インタビュー
「ファイナルファンタジーXVI」吉田直樹プロデューサーインタビュー
振り切る代わりに超濃厚な体験を。吉田組がフルパワーで作るワンコンセプトの「FF」
2022年6月22日 12:00
- 【ファイナルファンタジーXVI】
- 2023年夏 発売予定
- 価格:未定
スクウェア・エニックスから2023年夏に発売予定のプレイステーション 5「ファイナルファンタジーXVI」(以下、「FFXVI」)。先日公開された第二弾トレーラーでは「召喚獣大戦」というワードも飛び出し、大きな話題を呼んだ。
大地の各所に存在する巨大なクリスタル”マザークリスタル”。各国がひとつずつマザークリスタルを保有することで、国同士のバランスを保っているヴァリスゼアが、本作の舞台となる。それぞれの国では、マザークリスタルに選ばれた者”ドミナント”は召喚獣をその内に宿し、自らの身体へと喚び降ろすことのできる者で、各国に代々一人誕生する。
主人公である「クライヴ・ロズフィールド」はロザリア公国の第一王子ながらもドミナントとして覚醒せず、弟のジョシュアが召喚獣フェニックスのドミナントとして覚醒するが……この兄弟を襲う悲劇こそが物語の核心となるようだ。
本稿では「FFXVI」のプロデューサー・吉田直樹氏へのインタビューをお届けする。
「紅蓮のリベレーター」発売前から主要メンバーは「FFXVI」に集中していた
――よろしくお願いいたします。まずは先日ついに第二弾となるトレーラーが公開されましたね。
吉田氏:そうですね、まずは第二弾のトレーラーが公開できて、少しほっとしています。
――トレーラーは「とにかく色々凝縮しました」みたいな内容になっていましたね。
吉田氏:今回公開したトレーラーは、「まだシステムはわからないけれど、なんか凄そう、と感じていただく」というコンセプトで作っています(笑)。
実は3月には公開できる状態になっていて、公開直前というところだったんです。世界情勢を鑑みて、協議をした上で一度公開を延期しました。
――そうだったんですね。確かに本来の予定時期は、少々悪かったかもしれません。
吉田氏:今回新たなPVを公開したSIEさんの公式番組「State of Play」では、僕からコメントを直接出させていただけるとご提案をいただき、今僕たちにできることを、というつもりで公開となりました。
――ゲームの情報をひとつ公開するのにも、様々な事情が絡むのですね。
吉田氏:今も決して世界情勢が良くなったとは思っていないですし、連日、大変な状況は続いています。ですが、僕らにできることといえば、ゲームをしっかり作って世界中の人に楽しんでもらうことだと思っているので、まっすぐそれをお伝えした上で開発を進めていきたいと考えています。
――なるほど。それではいよいよ「FFXVI」のお話に迫っていきたいと思うのですが、まずかなり多くのスタッフが「ファイナルファンタジーXIV」の開発初期メンバーですよね。これは結果論としてこうなったのでしょうか?
吉田氏:「FFXIV」の「蒼天のイシュガルド」(※2015年6月23日に発売された、「FFXIV」初の拡張パッケージ)の開発後期に、社長から「次のナンバーである『FFXVI』を第三開発事業本部で作れないか」という打診を受けました。
そうなるとは全然思っていなかったのですが、一方で「ファイナルファンタジーVII リメイク」(以下、「FFVIIリメイク」)も既に発表させていただいていた時期でもあり、今まで多数のナンバリングタイトルを手がけてきた第一開発事業本部は「FFVIIリメイク」に注力している。それが終わってから、ということになれば、かなり長い期間「FF」最新作は作られないことになってしまいます。客観的に見れば、そういうことか、と。
――確かに第1開発事業本部では「FFXVI」は作れそうもないですね。でも「FFXIV」はMMOですから、常にアップデートしていくタイプのゲームですし、第三開発事業本部で「FFXVI」を開発していこうとするのも相当難しかったのではないでしょうか。
吉田氏:そうなんですが、部門として認めていただいているのは嬉しいですし、「善処します」というところから始まりました。「FFXIV」という基幹タイトルを育てていく時でもあったので、一気に開発を進めるのではなく、少しずつ進捗させていこう、と考えました。
少数の中核スタッフで「FFXVI」をスタートさせ、まずはゲームデザインの根幹と、シナリオを完成させることに注力しました。大体「紅蓮のリベレーター」(※2017年6月20日に発売された、「FFXIV」2作目の拡張パッケージ)を作り始める頃までに、ディレクターの髙井浩、シナリオの前廣和豊、システムの権代光俊は、引き継ぎも終えて「FFXVI」のほうに本格的にスイッチした、という感じです。
――えっ、「紅蓮のリベレーター」の発売前には既に皆さん「FFXIV」からは外れていたのですか?
