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【ChinaJoy 2014】祝解禁! 中国コンソールゲーム最新事情
違ったアプローチで中国進出を図るSCEとMicrosoft。2社の行方を占う
(2014/8/5 00:00)
ChinaJoy 2014では、ついに大手コンソールメーカーのSCEとMicrosoftが、最新ゲームコンソールを出展した。中国ではこれまでコンソールゲームが国の法律で禁止されており、今回のコンソールゲームの実質的解禁に伴う、両社のそろい踏みは、これまで12回実施されたChinaJoyの歴史においてもエポックメイキングな出来事となる。
これにより中国のユーザー/メディアのみならず、日本を含む海外のメディアも、再び中国のゲーム市場に対して熱視線を送るようになっている。ただ、今回の開放は、無条件の全面開放というわけではなく、上海自由貿易試験区(FTZ)限定で、まさに試験的な部分開放となる。本稿では、現地取材で得られた情報を元に、現在、中国のコンソールゲーム市場がどういう状態にあり、今後どのような進展を迎えそうなのかまとめてみたい。
中国展開の枠組みは同じでも戦略がまったく異なるSCEとMicrosoft
今回の出展で1番特徴的だったのは、SCEとMicrosoftで、まったく展開戦略が異なっていたことだ。先行するMicrosoftは、いわば猪突猛進で、驚くほどの大胆さで強引に中国ビジネスを推し進めようとしている。一方、SCEは、プレイステーション 2で1度進出に失敗し、プレイステーション 3は水面下で交渉を続けたものの結局進出そのものができなかったという苦い経験を持つため、慎重に慎重を重ねている。
枠組みとしてはSCEもMicrosoftも同じで、いずれも中国の国営メディア企業Shanghai Media Group(SMG)傘下企業とFTZ内において合弁会社を設立し、ハード、ソフト、オンラインサービスをワンパッケージにして展開していくというものだ。
この枠組みにおいて先手を打ったのはMicrosoftだ。FTZの第1号として2013年9月にライセンスを取得し、大手映像配信会社のBesTVと合弁を組み、合弁会社設立1周年を記念する形で2014年9月23日に満を持してXbox Oneをリリースする。ChinaJoyに合わせて中国で実施された発表会では本体価格、ローンチタイトルのラインナップ、グローバル/中国での提携企業なども発表し、あとはソフトとサービスの価格を待つばかりだ。
対するSCEは、5月に合弁を組む東方明珠からプレスリリースが出たのみで、SCEとしてはオフィシャルな発表はいまだ何も行なっていない。今回のChinaJoyも参考出展で、アジア担当のSCEJAデュピティプレジデントの織田博之氏以下、アジアチームのメンバーの多くは上海入りしていたものの、メディア対応は最小限に留め、発表会やクリエイターイベント等も実施せず、具体的な発表も何も行なわなかった。これは両社の文化の違い以上に、持っている経験の差が如実に出ていると感じられた。
中国独自の規制にどう対応するか? いきなり簡体字版「Watch Dogs」を出展したMicrosoft、まだまだ様子見のSCE
今回の出展タイトルはXbox Oneが26タイトルに対して、PS4が7タイトル、PS Vitaが7タイトル。Microsoftは単に出展タイトルが多かっただけでは無く、詳しくは後述するが、かなり攻めのタイトルラインナップだっただけでなく、多くのタイトルがすでに簡体字化されており、さらに中国デベロッパーによるオリジナルタイトルや、ID@Xboxを使ったインディーズタイトルなども出展しており、中国のゲームファンからはラインナップが充実しているプラットフォームと映ったに違いない。
これに対してSCEは、まだ合弁会社設立前ということもあり、簡体字タイトルはゼロで、すべて台湾/香港向けに開発されている繁体字版が出展されていた。ブースのオペレーションはTaipei Game Showで豊富なノウハウを持つSCET(Taiwan)が担当し、ユーザー/メディア対応は地続きで交流の多いSCEH(Hong Kong)が担当するなど、まさに仮設運営といった状態だった。
SCEの出展タイトルについては、関係機関の検閲がまだのためか、「グランツーリスモ6」や「FIFA14」、「NBA2K14」など検閲の際に問題になることが少ないスポーツ/レース系ばかりを集め、メインには中国の「三国志」をモチーフにしたタイトル「真・三國無双7 with 猛将伝」を持ってくるなど、中国のユーザーがどう見るかというより、関係機関にどう見られるかを意識した、細心の注意を払った出展になっていた。
