インタビュー

【ChinaJoy 2014】SCEJA中国事業戦略部部長 添田武人氏インタビュー

リージョンロックについては「お客様にとって何が1番いいのかを見定めたい」

7月31日~8月3日開催(現地時間)



会場:上海新国際博覧中心(Shanghai New International Expo Centre)

 ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジアは、ChinaJoyに2年ぶりの出展を果たした。ChinaJoyの出展は、2005年以降、SCE Asia時代から数年に一度のペースで定期的に行なわれているが、今年の出展は意味が違う。中国政府のコンソールゲームの規制解除に伴う、中国進出を前提にした出展となる。

 上海自由貿易試験区を活用したコンソールゲームの中国展開は、今のところSCEとMicrosoftの2社が手を挙げている。Microsoftは試験区採用1号ということで、かなり速いペースで準備を進めており、ChinaJoyで9月23日に発売することを正式発表した。対するSCEJAはChinaJoyでは一切のアナウンスを行なわず、初出展となるプレイステーション 4を中心としたコンソールゲームの魅力を、中国のゲームファンにアピールするに留めた。

 現在、SCEの中国展開はどの程度準備ができているのか。発売時期、価格、タイトルラインナップなど気になることは山ほどある。今回は、SCEJAにおいて中国ビジネスを担当し、今後合弁会社への赴任が決定している中国事業戦略部部長 添田武人氏にそのあたりの話を伺ってみた。

発売時期は旧正月がひとつの目安。価格設定はグローバルと同水準か

SCEJAブース
高い注目を集めていたPS4コーナー。中文繁体字版「真・三國無双7 with 猛将伝」が1番人気だった
PS4と同時展開が予想されるPS Vita。こちらも注目が高かった

――まず始めに添田さんの現在の担当業務を教えて下さい。

添田氏:現在は日本で、中国事業戦略部の部長をしておりまして、秋から上海に異動し、現場を見ていくつもりでおります。

――それは中国でのパートナーである東方明珠さんとの合弁会社で勤務するという理解でいいですか?

添田氏:そうなりますが、細かい話はまだこれからです。今後、パートナーとの話し合いを通じて、どのようなマネジメントが良いのか決めていくつもりです。

――発表によりますと、合弁会社はハードとソフトで別々に2つの会社がありますが、このどちらの担当になるのでしょう?

添田氏:登記上は2つの会社になりますが、実際には1つのチームで運営していきたいと考えております。ご存じの通り、ゲームビジネスにおいてハードとソフトは車の両輪ですので、セパレートにしてやるのはなかなか難しいところがあります。中国には様々な規制がありますので、外資としてマジョリティを取った方がよい部分、そうでない部分もありますので、建て付け上、2つの会社にしたということになります。実際のオペレーションは両社が一体となってやっていく形を考えております。

――2社の設立発表で少し気になったのは、ハードとソフトはあっても、オンラインサービスを担当する会社がないことです。この点はどうなるのでしょうか?

添田氏:我々がこれから中国で提供していくものはハード、ソフト、そしてサービスです。実際にはこれらを1つのパッケージにして提供していく形になるわけですが、具体的にどういう形で運用していくのかは、実際の事業会社を登録している段階ですので、そうした詰めはまさにこれからパートナーとの話し合いで決めようとしているところです。

――事業会社は上海自由貿易試験区(FTZ)内に設立されると伺っておりますが、いくつかの場所に点在しています。この中のどこに事業会社を設立するのでしょう?

添田氏:ご存じのように上海FTZは4つの地域をまとめてそう呼んでいるわけですが、その中でも文化関係のことを担当する区域があります。そこに設立しようと考えています。

――Microsoftさんは、今回ChinaJoyに出展すると同時に、これに合わせて発表会を開催し、発売時期を9月23日と発表しました。これに対してSCEさんは今回特に目立った動きや発表はなかったわけですが、発売に向けての具体的なアナウンスはいつ頃を予定していますか?

添田氏:そうですね、我々としてもできるだけ早くやっていきたいですね。ただ、それをやるためには、我々自身の準備もありますし、政府の認可の見通しなど、様々な準備プロセスの中で乗り越えていかなければならない壁がありまして、それをいま一歩ずつ詰めているところです。もちろん、再来年になるというほど遅くはならない見込みです。

――Xbox Oneは9月23日にリリースされますが、PS4は早くても年内ギリギリか、来年以降になってしまうのでしょうか?

添田氏:その点でいいますと、我々にとって年内とはカレンダーイヤーを指しますが、中国人にとってはそうではないんです。中国人にとって年の節目は旧正月なんですね。ですから我々としてはカレンダーイヤーの年末なのか、旧正月なのか、あるいはもっと早くすることもできるのか、まさしくその辺をいま詰めている真っ最中です。

――添田さんのご希望は?

添田氏:それはもうできるだけ早く売りたいですよね(笑)。

――まだ現時点では、中国で展開するハードが何になるのか発表していませんが、ブースにはPS4、PS Vitaに加えてPS3もありますが、PS3も販売するのですか?