吉田氏:ネットを見ていると、「FFXIV」を昔から熱く応援してくださっているファンの方たちが「なんか寂しいな」みたいなコメントをされていたりするんですが、「紅蓮」も「漆黒」(※「漆黒のヴィランズ」。「FFXIV」、3作目の拡張パッケージ)も「暁月」(※「暁月のフィナーレ」。「FFXIV」、4作目の拡張パッケージ)も、権代は双方見てくれていますが、今回「FFXVI」のスタッフとして名前が挙がっているメンバーは、「FFXVI」チームになっていました。
――それでも「FFXIV」は「漆黒」、「暁月」と経て、本当に素晴らしい盛り上がり方をしていましたよね。
吉田氏:そうですね、そちらは現行の「FFXIV」チームの力です。とはいえ「FFXVI」は最初、髙井、前廣、権代の3人からスタートしていまして、シナリオが完成するまでは人は増やさないでくれ、という話をしていたので、いきなり大勢がごそっと「FFXVI」のために抜けたとかではないのです。
――髙井さんと言えば、ディレクターとしての代表作はやはり「ラストレムナント」ですよね。私は「ラストレムナント」はJRPG史上でも3本の指に入る傑作だと思っています。
吉田氏:それは、嬉しいですね。ありがとうございます。
――ただ一方で、すごく尖った部分が多いゲームだとも思います。でも「FF」はブランドのコンセプトとして広く多くの人が遊べるものにしよう、という部分もありますよね。そこで、今回髙井さんをディレクターに起用した理由みたいなものをお伺いしたいのですが……。
吉田氏:僕自身もそうですが、「FF」のナンバーの看板を背負うというのは並大抵のプレッシャーじゃないのです。それはファンの皆さんとかゲーマーの皆さんだけではなく、スタッフからの圧力も強いので、そもそも胆力がある人でないと務まらない。
僕は既に「FFXIV」でプロデューサーとディレクターを兼務しており、それを成長させていかなければいけない時期でした。会社から「FFXVI」を打診された時には、「僕がディレクターを担当するのは、双方のお客様に失礼です」と話していたので、「人望的にも髙井さんになると思うんだけどどうだろう」と打診しました。
――なるほど、吉田さんに代われる人望と胆力が髙井さんには備わっていたんですね。
吉田氏:実は「FFXIV」の立て直しの時にも、最初に髙井が「吉田さんが(ディレクター兼)プロデューサーをやればいいんだよ」と言ったんです。そういうことをぱっと思いついて口にできるような髙井さんだったらみんなも付いてくるだろうし、どうだろうか、という話を髙井さんにしたら、「荷が重いところはあるけれど、プロデューサーとして吉田が立ってくれるんであれば、頑張るよ」と言ってくれたので、そこが一番大きいですね。
ちなみに今の「FF」は“広くたくさんの人が遊べるRPG”から随分と変わってきたと思っています。
――それは、どういうことでしょうか?
