VALORANT」のeスポーツシーンおよび関西のeスポーツシーンに引き続き注目していきたいところだ。

【アクティビティ】
推しの選手と写真が撮れるボード
OooDa氏とキャスター気分が味わえるキャスターコーナー
【理想形はIEM Katowise】
筆者が取材した中で理想的なeスポーツイベントだと感じたのは、eスポーツの聖地カトヴィツェで開催されているIEM Katowise。写真はインターバルの間に開催されているエキシビションマッチの様子
eスポーツに特化した展示エリアIEM EXPO
トップアスリートとの交流の場
広い会場では、各種ワンデートーナメントが開催されている
こちらは女性チームによる「CS」大会
子どもたちも「CS」を楽しめる