【特別企画】
【特別企画】空前の活況を呈するゲームショップ! 台北ゲームショップレポート2019
そのワケは不思議な共闘態勢で成長を遂げるPS4とNintendo Switchの存在にあり
2019年1月29日 14:03
1月28日、台湾最大規模のゲームショウTaipei Game Show 2019が幕を閉じた。台湾の人びとは、今週末の2月2日から9日間前後の長い春節休みに入る。ゲームファンは、Taipei Game Showの会場限定セールや、Taipei Game Showでお気に入りのゲームを見つけて、台北地下街等のゲームショップでゲームソフトを買い込み、あるいはオンラインショップでダウンロードして春節の休みに遊びまくる。台湾のゲームファンにとって1年でもっとも楽しい時期といっていい。
会場でも例年通り、PS4が売れに売れていた。もともとTaipei Game Showは“PCゲームソフトの即売会”から始まっており、モバイルゲーム全盛の現代でもその位置づけは変わっていない。SIETは、このTaipei Game Showのために数千台、ショップでの販売も含めると数万台のPS4を確保し、2,000台湾ドル(約7,000円)オフ+「Marvel's Spider-Man」付きという大盤振る舞いで、売りに売りまくっていた。
さらに、会場を満喫したゲームファンたちは、帰り際に台北地下街や光華商城といった“電脳街”に繰り出し、仲間と共に“二次会”を楽しむ。それをウォッチするのが、台湾出張における筆者の密かな楽しみだ。というわけで、今年も最終日に会場を飛び出して、台北市のゲームショップを回ってきた。さっそく台北ゲームショップ最新事情をレポートしたい。
Xboxが完全に脱落。ゲームコンソールはPS4とNintendo Switchの2強状態に
昨年のレポートでは、Nintendo Switchが大きな存在感を見せていることを報告した。一部の読者からは「“台湾が初めて赤く染まった日”というタイトルは刺激的すぎる」とお叱りも頂戴したが、まさにそれぐらい刺激的な印象を受けた年だった。筆者は記事の中でPS4、Xbox One、そしてNintendo Switchの三つ巴の戦いが幕を開けるのではないかと結んだが、結論から言うとそうはなっていなかった。
理由は2つある。1つはXbox Oneが事実上コンソール戦争から完全に脱落し、“緑”が市場からいなくなっていたことだ。筆者自身、Xboxを長年担当しているのでよくわかるが、台湾は、日本のように、CEROのレギュレーションに対応するために、Xbox Game Passが展開できなかったり、表現の問題で特定のタイトルがリリースできないということもなく、欧米と同じフルセットで戦える環境が整っている。
このため個人的には「戦えるタマはあるんだからもう少し頑張れよ」と思わないでもないが、Microsoftが準備しているクラウドベースのゲームプラットフォームProject xCloudに賭けるつもりなのか、あるいはPS4とNintendo Switchの勢いが凄すぎるためか、台湾は世界的にも類を見ないスピードで文字通りの店じまいをしていた。
もう1つは、eスポーツの盛り上がりだ。台湾ではeスポーツと言えば、PCゲームを指す。もともとPCからゲーム市場が立ち上がっているため、SIETがPS2やPSPを引っさげて台湾市場に参入した2000年代前半から、eスポーツといえばPCになっている。
eスポーツといえば、世界で日本だけが盛り上がっているような印象を受けているゲームファンも多いかもしれないが、まったくそんなことはなく、eスポーツは世界的なムーブメントになっている。その理由は長くなるので割愛するが、かいつまんで説明すると、近年、「League of Legends」や「オーバーウォッチ」、「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS」といったeスポーツに特化したタイトルが次々に生まれ、技術の進化によりeスポーツ大会のオンラインでの配信、視聴が容易となり、そこにスポンサーが付くことで本気で取り組むプロ選手とチームが増え、プロを応援するファンが付いていくという好循環が続いているためだ。
ここ台湾でも、電脳街においてゲーミングPCやゲーミングデバイス、そしてPCゲームソフトを扱うショップが今まで以上に増えており、かつ活況を呈していた。“電脳街”と呼ばれるぐらいなのでもともとPCショップは多かったが、その多くが“ゲーミングPCショップ”に鞍替えし、eスポーツをテーマにアピールしていたのは例年との大きな違いだった。