吉田氏:「FFXVI」のお話が会社から出た時に、「FF」シリーズの現状はどうなんだろうか、ということについて徹底的に調査をかけたんです。
僕は「FFXIV」を担当させていただいて、世界中を飛び回って、ファンやゲーマーの皆さんとたくさんお話をしてきました。日本以外の様々な国の人たちが「FF」に対しての思いとか、期待してくださっているものがたくさんあります。ところが、それが恐ろしいほどにバラバラな回答だったんです。
――ああ、なんとなくわかる気がします。私もひとりの「FF」ファンですので。
吉田氏:考えてみるとそれはごく自然なことだと思うのです。「FF」は作品ごとに世界観が違い、バトルシステムが違い、キャラクターが違い、方向性も違いますもんね。
――そうですね。そしてその中でも更に異質なのが、「FFXIV」のようなタイトルであり……。
吉田氏:はい(笑)。でもそれは、僕が「FFXIV」のディレクターを引き継いだ時に、北瀬さん(北瀬佳範氏)が、「『FF』っていうのはその時々のディレクターが、これが最高なんだって思うものを作ればそれが『FF』だと思うから、何かに縛られないようにね」と言っていただいたからなんです。
僕は、それを聞いて、「FFXIV」をファンサービスタイトルに位置付け、MMORPGというジャンルだからこそ、「FF」のテーマパークにするという、今まで誰もやってこなかったコンセプトを掲げました。
――だからこそ、世界中のファンから「FF」のこのナンバリングのここを取り入れてくれてありがとう、というようなご感想が吉田さんには届いたんですよね。
吉田氏:「FF」シリーズは、「FF」が好きというよりも「FFVII」が好きとか、「FFX」 が好きとか、「FFXII」が最高でしょ、いやいやオンラインだけど「FFXI」が一番なんだよ、といったように答えが違います。「FFXIV」で初めて「FFシリーズ」に触れたという人たちも多くて、「FF」に求める要素が、本当にバラバラなんです。
――私は全「FF」が好きですけれど、そういう感想が多くなるのはなんとなく理解できます。
吉田氏:「FF」はコマンドバトルであってほしいとか……。今回の「FFXVI」の発表でも、「FF」なのにアクションはあり得ないからコマンドバトルにしてほしい、といった意見もやはり見かけるんです。良い/悪いではなく、これだけたくさんの異なる「FF」を作ってきたので当然の結果なのだろうと思いました。ですが裏を返せば、全ての要望を満たすゲームの制作は不可能だな、とも感じたのです。
――そうですね、世の中の人が100%納得するものは存在しませんから。
吉田氏:その中でもできる限り多くの期待には応えたいと考えていますが、全世界向けのリサーチをかけた時の回答は、もっとバラバラになりました。「感動的なストーリーの伝説的RPG」と呼んでくださる方もたくさんいらっしゃる一方で、「カルト」「クラシック」、あと隠さず言うと「子供向け」みたいなワードなども「FF」のイメージとして出てきたんです。これは調査会社を用いた調査でしたので、結果は結果として、客観的に受け止めました。
――子供向け……とは私は思わないのですが、世界の中には少なからずそういうイメージを抱く人もいるのですね。
吉田氏:リサーチの結果だけがすべてではないですが、やはり皆さんが「FF」に対して今どう思っていて、何を求めているのかは、キチンと知るべきだと考えました。
その上で、僕は今回「FFXVI」のプロデューサーとして、企画立ち上げの時にコンセプトメイクから関わっていますが、「すべてのリクエストを満たすのは不可能だから、中途半端にならないようにしよう」と最初に話しました。
――なるほど、最初からそこは振り切ろうと。
吉田氏:僕らの力量的にも、おそらく不可能とも考えました。これだけテクノロジーの水準がどんどん高くなっていっている中で、世界の競合メーカーが一点突破、一点集中、1スタジオ1ビッグタイトルで勝負してきています。「求められるものを全部入れよう」といったような、ある意味驕ったことを言って作っていたら、制作に10年や15年あっという間にかかってしまいます。それでは、作っている間にどんどん古くなるでしょうし、「FFXVI」にそれは求められていないだろうと。
――発売間隔も、それだけ空いちゃいますよね。
吉田氏:まさにそうですね、ナンバリングの発売間隔は、以前に比べすごく開いてしまっています。
「FF」シリーズの発売スパンがどんどん長くなっていることで、十代の中高生の一番多感な時に「刺さる」という体験をお届けできていません。これは、フランチャイズとしてまずい状況にあると考えています。
やはり十代前半から中盤のゲーマーたちが、背伸びしてでも遊びたい!と思うようなもの、さらに言えば、それで「すごかった」と思ってもらうようなものを作りたいなと。そのゲーム体験がベースになって、たとえば「スクエニに入りたい」とか、「自分もゲームを作りたい」とか、「FF」はそうなっていかないといけないんだろうなと思ったんです。
――私も初代「ドラゴンクエスト」を当時遊んで、ゲームを作る人になりたいと思ったのでわかります。結果的に作る人ではなく伝える人になりましたけれど、ゲーム業界を目指すきっかけの1本はあってほしいですよね。
吉田氏:システムはとりあえず抜きにして、「FF」1作目の頃から共通しているのは、「壮大なストーリー」、「映画のようなゲーム体験」、「ドラマ性」、「グラフィックスのクオリティ」、そして「壮大な音楽」。これに、チョコボとモーグリは出て欲しい。それを僕らの力量と、決められた期間で組み上げながら、多くの世代のゲーマーに刺さるようなゲームにしたい。
だからこそ、何でもかんでも詰め込むことはやめようと。新しく遊ぶ人たちにも刺さって、かつクラシックなところも残しつつ、今はちょっと「FF」から遠ざかっている大人たち……。たとえば30代や40代くらいの現実の厳しさを知った人たちにも、もう1回、新しいファンタジーとして如何ですか? と。これらを考えて、ゲームデザインへと進んで行きました。
――つまり、ちょっと尖った「FF」……ということなんですね?