そうした中で今回、業界関係者を驚かせたのが、MicrosoftがXbox Oneの「Watch Dogs」を中文簡体字バージョンにローカライズした上でプレイアブル出展していたことだ。よく知られているように、中国ではゲームの表現に対する規制に独自のルールがある。出血を伴う暴力的な表現やアダルト表現が規制されるほか、中国政府に対する批判的な表現や、政府や警察など公権力に対する反発的な表現がNGとされる。その意味では、「Watch Dogs」はパトカーを撃破したり、警察を撃ち殺したりするシーンがあるため、中国販売は難しいと目されていたのだ。
にもかかわらず出展していたのは、実はすでに検閲の許可が下りているか、トライアルとしてとりあえず出して見たかのいずれかだと思われるが、仮に前者が正解だった場合、中国でのコンソールゲームの表現規制は、思いの外自由が多く、グローバル水準と近い内容で販売できる可能性が高い。そうなれば、現在はXbox Oneにおいてわずか12社しか参入を表明していない海外のデベロッパーの参入が相次ぎ、その結果、コンテンツも充実して、有望なビジネスになるかもしれない。ただ、万が一、後者が正解だった場合、Xbox Oneの中国展開に恐ろしい力で急ブレーキが掛かる可能性がある。
ユーザーをどう確保するか? BesTVとの提携でSTBの線から攻めるXbox One、いまだ不透明なPS4
中国はユーザーベースがすべてを決めるといっても過言ではない。Androidの分野で乱立するプラットフォーマーがパブリッシャーを遙かに上回る発言力と、50%という高いロイヤリティを要求し、それがまかり通ってしまうのは、彼らに“ユーザーベース”という明確な力があるからだ。この力をどう手に入れるか、言い換えればユーザーベースをどう獲得するかが中国展開する上で重要になる。
Microsoftはこの点は明快な戦略を敷いている。合弁会社BesTVのアプリをXbox Oneに標準搭載し、SMG傘下のオンデマンドサービスとして豊富なコンテンツとユーザーベースを擁するBesTVの力を借りる形で、BesTVが動作するパワフルなセットトップボックス(STB)として押し出していく。ほかにもTencentのQQ Musicも同梱するなど、この点については非常に力を注いでいる。
一方、SCEが合弁を組む東方明珠はメディアを持たないため、同じストラテジーは使えず、この点をどうするかは不明瞭だ。SCEが有利な点と言えば、1つはソニーというブランドパワーと、中国全土に点在するソニーショップのチャネルだが、ソニーとSCEが一体になってから、むしろ中国のソニーショップではプレイステーションを置かないようになっており、このチャネルを活用する可能性は低い。
もう1つの有利な点は、PS3という強固なコピープロテクトを誇るプラットフォームのおかげで、プレイステーションはお金を払わなければ遊べないプレミアムなゲームコンソールとして認知されているところだ。この点、Microsoftは、Xbox 360ではほとんど海賊版対策を行なわなかったため、1タイトル5元(80円)で遊べる、チープでお手軽なプラットフォームとして認知されてしまっている。この違いは、中国展開する上で、じわじわと影響を及ぼしてきそうだ。
サードパーティーをどう味方につけるか? PCゲームとの親和性をアピールするMicrosoft、繁体字版の成功体験を上手く中国に繋げたいSCE
ユーザーを確保した上で重要になるのが、ゲームソフトだ。最低限、PCやスマートフォンのように、中国大手メーカーによる新規タイトルが定期的にリリースされ、なおかつ日本を含むグローバルの有力タイトルが続々登場するような状態にできなければ中国市場にハードを浸透させることは難しいだろう。
この点、Microsoftは先の発表会で、13社の中国デベロッパーがXbox Oneにタイトルを供給することを発表し、新しいIPのゲームや、PCやスマートフォンでポピュラーなタイトルの移植版を展開する方針としている。今回はPerfectworldの「Neverwinter Online」の中文簡体字版を出展していたほか、リリースにはSnail GamesやNetEase、Tencentなども新規IPを提供予定としており、中国独自展開の準備を着々と整えていることをアピールしている。また、ChinaJoyに合わせて開催されたプライベートイベントでは、インディーズ支援プログラムID@Xboxの実施や、PCゲームとの親和性の高さをアピールするなど、Microsoftはグローバル展開と寸分違わぬストラテジーで中国展開を図ろうとしている。
この点、SCEは、中国展開の発表会前ということもあり、まったくわからない。CGDCでもPS4のセッションが行なわれたが、中国市場に向けた具体的なコミットメントはなく、PS4の基本機能の紹介に留まり、中国メーカーへの働きかけはまだ始まっていないのではないかと思われる。
