インタビュー

令和のFC用シューティング「超翼戦騎エスティーク」完成記念インタビュー。元コンパイルの開発陣など精鋭クリエイターによる'80年代テイスト満載のタイトル

'80年代のCMソングやゲーム音楽のフレーズなども盛り込んだ、坂本氏らしいポップなBGMが完成

――ここからは坂本さんのサウンドについて伺います。そもそもどういうきっかけで、坂本さんに依頼をすることになったんでしょう?

駒林氏:M2在籍時代、私の一存で「ゲームギアミクロ」のサウンドを坂本さんにお願いしていて、次の機会があったらまたやりますよと声をかけていただいたので、引き続きお願いしたんです。アクションですけど「モンスターランド」が大好きな完全に私の趣味です(笑)。

――その依頼を受けて、坂本さんはいかがでした?

坂本氏:確かにゲームギアミクロのときにそういうお話はしました。お金も欲しいですし(笑)。でも正直な話ゲームの音楽って、シーンに合っているものが流れればいいので、基本的に誰に頼んでもいいんですけど、駒林さんが僕を指名したということは、僕らしい音を作ってほしいんだと認識して、改めて僕の曲が果たしてシューティングに向いているのかを考えたんです。そこで駒林さんが、「いつものようなポップな内容でOKです」と発注してくれたので気が楽になりました。

駒林氏:坂本さんはシューティングだと「アーガス」、「バルトリック」、「オーライル」などの名曲を作った方ですからね。あと「センジョウ」もそうかな。

坂本氏:コンセプト的には、ステージが都市ということだったので、それを意識した内容です。ファミコンの音源をいじるのは当然ながら久しぶりのことなので、それなりのリハビリが必要で、そこで作ったのが1面の香港ステージなんです。

 あと駒林さんに要望を聞いた際、3面のロンドンの曲はホンダの「シティ」という車のCMで使われていた曲(マッドネスの「シティ・イン・シティ」)みたいにしてほしいと言われて、それっぽいリズムのフレーズを入れたりしました。

駒林氏:全6面の構成で、1面がゲームの導入、2面が地形を理解する流れで、3面はゲームデザイン的にちょっと特徴がなかったんです。背景にデカい時計塔を出そうって案もあったんですが、それが難しかったのでタワーブリッジをバックにロボットアニメ定番の3機揃って現われる敵を出すことでメリハリを持たせました。3機だとちょっとあっさりしていたので、最終的には6機に増やしましたけど。

 あと3面は色味的に明るかったので、曲もそれに合わせて印象に残る明るいものにしたいと思い、'80年代でもトップに入りそうなキャッチーな曲である「シティ・イン・シティ」を具体的なモチーフにしてほしいとお願いしました。ステージの単位も「CITY」ですしね。

――でも駒林さんは年齢的にその世代ではないですよね!?(笑)

駒林氏:'80年代っぽいPVを作ろうと思って、いろいろ研究しましたよ(笑)。先日公開したそのPVは、YouTubeにある'80年代当時のCMを朝から晩まで見て研究した成果ですからね。その中でも特に凄いと思ったのがホンダシティのCMで、あのキャッチーさは追従するものがなく、ああいう勢いが欲しかったので3面のモチーフとしてお願いしたんです。

【『超翼戦騎エスティーク』Changeable Guardian ESTIQUE PV V1.20】

坂本氏:でもあの曲のモチーフがホンダシティのCM曲ってわかってくれる人はいるのかなぁ(笑)。

――このインタビューを読んでいる我々と同じ世代のユーザーわかるのではないかと思います(笑)。ほかのステージはいかがですか?

駒林氏:私のサウンドに関するオーダーはすべて“お任せ”か“何かモチーフを挙げる”の2択だったので、ほかは基本的にお任せでした。

坂本氏:秋葉原Heyでのテスト配信で、4面のニューヨークは「グーニーズ」っぽいとコメントしている人がたくさんいたんですが、そこはその通りです(笑)。ファミコンの「グーニーズ」のフレーズを耳コピして、そこから崩していく手法で作りました。

 あと2面のバイエルンは'80年代のテクノ風で、当時聴いていたドイツのクラフトワークやタンジェリンドリームをイメージしたんですけど、最初に作ったものがあまりにもクラフトワークの曲そのものだったので(笑)、作り直したんです。

 4面の京都も日本の音階を意識するとか、お任せいただいた曲はステージのイメージに合わせて作りました。

――駒林さんは完成した曲を聴いてどうでしたか?