違いと言えば、既報のように、Taipei Game Showの会場でも、ASUS、MSI、AURORA、サーマルテイクといったメーカーがブースを構えていた。こうしたPCメーカーがTaipei Game Showにまとまって出展するのは今年が初めてだ。eスポーツ界でリーダーシップを取るIntelやNVIDIA、Logitechといった大手メーカーが出展しているということもあるのだろうが、押せ押せムードなのはeスポーツも同様だ。
というわけで前置きが長くなってしまったが、電脳街の風景は、PS4、Nintendo Switch、そしてeスポーツ(PC)が賑わいを生み出しており、ゲームショップに限って言えば、PS4とNintendo Switchの2強状態といっていい状態だった。
Xbox担当としてこの状況は実に寂しい限りだが、これはXbox Oneがゲームコンソールとして魅力がないのではなく、Xbox Play Anywhereが完全に裏目に出てしまったのではないかと思う。Xbox Play Anywhereは、ダウンロード版を購入すれば、Xbox OneでもPCでもプレイできるというXbox独自の施策だが、台湾では多くのゲームファンがPCを持っているため、あえてXbox Oneを買うというモチベーションが減退してしまったのではないかと思う。
垂直に市場を立ち上げつつあるNintendo Switch、依然として成長を維持するPS4。共通点は独占タイトル
一方、関係者へのヒアリングと、マーケットリサーチで判明したのは、PS4もNintendo Switchも成長が続いているということだ。Nintendo Switchは、一昨年前に正規市場がないところに突如参入したため、水を得た魚のようにしばらく成長が続くことは容易に想像が付くところだが、6年目を迎えるPS4も共に成長しているのは驚くべきことだ。
PS4の成長エンジンは2つ。1つはPS4 Pro、もうひとつは独占タイトルの存在だ。PS4 Proというのは、日本人からすると意外に思えるかもしれないが、台湾では無印のPS4より、PS4 Proのほうが売れているという。実際店頭でもゲーム同梱版はPS4 Proばかりで、無印PS4の存在感はなきが如くだった。
台湾のゲームファンがPS4 Proを好む理由は、やはりPCマーケットの影響が大きい。どういうことかというと、お金を貯めてゲーミングPCを買うというカルチャーが根付いている台湾では、クオリティに対するこだわりが強く、一方で価格に対するシビアな感覚がないため、どうせ買うならハイスペックなものを手に取る傾向が強いのだという。
PS4 Proを手に取るきっかけは、PS4でなければ遊べない独占タイトルの存在だ。2018年も、「Horizon Zero Dawn」を皮切りに、「Detroit: Become Human」、「Marvel's Spider-Man」、「God of War」ときら星のようなAAAタイトルが次々にリリースされた。これらのタイトルはスマホやPCでは遊べないため、スマホやPCでゲームを遊ぶようになった新たなゲームファンたちが、より上質なゲームを求めてPS4 Proと独占タイトルを手にする。このムーブメントを原動力にPS4は成長を続けているようだ。
この独占タイトルの強さを、ある意味でPS4以上に実証しているのがNintendo Switchだ。Nintendo Switchは2018年後半から現在までに掛けて、まさに独占タイトルラッシュが続いている。ホリデーシーズンだけを切り取ってみても、「ポケットモンスター Let's Go! ピカチュウ」(11月16日)、「大乱闘スマッシュブラザーズ」(12月7日)、そして「New スーパーマリオブラザーズ U デラックス」(1月11日)と続いており、そのすべてが中文繁体字に対応しており、かつ日本と同じ発売日で市場に投入されている。
このNintendo Switchの台湾展開が凄いのは、SIEグループがSCE Asia時代からPS3、PS4でと複数世代のゲームプラットフォームを経て10年以上掛けて作り上げた世界同時発売のスキームを、わずか数年で実現していることだ。昨年のレポートでも触れたように、過去の任天堂のアジア展開は失敗続きで、“市場からの撤退”という高い授業料を払ってきた。とりわけリージョンロックに対するこだわりは、アジアのゲームファンの不満を高め、完全に裏目に出てしまった(参考記事)。