吉田氏:そうですね。回答が長くなって申し訳ないのですが、 ものすごく一本、筋を通した「FF」にはなっていると思います。一方で全てのリクエストを満たす「FF」にはなっていないのかもしれません。その点は、シリーズを好きでいてくださっている皆さんに、キチンとお伝えしたほうが良いと思っていたところでした。
レーティングを上げてでも表現したかった”痛み”
――中高生に刺さってほしい、なんていうお話もありましたが、トレーラーを拝見する限り、ちょっと大人向けのような印象も受けました。レーティング的にも対象年齢が高くなりそうな「FF」という印象を受けたのですが……。
吉田氏:もちろん審査はしっかり通るように作っていますが、今回は海外レーティングでMature(17歳以上対象)までターゲットを上げています。その範囲内でできるギリギリのことをやっています。
理由は、痛みを感じられる表現――それは心の痛みもあれば肉体的な痛みもあると思いますが、それがゲームとして伝わり、感情として伝わるかな、というところにこだわって作っています。
――え、Matureまで上げたんですね……。ナンバリングタイトルとしては、少々驚きです。
吉田氏:レーティング審査はどんどん厳しくなっていて、以前と同じレーティングでも、表現できる幅というのは狭くなっています。そこで表現の幅を広げるためにも、今回はレーティングを上げました。
――そこにも狙いがあるんですね。
吉田氏:中高生に刺さってほしいというのは、中高生に向けて作っているという意味ではありません。中高生、つまり10代の前半から中盤くらいの年代は多感です。だから、全力で作った物語というのは、どの世代にも届くのではないかと思っています。言葉が難しく、本当の意味がその瞬間はわからないかもしれない。でもどこか心に残っていて、その後に成長して、色んな経験をした時におそらくリンクすることもあるんじゃないかと。僕自身がそうでしたし、今でも僕の精神年齢は中学二年生くらいですから(笑)
――ちょっと背伸びして遊んで、社会に出る頃になって本質がわかるんですね。
吉田氏:当時の僕らも背伸びして、大人向けのものを見て大人になっていきました。そこは変わらないのかなと思いますし、その意味では子供向けとも大人向けとも思っていません。むしろ真正面から、10代の人たちにも「凄いなー」と思ってもらえるように全力で制作しています。
――ちなみに、髙井さんらしさが「FFXVI」で出ているのはどのような部分だと感じますか?
吉田氏:ゲームは、ハイテクな部分とローテクなアイデアの組み合わせで作られますが、そのローテクな部分はどうしてもスタッフに辛い作業をお願いするケースが多いのです。
でも髙井はデザイナーやアーティスト達からの信頼度が高いので、そういう辛い作業や、すごく難易度の高い作業を上手くまとめて仕上げていくんです。ここは彼の持ち味だなと思います。
ただ、これは僕も同じですが、華がない(苦笑)。第三開発事業本部は、野犬の群れというか、着飾るのがあまり得意じゃないので、泥臭いんです……。最近やっと全部絵が仕上がってきて、色々お見せできるようになりつつありますが、作り方自体は泥臭い。「FF」にしては華がないなぁ、とどこかで言われると思っています(笑)。
――野犬の群れ(笑)。でもしっくりきてしまうのが辛いですね(笑)。
吉田氏:髙井らしさの部分で付け加えると、髙井はVFX(視覚効果)の出身なので、動いた時の気持ちよさとか、実際に操作した時のVFX・SE周りの気持ち良さは、しっかり自身の手で見てくれています。
――音楽は祖堅さん(祖堅正慶氏)が正式に発表されましたが、祖堅さんがおひとりで作られているんでしょうか?