駒林氏:坂本さんにお願いしてよかったと思いました。今の時代にゲームを売るとなれば、多少なりユーザーに引っかかる特徴がないと見逃されてしまいます。楽曲の完成度はもちろんですけど、当時のユーザーが知っているフレーズをわかりやすくパロディ的に盛り込んだことで、遊んだ人に引っかかるポイントとして印象に残るんじゃないでしょうか。

坂本氏:ゲーム全体の作りが'80年代のイメージですからね。曲もそのコンセプトからは外れないようにはしたつもりです。

じぇみに氏:'80年代のファミコンタイトルだと、曲はそこまで凝ってないからね。

駒林氏:今の技術をふんだんに盛り込んで、今の人が遊びやすいようにしていますけど、全体の味付けは'80年代中盤のロボットアニメやゲームのようなポップさとパロディといったオタク的要素をを上手く盛り込めたのではないでしょうか。

坂本氏:サウンドは技術的に結構面倒くさいことしてるんですけどね。サウンドは専門のプログラマーの方が別にいらっしゃって、そこはちょっと申し訳なかったです。

――じぇみにさんは曲を聴かれていかがでした?

じぇみに氏:まあ良かったと思いますよ(笑)。

一同:(笑)

じぇみに氏:というのも、私は世界観や画や曲などについては、来たものをなんとかして組み込むことが仕事なので、そこに対して好き嫌いを言う立場ではないんです。本当にひどいものならともかく、ちゃんとした人が吟味して作ったちゃんとしたものが来るので、私はそれを素のまま生かせるよう組み込んだだけなんです。もちろんゲームのバランスに関しては、可能な限りこだわりを詰め込みましたけど。

駒林氏:どの方にもコンセプトだけ伝えて「あとはよろしく」でお任せしたことが、いいものになった結果なんだと思います。

――ということはじぇみにさん、坂本さんともに、仕事はやりやすかったですか?

じぇみに氏:先ほども言った通り、お任せで投げてもらえたのはよかったと思いますよ。

坂本氏:僕も特に苦労はなかったです。曲に関してはゲームがある程度できてからのことだったので、ステージを見せてもらった瞬間に曲をイメージする僕の作り方にもマッチしていましたし。

――ワンフェスなどで試遊したときはタイトルに「軍艦マーチ」風の仮曲が入っていましたけどあれも坂本さんなんですか?

駒林氏:あれは藤島さんに作っていただいた仮曲です。

坂本氏:あの仮曲がなかなかの強敵だったんですよ(笑)。聴いたときのインパクトが凄かったので、オリジナルの曲作るときはあのインパクトは超えないといけないなと思って(笑)。

――あの曲は製品版では聴けないんですか?(笑)

駒林氏:開発の最後に削除したので聴けないです(笑)。開発中にメモリの共有バンクがきついという話が出てきたので、使っていないSEや曲は削除して軽くしたんですよね。

【『超翼戦騎エスティーク』Changeable Guardian ESTIQUE デジゲー博2023デモ版】

実機で動くカートリッジをフランスのBroke Studioが販売。現行機への移植はパブリッシャーを募集中

――本作を現行のゲーム機やPCに移植するというプランはあるんですか?

駒林氏:現状はまだなくて、扱ってくれるパブリッシャーさんとその条件次第です。そのためにイベントにも出展していることもありますし。台湾のG-EIGHTでは、PC大国の台湾だけあって毎日50人以上に「Steamで出ないのか」と聞かれましたからね。

じぇみに氏:別の機種で出ることになるとしたら、頑張って作りますよ。

――移植すること自体は難しくなさそうですか?

駒林氏:どう移植するかにもよりますよね。エミュレーターベースにするのか、それとも違う手法で作るのかというところで、それは条件次第です。多くの人に遊んでほしいので、個人的には「Nintendo Switch Online」のタイトルに入れてほしくもあるんですけど、あのサービスは昔のソフトに限られているので、そこは壮大な夢ということで(笑)。

 でも最初は確実にカートリッジで販売するので、もし移植版を出すことが決まっても、まずは実機で動く喜びを噛みしめていただく猶予は考慮したいです。カートリッジは値段もそれなりにしますからね。互換機でも動きますので、いち早く遊んでみたいという人は一緒に手に入れていただければと思います。

――これまでのイベント出展やテストを踏まえて、ユーザーからの反応はいかがでしたか?

