【特別企画】

言語を越えた交流、eスポーツで国際親善「日本・サウジeスポーツマッチ」大会レポート

会場には国賓ファイサル・ビン・バンダル・アール・サウード殿下の姿も

【日本・サウジアラビアeスポーツマッチ】

10月2日開催

会場:ところざわサクラタウン

 10月2日、日本eスポーツ連合(JeSU)が主催する国際eスポーツ大会「日本・サウジアラビアeスポーツマッチ」の初日が開催された。この大会は、両国間の戦略的国際パートナーシップ「日・サウジ・ビジョン2030」の一環として、両国の親善を深める目的の下で開催される。本大会は日本での開催だが、2022年にはサウジアラビアでも同様の大会が予定されている。

会場の様子

 開会式にはJeSU会長の岡村秀樹氏、タレントの武井壮氏、さらにはサウジアラビアeスポーツ連盟会長のファイサル・ビン・バンダル・アール・サウード殿下も登壇した。ファイサル殿下は「この大会が両国の親交の証として開催されることを嬉しく思い、またこの大会を通じて両国の絆がさらに強固なものになることを望みます」と、本大会に懸ける想いを述べた。

 会場には両国の国旗が掲げられ、また各タイトルの試合開始前には両国の国家が流されるなど、eスポーツイベントにしては珍しく厳かな雰囲気の中行われた本大会。eスポーツ×国交という新たな試みを、試合結果とともにレポートする。

左から、岡村秀樹氏、武井壮氏、ファイサル・ビン・バンダル・アール・サウード殿下

両国の親善を象徴するタイトル「The King of Fighters XIV」

 本大会の競技タイトルの一つ「The King of Fighters XIV」(以下KOF14)は株式会社SNKによって開発されているゲームだ。同社は日本企業でありながら、2020年11月にサウジアラビアの企業Electronic Gaming Development Companyが筆頭株主になっており、そう言った意味では「KOF」は本大会にピッタリのタイトルといえよう。本大会のルールは3対3のポイント制で、各試合はBO5で争われた。

 「KOF14」部門には予選を勝ち抜いた選手が両国から招待されており、日本陣営はLaggia選手と少年選手、サウジアラビア陣営はAlucard選手、Badoor選手、Busterwolf選手という顔ぶれになった。日本陣営の選手はどちらもトップ選手という印象で、対するサウジアラビアの選手陣は比較的無名だが、その中でAlucard選手は以前にも同国の代表選手として国際大会への出場経験がある。なお、Alucard選手は隔離期間の確保ができなかった関係から、宿泊先からのリモート出演となっている。

左から、Laggia選手、少年選手、Badoor選手、Busterwolf選手

 「KOF14」は日本や中国をはじめとするアジアのシーンが存在感を放つタイトルで、大会でのプレイ経験が豊富な日本陣営が有利に見える。同時に日本の選手はそのプレイ動画が多く出回っているため、サウジアラビア陣営がどこまで対策を練ってきているかが見どころだ。日本陣営が実力を見せつけるのか、それともノーマークのサウジアラビア陣営が番狂わせを見せるのか、注目が集まった。

 第1試合は少年選手対Badoor選手の試合となったが、少年選手のチームは先鋒から、ナジュド、テリー、シュンエイという構成で、対するするBadoor選手はシルヴィ、山崎、バイスという選択になった。これは試合後インタビューで少年選手自身も語っていたところであるが、日本の選手が性能を重視してチームを構成するのに対し、サウジアラビアの選手はキャラ愛でチームを組んでいるという印象がある。Badoor選手が選択するキャラクターは性能面で特段評価されているキャラではないが、どれも本人のお気に入りのキャラクターだそうだ。

左が少年チーム、右がBadoorチーム

 試合が始まると、少年選手の先鋒ナジュドが猛威を振るい、Badoor選手を圧倒する展開となった。実はこのナジュドというキャラクターも、サウジアラビア企業が主導して中東域に向けて行われたデザインコンペから生まれたキャラクターで、出生地がサウジアラビアという設定になっており、両国に縁深いキャラである。性能としてはテクニカルなことで知られているが、開幕から少年選手が積極的に距離を詰め、持ち前の運び性能で相手を画面端に追い詰める展開がよく見られた。