2014年に撤退した任天堂台湾の施策は、ざっくり言えば、独自のリージョンロックを掛けて、「ポケットモンスター」など事前に選別したローカライズタイトルだけを遊ばせ、並行品は一切遊ばせないというものだったが、現在の任天堂香港による台湾展開は、リージョンロックを掛けず、世界同時発売し、ローカライズもする、並行品も遊べると180度方向転換している。
こうした結果、わずか2年足らずで任天堂の市場が垂直に立ち上がった。昨年1店舗のみだった任天堂ショップ、いわゆる“赤いお店”はかなり増えており、いわゆる“青いお店”のPlayStationの正規店ですら、売り場の半分をNintendo Switchに割いている。長年、アジアを見てきた筆者にとっては、この劇的な変化は驚くばかりだ。
実は食い合わない両プラットフォーム。不思議な共闘態勢でゲーム市場をさらに開拓へ
今回のマーケット視察で、Nintendo Switchの垂直立ち上げと共に、もう1つ驚いたのがPS4の大胆な値下げだ。
順を追って説明しよう。SCEは1990年代末期に、台湾を含むアジア市場に参入した際、正規市場を育てるために、“正規店”という仕組みを立ち上げた。海賊版の取り扱いや違法改造を止める代わりに正規店として認め、製品を優先的に仕入れられるようにするだけでなく、のぼりやポスターといった販促物や、試遊台などを提供するという施策だ。この施策が奏功し、2000年代初頭はPS2、PSP共に海賊版まみれだったマーケットは、現在では100%完全に浄化された。
以上は表の話で、その裏では、正規市場を創りたいSCEと、正規市場とやらは正直どうでもいいが、儲けは減らされたくないショップとの間で、激しい暗闘があった。SCEは、当時ショップにとって、海賊版と共に“大きなうまみ”だった抱き合わせ販売や中古販売、独自の修理請負、アンオフィシャルグッズの取り扱い等、日本では認められないようなことも暗黙のうちに認めながら、まさに徒手空拳で市場を作り上げていった。このあたりのエピソードは、生半可な小説や映画よりもドラマティックでおもしろい。機会があればいつか詳しく書いてみたいと思う。
話を本題に戻すと、そのSCEが絶対に認めなかったのが値下げだ。無制限に値下げを認めてしまうと、ショップ間で出血まみれの値下げ合戦となり、ショップが立ちゆかなくなるだけでなく、せっかく育てたPlayStationのブランドが毀損してしまう。このため価格に関しては立ち上げから現在に至るまで、ハード、ソフト共に一律で決まっている。価格については日本以上におもしろくないマーケットだが、この施策は正しかったと思う。
その値下げに関しては頑なだったSIETが、現在ガッツリ値下げをしているのだ。Taipei Game Showの開幕に合わせて1月25日よりスタートした10日間限定セールでは、PS4 Proモデルで3,590台湾ドル(約12,000円)引き、Taipei Game Show会場限定セールはさらに踏み込んでいて、PS4 Proモデルで5,370台湾ドル(約19,000円)引きとなっている。期間限定かつ、バンドルするゲームソフトや周辺機器の価格も加味しての値下げとはいえ、世界で1番安い新品になる。なぜここまで安くするのだろうか?
この点について、SIET総経理の江口達雄氏に直接尋ねてみた。最初に強く否定されたのは、次世代機に備えて売り尽くすためではないという。次世代機がどうなろうとも、PS4はまだまだ続き、PS4タイトルも計画されており、普通に売れるものを値下げする理由がないというわけだ。
また、Nintendo Switchに対抗するためでもないという。江口氏個人の考えでは、Nintendo Switchが市場を開拓していることは、脅威ではなく好ましいことだと捉えている。独占タイトルを数多く持つゲームコンソールという点で共通点があり、共に市場を開拓していく同志だと考えているようだ。
実際、両プラットフォームはターゲットが明確に異なっている。PS4(PS4 Pro)が開拓しているのは、PCだけでは満足できないコアなゲーマーであり、一方、Nintendo Switchは、現在多くの人びとにとってゲームの出発点となっているスマートフォンにおいてモバイルゲームだけでは満足できなくなったカジュアル層の取り込みで、両者の間で食い合いは発生しておらず、共闘関係にあると捉えているようだ。
では結局理由は何なのかというと、スマホ、PC、そしてNintendo Switchと、競合、共闘関係が数多く育ち、ゲームマーケットが大きく盛り上がりを見せる中で、今がシェアを広げる大きなチャンスだと捉えているためだという。6年目に大きく打って出る。その背景には様々な要因があるのだろうが、その積極姿勢が市場の盛り上げ、活性化に繋がっていることは大きく評価したいところだ。