ただ、SCEのこれまでのアジアビジネスの流れからいって、Microsoftと同じアプローチを取る可能性は限りなく低い。アジアビジネスを担当するSCEJAは、前身のSCE Asia時代から一貫して、その地域のデベロッパーのタイトルにはこだわらず、現地のユーザーが求めるタイトルをローカライズして提供するということを繰り返している。好例としては台湾や香港でリリースしている中文繁体字版「ファイナルファンタジーXIII」や「真・三國無双7 with 猛将伝」などだろう。基本的にはSCEは、台湾香港におけるこの成功の方程式を中国でも繰り返していくものと思われる。
懸念点はリージョンロックだ。最近では少なくなったが、今でも任天堂のように、独自のレギュレーションから海外向けのハードにはしっかりリージョンロックを掛け、同じリージョンのソフトしか動かないようにするケースがあるが、これをやってしまうと他の地域のソフトが動かないため、現地のパブリッシャー/デベロッパーを守るどころか、逆にメーカーにもユーザーにもそっぽを向かれてしまい、ビジネスにならなくなってしまう。かつてソニーは、中国においてPS2にリージョンロックを掛けてしまい、失敗した経緯がある。この点について、明確な回答は両社から得られなかったが、この点がどうなるかは注目されるところだ。
価格設定をどうするのか? Xbox Oneはグローバルから数割安い価格設定に
そして中国市場で特に重要になるのが価格だ。中国を席巻するビジネスモデルは、PC、スマートフォンを問わず、基本プレイ無料のF2Pモデルばかりだ。客単価は日本やグローバルと比較して1/10ほどだが、数百万、数千万という圧倒的なユーザー数が、客単価の低さを補ってなおあまりある売上をもたらしている。
さすがにゲームコンソールを無料にすることはできないため、ソフト/サービスの価格設定がひとつのポイントとなる。この点についてXbox Oneは、オンラインサービスについてはひとまずXbox LIVE Goldメンバーシップを2015年3月まで無料化してマネタイズを先送りし、ソフトについては99元から249元(約1600円~約4,000円)というレンジで提供することを表明している。
現時点で価格がハッキリわかっているタイトルは「Forza Motorsport 5 Game of The Year Edition」の249元(約4,000円)だけだが、グローバルの価格より数割安い価格設定をしたところに、Microsoftの本気度が感じられる。ただ、本体価格はKinectなしで3,699元(約60,000円)、KinectありのDay Oneエディションで4,299元(約70,000円)と、驚くほど高い設定になっているため、価格設定という面では若干ちぐはぐな印象も受ける。
SCEは、まだ発売プラットフォームすら判明していない段階であるため、ハード、ソフトとも価格設定は謎に包まれているが、いずれにしても価格設定は、中国展開の成否を分ける上で重要なポイントになると思われるため、戦略的な設定が期待されるところだ。
直接のライバルは、数千円で買えるセットトップボックス。ゲームの質の違いをどうアピールしていくか
今回の中国出張で時間を見つけて、上海のいくつかのITモールに足を運び、ゲームショップの現状を見てきた。昨年のレポートでもお伝えしたように、かつて並行輸入品や、偽物のPSPや海賊版のソフトなどで賑わっていた界隈はすべてスマートフォン関連の商品に置き換わっており、並行輸入品と違法改造、海賊版をベースにした“中国にとってのコンソールビジネス”は綺麗さっぱり終焉を迎えている。その意味では、正規のビジネスが参入するには絶好のタイミングといえる。
その一方で、規模は小さいながらも新しく勃興しつつあるのが、セットトップボックスのビジネスだ。ポスト「Apple TV」を狙った手のひらほどのサイズの薄い箱で、中にはAndroid端末が入っており、HDMIケーブルでモニターに接続し、Androidアプリを使って中国のストリーミングサイトを見たり、動画を見たり、ゲームを遊んだりできる。専用のリモコンもついており、モニターさえある家庭なら、スマートフォンよりさらに手軽に導入することができる。中国人にとってはこれこそが“ゲームコンソール”だ。
その代表格であるXiaomiのセットトップボックス「Xiaomi TV Box」の価格は、300元程度(約5,000円)。SCEやMicrosoftが好むと好まざるとに関わらず、中国ではこのセットトップボックスとの戦いになる。価格的には圧倒的な差が付けられてしまっているため、あとは機能やサービス、そしてなんといってもゲーム体験で差別化できるかが勝負になる。
個人的には今回の中国の市場開放によって「The Last of US」や「Forza Motorsport 5」、そして規制的にリリースするのは難しそうだが「Grand Theft Auto V」など、Android端末では逆立ちしても味わえないような素晴らしいゲーム体験を1人でも多くの中国のゲームファンが堪能できる機会が創出されればいいと考えているが、中国市場にはこれまで述べてきたように有形無形様々なハードルがあり、そんなに簡単に行く話ではない。今後も引き続き長い目でウォッチしていきたい。