コンボを決める少年ナジュド

 Badoor選手も必死に食らいつくが、なかなか少年選手のナジュドが倒せない。やっとも思いナジュドを倒しても、少年選手の中堅テリーがこれまた破壊力抜群で、結局Badoor選手は少年選手のシュンエイを引きずり出せないまま敗北してしまった。少年選手が完璧なゲームメイクを見せ、その実力を見せつけた試合だったと言って良いだろう。

敗北してしまったBadoor選手

 続く第2試合はLaggia選手対Alucard選手の試合で、Laggia選手はアリス、ブルーマリー、シュンエイ、Alucard選手はユリ、ブルーマリー、ロバートという構成になった。Alucard選手はSNKのゲームの中でも「龍虎の拳」が特に好きとのことで、ユリとロバートの選出からは龍虎愛が伺える。

右がLaggiaチーム、左がAlucardチーム

 この試合は先ほどの試合とは変わって、両者が牽制を多用するゆっくりとした展開が多く見られたが、そんな中少しづつLaggia選手が体力リードを奪っていた印象だ。Laggia選手は、ひとたび攻撃が当たれば持ち前のコンボ精度で相手の体力を一気に減らし、また劣勢になった相手の起き上がりの無敵技は冷静にガードしていて、まるで詰将棋のような手堅いプレイイングで相手を圧倒した。Alucard選手も健闘したが、今一歩Laggia選手の実力には届かなかったようだ。

Laggiaブルーマリーの特大コンボ

 そして最終試合、少年選手対Busterwolf選手のカードだ。少年選手は先ほどのチームから中堅のテリーをブルーマリーに変更しており、対するBusterwolf選手はテリー、庵、ガンイルという構成だ。Busterwolf選手は20年以上「KOF」シリーズをプレイする大ベテランとのことで、プレイヤー名がBusterwolfであるからには、やはりテリーがお気に入りキャラクターなのだろう。

右が少年チーム、左がBusterwolfチーム

 Busterwolf選手は先ほどの試合を見ていただけあって、少年選手のナジュドに上手く対応できていた。防戦一方にならないよう自分から積極的に攻めを展開していて、第2ゲームでは先鋒戦を制する大戦果を上げる。しかし今度は、先ほどの試合では見せなかった少年選手のブルーマリーが猛威を振るい、纏わりつくようなジャンプ攻撃に中々対応できなかった。Busterwolf選手も健闘したが、結果として少年選手のストレート勝ちとなり、圧巻の日本チームは全試合1ゲームも落とさずにサウジアラビアチームに打ち勝った。

Busterwolf選手がバスターウルフで先鋒戦を制したシーン

 勝利した日本チームにインタビューすると、「全勝を目指していたので、勝てて嬉しい。対戦相手のプレイスタイルが分からない中、不安要素も多かったが、最終的には実力を見せられたと思う。わざわざ日本まで来て対戦してくれたサウジアラビアの選手団に感謝したい」と語った。また勝因について尋ねると、「実力の差もあるが、練習環境の差も大いに影響していると思う。日本はオンライン環境が恵まれているので、新型コロナウイルスの影響下でも問題なく練習できていて、それが勝利につながったと思う」と話した。

勝利して賞金240万円を獲得した日本チーム

 負けてしまったサウジアラビアチームは「日本のプロ選手たちはとても強かった。負けてしまって悔しいが、来年の大会に向けてしっかりと準備したい」と語った。今回は行動制限の関係から観光はできないとのことだったが、もし観光できたらどこへ行きたかったかと尋ねると、Badoor選手は「以前訪れてとても綺麗だったのを覚えているので、京都に行きたかった」と話し、また今回が初来日のBusterwolf選手は「TGSに行って『KOF15』をプレイしたかった。自分をサウジアラビアの皆は新作を心待ちにしているよ」と語ってくれた。

インタビューに答えてくれたBusterwolf選手
Badoor選手

 結果としては日本チームの圧勝となったが、同じゲームを愛する者どうしが言語の壁を越えてゲームで交流しているさまは実に素晴らしかった。サウジアラビアの「KOF」シーンはどんどん成長中とのことなので、来年のサウジアラビア大会の頃には選手たちがもっと成長していることだろう。