添田氏:中国のお客様は常に最新鋭のものを欲しいということは、ソニーのビジネスを長年やってきて実感してきたことでもあるんです。ですから、我々としても、SCEとしてでできる最新、最高のものを持ってきたいと考えています。その一方で、PS3のようにすでにマーケットに大量のものが出ていて、タイトルが揃っているハードももちろんやりたいという気持ちは持っていますが、最初から風呂敷を広げすぎると事業のフォーカスができなくなってしまいますから、まずはピンポイントでフォーカスしてやっていきたいなと考えています。

――つまり、まずはPS4、PS Vitaからということになりますか。

添田氏:お客様の要望や市場のニーズを見て決めていきたいと思います。

――中国展開におけるもうひとつの注目点は価格だと思います。

添田氏:今までローンチしたプロダクトは、ワールドワイドでそれほど価格に差は付けていません。我々としてはワールドワイドでひとつのフォーマットでやっておりますので、中国市場においてもできるだけそれに合った形での展開を考えています。ただし、中国については税金の制度も違いますし、そもそもその価格でマーケットが受け入れてくれるかというマーケットの需要性の問題もあります。ワールドワイドと中国の間で、どのへんで折り合いを付けるかが今後の課題になってきますね。

リージョンロックについては「お客様にとって何が1番いいのかを見定めたい」

Microsoftは、中国オリジナルタイトルとしてPerfectworldの「Neverwinter Online」を出展
SCEは、ブランディング目的で、PS3「グランツーリスモ6」を出展
来たるべき新ハードを見つめる中国のゲームファン達

――Microsoftさんのブースで驚いたのは、中国オリジナルタイトルをプレイアブルで出展していたことです。こちらの準備はいかがでしょうか?

添田氏:MSさんは昨年FTZが発表されてから、その第1号ですから、かなり早い段階から色んなことを準備されていたのでは無いかと思います。我々としてはハードをローンチする際、タイトルをできるだけ沢山揃えた方がいいのはわかっていますが、その一方で、現実的に見たときに、中国のCPさんが、コンソールゲームの開発のノウハウ、ケイパビリティをどの程度持っているのかについて、半年や1年でどうにかなるとは我々自身は思っていないのですよ。今後中国のCPさんと一緒になってコンソールゲームの開発の能力を身につけていただくというのが重要かなと思っています。

 もっともPCの開発ノウハウは沢山持っていますので、ローンチのタイミングでどれだけ中国オリジナルタイトルを準備できるかというよりも、1年から1年半の少し長いレンジで、どれだけのオリジナルタイトルを揃えられるかがひとつのポイントになると思います。もう1つは、中国のユーザーさんは、国内のもの以上に、海外の新しいものが大好きですので、まずは海外タイトルをしっかりローカライズしていきたいと思っています。最終的にはそのミックスが理想だと思います。

――気になるローンチ時のタイトルラインナップですが、何タイトルぐらい準備するつもりですか?

添田氏:できるだけ沢山と言いたいところですが、あまり出してしまうとフォーカスがずれてしまうので、ゲームコンソールの良さがアピールできるゲームを着実に出すということをまずやっていきたいと思っています。

――中国向けのローカライズについては、基本全てのタイトルを中文化しますか?

添田氏:中国で展開するものに関してはやはり中国語への対応は必要になります。

――コンソールゲームでは、リージョンロックの文化があります。たとえば、日本のハードでは、北米のゲームは動かないとか。PS4の時代ではあまりなくなりましたが、過去には当たり前のようにありました。特に中国では日本を含めた海外から並行品が入ってくる部分もありますが、この点はどうなりますか?

添田氏:やはりお客様の視点に立ったときに、自分が買ったものが人為的な理由でこれは動く、これは動かないというのは不便ですし、そういう製品は望まないですよね。お客様にとって何が1番いいのかを見定めて、我々としてはそれをやりたいと思います。

――それはなかなか思い切った判断ですね。

添田氏:まだ最終判断ではありませんが、そういう方向性でやりたいです。

――そして中国ではゲームの表現の部分において、グローバルの水準で見ても厳しいところがあります。こちらはどのように対応していくつもりですか?

添田氏:当然、中国でリリースするタイトルについてはすべて検閲を通さなければなりませんので、お国の規定、要求に応じて粛々とやっていく予定です。それはもうビジネスの前提になりますよね。

――ということは、内容がグローバル版とは大幅に違っていたり、場合によっては発売そのものを断念するようなこともあるかもしれない?

添田氏:これは難しい問題で、CPさんが自社のコンテンツをどこまでなら変えられる変えられないということを1つずつ判断していただく形になるかと思います。我々ができるのはプラットフォーマーとして、良いコンテンツをできるだけ多くの中国のユーザーに紹介すること。そのために関係省庁や現地パートナーと話し合って、作品としてのオリジナリティを維持しつつ、言葉の部分や表現について対応していきます。ただ、作品のオリジナリティを守るというのは本質的な部分なので、そこは大事にしていきたいと考えています。

――盛大さんのブースではPC版「新生FFXIV」が出展されておりました。「新生FFXIV」はグローバルではPS4版などもリリースされておりますが、SCEさんとして中国市場にPS4版「新生FFXIV」を投入したいという希望はありますか?

添田氏:それはもうやりたいですよ。「新生FFXIV」に限らず、やりたいタイトルは沢山あります。やれるかどうかはCPさんの意思と、内容の審査が通るかどうかに掛かってくると思います。そこさえ問題なければ、我々としてはできるだけ多くのタイトルを中国市場に展開していきたいと考えています。

――最後に、中国市場への展開に向けて抱負をお願いします。

添田氏:中国市場は2000年からPCゲームもモバイルゲームもずっと2桁成長を遂げています。コンソールゲームは残念ながらこれまで規制があって展開できなかったので、統計上も出てきていません。これがようやく展開できるようになってきましたので、中国市場というパイの中で、アドオンの形でコンソールゲームを中国ゲーム市場にとっての新しい成長エンジンにしたいと考えております。我々としてはローカルのパートナーさん、海外のCPさんと一緒になって、まずは中国でコンソールのマーケットを作って行くということが1番の目標になります。その上でSCEとして成長できればそれに越したことはありませんのでこれから頑張っていきたいと思います。

――ありがとうございました。

(中村聖司)