吉田氏:複数人ではありますが、基本は祖堅が中心となって、祖堅が「この人だったら」と信頼できる人にアレンジをお願いしたりする感じですね。ベースメロディの多くは祖堅だと思っていただいて大丈夫です。
――祖堅さん、「FFXIV」でもあれだけたくさん曲を作られているのに……。
吉田氏:さすがに「FFXIV」をやりながら「FFXVI」すべての楽曲制作をするのは無理です。とはいえ、うまく作業の波を切り分けてやっています。が、祖堅が一番しんどいかもしれないですね……(笑)。
祖堅はある程度ゲーム体験を見てから、それをいかに盛り上げるか考えながら音を作っていくタイプです。今までは、どちらかというとゲーム作り自体がまだまだ途中でしたが、これからはもういよいよ最終段階まできています。なので、祖堅が本格的に音を当て始めるところですね。
――アレンジで参加されている方は、お名前とかはまだ挙げられないですか?
吉田氏:今は、変な憶測だけ生んでも、というのがあるので、今回発表させていただいたスタッフ以外の名前はまだ明かせません。また、繰り返しになりますが、「FFXIV」ファンの皆さんが不安に思ったとしても、しっかり長年かけてチーム体制と作業体制は分けていますのでご安心ください。
――祖堅さん以外は、ですね(笑)。
吉田氏:そうですね、祖堅と僕以外は(笑)。「紅蓮」「漆黒」「暁月」は今の「FFXIV」の開発メンバーで作ってきた作品ですし、「FFXIV」 の開発チームはしっかり独立しています。第三開発事業本部の大部分は、「FFXIV」と「FFXVI」に分かれて、お互いに助け合いつつ、それぞれ100と100の力を出してやってきています。
――ちなみに今回公開されたトレーラーで、召喚獣の名前が「シヴァ!」「タイタン!」「バハムート!」みたいにコーラスで入っているのがすごく面白いと感じましたが、あれはどなたの案ですか?
吉田氏:これは祖堅のアイデアです。このセカンドトレーラーと呼んでいる今回公開させていただいた映像は、「FFXVI」の売りである召喚獣大戦がテーマのひとつになっています。物語のキーになってくるのがドミナントと召喚獣なので、そこを押し出した内容です。
トレーラーの最後に、それぞれの主要召喚獣の名前を文字でドンと出すというビデオコンテになっていたのですが、祖堅が「だったらストレートに召喚獣の名前を叫んでいるコーラスにしといたよ」と(笑)。
――あのセカンドトレーラーの映像は、リアルタイムレンダリングですか?
吉田氏:どこがプレイアブルかもはっきりしない映像ですみません。実際には、あのトレーラーの95%くらいがリアルタイムでの映像で、プリレンダリングをほぼ使っていません。プリレンダリングは、群衆の一部と背景の一部に使用しており、それをリアルタイムに合成している場面が少々あります。あのクオリティが、リアルタイムでローディングなく動く、という部分を想像していただけると嬉しいです。
バトルは完全にアクションへ。その代わり手厚いサポートを用意!
――あのトレーラーを拝見する限り、バトルは完全にアクションですね?