パキスタンの再来なるか!? 「鉄拳7」部門

 「鉄拳7」は格闘ゲームタイトルの中でも特に国際的なタイトルとして知られており、2019年には中東パキスタンの選手たちが圧倒的な実力で数々の世界大会の上位を席巻するという事態が起きたこともある。それまでの鉄拳シーンはアジア地域が中心となっていたが、パキスタン勢が台頭してからは中東も鉄拳の強豪地域として認知されている。パキスタンとサウジアラビアは地理的にはそれほど遠くなく、両国の選手たちはUAE開催の大会などで相まみえることもあるとのこと。果たしてサウジアラビアの鉄拳勢はどれほどの実力なのだろうか。

 両国の出場選手は、日本チームにぺコス選手、ダブル選手、破壊王選手、サウジアラビアチームはBobwasfi選手、Tora選手、MD Luffy選手という顔ぶれになっている。日本チームの選手たちは言わずと知れたトッププロ揃いであり、対するサウジアラビアチームは、大きなタイトルの獲得経験こそないものの、国際大会でも名前を見かける面々だ。特に大将を務めるMD Luffy選手は鉄拳の大会に出場するために来日した経験もあるとのことで、精力的に活動しているプレイヤーであることが分かる。なお、Tora選手以外はホテルからのリモート参戦となっており、試合は全試合オンラインで行われる。

日本チーム、左から、ダブル選手、破壊王選手、ぺコス選手
サウジアラビアチーム、手前がTora選手、モニター左Bobwasfi選手、右MD Luffy選手

 第1試合はぺコス選手対Bobwasfi選手というカードとなった。ぺコス選手が使うギースは「KOF」シリーズからのゲストキャラクターで、ゲージを使ってゲーム中屈指のコンボ火力をたたき出すテクニカルなキャラクターだ。対するBobwasfi選手はその名の通りボブ使いで、鉄拳シリーズを始めてから長らくボブを使っているようだ。

両者の使用キャラクター

 ぺコス選手は日本のプロ選手の中でもガードの上手さに定評がある選手だが、この試合ではその防御技術が遺憾なく発揮されていた。Bobwasfi選手の細かい打撃に対して的確に横移動ガードからの反撃を決め、また中距離でのスカし確定も冴えていた。コンボ始動技が当たればMAXキャンセルから容赦のない大ダメージを奪っており、Bobwasfi選手はなかなか攻めの糸口を見いだせない。途中ホーミングアタックやパワークラッシュを起用して何とか攻めのキッカケを作り、ラウンドを奪取する場面も見られたが、ゲームを取るまでには至らず、第1試合は3-0でぺコス選手に軍配が上がる。

ギースの大ダメージコンボ

 続く第2試合はダブル選手対Tora選手のカードだ。ダブル選手といえばロウ使いで、近距離に詰め寄っての展開の速い攻めを得意とするプレーヤーだ。対するTora選手のキャラクターは巨漢のマードック。大きい体躯では小技を躱すのが難しくなるが、ダブル選手の攻めをどう凌ぐのかが見どころになる。

試合に臨むTora選手、パッド勢だ

 試合が始まると、やはりダブル選手が近距離で攻めまくる展開となった。素早いジャブで相手を捉え、細かい中下段の打撃で相手を追い詰めていく。Tora選手も果敢に反撃に出ようとするが、反撃のジャブをしゃがまれてしまってり、ダブル選手のハイキックが反撃にカウンターヒットする場面も多くみられ、Tora選手としては息苦しい展開が続いた。またダブル選手は反応速度もすさまじく、速い展開の中でもTora選手の投げをしっかり抜けていて、またTora選手が立ち回りで放ったスクライミングタックルに反応してレイジアーツを打っていた場面もあり、実況解説陣を驚かせていた。

ダブル選手が決めて見せたレイジアーツ

 そんな中でTora選手もなんとか攻めの糸口を見つけ、プッシングのカウンター確認などからダメージを奪い、ダブル選手から1ゲームを奪取する。しかしゲームカウントが2-1になったタイミングでダブル選手はファーカムラムへキャラクターを変更。ここから勢いをつけて反撃としたいTora選手だったが、この変更にペースを乱され、ダブル選手のファーカムラムに対応できないまま、3ラウンドストレートで最終ゲームを落としてしまう。複数のキャラを使いこなすダブル選手の器用さが光り、第2ゲームも日本チームの勝利となる。

