インタビュー

「ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー」宮本茂氏インタビュー

「今回はキャラクターをもっと描いていこう」宮本茂氏が明かした続編ならではの着想

【ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー】
4月24日 公開
任天堂代表取締役フェロー・宮本茂氏

 4月24日、映画「ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー」の一般公開が日本国内でも行なわれる。

 映画「ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー」は、任天堂を代表するゲームシリーズ「スーパーマリオブラザーズ」を原作とした、CGアニメーション映画の第2作目。前作に引き続き、「スーパーマリオブラザーズ」の生みの親・宮本茂氏が率いる任天堂チームと、「ミニオン」でお馴染みの映画「怪盗グルー」シリーズを手掛けたアニメーション制作会社・ILLUMINATIONが共同制作した本作では、宇宙へと舞台を広げ、クッパJr.の邪悪な野望を阻止するためにマリオとルイージが冒険の旅に出る。

 今回は、そんな「ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー」の日本一般公開に先立ち、任天堂代表取締役フェローであり、同社のゲームデザイナーである宮本茂氏にメディア合同でのインタビューを行なった。

【【日本語版】 『ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー』 最終トレーラー】

1作目で終えたのは“自己紹介”。2作目からはキャラクターの描写と物語の広がりに踏み込む!

――今作ではマリオが主人公としての存在感を放ちつつ、ほかのキャラクターたちもそれぞれのエピソードで集結していく展開が、前作以上に強く感じられました。群像劇のような見せ方にもなっていたと思うのですが、こうした脚本や物語の見せ方は、どのように組み上げられていったのでしょうか。

宮本氏:マシューさんというメインの脚本家がいまして、その人とは1作目を作る間、多分6年以上いろんなことをやり取りして作ってきたんです。今回も同じく、マシューさんがリードで入っていて、いくつかのあらすじを出してくれるんですよ。1作目は、あらすじが「違う、違う」と何度もやり直しました。

 1作目では「ゲームの映画化って何が面白いんだろう」っていうところから始まったんです。僕は、「ゲームをそのまま映画化したら面白くないですよ」と思っていて。ゲームは遊んでいる人が面白いから結果として面白い。映画で語っても面白いものではない……というところからスタートしています。ですが、いろいろと進めていた後に「あ、意外とゲームと同じ流れになったな?」というのが1作目なんですよ。

 そうすると“ゲームと同じ流れ”になるので「マリオの世界の紹介」がメインになっていきます。「このキャラクターはこういう人です」「そもそもキノコ王国はどこにあるの?」みたいなことがたくさん出てくる。その説明、自己紹介をするのにすごく時間を取って(笑)。

 今回は自己紹介も終わっているので、初めて見る人でも楽しかったらいいと開き直りました。じゃあキャラクターをもっと描いていこう、と。ゲームではあまりキャラクターを描けないんですけど、映画はいろいろ語れるので、キャラクターを描いていこうという大まかな方針は決まっていたんです。それで何をやるかっていうところで、マシューさんの方から提案を受けました。1作目の頃からだいぶ固まっていましたが、「ピーチが自分の出生の秘密に興味を持つ」「私は何者かしら」というのをコアに作ろうと。

 1作目では“ちっちゃくなったクッパ”もいました。これは絶対に出さないと、みんなにとっては期待外れだろうなと思って、ちっちゃくなったクッパの話がひとつあります。もう1つは、ヨッシーを出しちゃったので、ヨッシーは出てこないとダメだと。いろんな縛りがあって、それを全部うまくまとめていくというのが脚本の作業になります。意外とそれが楽しくて。だいぶダラダラとしゃべってしまったんですけど(笑)。

前作ラストで小さくされたクッパ

宮本氏:ピーチが自分の出生の秘密に興味を持つ。で、マリオがそれをどんなふうに使ったら程よい恋愛感が出るのか、みたいなこともあって。ひとつひとつのセリフからそれぞれの目的が決まってくる。ちっちゃくなったクッパに関しては、彼が「どうなりたいのか?」を描きつつも、ただの悪役にしたくないっていうのがありました。