吉田氏:完全なリアルタイムアクションになっています。ここに賛否があるのはもちろんわかっていましたが、今回は徹底させていただきました。
僕自身はコマンド型RPGで育ってきた人間ですが、日本や海外の若いゲーマーたちと話をすると、「コマンドの意味がわからない」と言われることが多くなってきています。
――「コマンドの意味がわからない」の意味がわからないです(笑)。
吉田氏:僕たちにしてみたら、まさにそうですよね。だって「たたかう」とかコマンド名に書いてあるじゃん、って。
――ですよね。「ケアル」を押せばケアルが発動するし、「ファイア」を押せばファイアが発動するし……っていうそれだけだとは思うんですけれど。
吉田氏:そこで僕も気になって、より一生懸命話を聞いてみました。今の若い子たちからしてみると、ボタンを押せば剣を振るし、ボタンを押せば魔法を打てるし、特にFPSなどになれば、操作はよりダイレクトだよ、と。
――ああ……「意味がわからない」とはそういうことですか。
吉田氏:昔はテーブルトークRPGから始まり、ゲームマスターをコンピューターに置き換えてコンピューターRPGが生まれました。
でもメモリもCPUも容量も全然足りないから、プレーヤーが実行することをダイレクトにアニメーションや絵として反映できなかったことから発明されたのが、コマンドっていう概念ですよね。
――「あなたは何をしますか?」というGMの部分が、コマンドの役割ですね。
吉田氏:はい。でも今はコンピューターの性能が上がって、もう直接的にコントローラーからキャラクターを動かせるのが当たり前になった。こうしたゲームが当たり前になった後にゲームをプレイし始めた世代の人たちにとっては、「え、×ボタン押せば剣振るじゃん」とか「弾撃つじゃん」という感覚で、そこでなぜコマンドから言葉を選ぶのか、疑問と言うのです。
――つまり、それが「コマンドの意味がわからない」ですね。
吉田氏:ゲーマーの若い子達とたくさん話をして言われたのが、「良いとか悪いとかではなく、わざわざそれをする理屈がよくわからないんだ」、と。その一方で、チェスやオセロなどボードゲームによって、ターンベースの考え方は、コマンドとは別のシステムとして、しっかり理解されているようでした。
――ぐうの音も出ませんね(笑)。
吉田氏:もちろんコマンドにはコマンドの良さがあるのですが、なるほどなぁと。
「FF」シリーズはスクウェア・エニックスを代表するタイトルのひとつです。グラフィックスのクオリティや、ゲームボリュームにもこだわる必要があり、莫大な開発費がかかります。その反面、当然ですが大きな利益を会社にもたらさないといけない。
赤字に近くなってしまえば、後のシリーズの規模が縮小されたり、次が作れなくなってしまう可能性もあります。だから、数字にもこだわる必要がありました。今回は、あらためて多くの世代のゲーマーにプレイしていただきたいですし、今後のことを考えても、一度アクションに振り切ったFFを作っておくべきではないか、と 戦略的にもアクションに振り切る形にしました。
――あとはコマンドとアクションの融合として、「FFVIIリメイク」の存在も大きいですよね。
吉田氏:はい。「FFVIIリメイク」だからこそ、当時の人たちの感覚を大切にして、コマンドとアクションの融合を目指したのだと思います。そうなのであれば、「FFXVI」はこの先の「FFシリーズ」のためにも1回アクションに振り切っておいた方が、次を担当するチームの選択肢が増えます。そうでなければ、挑戦しづらさが生まれますし、逆に何もかもを取り入れようとすれば、すごく中途半端なゲームになる危険性があります。ですので、今回はある程度賛否が分かれたとしても、一旦振り切るべきというのが結論になりました。
――私はアクションゲームも大好きなんですけれど、好きという気持ちとは比例せず、アクションゲームが下手なんですよね……。あとアクションゲームって、どうしても疲れますし……。
吉田氏:僕ももう来年で50歳になりますし、仕事で疲れて家に帰ってきて、そこで更にきりきり舞いなバトルをやりたくない、という気持ちも、すごくよくわかるんです(笑)。
「シナリオに集中したいから、ゆっくりコマンドで遊びたいな」という気持ちがものすごくよくわかる。だからこそ、今回は「アクションが苦手なんだよ」という方にも、楽しく気持ちよく遊んでいただけるシステムもご用意しています。クライヴの装備にアクセサリーというカテゴリのアイテムがあるのですが、これを付け替えることで、ご自身にあったプレイスタイルが楽しめます。
――半オートマチックモード的なやつですか。
吉田氏:すこし具体例をあげると、アクセサリーで「直前被弾スロー」という……これはまだ正式名称ではないのですが、そういうのがあって、クライヴが攻撃を受ける判定の数フレーム前になると全時間がスローになって、そこでR1トリガーを引くだけでものすごくかっこよくクライヴが攻撃を避けたりします。
「そこそこ、自分で操作したいんだけど、完全オートはいやだな」みたいなのってあると思うのです。そういう人はそれをつけていただくと、操作感もありつつ、非常に気持ちよいアクションになります。そうすると、「かっこよくやれている感」がものすごく出るんです。もちろん、オートで回避するアクセサリーや、華麗にコンボを決めてくれるものなど、色々ご用意しています。
――自動回避もあるんですか。
吉田氏:はい。オートアクセサリーを着ければ、特定のボタンを押していくことで、クライヴが次々といろんなアクションを切り替えて、その状況に応じた最高のコンビネーションで戦ってくれたりします。ストーリーをじっくり楽しみたい方は、そういったアクセサリーが豊富に用意されていますから、ご安心ください。
――そのアクセサリーはゲームをある程度進めなければ手に入らないのですか?