ダブル選手(左)がファーカムラムへキャラ変更

 サウジアラビアはもう後がない第3ゲーム、対戦するのは破壊王選手とMD Luffy選手だ。破壊王選手は長らくキング使いとして有名だったが、最近アーマーキングへとキャラ変更をしている。アーマーキングはリーチのある打撃技、細かい下段技、そして投げと、バランスの良い技構成のキャラクターだ。対するMD Luffy選手はこれまた長年愛用しているというポール・フェニックスを選択、一撃の火力が非常に高いキャラクターだ。

両者の使用キャラクター

 なんとしても一勝を上げたいサウジアラビアチームだったが、破壊王選手はそんなことはお構いなしとばかりに開幕から投げコンボを決めて大ダメージを取る。日本チームは大会の2週間ほど前から相手チームの手癖を動画を見て研究していたとのことだが、それもあってか、第1ゲームでは面白いほどに破壊王選手の技がヒットしており、また壁コンボも華麗に決めて勢いのままにMD Luffy選手も下していた。MD Luffy選手もやられっぱなしという訳ではなかったが、スカし確定などをミスしている場面も見られ、動きにややぎこちなさが感じられた。

 試合は破壊王選手の優勢で進んでいたが、ゲームカウント2-0で迎えた第3ゲーム、MD Luffy選手が一矢報いるスーパープレイを見せる。お互いに2ラウンドをとった最終ラウンド、緊張感の漂う状況で、体力残り僅かまで追い詰められたMD Luffy選手だが、ここで相手の下段技を読んで決死の捌きを決めて見せた。ここからMD Luffy選手はレイジアーツを絡めたコンボを決め、締めには壁を使って補正切りの崩拳を入れるやりこみぶりを見せた。サウジアラビアチームもただでは負けないというところだろう。

MD Luffy選手の体力(右上)は残り僅か、華麗な逆転劇となった

 しかし続く第4ゲーム、MD Luffy選手が勢いづくかとも思われたが、ここで破壊王選手は無慈悲にも神殿ステージを選択。神殿ステージは床破壊のギミックによりアーマーキングのコンボ火力が伸びるため、破壊王選手に有利に働くステージだ。MD Luffy選手も必死に食い下がったが、破壊王選手がステージ有利をしっかりと活用し、第4ゲームは破壊王選手の勝利、「鉄拳7」部門も日本チームのストレート勝ちという結果になった。

満面の笑みで賞金を手にする日本チーム

 勝利した日本チームに話を聞くと、「久しぶりの国際戦だったので気合を入れて練習をしており、その成果が発揮されてよかった。来日してくれたサウジアラビアの選手陣に感謝したい」と語った。来年の大会に向けてサウジアラビアチームにアドバイスはあるかと尋ねると「伸びしろはかなりあると感じたので、使用キャラクターを是非見直してほしい。サウジアラビアの選手は固定キャラクターをやり込み続けているような印象があるが、現代の鉄拳はギースやファーカムラムなどの強力な新キャラクターをどれだけ知っているかが勝利のカギになってくる。また第2試合でダブル選手がそうしたように、時には戦略的なキャラクター変更もとても有効になる。次回大会に向けて、コミュニティ一丸となって研究対策してみてほしい」と語った。

インタビューに応じてくれた日本チーム

 負けてしまったサウジアラビアチームは「まず今大会を開いてくれた運営に感謝したい。試合結果としては負けてしまって悔しい、日本の選手はやはり強かった」と語った。サウジアラビアのコミュニティについて尋ねると「サウジアラビアでは大きな鉄拳シーンがあり、今回の代表選手よりも強い選手がまだまだいる。次回大会に向けてしっかりと準備をし、日本チームを負かせるまでに練習してくるつもりだ」と力強く語ってくれた。

インタビューに応じてくれたTora選手

 「鉄拳7」部門も日本チームの勝利で幕を下ろしたが、日本チームが少しでも油断していたら結果が覆っていたかもしれないと思わせるほど、肉薄した試合内容だった。サウジアラビア陣も来年に向けて練習を重ねたいとのことなので、次回大会ではより拮抗した試合が見られることを期待したい。