 クッパという悪役をマリオが倒すという話ではないんです、と僕はずっと言っていまして。スーパーマリオ劇団があって、そこに悪役を担当するクッパがいるけど、劇によっては友達になる可能性もあると。だから、完全な憎いボス、凶悪なヴィランではありません。マリオの仲間内でヴィランを担当する役者であってほしいという思いがありました。

 ヨッシーはどうしても出したかったんですが、1作目では出番がありませんでした。ただ、ジャングル王国へ向かう旅の途中にヨッシーアイランドを通ります。そこでは登場しているので、どうしても使いたくて最後に「卵」として出しました。じゃあ、前作の最後でニューヨークに残ったヨッシー(卵)が事件に巻き込まれる話を1本作ろうか、みたいな話などがいろいろとあり、あそこに落ち着いたと。

卵から孵ったヨッシーが仲間に

宮本氏:1作目で前フリしたことや、それぞれの登場人物の役割を任天堂らしく作り込んでいくというのがたくさんあって、すごく面白い。作っていて楽しかったです。そうしたアイデアをマシューさんに渡し、ちょっとずつ作りながら、隙間をまた埋めていく作業でした。映画がアニメーションで僕は良かったなと思います。ある程度のブロックを作って間を埋めていくとか、その中でセリフを直してみたりとか、割と自由にできるので、とても楽しい仕事になりました(笑)。

――海外では、ロゼッタとピーチの関係を気にする人も多いです。今回の映画で示された設定は、今後の正式な設定になっていくのでしょうか。

宮本氏:僕らは次にどんなゲームを作るのかがわかりません。次にゲームを作ろうと思った時に、変にキャラクターの設定がいっぱいあると、それが縛りになってしまう。ゲームの方で縛られるのはいいけど、ストーリーを作ったことに縛られたくない、というのが長年、映画をやらない理由だったんですね。でも、映画をやることでいろいろと膨らませるのも面白くなってきました。これからは映画で作った設定をできるだけゲームにも沿わせていきたいなと思っています。

ロゼッタの新たな設定が本作で加わる

――フォックス・マクラウドの登場には本当に驚きました。マリオシリーズ以外のIPキャラクターを登場させる判断は、どのような経緯で生まれたのでしょうか。あわせて、宮本さんご自身が強く推されたキャラクターがいれば教えてください。

宮本氏:ゲームというジャンルでは「キャラクターを混ぜない」ということを結構厳しく決めてきたんですよ。今までそうしてきたんですね。

 「ミッキーマウス」はディズニーの世界に1匹しかいない、ということにウォルト・ディズニーさんもこだわりがあったと思うんです。同時に2つのアトラクションに出なきゃいけなかったら2人いないとしょうがないけど、同じ場所に2人は出ない、みたいなことを決めていたと思うんですね。

 任天堂でもいろんなゲームのキャラクターを混在はしない、ってことをやってきました。唯一「スマブラ(大乱闘スマッシュブラザーズ)」を作る時に「仕方ないっ」と(笑)。いろいろ考えた結果、あれは任天堂のキャラクター人形がいっぱい入っている“おもちゃ箱”だと。もともと人形という設定ですし、おもちゃ箱なのでOK、ということで「スマブラ」だけは混在OKと言っていたんです。けれども、ここにきて“例外”がもう1つあって。唯一「ピクミン」は、どのキャラクターと混在しても良い、という掟破りのキャラクターになりました。