吉田氏:いえ、ゲームを始める時に「ストーリーフォーカス」モードと「アクションフォーカス」モードの2つのモードをご用意していて、「どちらでプレイしたいですか?」 と選ぶようになっています。いずれのモードでも、ストーリーの内容には一切変化などはありません。
とにかくストーリー重視でじっくり行きたいんだという方は、ストーリーフォーカスモードを選んでいただければ、最初からそれらのアクセサリーをセットアップした状態でスタートします。自分で程よく操作しながらも「FF」の主人公がスタイリッシュに戦い、物語がゴリゴリ進んでいくというモードになります。
もう1個のアクションフォーカスモードは、そのアクセサリーがなくなるわけではありませんが、お好みによって手動でセットアップしてください、という感じです。
とにかくアクションゲームに自信があって、アクションに振り切った「FF」を自分の手でやってやるぜ、という方はアクションフォーカスモードを選んでいただければと思います。
――思っていたよりも手厚くサポートしてくださっているバトルのようで、安心しました。
吉田氏:ゲームのどこに重きを置くかの部分はプレーヤーの皆さん次第で変わってくると思うので、そこはしっかりフルサポートしますし、コマンドではないからこそ、アクションが苦手だという方のサポートは、徹底しようというコンセプトで作ってきました。ですので、むしろアクションは苦手だと思う方にこそ遊んでいただきたいです。
――今回、バトルセクションにカプコンさんで「Devil May Cry」などを作られていた鈴木良太さんが加わっていますよね。鈴木さんがチームに入られたことで、チームに対して与えた影響とかはありますか?
吉田氏:めちゃくちゃ大きかったです。スクウェア・エニックスは「キングダム ハーツ」チーム以外は、アクションゲームがどちらかと言えば得意ではありませんでした。それは第三開発事業本部も同じです。
今の世代のアニメーション技術とノウハウは非常にレベルが高く、本当に手探りで作ってきていて、結構何度も作っては壊し、壊しては再構築して……というのを繰り返していたところに良太くんが入ってきてくれました。彼のところに全てのパーツを一旦集めて、どうするべきかと煮込んでもらったら、そこから一気に道筋ができたんです。バトルディレクターの名を冠するだけのことはあります。クライヴの全てのアクションバトルは、彼の指揮下で作られています。
――おお、そこまでですか……。鈴木さんがいらっしゃらなかったら、まだまだ納得できないアクションバトルだった可能性もあるわけですね。
吉田氏:そうですね。彼はカプコンさんのすごいスーパーアニメーターの皆さんと一緒に仕事をされてきていています。それに比べ、スクエニ内のアニメーターは腕が良くとも、アクションゲームにおける開発経験値が非常に少なかったのです。
良太くんには、そこを粘り強く、本当にベースの部分からやってもらえると助かる、という話をしました。それによってチーム全体のアニメーターもレベルが一気に引き上がりましたし、これからもその財産は第三開発事業本部が作っていくゲームにとても役に立つと思っています。今はすっかり第三開発事業本部の基幹メンバーのひとりになっています。
――前廣さんは今回バトルのシステムには関わられているんですか?
吉田氏:彼はリードゲームデザインなので、バトルにもある程度意見出しはします。ほぼ全てのシステムは、髙井と前廣で決め、特に最終決定はそのふたりで話し合って決定していますね。まさに「FFXVI」は、彼らのゲームということです。
――前廣さんのバトルシステムは、システムがユーザーを動かすというよりも、ユーザーがシステムを活かすというようなイメージがあるんですけれども、 「FFXVI」ではいかがですか?