新たな三つ巴はスマホ、PC、コンソールゲーム。新たな成長エンジンはeスポーツか
今回、ショップを回ってもっとも強く感じたのは、Nintendo Switchという新たなプレーヤーが登場したことで、ゲームショップ自体が活況になっていたことだ。オンラインですべてのゲームが手に入る現在、ゲームショップは世界的に見ても厳しいビジネスになっている。中国では電脳街自体が壊滅状態になっているし、欧米でもゲームショップの多くは、グッズショップに鞍替えして生き残りを図っている。日本でも以前に比べれば、発売日の行列や賑わいは確実に薄れてきている。
ところが台湾では、Nintendo Switchの登場もあって実に活況を呈している。もちろん、Taipei Game Show期間中ということもあるのだろうが、どのショップも多くのゲームファンが詰めかけていた。台湾ではショップの店員が、コミュニティリーダーを兼ねているという側面があり、もともと日本よりも根強い需要があるが、それを抜きにしても理想的なゲームショップの光景がそこにはあった。
ただ、意地悪なことを言えば、以前はさらにもっとゲームファンが多かった。台北地下街や光華商場には、Taipei Game Showの時期には通路を通れないぐらいのゲームファンが集まっていたし、PSPの「モンハン」をプレイするために、台北地下街の通路に座り込んでプレイする“地べた遊び”というムーブメントもあった。
かつて台北地下街にひしめいていたゲームファンがどこに消えたのかというと、スマホだと思う。Taipei Game Showの会場では、Gamaniaをはじめ、台湾メーカーが久々に元気だった。彼らは「リネージュ」をはじめとした韓国や台湾のPC向けMMORPGで急成長を遂げ、それらの没落と共に勢いを失った。その彼らが、韓国産のモバイルMMORPGを引っさげ、再びTaipei Game Showの会場に帰ってきたのだ。
会場で目立っていたのは、MADHEADの「神魔之塔」、Gamaniaの「天堂M(リネージュM)」、XFLAGの「モンスターストライク」、Cygamesの「Dragalia Lost」、KOMOE GAMEの「Fate/Grand Order」、「シノアリス」、Pearl Abyssの「黒い砂漠モバイル」など。モバイルゲームを扱うブースの特徴は1タイトルで1つのブースを形成しているところだ。逆に言えば、それだけインストールベース、売上高が違うわけで、日本と同様に、台湾ゲーム市場の“ラスボス”もスマホゲームなのかという気がする。
スマホゲームは、そもそもショップ展開しておらず、台北地下街にも広告をほとんど出していないため、その存在感はわかりにくい。ただ、「神魔之塔」の行列の長さを見ていると、ケタ違いに人が多く、すでに巨大な市場を形成していることを伺わせる。
そういった意味では、PC(eスポーツ)、コンソール(PS4、Nintendo Switch)、スマホの3つが台湾における“新たな三つ巴”と表現できそうで、今年のTaipei Game Showではその3軸がバランス良く配置され、切磋琢磨する姿を見ることができておもしろかった。
ただ、その一方で、日本人の目から見ると、eスポーツが盛り上がりつつあるPCも含めて、成長エンジンとしてのeスポーツをほとんど有効活用しておらず、会場で見ていてもったいないと感じることが多かった。
Taipei Game Showでは、eスポーツエリアが2カ所、PCメーカーにもそれぞれステージが設けられていたが、ゲストによるエキシビションや、アマチュアによる対抗戦が多く、いわゆるプロゲーマー同士の試合は行なわれていなかったように思う。eスポーツを楽しみたいファンもいて、大会ができる会場設備もあるのに、肝心のコンテンツがない、あるいは弱いという状態で、正直もったいないと思う。別にeスポーツだけが成長エンジンではないが、さすがにもう少し活用してもいいのではないかと感じた。
台湾ではPCからゲーム市場が立ち上がり、そこにプレイステーションが参入し、コンソールの市場が生まれ、現在はスマートフォンの普及によって、全国民がゲーマーないしゲーマー予備軍という状況になっている。圧倒的なインストールベースを誇るスマホがもっとも大きな市場を確保する中で、PCはeスポーツ、コンソールは優れた独占タイトルでそれぞれ市場の拡大を図っており、台湾ウォッチャーとしては近年稀に見るおもしろいマーケットになりつつある。新たな三つ巴の今後の行く末に今後も引き続き注目していきたいところだ。