 先ほども触れましたが「任天堂は任天堂劇団」だと思っていて、いろんなタレント(キャラクター)がいます。今までゲームの仕組みを色々と考え、そのゲームの仕組みにいちばん適したキャラクターを使うということをしてきました。だから“ゲームの仕組み”ってゼルダになるのか、マリオになるのかわからないものを考えてるんです。これはゼルダでいった方がいいとか、これはマリオでいった方がいいとか、これは新しいキャラクターを作った方がいいとか、そういう開発をしてきたので。それが、これから映画に発展していくなら、任天堂劇団として誰がどんなふうに登場して共演するのかということを「少し緩めてもいいんじゃないかな」と思って。

 今回は何でもアリではなく「スーパーマリオギャラクシー」です。“ギャラクシー(銀河)”に出すとしたらフォックスだ、という提案がイルミネーションの方からありました。それで「いや、ありかもわからんなぁ」と思って。登場するとしたらどんな出方が嬉しいか、というのを積極的に詰めていきました。

 でも推しはピクミンです(笑)。ピクミンはいつも端っこに置いてたんですけど、今回は真ん中に出てくるという。これからピクミンは世界中のあちこちにいるという戦略で動いていますので、またよろしくお願いします。

――前作公開時の合同インタビューでも、海外で大ヒットしている状況について「ラッキーそのもの」とおっしゃっていたり、批評家の評価について触れていました。今回も同じような状況がある中で、今の宮本さんの日本公開に向けた心境と、前作のヒットを受けて制作体制で変わったことや影響があれば教えてください。

宮本氏:状況がとても似ているっていうか、そうですよね。実はね、評論家の人たちの反応は「それもあるな」と思っていたんですよ。今度はちょっと違うだろうと思ったら、前回より厳しかったので……。とても不思議だなと思って(笑)。映画業界をもっと盛り上げようと思い、他のジャンルから入ってきて頑張っているわりに、映画業界を盛り上げる人たちが消極的だ、というのはとても不思議なんですけども(笑)。

 昨日(日本語版プレミアム試写会)でもちょっと言いましたけど、もう3週間先行して数字が上がってますから。日本は日本版がちょっと特殊です。普通は英語版をローカライズすると思います。70〜80か国で上映している国々では全部ローカライズなんですよ。でも日本版は、1作目の時点でゼロの脚本から日本語で書いて同時進行しています。今回は英語で脚本ができたものを日本語にして全部書き直しました。だから、ローカライズではなく日本版を作っています。しかも日本は3週間遅れなので、これでどーんと数字に追い打ちをかけられなかったら、日本版担当の僕としてはクリスさん(クリス・メレダンドリ氏)に申し訳ない、というプレッシャーがすごくあります。

 だけどお客さんの反応を見ていると、マリオが大好きな人たちは、本当にマリオが大好きな人たちが作っているものを普通に受け入れてくれています。これは日本でもちゃんと受け入れられるかなと思っている。

 もう1つは、前回見てない人やマリオを知らない人でも、前回よりも映画として楽しんでもらえるものにできてるかなと思うので、東宝さんに期待しているところです(笑)。

――「スーパーマリオギャラクシー」というタイトルではあるものの、マリオシリーズのさまざまな要素が詰め込まれています。その中で、タイトルに「ギャラクシー」を付けた理由や、メインのストーリーがギャラクシー関連になっている意図、経緯を改めて教えてください。

宮本氏:2作目はなんとなく「ギャラクシーをね」っていう話は、1作目を作る時からあったんです。しかし、2作目をギャラクシーベースでやろう、というところまでは決まっていませんでした。ただ、ピーチはどこから来たんだろう、ニューヨークから来たんではないなぁっていう。じゃあどこにつながっているのかな、多分宇宙のどこかですよねという話をしていて。次作はそれが主題の映画になるので、2作目のコアはやっぱり“ギャラクシー”になるかなという予感はあったんですが、脚本の方からはっきりと「タイトルをギャラクシーにしたらどうか」という提案が出てきて「ああ、そうか」と(笑)。