吉田氏:それは「ラストレムナント」のイメージが強すぎるかもしれませんね(苦笑)。
――確かにそれはあります。先程もちょっと尖ったところが残っているような「FF」とのことだったのでなお一層ですね。さすがに、あそこまで尖ってはいないということなんですね。
吉田氏:そうですね、「ラスレム」がああいうゲームだから、その印象が強いだけだと思いますよ(笑)。
――では、「FFXVI」というチーム全体で成し遂げるべきこと、もしくはすでに成し遂げたと思うことについてお伺いしたいです。
吉田氏:えーと、正直に言えば、僕たちはそんなに崇高なことを考えてゲームを作っていないです(苦笑)
ただ……成し遂げなきゃいけないのは、現在の僕たちが出せるフルパワーで作った「FF」を着地させることです。これを成し遂げること自体が、半端じゃなく大変だからです。もうそれ以上を望んだら高望みかなと思うので、あとはここで得た経験を途切れさせることなく、次のゲームへさらに引き継いで、つないでいくこと、というのが、何よりも最重要だと思っています。
「FFXVI」はまだ完成していませんが、最高のものに仕上げた後はそれらの経験と財産を使ってもっとすごいものを作っていこう、というところは、さらに達成していかなきゃいけない目標ですね。
――現時点では早すぎる質問かもしれないのですが、フォトモードは搭載されますか?
吉田氏:フォトモードはあります。
――フォトモードを使っての例えばSSコンテストみたいなものも開催されるかもしれないというような……?
吉田氏:うーん、どうだろうな、まだそこまで考えてはいないのですが……。この辺りが「FFXIV」とは違う性質かもしれませんね。「FFXIV」は、遥か先まで計画をし、順次それを達成していくというタイトルです。MMORPGは未来に期待をして、今を楽しむゲームだと僕は思っているからです。
一方で「FFXVI」の場合、まず最高の状態でローンチして、それ遊び尽くしてもらうことだと考えています。現状は、フォトモードをさらにすごくしてコンテストをやろうとか、そういうことを考えているよりも、本編のこの部分を更に凄くしようぜ!というイメージなのです。
もう少し先の計画はもちろん立ててはいますけれど、僕の中で「FFXIV」と「FFXVI」でスイッチをちゃんと切り替えています。
――とはいえ、昨今のAAA級タイトルを見ていても、私自身”遊び尽くす”という言葉の中にはフォトモードも含まれている、と考えるタイプなもので……(笑)。実際クリアしたあともずっとフォトモードで遊んでいるプレーヤーって、今たくさんいると思うんですよ。具体例を出すと、「Ghost of Tsushima」とか「DEATH STRANDING」とか……。
吉田氏:そうですね、とりあえずフォトモードは実装されて動作しています。ただ「FFXIV」のグループポーズみたいなそこまでの機能を作っている暇があったら、本編をもっとすごくするぞ、みたいな感じだと思っていただければ(笑)。とはいえ、そういうユーザーの方からのご要望があることは頭に入れておきます。
――では、最後に「FFXVI」に期待されている皆さんに、一言いただければと思います。
吉田氏:僕はPRとは言え、今の世の中に過度な期待を煽るのは良くない、と考えています。正直にこの「FFXVI」という作品の、僕らがこだわったところとその特徴をお伝えして、そこに期待してもらえるようにしていきたいと思っています。
今回「FFXVI」としては初のインタビューということで、プロデューサーの僕だけがインタビューを受けさせていただいていますが、この後、大体秋には次の大きな情報や、トレーラーを出しつつ、今度は髙井と前廣を入れてさらにゲームの深掘りをしていこうと思っています。
――秋ということは、きっと”あの辺り”ですよね。楽しみにしています。
吉田氏:さて、僕は何も言ってません(笑)。
今回は、明確にアクションに振り切った「FF」になっていますが、その代わりジェットコースターに乗っているかのような、とてつもない速度で突っ走っていくゲームです。超大作映画をこの手で動かしている!という感覚の「FF」にしています。
繰り返しますが、今回は何もかもを達成しようとはしていない代わりに、ものすごくインパクトのある内容になっていると思います。その上で今一度セカンドトレーラーを見直していただけるとまた新しい発見等があるのではないでしょうか。
次の情報公開まで、楽しみにしていただけると嬉しいです!
――ありがとうございました。
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