駒林氏:遊んでくれた方の反応はよかったと思いますよ。画もいいし、ちらつかないし、総じてまとまっているという反応が主でしたから。でも一番知りたいのは“どうすれば買えるのか”ということでした。

――正式なパブリッシャーとしてフランスのBroke Studioから販売されることになったんですね。

駒林氏:はい、Broke StudioさんのウェブサイトではFC用とNES用がワールドワイドに発売されます。あと国内の場合は、レトロゲームを扱うショップが独自に輸入をして売るという連絡をいただいているので、個人輸入が苦手という方はそちらを覗いてみてください。あと可能性があるとすれば弊社が出展するイベントで直販をする可能性もありますが、通販には対応していませんのでご了承ください。

海外向けのNES版(左)と日本向けのFC版(右)。これは試作品で、仕様が変わる場合もある

坂本氏:ちなみにこれ、サントラCDとか出ないんですか?(笑)

駒林氏:サントラの制作はスーパースィープさん次第ですかね。サウンドは坂本さん以外に細江(慎治)さんと佐宗(綾子)さんにお願いしているので、そのときにサントラを作ることがあったらスィープさんにお願いしたいとお話はしています。

坂本氏:サントラが出ると、スーパースィープが出展するイベントなんかでも一緒にソフトを販売できるよね。

――細江さんと佐宗さんはどの曲を担当しているんでしょう。

駒林氏:お二人にはボスの曲をお願いしています。細江さんがラスボス、佐宗さんが通常ボスとライバル機登場シーンです。

坂本氏:僕はメロディのある曲しか書けないんだけど、あのお二人は雰囲気を重視して書いてるから、ステージとボスで曲の緩急が凄いんですよ(笑)。そこはサウンドの聴きどころだと思います。

――このメンツだと確かにサントラは欲しくなりますね。

駒林氏:豪華コンポーザーによるファミコンで鳴る新曲ですからね。

坂本氏:イベントだけでもいいのでサントラは販売してくれると、私としても嬉しいですね。

――最後に発売に向けて皆さんからメッセージをいただけますか。

じぇみに氏:私としては「ザナック ネオ」(2001年のプレイステーションソフト「ザナック×ザナック」に収録)以来の、20年以上ぶりに作ったシューティングです。自己評価としては満足のいく遊べるゲームができたと思っているので、ぜひ遊んでみてください。よろしくお願いします!

藤島氏:じぇみにさんと同じプロジェクトで何かを作るのは、コンパイル時代の「C-SO!」 以来のことでおおよそ40年ぶりでした。とても楽しい仕事だったので、その成果を見ていただければ嬉しいです。

坂本氏:ファミコンの音を作ったのは約30年ぶりで、作るまではドキドキしていたんですけど、作り始めてみると音数の少ないハードで曲を作るのは結構楽しい作業でした。自分なりにできることは上手くできたんじゃないかと思うので、音もしっかり楽しんでいただければと思います。

駒林氏:皆さんのお力添えもあって、ようやくクリエイターとして1本しっかりしたゲームを完成することができました。またフィールドテストの場を提供してくれた秋葉原Heyさんや、基板を担保に開発の資金を貸してくれた実家には本当に感謝しています。クラウドファンディングとかを使わず全て自己資金でやっているので、もう1本くらいこういうゲームが遊びたいなあと思っている皆さんにはぜひ買っていただきたいです。

 またNES版はゲーム中のメッセージをFC版の日本語から'80年代風の適当なローカライズを私自身がやっているので、2本とも買って比較していただけると違いがわかりますのでぜひ!

――発売が楽しみになりました。本日はありがとうございました。

 文中でも触れた通りこの「超翼戦騎エスティーク」は、Broke Studioのウェブサイトで12月3日より予約を受付中。ソフトは日本からも購入可能で、価格はFC用、NES用とも50ユーロ、日本円では12月5日現在のレートで7,900円程度となる。このほかに国際配送料が14.53ユーロかかるので、1本10,300円程度と考えるといいだろう。複数購入すると送料も上がるが、1本当たりの送料は若干安くなるので、複数人で共同購入する手もある。支払いはPayPalとクレジットカードが使用可能だ(要通貨換算手数料)。

 初回生産分は12月16日から順次発送予定で、品切れになった場合は追加生産も予定されている。また国内ショップで販売する予定もあるそうだが、店舗ごとの輸入販売となるため、実際に販売されるのは12月16日の以降商品が揃ってからとなるはず。早く確実に手に入れたいなら、Broke Studioでの購入をオススメする。なお国内ショップでの販売や、追加生産などの最新情報は、駒林氏のXアカウントで発信される予定だ。

□Broke Studioの「超翼戦騎エスティーク」(FC版)販売ページ