 僕らは次にどう展開したらいいのかはっきり決まってなかった。でも、「そうか。やっぱりステージ(舞台)なのか」と。前作はニューヨークからキノコ王国というステージに行ったし、そこに「ドンキーコング」のジャングルも取り込んだ。マリオ劇団としても良い舞台ができた。これを広げるとしたら横に広げるオデッセイではなく、縦に広がるギャラクシーなんだ、とすごい腑に落ちました。それで今回は「ギャラクシー」でまとめようということになりました。広げていたのは“ピーチのお話”であって、それがギャラクシーに行き着いた理由ですね。

――前作以上に多くの小ネタやファンサービス的なものが盛り込まれていると感じました。限られた上映時間の中で、物語の展開と小ネタをどう取捨選択して詰めていったのでしょうか。

宮本氏:それはもうひとえにイルミネーションの力ですね。

 イルミネーションの人が、監督を含め、僕らよりも「スーパーマリオ」のことをよく知ってる人たちが並んでて(笑)。もう1つは、小さいユニットで作るんですね、映画の場面を。たとえば、“3分が30話になると90分”みたいな形で、ユニットの差し替えをしながら進行していく。そこがもう僕の作り方とすごく似てていて、捨てないものはほとんど捨てないんですよ。本当に無駄なものは作らないんです。たまに並べ替えがあったりするくらいで、密度高く作り込むというのがイルミネーションのテクニックですよね。

 上映時間については、たとえば親が映画館に子どもを連れて行きます。でも、親は連れて行った責任として座っている。親が感動する話ではあったけれど、子どもは走り回っていた、とか。僕はそうじゃない映画を作りたいなってずっと思っていました(笑)。そういう意味では息をつかせる暇もなく、ばーっと90分で終わるって決めて作れているのが、すごく良かったなと思います。

――制作中の映画と実際に完成したものを見た時に宮本さんがどう感じたのか、また改めて、ゲームとは違う「映画だからこそ」できた表現について感じたものがあれば教えてください。

宮本氏:僕はセミナーでゲームデザインの話をする時、「ゲームを作るのにいちばん難しいのは、作っていると客観性がなくなること」っていう話をよくします。どっぷり入ってしまうのでね。ゲームを作っている人、たとえば3年間そのゲームの世界にどっぷり入った人と同じ感覚で、初めての人が遊ぶわけないので、そこを気を付けて作りましょう。とかをよく言っています。

 でも映画に対しては僕は素人なので、見れば見るほど入り込んでしまって(笑)。それで客観性をどうやって保つのかなぁということをすごく意識しました。ただ、ゲームと同じで、7割ぐらいで「ほぼ完成するな」とか、「これで十分なネタがそろったな」っていう時期があり、そこは結構ゲームに近いなと思いました。で、クリスさんも同じような感じで「これでいけると思う」っていうタイミングが同じ頃にありました。

 映画だからこそできることは、もういっぱいありますよね。ゲームは期待通りのリアクションじゃないと、とんでもない方向に突撃できないので。映画は全く裏切ることができますよね。それも映画のいちばん楽しいところだと思うんですけど。あとは、セリフである程度心情が語れるっていう。やっぱりゲームではやらないので、脚本を練っている時や絵を見ながらベストのセリフを作る時はすごい楽しくやれました。

 制作中は大きなスクリーンで、ドルビーのサウンドも全部入った状態で見ることってないんですね。大体テレビ画面で見ているし、すかしなんかも入ったりしていて、完全な状態では見られないんですけど。ですから、最終試写の時、結構感動しましたよ。手前味噌ですけど(笑)。

 それはね。意外なことで、40年間作ってきたものの思い出とかで、目頭がアツくはならないんですけど、キャラクターが出てきたりするたびに「ああ、ちょっとうれしいな」と思うことがすごくあって。だから、任天堂のゲームを遊んできてくれた人は、それぐらいの思い出があるので、絶対楽しめると思います。

――本日はありがとうございました!